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【もう出ない 五・七・五の 在庫がない】第17話 関越道0ビヨンド~新潟×離島~ その17

「よぉし見えた。じゃあ作戦通りに」


 海岸に立つ『ファ○キン演劇サークル』の幟。そして8月なのにダボダボのパーカーのフードをかぶり、デカいサングラスをかけた二人組がベンチに腰かけて完全にオフ。刺客だ。しかし、こっちが気付いているということに気付いていない。


「作戦GO!」


 雨宮さんがマスカラスマンベリアルに変身、そしてマスカラスマンが我々の隊を離れ、別行動で刺客の元へ先行。イカついヤンキーに絡んでもらってビビるテンパる作戦だ。我々本体接触直後にマスカラスマンがイカついヤンキーとして絡む作戦。


「おっ、刺客だ。行くぞ!」


 ハイジさんの掛け声で、英雄エンジンとフェイクのマスカラスマンベリアルの雨宮さんエンジンが急いでリヤカーを牽く。


「イェア。そう俺たちが、クレイジーアウトローズ!」


「そう、ハンパな野郎にゃこの言葉をお見舞いしてやるぜSay、Suck it!!」


「今日も一番イケてる俺たちがお前のケツしばいてやるぜ!」


「そう、生意気なヤツのケツを蹴り上げてやるぜ、It's clobberin' time!」


 割と遠くから口上を始める刺客。お互いの存在を肉眼で確認はしたが、それなりに距離はある。リヤカーのセミプロ、マスカラスマンがエンジンじゃないため、口上が始まってからもなかなかたどり着けない。間。


「俺たちが佐渡島第一の刺客」


 羽場くん&水着女子がノーコンテストに!


「俺らに勝ったらアドバンテージは図鑑5種かリヤカー牽き交代要員」


「やるかやらねぇか? 答えはもちろんイヤァオだろ!」


 そろそろ接触できる範囲。ハイジさんがチラっとスマホを見る。そしてライトからのバックホームのように大きく手招きし、マスカラスマンに合図。


「何してんだお前ぶっ殺すぞ」


 イカついヤンキー登場! 後ろから刺客の肩を掴み、にらみをきかすが語彙が少ねぇ! いつか悪役(ヒール)レスラーもやってみたいと言っていたマスカラスマンだが、あの様子だとおそらく無理!


「何してやがる。どっから来たお前ら」


「え、東京っすけど……アレ? 烏丸くん? 烏丸くんじゃないか?」


「はえっ?」


 クレイジーアウトローズ、略してクアトロのBがグラサンとフードを外す。


「俺俺! 遠藤!」


「あ、遠藤じゃないか! どうした、何してる?」


「ほら、あの『演劇サークル』っているだろ。ほら、あそこ見ろよ。陣内とかリーベルトとかマスカラスマンいるだろ。あれの企画で刺客役で来てんだよ。奇遇だなぁ! 烏丸は何してんの?」


 あぁーとこれは痛い。クアトロBこと遠藤、マスカラスマンの素の姿、烏丸椿の知り合いだった! マスカラスマン≠烏丸椿、という作戦の核自体は保たれているが、烏丸椿の方の知り合いというのは予想外! しかもマスカラスマンベリアルとマスカラスマンを見間違える、という方の作戦は成功しているだけに手痛い。効果はバツグンだ!


「俺はそう、小旅行にな。最後の夏休みだし」


「俺も俺も! 大学最後の夏休みだし、いい機会だからさ! 俺もこんなことやれんのもう多分人生で最後だよ~。え、烏丸もそんなカッコしてるってことは、もう就職先決まってんの?」


「あー、俺は親父の会社を継ぐよ」


「マジかよ~。俺はメーカー」


「ヒップホップで食ってくんじゃなかったのか?」


「無理無理、夢追えるような立場じゃないから。いざとなったら烏丸とこ入れてくれよ~。あ、そうだ。烏丸も思い出作りに来てるんなら、一緒に『演劇サークル』で遊ぼうぜ。こっちサイドつきなよ」


「……まぁ、断る理由もないしな……」


 マスカラスマン寝返る!


