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【ごーしちご ごーしちごーごー このブタ野郎!】第5話 24時テレビ その4

「……行くか、大学探検」


 2回目。


「……」


「……」


 東京なんて暖かいんでしょう? 我々東北や北陸、北海道の寒さなめちゃいげねよぉと田舎もんは言うだろうが笑止! 寒いものは寒いのだ。青森出身の准教授と長野出身の院生と新潟生まれの学生が「俺たち生まれは寒くても東京に来たら東京の寒さに慣れて結局寒いもんな」と言っていたのを聞いたぞ! 東北北陸北海道の寒さは東京より数段厳しいかもしれない。だが俺たちには知ったこっちゃないのだ。東京の寒さはマシかもしれないが寒いもんは寒い。そう、数十分座って暖かくなったベンチから離れたくなくなるくらいに。


「行くか! 大学探検!」


 3回目。


「テンション上げてけって言ってんだろおい」


 ハイジさんたった一人の最終決戦。


「……」


 無口な人、吐息は白く……。全員が無言でストライキ。動かない方が寒くないことに気付いたのだ。


「紅白はどっちが勝ったんでしょうね」


 小林氏が探検ルートから雑談ルートに無理やり切り替えようとする。


「歌っちゃう~? ヒュウ!」


 なんとリーベルトが動いた! 能動的にハイジさんについていく気だ。なんか見殺しにできなくなってきたのだろう。


「紅白歌合戦やっちゃう~? 去年もやったじゃないですか、円谷くん呼んで」


「円谷栄治なら来ないぞ」


「なんですかエッちゃん」


「アイツは今明治神宮で二年参りだ」


 エッちゃんがSNSで大混雑の明治神宮で自撮りしている円谷栄治の写真を拾ってくる。


「そういえばお前は去年はいなかったんですね」


「何が言いたい」


「いや、サークルでは後輩なんだな、って思いましてね」


「何が言いたいのか言ってみろ」


「それは察してくださいよ、いい大人なんですから」


「お前本当に調子乗ってるな。乗ってるよな、陣内。お前もそう思うよな?」


 良崎の挑発でマスカラスマン体温上昇?


「別にわたしが調子乗ってると思うのならそれはそれでいいですよ。勝負しますか?」


「何?」


「歌で決着つけましょうよ! それとも勝てる気がしないんでサレンダーですか? プロレスラーのくせに」


 良崎(バカ)のくせにうまくマスカラスマンをつり出した! ヨゴレ役を買って出ることでとりあえず時間つぶしの紅白歌合戦が始まるきっかけは作ったぞ。そしてつり出されたマスカラスマンも、つり出されたことに気付いたようだ。


「……いいだろう」


 遅かれ早かれなんかしら動かなきゃいけないことは確かだったのだ。だが今の寒さに震える俺たちを動かすきっかけとして大学探検は弱い。マスカラスマンも察する。


「スマホでカラオケ採点できるアプリを水原さんが持ってたはずです」


「うん、持ってるわ」


 水原さんがカバンからスマホを取り出す。そういえば水原さんだけはスマホをいじってなかった。すぐ行動に移せるようにだ。そして人によっては、せっかく一緒にいるのにスマホいじりかよと不快感を示す人もいる。そういう人への気遣いか。なんとできた人間か。一方でマスコットはずっとスマホをいじっていて予備バッテリーが2個目に入っているので電池を200以上消耗している。


「紅白歌合戦なの?」


「うん、紅白で」


「人数差が……」


「そんなモノはないだろう。よく考えてみろ。俺とマスカラスが白組、お前とリーベルトが紅組。これで2対2だ。な、こばやっちゃん」


 ハイジさんがタバコを咥えている小林氏の方を向く。


「うん?」


「お前今俺にタメ語使ったろ」


「今完全にオフになってました。今はオンですよ」


「審査員はこばやっちゃんで決まりだろ。金を出すのは俺、車を貸すのは水原、バカはリーベルト、力仕事はマスカラス、撮影とヒゲの笑い袋とジャッジはこばやっちゃん。そうやって俺たちはやって来たじゃないか」


 フフフと水原さんが無理やりラスボスっぽく笑い始める。


「訂正してください。車を貸すのと歌が水原、ですよ! 紅組の勝利は目に見えていますよ」


 水原さんテンション上げてきた。なんだ。みんな温まってきた。ヒマが寒さを超越し始めてきたのか?

 そして実際水原さんは歌がめちゃくちゃうまい。どれくらいかと言うと大学が誇る完璧超人鬼畜お姉さんが学祭中、全力制限の全リミッター解除の許可が下り、学祭中のミスコンで猛威を振るったのだが、その時の歌唱力対決で鬼畜お姉さんと水原さんはほぼ互角か、水原さんがわずかに上か。そしてインドアのことなら何をさせても最強の日本霊媒師連盟が誇る王子円谷栄治とも幾度となく歌唱名勝負数え歌を繰り広げている。そして鬼畜お姉さんはOBの大学職員、円谷くんに至っては他の大学をダブり続けながら働いている状態なので、本学の学生で歌唱力最強が水原さんの可能性が非常に高い。プリンセスプリンセスの『ダイヤモンド』一辺倒でそろそろ飽きてきたかなぁ、と思われたその頃に、密かに練習していたグリーンディの『アメリカンイディオット』を早朝から熱唱しきるほど歌に愛と自信を持っている。そして料理が上手い。派手さはないがそこそこに美人、というか程よい顔面偏差値、喫茶店が家業であり料理上手、気配り上手、何気に高いコミュニケーション能力……。

 そうか。俺はナメてたのか、この人のことを。声が小さいとか主張をあんまりしない地味な人だと思ってたけどこの人は超能力者とかに囲まれてなければ充分に超人と呼ばれる人だった。


「マスカラス、調子はどうだ。行けるか。やれんのか、おい」


「やれますよ。やらしてくださいよ!」


「ならぶち破れよ! よし、行ってこい!」


「シャオラー!」


 簡易エッちゃん装着済みのマスカラスマンが吠えた。そして体温で暖まっていたベンチを……放棄して立ち上がった!


「リーベルトとの対戦を要求する。サークルではお前の方が歴が長いかもしれんが、どっちが年上か思い知らせてやる!」


「……」


 良崎さん沈黙。


「ちょっと聞きたいんですけどマスカラスマンは7月生まれですよね?」


「そうだがそれがどうした」


「一つカミングアウトしてもいいですか」


「なんだ」


「わたし実は一年浪人してるんですよね」


 ―ッ!!??


「は?」


「マスカラスマン7月生まれですよね。で、浪人なしで今3年生ですよね。わたし一浪して2年生で5月生まれなんでわたしの方が年上です」


 マスカラスマンの勢いが死んだ! そして2年目の衝撃のカミングアウトに驚きを隠せない演劇サークル一同!


「身分証見せてもらっていいか。お前もだ」


 ハイジさんが良崎とマスカラスマンの運転免許証を預かり生年月日を見比べる。


「見なかったことにしようと俺は思う」


 なんか本当にヤバいことが発覚した時の組織の裏側。


「あのぉ、そうですね。言わない方が良かったですね。今のナシで」


「うん、そうしよう。みんなこのことは口外するな。見なかった、聞かなかった、だから言わないし言えない。オッケー? オールクリア?」


「イエス」


 ×5。


「うん、俺もお前に対するスタンスは変えないから……」


 そう言いつつも遠慮がちになってますよマスカラスマンさん。


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