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【もう出ない 五・七・五の 在庫がない】第2話 関越道0ビヨンド~新潟×離島~ その2

「ハハハ! それでさ! だってお前カブトムシが止まるほど化粧濃いじゃん、って言ったんだよ!」


「ハッハッハおいそれマジかよ盛ってんじゃねぇか?」


「盛らない盛らない! 盛らないから面白いんじゃん個の話!」


「おい雨宮、これ星野がウソついてんじゃねぇか?」


「いえ、これ驚くことに実話なんですよ!」


「ハッハッハ!」


 和気あいあいとしたアンティーク水原私物8号機。水原さんが卒業した今、水原さんの定位置だった助手席に座るのは誰かというのは少し注目した。付き合いの長い良崎か、後継者の星野か、仲良しの桜井か、下心で雨宮さんか。良崎と星野が無言で譲り合ったが、結局星の助手席。しかし! 完全に空気は出来上がっているが進んだ距離は川越に至らず! 関越道の始点・練馬から川越の近さというのは、練馬区大泉学園にある映画館T-joySEIBU大泉では映画のジャンル・配給会社を問わずにCMを流す大泉自動車教習所の高速教習で行く距離である。すぐに行って帰れる距離だが年末年始・ゴールデンウイーク・お盆はその限りではない。『シン・ゴジラ』中盤の疎開風景みたいにギッチギチに詰まる。星野、桜井、雨宮さんのルーキートリオは今のところはハイジさんと良崎が明るく振舞い、真面目ゆえに空気を悪くしがちなマスカラスマンがいないからかここまでそんなにストレスが溜まっていなさそうだ。これから佐渡島に向かうお供にともらった吉備(キビ)団子(ダンゴ)なんか楽しくなる成分とか入っているのだろうか。


「ん? 電話鳴ってるよ陣内」


「なんだ、誰からだ?」


「マスカラスマン」


「代わりに出てくれ」


「はいよ」


 星野の真後ろに座っていた良崎が星野の肩をバンバン叩く。


「星野、闘魂電話で行きましょう」


「フハハハハハ!」


 ハイジさん爆笑。


「闘魂電話?」


「相手が何を言おうと『アントニオ猪木、新日本プロレス創設の思い出を語る』で対応するのが闘魂電話です。本来はかける側が使うものですが、受ける側では難しいですね」


「そもそもそれちょっとわかんないしなぁ」


「じゃあ動画を見せるんで勉強しましょう」


「マスカラスマンからの電話は無視していいの?」


「無視していいです。陣内さんが運転してるってわかってんのにかけてきてるんですから、出られなくてかけ直しになっても不自然はないです」


「じゃあかけ直しで闘魂電話にすればいいんだね」


「そうですね。ちょっと電話貸してください」


 ハイジさんの電話が星野経由で良崎の手に。そして電話をとった良崎が……


「トラァンキーロ! (あっせ)んなよ!」


 うるせぇ!


「ハハハ!」


 うるさければうるせぇほどこっちの車は面白くなるがあっちはたまったもんじゃないな。小林氏とマスカラスマン、一番精神年齢的に大人な組み合わせだが仲が良いかも不明な組み合わせだ。だが、今のロスインゴベルナブレスデハポン電話でハッキリしただろう。ガンセキオープンは遊ばれると覚悟した。その間に星野が闘魂電話のレクチャーを受ける。


「よし! 行ける。……アントニオ猪木です。えーちょうどあれは東京駅でですね、私どもが旗揚げをして、そしてその時に、日本プロレスの末期というかね、えー、そういう意味で責任は非常に大きいんだぜ、ということを、以後陣内への連絡は星野にかけてくれということで1、2、3、ダァー!」


 爆笑。なんだ……この悪ノリで笑える大学生らしい笑い……。俺たちはその辺の大学生とは違う、俺たちは大学生じゃなくて大学生評論家なんだ、と妙にイキってたところがあったがこの三人の持ち込んだ既成概念の破壊! 素直に楽しいことを楽しいと思える。


「でもこの猪木はヒゲに捕らわれたマスカラスマンさんを開放してはくれないんですね……」


「次そういうリアルなこと言ったらお前をガンセキオープンに送るからな」


 桜井にビシッと喝が入った。やはり無理して楽しくしようとしていたのか。だって簡単だもん。目の前の車両を見て絶望することなんて簡ッ単! でもそうやって辛い辛いと思っててやってると辛いまま続くからなら空元気のほうがマシなんだよ。一つ賢くなったな、桜井。


「で、マスカラスマンはなんだって?」


「川越で一回休ませてくれって言ってた」


「高坂まで我慢しろつっとけ。っていうかさぁ~。お前ら的にも今のフォーメーションまじ最高じゃない? 卍っしょ卍」


「卍~」


 @高坂PA


「……」


 ゴゴゴゴゴゴ……


「……」


 バババババ……


 高坂PAにヒゲにメガネの政治犯と実行犯、或いはインチキプロモーターと悪役レスラー……。マスカラスマンもマスクを脱ぎマジのメンチ。金髪赤メッシュ、脱色眉毛、筋肉質にアロハシャツと、壊滅的ファッションセンス&プロレスラーとしての肉体のシナジー効果で素顔マスカラスマンは凄むと結構怖い。だが根は真面目なので一線は超えてこないことはわかっているが、地獄行きが決まってる新潟旅行で早朝集合からのセンタリング失敗、特に会話も盛り上がらない相手とガンセキオープンに乗せられ電話をかければ「トランキーロ」、かかってくれば闘魂電話。しかもまだ高坂。アロハシャツがオフのヤクザに見える。この二人、揃うと意外と画になるな。政治犯とテロリスト、プロモーターとヒールレスラー、中小ヤクザ。


「レクはあるのか。寄り道はあるのか」


「そこはおいおい連絡していくっていうかヒゲにスケジュールは伝えてあるから」


「道中このヒゲはそんなことは一言も言わなかったぞ」


 カチャと小林氏がメガネのブリッジを押し上げた。


「今回はラベンダー畑だよ」


「県は?」


「群馬」


「群馬か。なら今夜は群馬に一泊だな。おいリーベルト。今夜覚悟しとけよ。トランキーロ! (あっせ)んなよ!」


 !!!??? 夕食後の恒例泥酔格闘技でのことかな? そうであってほしい。


「覚えてれば相手してやりますよ。なにしろこっちの車は楽しくて楽しくて、オクパード、忙しくてイライラする暇もないですから。星野! 次は車の中で『南極料理人』観ましょう! あれ癒されるいい映画ですよ涼しげですし! 南極以外のシーンなんて5分もないですから!」


 交代を要求しないあたり、本当にマスカラスマンって真面目でいいヤツなんだなってわかる。憤りは感じるが、その憤りの分犠牲になるのが自分でよかったと本気で思っているだる。それを斟酌した桜井と雨宮さんがそれぞれ飲み物とつまみを二人に渡して無言で頭を下げていた。小林氏はそれを受け取り、喫煙所に消えていったが、マスカラスマンが一枚のCDを雨宮さんに渡した。


「熱い! なんですかこれ」


「俺たちはこれを3周したぞ」


 わかっていても抑えきれないこの思い。まだ持ちこたえているが、こまめに休憩を挟まないとマスカラスマンが早ければ群馬県内でフィヨルドに恋する可能性がある。それでは東京都西東京市、マスカラスマンからのリクエスト。スピッツの10thアルバム『三日月ロック』から『ババロア』、同じく東京都西東京市小林桜さんのリクエストでスピッツの10thアルバムから『ローテク・ロマンティカ』、続けてどうぞ。


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