【転校生-! お前を殴らにゃ 気が済まん!】第11話 小林くんの記憶補完計画 うろ覚えヴァンゲリ その9
「こばやっちゃん、俺だ。多分この話を聞いてる時はお前に多大な迷惑をかけたあとだと思う。……済まない。リーベルトにもすまないと謝っといてくれ。迷惑ついでに、俺に代わって鬼畜お姉さんにはお前が謝っておいてくれ」
ヒゲメガネ、指を組んだままクスリともせず硬直。
「休憩終わったらこれだけ残っていたよ……」
ハイジさんの残していった小林氏への留守電を聞き、全員がデンデンデンデンドンドンな深刻な雰囲気と顔つきでなかなか口を開けない。
「まぁ、好意的にとるなら、これ改変してないんで、威嚇戦隊能面ジャー、これシークレットファクターは回収ですよね? セーフですか? アウトですか?」
良崎の問いかけに威嚇戦隊能面ジャーのリーダー格の赤ネクタイも能面のまま腕組みをして首をかしげる。しばし悩んだ後、フラッグを上げる。
ピコーン! シークレットファクター回収!
「とは言ってもあのクズがいないならもうやめてもいいんですよねぇ。特撮スタッフももうやるだけやったでしょう?」
特撮スタッフも、金持ちの灰皿戦でだいぶやり切った様子。きな粉ダイバーもやるぐらい予算も切迫していたのでこれ以上はキツイだろう。
「しかしわたしには何も決定する権利はないんですよ。あるとしたら大学権力者でしょうが、ここは大学番長の星野に決めてもらいましょう」
「え、ここで決めんの!? 聞いてない!」
番長狼狽!
「それにその番長ってまだ有効だったの!?」
「じゃあ演劇サークル二代目会長マスカラスマンでもいいですよ。いいですかぁ、わたしは何も権力がないんですよ」
つまり責任がない立場だから、ここで『ヴァンゲリ』打ち切りという責任ある判断を良崎は下せないのだ。
「だからどおだってんだ! 陣内、このままやめるつもりか!? 今ここでやめちまったら、俺は許さんぞ! 一生お前を許さないからな! 今の辛さが全部じゃない。後でやりすぎに気づき、後悔する。お前と俺たちはその繰り返しだった。ぬか喜びと自己嫌悪を重ねるだけ。でもそのたびに前に進めた気がする。いいか陣内、もう一度次回予告になって、ケリをつけろ。何のためにここに来たのか、何のためにここにいるのか、今の自分の答えを見つけろ。そして見つけたら、必ず俺たちにステーキをおごるんだ」
マスカラスマンになんかのスイッチが入った。威嚇戦隊能面ジャーのリーダー格、赤ネクタイは再び少し迷ってフラッグ。
ピコーン! シークレットファクター回収!
今のでもありかよ。アバウトかよ。
「あぁー星野! 終わらせてくださいよ!」
良崎懇願!
「陣内! 終わらすぞ!」
「待ちなさい星野さん」
星野がビクつき縮こまった。ハイジさん逃亡により、ヒゲとノッポのさらに上、鬼畜お姉さんがついにやってきてしまった。
「陣内くんが逃げたのね……小林くん、なぜあなたはここで今この会話に参加しているの?」
「え、仰る意味が……」
「だってあなたなんでしょう? 逃亡の留守電を受けたのは。なんで陣内くんが出るまで電話をかけ続けないの?」
「あのー、ですねぇ、ハハ、陣内さんはこうなったらもう無理じゃないでしょうか。精神的にもそうですが、声帯にも来てましたしやれる力なんて残ってないんじゃないでしょうか。陣内さんだって疲れていますし、いろんな意味でできませんよぉ、ハハハできるわけないですよ~」
「何がそんなにおかしいかしら。今はハプニングっぽいときでも笑ってごまかせという、その陣内くんそのものがいないのに。……権藤教授、ダミープラグの用意を」
怖くて俺たち全員ベジータ泣き。
「いや、明星、あれはまだ」
「今よりマシでしょう」
「お前がそう判断するのなら……」
逃げちゃダメだッ!
「リーベルトさん! そいつは怪獣だよ!」
「でも、マスカラスマンが乗ってるんでしょう!? 無理ですって!」
「お前が死ぬぞ」
「マスカラスマンが死ぬよりはいい!」
「……ダミーに切り替えろ」
意を決した小林氏と良崎が高速即興芝居! くみ取った威嚇戦隊能面ジャーのリーダー格赤ネクタイがフラッグをあげる。
ピコーン! シークレットファクター回収!
「やめてよ父さん!」
良崎のローキックがマスカラスマンを襲うが条件反射でマスカラスマンはスネでカット。直後に流れるような右ストレートがバァキィッ! とマスカラスマンの顔面に命中!
「『ヴァンゲリ』の私的占有、稚拙な恫喝、これらはすべて犯罪行為だ。何か言うことはあるか」
「わたしはもう『ヴァンゲリ』には乗りたくありません」
「大人になれ。帰れ」
ピコーン! シークレットファクター回収!
小林氏、良崎、赤ネクタイが控えめに鬼畜お姉さんに目配せ。
「おやりなさい。誰のためでもなく、あなたたち自身の立場のために。勘違いしないでほしいのは、わたしはあなたたちに意地悪をしたいわけではないの。逃げ出した陣内くんに腹を立てているの。陣内くんありきで進めるはずだったコレから、陣内くんが途中で逃げ出した時、そんな時でもあなたたちはやめずにやったと胸を張って言えれば、きっとあなたたちは陣内くんより優位に立てるようになるわ。頑張ってね。続けましょう」
あのヒゲの横暴な態度は本当に怖い人がやると本当に怖くなるんだな。鬼畜お姉さんは悪い人ではないが怖い人であることに変わりはない。
「ッラァー!」
窮地を乗り切って緊張の糸がほどけたのか、唐突に星野が桜井にコークスクリューパンチ! 久々の八つ当たりだ。
「みんなで仕組まれたシナリオ変えよう。この後、たくさんの陣内がたくさんの白い『ヴァンゲリ』に乗って帰ってきたらわたしはアイツを殺してしまう」
「その時は、心臓と爪はわたしにやらせてください」
「うん、心臓と爪はリーベルトに任せるから目玉と舌はわたしがやる」
「ほらみんな、今のうちですよ。戻ってきた陣内のどこをやるか。マスカラスマン、急に殴って悪かったですが、鬼畜お姉さんを止めるにはああするしかなかったんです」
「つーことで、マスカラスマンには一時退場してもらって、わたしが『ヴァンゲリ』2号に乗るよ。そんで6号は桜井。そっちのルートで白い『ヴァンゲリ』は回避で。桜井は死んじゃうことに変わりはないけど」
すげぇ、全然ネタバレイエローが出ない。威嚇戦隊能面ジャーまで味方に付いた。
「あー、でも変わりがいない。陣内がいないと進まない……」
「次回の『ヴァンゲリ』はまぁたスゴイよ! 要塞都市や18もある特殊装甲板を貫いちゃう怪獣ヒラヒラが出るんだ。おまけに『ヴァンゲリ』が、ついに本部で大暴れするんだ。絶対見なくちゃね、さぁ次回もみんなで見よう!」
不意にとどろく天の声! 我々が見上げると、そこには次回予告用マイクを持った鬼畜お姉さんが……。そしてにっこりと笑って親指をぐっと立てた。共通の敵を持った『ヴァンゲリ』の再現組、運営組、特撮組がチームが一丸となった瞬間だった。
「よし! さぁ! 次回もみんなでやりますよ!」
「おう!」





