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【それぞれの 思いがあるから さておいて】第1話 夏だプロレスクイズ

「そろそろ星野にもドッキリ経験が必要だな」


 荒川の河川敷にバサッと吹いた一陣の風がハイジさんの浴衣、マスカラスマンのアロハシャツをなびかせる。


「桜井!」


「はい! 星野ハメるんですね!?」


「いや、お前に聞こうと思ってたのは釣れそうかどうかだ」


「それはまだないです」


「わかった。下がれ」


「下がれって言われてもポイントはずらせないですよ」


「会話から下がれ」


 星野の八つ当たりのコークスクリューパンチを月一ペースで側頭部に食らっている桜井、ちょっとがっかり。演劇サークルでは今、荒川に住むとされる伝説の巨大魚ソウギョを釣るべく、釣り針に葉っぱを通して炎天下の元頑張るのがブームだ。


「ハメるって言ってもどうするんですか? アイツ最近どんどん勘も鋭くなってきてるんで手ごわいですよ多分」


「脳ザコのお前に比べれば大体手ごわいだろうな」


「あぁん? お前をエサにして肉食魚釣りに変えてやりましょうか? ザリガニも釣れますかね!? いや無理ですね! 陣内さんぐらいぺらぺらの人間じゃ肉が水に浮きますもんね! 特に脳ミソはスカスカですから!」


「脳ミソねぇお前よりはマシだろうが」


「ディミット!」


「だがよかったと思え。お前は今回、ハメる側なんだぞ」


「まぁ、それは星野に気の毒ですがわっぱりわが身が一番かわいいですから良しとしましょう」


 そう、今回は良崎が一緒だ。さぁどうしかけるハイジさん! 隠し事の出来ないマスカラスマン、ハメ技慣れしていない桜井のみを駒とし、良崎と星野の両方を一度にハメる手があるのだろうか。


「よしきた。おいヒゲ!」


「はいただいまァ!」


 土手の上に軽トラに乗った小林氏が既にスタンバイ! 合図待ちだったのか。ヒゲが既にスタンバってるということはプランは出来ているということだ!


「各々釣り具を回収し、ヒゲの軽トラに乗せとけ」


「はぁい!」


 ウキウキの加ドッキリ勢が慣れた手つきで釣り具を回収、軽トラの荷台に乗せ、ハイジさんが扉をタンタン叩くと軽トラが出発。ドヤァっと腰に手を当て、得意げに見送るハイジさん。


「よし帰るぞ!」


 あぁ今日じゃねぇのか……。あくる日。


「おいリーベルト。星野ドッキリ行くぞ。準備はすべて整った!」


「はぁい!」


 会室にハイジさん、良崎、桜井、雨宮さんが揃っている状態でハイジさんが腰を上げた。出陣!


「さぁ意気込みを語るぞ一番槍だリーベルト良崎!」


「はぁい! わたしももう3年生ですよ。学生生活も折り返しを過ぎ、この学校がどういう学校かもわかりましたし、どういう伝統があるのかもわかりました。それを後続に託す役目をですね、ヒシヒシと感じてきたところで、やはり我々の跡を継げるのは星野ですよ。さぁ、ぶつかり稽古の始まりです!」


「よし、行け!」


「はぁい!」


 とバァンと良崎が扉を開けると!


「よし頑張ろうリーベルト!」


 即星野!


「アレ星野が?」


「ドッキリ経験、これで初めてだよリーベルト」


「あぁ、ああ、ああああああああ!」


 夏のリーベルトも断末魔三段活用で地に伏す!


「アレ? エッちゃんがいないな?」


「ハイハイ、フリですね!」


「で、あとはチアガール拉致部隊でリヤカーに乗せる手はずだよね? 陣内」


「わかりましたよ。それをしないとお前が成長できないってんならやりなさい! わたしよりもかわいくないチアガールに揉まれるわたしを笑って見てなさいよ!」


 良崎自害! 星野の為なら何でもするなぁコイツ。




「夏だ!」


「ガルガルガルガルガルガル!」


「クイズ~!」


 ハイジさんと星野の間に薄い色のサングラスをかけた筋骨隆々の半裸のオッサンが立っているが声質・滑舌共にメチャクチャすぎて雑音にしか聞こえない。回答席には良崎、雨宮、桜井が立っているが炎天下! 日傘の下で扇風機の風に当たっているハイジさん、星野、オッサンは汗一つもかかずおいしい水やアイスを食っている!


