【もう出ない 五・七・五の 在庫がない】第18話 関越道0ビヨンド~新潟×離島~ その18
「作戦会議!」
クアトロに勝利した我ら『演劇サークル』。勝利ボーナスは“図鑑5種免除”か“リヤカーの牽き手交代”だが、リヤカーを交代すると、その間烏丸くんがマスカラスマンに戻れないという手痛いダメージを受ける。
「書記は、トッピー! ですよね? ウン、書記ガボクノ仕事ダイ! 桜井、作戦板! ウフフ、一度言ッテミタカッタンダー。ソレニ、北朝鮮デハ、書記ガ一番偉インダヨー!」
言いたいことを言えるそんな友達トッピーが出来たのはいいが、言いたいことも言えないこんな世の中なのは言っちゃいけないこともあるからなんだよ。危ない発言は慎まないとトッピーを失うことになるぞ。
「ああ、桜井。作戦板出してやれ」
桜井がスッと雨宮さんに作戦板を差し出す。そういえばあの作戦板も、小林氏の私物かもしれないな。
「今後どうする。マスカラスマン奇襲作戦は今後も同じことになる可能性が高いぞ。次からはマスカラスマン」
「それよりもマスカラスマンをどうやって奪還するかですよね」
「色仕掛けとか? いや、無理だな。マスカラスマンはもうお前が嫌いってことをクアトロにもバレちまったぞ」
「ベリアルがいる」
雨宮さんがマスカラスマンベリアルの覆面を脱ごうとしてメガネに引っかかる。そういうところですよ雨宮さん! そういうことが続くと君もいつか良崎のように「黙ってれば美人」とか言われるようになってしまうぞ。
「えぇー雨宮ァ!? 雨宮じゃんか!」
マスカラスマンベリアルを脱ぎ、ウルトラセブンに変身するモロボシ・ダンのようにデュアッっとメガネをかける雨宮さんにクアトロのAとBが驚愕。
「雨宮がマスカラスマンだったのか!? いや、雨宮って2年のはずだ。でも俺が1年の頃からマスカラスマンっていたから、2代目だ! ウソだろ雨宮が現マスカラスマンン~!?」
「雨宮ってなんですか?」
怪談上手のクアトロCは雨宮さんをご存じない様子。というか全力でマスカラスマンベリアルを本物のマスカラスマンと間違うクアトロのお粗末!
「去年の学祭のミスコンファイナリストだよ! リーベルトと雨宮と旅行とか『演劇サークル』マジ死ねよぉ! 絶対にヤリサーだよ」
クアトロBミーハー。バカめ。女子のレベルが高かろうと、男子のレベルが低きゃヤリサーは成立しねぇんだよ。それに女子の良し悪しは見た目だけじゃねぇ。女子を見た目だけで判断するのは、女子を一晩で使い捨てる歴戦のワンナイトファッキン野郎だけだ。
「烏丸先輩~。こっち来ませんか?」
雨宮さん精いっぱいのスウィートボイス。躊躇いもせず色仕掛け作戦を飲んだあたり本人も自身はあるのだろう。
「遠藤」
「烏丸。行けよ」
「……」
「行けよ烏丸! お前にとってそれが一番なんだ! 大学最後の夏休み、リーベルトや雨宮と一緒に旅行できるんならそっちの方がいいだろ。リーベルトはプロレスでフラグ、雨宮はお前を誘ってる。羨ましいぜ。普段真面目な行いをしているご褒美だろ」
「……本当にすまんな」
「……待て烏丸」
「?」
「俺たち、また会えるよな?」
「ああ、会える」
「その時はリーベルトと雨宮、どっちを落としたか聞かせてくれよなハハッ」
「ああ。そういうお前こそ、クアトロのCの怪談の才能、しっかり伸ばしてやれよ」
「ああ。陣内がリーベルトを育てたようにしっかりやるさ」
なんだこのラッパーにあるまじき真面目さ爽やかさ! 文句なしに刺客の中では最弱級、ラップもそんなに上手くなく仕切りも下手で不手際だらけだが、群馬県の刺客キョウ☆ヘイくんが許されず、クアトロが許されてる理由はこの辺にあるのではないだろうか。本学の建学の精神かどうかはわからないが、多くの学校で建学の精神や教育理念にある「真面目」「友情」「思いやり」「実績」というようなものをクアトロは実は持ち合わせているような気がする。むしろそれを持っているならラップが下手だったり、こういうイベントで少し不手際があるぐらいは、差し引きすれば、人間としてのスペックは、人間力皆無を0のラインとしたら、クアトロはプラス側であると言えるだろう。道理で就職先が早く決まった訳だ。ああ、きっと会えるさ遠藤くん。烏丸くんは、マスカラスマンとしていつもすぐそばにいる。
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】
「マスカラスマンは戻そう」