「まぁ寝返ったところで痛くはない戦力ですけど」


 良崎厳しい。


「いや待てよ。俺たちが勝った時、クアトロエンジンになってる間は、マスカラスマンの正体が烏丸ってバレちゃいけないから、マスカラスマンを元に戻せないぜ」


「!」


「それにクアトロBの遠藤と烏丸があまり仲良くなりすぎて、今後も一緒に行動しようぜ、となるとマスカラスマンが佐渡島で使えなくなる」


「そうなると厳しいですねぇ。かと言って、マスカラスマンの正体をこんなことでバラしたくはないんです」


「裏目だ。全部裏目だ」


 子供と小型犬より小さい生き物には厳しい態度をとる良崎はプロレスラーには優しい。


「このラウンドは烏丸くんが向こうにつくのはいいとして、マスカラスマンはマジで返して欲しい。そうなると、マスカラスマンが自発的に、遠藤くんと絶交してこの後こっちに戻るしかない。頼むぞぉマスカラスマン」


 友情or覆面プロレスラーの正体。


「陣内~。こっち一人増やしていいか?」


「そいつがいいって言ってんならいいかもしれねぇけどよくはねぇよ」


「やったぜ烏丸くん。アイツがリーベルト。黙ってるとマジ最高にかわいいよな」


「そうだな。美人だな」


 気まずい……。残念なことに良崎の見た目だけは否定の使用がない。むしろ否定する方が異常だ。否定しようもんならオカマ疑惑がすぐに湧いてもおかしくない。しかし、マスカラスマンが中身を務めている『演劇サークル』公認マスコットエッちゃんの、鋭意制作中のエッちゃん公式ファンブックの一部を抜粋しよう。


 ☆エッちゃんの秘密!

①エッちゃんはエンターテイナー星からやってきたお友達。身長は170センチ後半。体積が結構ある!

②好きな食べ物は蒸し鶏のしゃぶしゃぶ! ヘルシーでタンパク質が豊富だから肉体を鍛えるのにはもってこい! 甘くてフワフワの綿あめも大好きだよ。みんな、お祭りでエッちゃんを見かけたら綿あめを分けてあげてね!

③正義の心を持つ清潔で気高いエッちゃんはウネウネしていてキモチ悪いミミズと卑怯でうるさいリーベルトが大嫌い!


 マスカラスマンは良崎が嫌いなのだ。しかし、最近では前ほど犬猿の仲というほどでもなく、一度はマイナースポーツまで落ちたが復興を遂げつつあるプロレスを愛するものとして、プロレスファン同士情報交換していることも多い。本人たちは不仲を主張しているが、識者の間では最近は不仲説は否定されることが多い。そういう微妙な関係ゆえに非常に難しい。


「あ、あぁそうだな」


「そういや烏丸くん、プロレス好きだったよな? リーベルトも好きらしいぜ。脈あるんじゃね? 烏丸くん、見た目だけはプロレスラーっぽいし」


「ほほぉう。学園アイドルリーベルト様だもんな」


「話が合うんじゃない?」


「そうだな。リーベルト! 好きなプロレスラーはいるか?」


 マスカラスマンって素顔でテンパるとあんな表情になるのか。


「おい頭が高いですよ。どこの馬の骨か知りませんがわたしに好きなプロレスラーというものはいません。わたしが好きなのはスーパースターです」


「スーパースター……つまりプロレスラーのアメリカ版の名称だな。アイツとは話が合わない。俺は日本のプロレス派、アイツはアメリカ派だ」


 クアトロBの遠藤、にこやかな笑み。


「な、性格悪いだろ。でもフラグ立ったんじゃね? 最近、なんか日本人レスラーがアメリカで活躍してるって話聞くし、そういうコアな知識も持ってるってことは話を寄らせていけばいけんじゃね? 羨ましいぐらいだよ~リーベルトと共通の趣味とか」


「遠藤、少し黙っててくれないか。本当に生意気だな、あのリーベルトとかいうガキ」


「硬派~」


「マジで黙ってろ」


 これでクアトロBの遠藤に悪意がないから、クアトロBの遠藤が気の毒だ。


「じゃあ始めるか。カモン!」


 クアトロBの合図でクアトロのCとクアトロのDが登場。


「四人揃って! クアトロクレイジアウトローズ!」


「エレエレエレエレ! ウガウガウガウガ!」


「USA! USA!」


「OK,say Suck it!」


4人でブチ上げポージング。


「クアトロfaet DJ烏丸」


「アレ? クアトロのメンバー増えましたね?」


「後輩二人増やしたぜ。俺らこれでもヒップホップサークル最大手。会長の俺後輩の育成に大慌て。『演劇サークル』、水原さん卒業でマジで会長誰? どうせロクでもねぇクソッタレ!」


