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【もう出ない 五・七・五の 在庫がない】第11話 関越道0ビヨンド~新潟×離島~ その11

 朝起きるとハイジさんが浴衣のまま窓をピシャーンと開けて腕組みし、仁王立ちしていた。そこから差し込む朝日で目覚めてしまったようだ。マスカラスマンはマスクも被らず金髪赤メッシュ脱色眉毛のあるまじき大学4年生の姿でその脇の椅子に座り、スマホを睨みつけている。


「で?」


「あと30分ぐらいしたら帰るそうだ」


「そうか」


 小林氏と桜井、失踪! 早朝に二人がいないことに気付いたハイジさんはマスカラスマンを起こし、星野にも連絡をして行方を探した。小林氏も桜井も二人ともしばらく連絡に返答はなかったが、つい先ほど早朝から釣りに出掛けたと返事が来た。元々二人は早朝釣りに行く予定であり、二日酔いや睡眠の調子次第ではハイジさんとマスカラスマンは置いていく、ということにしていたらしい。そして結局二人で釣りへ行った。

 30分後。


「いやぁ、大事になる前に帰ろうと思っていたんですがね」


「思った以上に釣れたんですよね」


 何を二人で佐渡島満喫してやがる。


「言ってから行けよぉ」


「だって言ったらみんなで行こう、とか、朝から釣り対決だ! とかってなるじゃあないですか。それに朝が早いとか文句も言いましょうて」


 流石側近! 話が早ぇ。もうハイジさん何も言えない。論破!


「それに、佐渡島図鑑50種も多少埋まりましたよ」


「そぉうですよ! 桜井くんは持ってますよ」


 また武功を挙げたか。


(タイ)ですよ!」


「こともあろうにタイ……ッ。でもどうせもう食ったんだろ?」


「偶然、近くに料理の出来るベテランの釣り師さんがいましてね。その場でサッと調理して食べました。僕たちぁもう朝飯いりませんよ!」


「朝から腹いっぱい食ってんじゃあねぇよ、対メシの化け物用最終兵器が。どうすんだよ出発して昼飯前に会っちまったらよ。で、他に何食ったんだよ」


「あとはアジとかですねぇ」


「フライか」


「アジフライです」


「おいマスカラスマン! 朝飯で絶対にアジフライよりうまいもん食おうぜ! ビュッフェで絶対にアジフライよりもうまいもん食ってやる!」


 気持ちでもタイには勝てない。




【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】

【帰ってきたうぉくのふぉそみつ】




「ヘイヘイヘイピッチャービビってるぅヘイヘイ」


 早朝の釣りでタイを釣り上げたお祝いに近くの釣り人から受け取ったカップ酒を、“小林氏のみ”飲んでいたことが発覚。トキを探す旅の出発は遅れ、学生らしくビーチで時間を潰すことにした。そして落ちていた流木と浮き球で椎名誠のように野球をすることにした。ネクストバッターサークルの星野が虫よけスプレーを滑り止めスプレーのように塗布している。


「見ろよマスカラスマン。あれが女子の本質だ」


「ああ」


「女子の友情はあの薄っぺらい布一枚で保たれてる」


 そして海水浴なのに女子は全員水着の上からTシャツ! おそらく格差があるからだろう。


「一人だけキャプテン・アメリカの盾より起伏のねぇ体型のヤツいるから」


「おい次そのネタで星野イジメたらわたしがお前を殺しますからね」


「まぁそういう訳で、俺たちはそんなに楽しくなくなっちゃった。真夏にビーチで楽しく過ごしてるはずなのに将来のことばっかり考えちまう。なぁマスカラスマン」


 海水浴だということでマスクを脱いで大学4年生なのに金髪赤メッシュ脱色眉毛のマスカラスマンは日除けに編み笠を被って眉間に皺。


「お前はそこまで脱いだのに。せめて雨宮が……いや、雨宮がグローブの代わりにトッピーはめてたら面白かったのに」


 絶対一瞬セクハラする気だっただろ。


「いや、いいんじゃないか? 身近な人間にエロを見出そうとする方が生々しくて俺はイヤだな。乾杯しよう。俺たちはこの20××年、佐渡島のビーチボーイズ」


「おいよく知ってんな。古いドラマじゃねぇか」


「再放送でいくらでも観たさ。『ビーチボーイズ』『古畑任三郎』『HERO』」


「『振り返れば奴がいる』とかな。俺、アレの最終回のネタバレを妹にされた時マジでアイツぶっ飛ばそうかと思ったよ。そして俺たちは広末抜きのビーチボーイズか。そいつぁごめんだぜ。だが乾杯」


 砂浜に腰かけたまま瓶コーラで乾杯。


「俺たちはいったいなんなんだろうな」


「俺なんていったいなんだよ。金持ちでもない、どこかに太いパイプがあるわけでもない。陣内、決してお前が恵まれてると言ってるわけじゃないが、俺はもう戻れないんだよ。インディーズだがプロレスの試合にも出してもらってるが、その度に不安が強くなる。あれだけ憧れていたプロレスラーに近づくたびに、思い描いていた理想のプロレスをどんどん妥協して、自分ができるプロレスに近づけていこうとする弱気な自分がいるんだ。でももうプロレス以外にやれる気はしない。せっかく島に来たのに、女子のせいにするわけじゃないがイマイチ、テンションが上がり切らない」


「それは俺のせいもあるかもな。だってお前、『演劇サークル』に加入して初めてのイベント小笠原村だったろ。あと屋久島で膝やっちゃったし」


「あとこれは小林さんと桜井のせいだがタイを食い損ねた。旅館の朝飯が新鮮なタイより美味い訳ないだろう」


「弱気はもうよさないか。よく膿を出し切るなんていうが、気持ちの膿は出し切ることはできない。傷口が広がって弱るだけだ」


「でもタイは」


「タイのことはマジで俺も悔しいんだよ。これ以上傷口や関係が悪化する前にマジでタイのことは忘れようぜ。図鑑にも登録しない」


「そうするか。これがモラトリアムか」


 モラトリアム系プロレスラー・マスカラスマンこと烏丸(カラスマ)椿(ツバキ)、マスクも心の覆面も脱ぎ去る。


「お前あと半年で卒業だし」


「世間に出たくないな」


「もうやめろつってんだろう弱音は」


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