クアトロからの恩恵は図鑑5種を選んだ。そして色仕掛けに乗ったという体で合流したマスカラスマンだが、激しく不機嫌。色仕掛けで遠藤くんよりリーベルト&雨宮さんという美女コンビに惹かれたという体になっているしクアトロのBの遠藤くんはあの調子だとSNSとかで言いふらす。悪意なく、友達の烏丸くんに春が来るかもしれない、とか。そしてきっとネットリテラシーや各種お約束をわきまえているので、マスカラスマンベリアル=雨宮さんというのは隠すだろう。俺もヒップホップサークルに入ればよかった。
「さっきみたいなこともあるし、SNS監視班によると、メシの化け物の情報が一切入っていないそうだ。メシの化け物は大体いつも3本勝負、行くならヒゲとマスカラスマンは確定で出撃だ。一番危惧しなきゃいけないのはメシの化け物だから、リスクはナシで行こう」
「僕のピカチュウはリスクじゃないんですか」
「むしろどこにリスクがあるんだ? メリットだろ。ヒゲでメガネでデブでサッカー馬鹿でピカチュウだぞ。世の中の無個性共がどれかひとつでもと欲しがる個性の塊じゃあねぇか」
「ヒゲとメガネとデブは悪口じゃあないですか?」
「ヒゲとメガネとデブすらも悪口じゃなく個性に昇華できるこばやっちゃんという人物像が浮かび上がるだろう。デメリットすらもプラスにする何気なハイスペック!」
「そういう言葉で、なんか怪しいんだよなぁ、と陣内さんを疑う時期はもう3年前にやりきりました。信じますよ、陣内さんとピカチュウを」
流石側近、話が早い。
「おっと刺客だぞ」
そうこうしている間に刺客。
「アイヤー」
若々しく元気のありそうなJ・C三人組である。
一人はセーラー服のJ・C!
一人は上半身裸で棒を握ったJ・C!
一人はサスペンダー、付けヒゲ、片メガネ、蝶ネクタイのJ・C!
いずれも、湾岸警備隊制服時のジャッキー・チェン、拷問を行う際のジャッキー・チェン、海賊のアジトに潜入した時のジャッキー・チェンと、いずれも『プロジェクトA』の時のジャッキー・チェンと思われる。
「バーッ! ゴィコンディー」
「バッパー! ナフォンボホンヨン」
「サンージョンガンゲイー」
セーラーJ・C、半裸J・C、サスペンダーJ・Cがジャッキー・チェン主演作『プロジェクトA』主題歌『東方的威風』らしき歌をカエルのように輪唱して……
「ロンジョンドフォンデワイフォン!」
合唱で決めてポージング! ただし、中国語はわからないので、歌詞があってるかどうかはわからないが、なんとなくわかってしまうのが、ジャッキー・チェンのすごいところだ。
「これ、昔円谷くんが歌っていた気がします」
「あれ、栄治の一発芸なんだよ。新年かくし芸大会のためにあれをずっと練習してたんだよ。ギターとハーモニカと歌とで。あれを練習してる時の栄治を見てると、本当に気の毒で気の毒で……。コネ入社は大学時代サボったせいで身から出た錆だが、あんな目に遭わなきゃいけないほど悪いことはしてないんだよ」
英雄先生ご心痛。大丈夫だよ。円谷くんは、しっかりと持ちネタとして弾き語り『東方的威風』を活用しているし、練習すればインドアのことなら大体できるということと、最強の歌唱力のアピールとしてお笑い芸ではなくキチンとしたビックリ芸になっているから、息子さんの『東方的威風』は大丈夫だ。
「ジャッキー・チェンです」
「ジャッキー・チェンです」
「ジャッキー・チェンです」
きっと彼らもキョウ☆ヘイのような迷惑なだけの輩ではなく、我々やクアトロのように普段は真面目だけど集団になるとハメ外す系の学生なのだろう。
「見れば見るほど、フフッ、似てないんですよ。だけど一回視界から外して、もう一回スッと視界に入れると、一瞬本当に似てるんです」
良崎さん少し気に入った模様。
「一回外してからのスッ、でビックリするぐらい似てますよ」
「シェーシェー。学園アイドルー、リーベルトサンー、キレイネー」
「なんか、中国語とかできるんですか?」
無邪気に喜ぶJ・Cたち。そしてもう言われ慣れてて容姿を褒められてもなんとも思わない良崎。
「アエー、オーサダハルー」
にこやかにセーラー服J・Cが中国語を発し、にこやかなままカンフー式のお辞儀。ッバァァン!! 突如半裸J・Cがセーラー服J・Cの脳天に落雷のようなどつき! どつきの火力と破裂音と、あんなに感じのよかったJ・Cの豹変に良崎も目を丸くして呆然! そしてセーラー服J・Cは、ジャッキー・チェン映画でよくある、ジャッキーがダメージを受けた個所を抑えてもう片手で相手を制止し、口をはおはおさせるダメージ描写!