「ハイ、みなさん驚いたでしょう。実はこちらのお方! 我らの先輩、つまりOBなんですね~」


「ザリザリザリザリ」


「はい、やはりそうですよねぇ。この方ときたら、やはりそう! え?」


「バババババババババ」


 マジ聞き取れねぇ。しかし、良崎とこの炎天下の元フル装備エッちゃんのマスカラスマンが異常にソワソワしている。


「へぇ~やっぱりそうなの! この大学特有のあるあるネタですねぇ」


「ギャギャギャギャギャ!」


 オッサン楽しそう。


「じゃあクイズを始めましょう! 第一問!」


 ハイジさんのフリでオッサンがメモを読み上げる。


「ザザザザザザザザ、ザザザザザ?」


「聞き取れない、聞き取れない、聞き取れない」


 雨宮さん混乱! ピコーン! 良崎がボタンを押す。


「ジャンピングダイヤモンドカッター!」


 ブブッー。


「ザリザリザリザリ!」


 雑音で怒られる。ピコーン! エッちゃんが桜井を突き飛ばし、回答権強奪!


「コジコジカッター!」


 ブブッー。


「ギギギギギギギギギギギギギ!!!」


 オッサン、なにやら怒っている口調でエッちゃんにローキック。完璧に決まったァ! 良崎のそれとは違う、完全なローキック!


「ガビガビガビガビガビガビ!!」


 (アツ) (モリ)!!


「しゃべんじゃありませんよ。お前はマスコットでしょうが! って言ってますね」


 良崎がヒヤリングに成功しているだと……!?


「リーベルトさんあれ誰なんですか!」


天藤(あまふじ)力龍(りきたつ)! 昨年末に引退したばかりのレジェンド中のレジェンドプロレスラーですよ!」


 ズボっとマスカラスマンが一気にエッちゃんをテイクオフ。マスカラスマンに戻る。


「潰れた喉はレジェンドの証! レジェンドの喉三原則!」


「酒とタバコとラリアットで喉が潰れてやっといっちょ前のレジェンド!」


 良崎とマスカラスマンがハイタッチ!


「ザリザリザリザリ」


「あ、はい。パレハ、トランキーロ、ロスインゴベルナブレスデハポンです。今は、最近覚えたスペイン語は何かって言ってます」


 スゲェプロレスオタク。ピコーン!


「ガンスタン?」


 ブブッー。


「ブブブブブブブブブコラ!」


「今はこの姉ちゃんがしゃべってる途中だろうがコラ! って怒ってます。ジャンピングをはずしてダイヤモンドカッターですか?」


 ブブッー。


「じゃあエースクラッシャー!」


 ピンポーン。


「リーベルト1ポイント~」


 そもそも問題がわかんねぇよ! 


「ハイ、そういうことで第一問、“相手の頭を自分の肩に乗せ、前方にダイブして相手の顔面をうつ伏せに肩・もしくはマットに叩きつける技とは?”の答えは『エースクラッシャー』でした! 1ポイントのリーベルトにはポカリをプレゼント」


「ザリザリザリザリ」


 なんか言ってるぞ。


「考案者はダイヤモンド・ダラス・ペイジですね」


「俺もあるぞ。ダイヤモンドカッターの使用者はダイヤモンド・ダラス・ペイジ、コジコジカッターは小島聡、RKOはランディ・オートン、エースクラッシャーはジョニー・エース、ガンスタンはカール・アンダーソンが使い手だ」


「ジョニー・エースは今はジョニー・ローリネイティスの名で活動してますよね」


 ヒヤリングできる奴らが競うように何か!


「今のは、なんなマメ知識あるか? って言ってました。マメ知識が面白かったら1ポイントらしいですよ」


「わかんねぇよ……質問も、正解も……」


 桜井が頭を抱えて嘆く。


「マスカラスマンさんが演劇の練習でエチュードやるって言って始めたのスパーリングでしたもんね」


 雨宮さんも続いて落胆。しかしその後も!


「モントリオール事件!」


「キンシャサ!」


「俺ごと刈れ!」


「ムーの太陽!」


「巌流島の戦い!」


「プロトタイプ!」


「yooooouth!」


「志田光!」


「リアルアメリカンのジャック・スワガー!」


 と良崎とマスカラスマンはプロレスカルトクイズらしきものでどんどん正解を積み重ねていった。その熱意に問題を出す側が疲れ切り、星野が仕切り始めてからも一問ごとにボーナスマメ知識タイムがあるためなかなか終わらず、全行程を終えるころには既に別の仕事で天藤が帰ってしまった。


「本当にすみませんでした……」


 どこかで星野は良崎をナメていたのだろう。どれに対する謝罪かわからないが、良崎とマスカラスマンは満足げにタッチをかわし、それぞれ帰路に就いた。

 人の得意ジャンルに甘い考えで踏み込むの、ダメ! ゼッタイ!


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