「会長はマスカラスマンですよ」


「不甲斐ない会長、雑魚の象徴、あの覆面とかマジピエロ」


 本人はすぐそばにいるんだけどな……。


「ハーフに対抗、こっちは留学生のマザーファッカー・スミス。カモン!」


 クアトロBの合図でクアトロDのマザーファッカー・スミスが一歩前に出てカンペを読む。


「ヘイ、オレガ来タ。勝負受ケロヨチキン野郎。ジンナィ・クズハ!」


「おい待て。今なんつったこの野郎!」


 ハイジさんこと陣内(ジンナイ)一葉(カズハ)マジギレ。


「ジンナィ・クズハ」


 良崎爆笑。星野、小林氏、そして敵陣についちゃった烏丸くんが笑いをギリギリまでこらえてる。


「スミス! カズハ、カズハ」


 クアトロAが火消しに入る。異様な空気を感じ取りマザーファッカー・スミスもカンペを持ったまま肩をすくめる。そしてクアトロのAとBがカンペに目を通し、ハイジさんに手招き。


「ここ、uとaの字がちょっと読みにくくなってて」


「aの上のカーブが浅くてuに見えてしまったみたいです。本当に申し訳ありませんでした」


 〇:Kazuha→カズハ

 ×:Kuzuha→クズハ


 慌ててクアトロのAが曖昧になってしまったaの字を書き直す。コイツら腰低いなぁ。ラッパーのくせに。幟の違法ではないが不適切な言葉もちゃんと伏字にしているあたり真面目さと礼儀正しさを感じる。道理でマスカラスマンこと烏丸くんと仲がいい訳だ。


「次不手際があったら殴るからな」


「答えはもちろんイヤァオ!」


「俺が聞き入れるのはハイ、かイエスだけだ」


「ハイ……」


「では、今回の対決を発表します」


 クアトロもう置きに来ちゃった。不手際が多すぎてキャラを保てない。


「今回の競技は、夏らしく“怪談”! こちらの、カラータイマーを装着すると、2分30秒で点滅が始まり、3分でランプが消えて死にます」


「おう」


「ですので、3分以内でいかに上手く! 怪談を話せるか! を、競います。一番手は、ルーキーのKomachi! そっちの一番手は?」


「じゃあ、リーベルトで」


刺客第一ラウンド

“怪談”


 クアトロのCのKomachiがマイクを斜に構えてパーカッション。その胸にクアトロのBがカラータイマーを装着。


「スタート!」


 クアトロのCが正座し、懐から扇子を取り出す。


「えぇ~草木(くぅさぁぁき)(ねぇむぅ)るぅ(うぅし)(みぃ)(どぉきぃ)~。草木の影から~ヒタッ……ヒタッ……っとぉ! キャァアアアー」


 すげぇ。クアトロの後輩とは思えないほど本格的な怪談! 真夏の島なのに背筋がヒヤリとするぐらいの臨場感が出ている。


「ダンダンダン! ダンダンダン! あれぇ? おかしいぃなぁと……」


 扇子も使い、表現力がたっぷりだ。だがピコーンピコーン! あまりにも熱が入りすぎて、3分ではどうやら尺が足りない。あぁもっと聞いていたいのに。イヤミでもなんでもなく、クアトロCの怪談は本当に武器として使えるぐらいの特技だ。だが3分は短すぎた!


「そして振り返ったらオバケがいたんですー! キャアアアアアア!」


 ラスト30秒、あなたは必ずこの怪談に驚愕する……。クアトロC! せっかくものすごいクオリティの怪談を披露したのに、ショートバージョンを用意していなかったせいで先輩が設けた制限時間3分で大慌てでシメに入り「オバケがいたんですー!」オチ!

 たまらずハイジさんと良崎が飛び出し、それぞれクアトロAとクアトロBに腰の入った強烈なビンタがパァン!


 (2カメ)

 パァン!


 (3カメ)

 パァン!


 (4カメ)

 パァン!


 (スーパースロー)

 ッパァァァンンンビルビルビルビル~


 クリティカル!


「後輩を伸ばそうとしてるとは思えないですねこのグズ!」


「次に不手際あったら殴るって約束だったからな! ハァ……クアトロのC」


 ビシッとハイジさんが血走った目でクアトロのCを指さした。


「お前はいい腕をしてる。精進しろよ」


 クアトロのCは照れ笑いしながらお辞儀。そしてまばらな拍手。なんで彼はヒップホップサークルにいるのだろうか。


「2分30秒まではマジでよかった。お前がその気なら落研に俺が話通しておいてやる」


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