「そういえば王貞治は人名だから万国共通だな!」
「ドゥイブチー」
ッブパァァァン!!!
(2カメ)
ッブパァァァン!!!
(3カメ)
ッブパァァァン!!!
(4カメ)
ッブパァァァン!!!
「王貞治なんてデタラメの後じゃあその中国語が正解かどうかもわがんねぇな!」
雷鳴のようなどつきツッコミ!
ッパァン! 良崎が乱入し、半裸J・Cに雷どつきツッコミ!
「せっかくの質のいいジャッキーモノマネなのにどつき漫才で保険かけてるんじゃあありませんよ!」
ッパァン! そしてサスペンダーJ・Cにももう一発!
「お前もお前で蚊帳の外じゃなくてネタに参加をしなさいよ! どうせするなら!」
「ハイヤァ~」
「キャラを統一しなさいよ! 浮気をするんじゃあありませんよ! ジャッキーという本命がいながら! タヌキめ! どっちにするんですか!? ジャッキーですか!? どつき漫才ですか?」
「ジャッキー・チェンです」
「じゃあジャッキー・チェンで行きなさい。後悔しますよ、せっかくいい出来なんですから。どうです? たとえば、このマスカラスマン、知ってますね?」
「ハイ」
「このマスカラスマンが、プロレスラー以外のネタをひっそり保険で持っていて、すぐにそっちに行っちゃうようならガッカリするでしょう? 彼はプロレスラーなんですから。あなたたちもジャッキー・チェンでしょう?」
「ハイ」
マスカラスマンもうむ、と深く頷く。
「よく作られた偶像ほど、余分なものがあってはいけない。偶像を壊されることこそが人間の心を最も破壊する行為だとオランダの犯罪心理学者デイビット・ケインズが著書の『近代の犯罪動機』でアムステルダムの詐欺師パトリック・シルベストルの項で述べていた」
久々に出たな! マスカラスマンお抱えの架空の犯罪心理学者デイビット・ケインズ! ジュビシッ! っと良崎がマスカラスマンに天龍源一郎並の逆水平チョップ! J・C達には配慮したビンタだったのにプロレスの受け身を習得しているマスカラスマンには全力の逆水平! れっきとした“プロレス技”である!
「ネタフリじゃあないんですよ!」
ジュビシッ! CRITICAL! マスカラスマンがえづき、前傾姿勢でせき込んでいる。これは「入って」しまった。
「でも結果的に伝えたいことは伝わってなかなかよかったですよ。わたしももう3年生ですから、過半数が後輩なんで人に説教する機会は増えているんです」
「じゃあなぜどついた……。二発目が喉仏に入ったぞ……こっちが女を殴れないのを知っていて……それに学生とは言えプロレスラーを沈める逆水平を持ってる学園アイドルなんてそっちの方がよっぽどイメージ壊しているじゃあないか……」
「痛いところをついてきたように見えますが、わたしの場合はジャッキー・チェンズやあなたと違って芸風ではなく肩書なので、全てがわたしを引き立てるためにあるのです。それにお前の技術ならわたしの逆水平ぐらいなんともないでしょう」
「急所以外ならな……」
やっぱりコイツらスゲェ仲いいんじゃないの?





