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【エヴァに乗れ 乗らねば帰れ レイを呼べ】第6話 ウフフ☆アリガトウはハナカマキリ!!

 なんてことのない日である。糸井重里やディズニー映画なら「なんでもない日おめでとう」なんてはしゃげたかもしれないが、そういう愉快なポジティブと知性を持ち合わせていない。


「あっ、ありがとうございます」


「おう」


 陣内さんがこたつから出て冷蔵庫までサイダーを取りに行った。そして部屋にいる俺、良崎、マスカラスマンのうち、コップが空になっている良崎に注いでやったのだ。


「フゥー。サイダーもうないな。そろそろ買いに行くか」


「そうですね。あっ、ありがとうございます」


 陣内さんはこたつに入らずサイダーをぐびっと飲み、酒屋に行くべく玄関で靴を履いた。俺、良崎、マスカラスマンも温いこたつから、陣内さんの抑えてくれる扉をくぐってまだ寒い2月の東京に出るのである。


「期間限定のサイダーがありますね。あっ、ありがとうございます」


「おう」


「……あっ、ありがとうございます、持ってもらっちゃって」


「早いんだよお前、さっきからさぁ!」


 陣内さん、サイダーのケースを持ったまま突如お怒りの表明。


「へぇ?」


「早い、つってんだよ! なぁおい、よくないぞお前、マジで」


「何を言ってるんです?」


「ありがとうございます、が早いつってんだ!」


「すみません、よくわかりません」


 陰謀論について尋ねられたSiriの反応を素でするしかない良崎さん。わかってないのは全員だ。なぜ陣内さんはキレている?


「いいか、思い出せ。さっき俺がこたつを出た時」


 フアフアファ~ンと回想開始。


①陣内さん、こたつを出る。

②陣内さん、冷蔵庫からサイダーを出す。

③陣内さん、自分のコップにサイダーを注ぐ。

④良崎、お礼を言う。

⑤陣内さん、良崎のコップにサイダーを注ぐ。


「④じゃありがとうございます、のタイミングが早いんだよォ! ④と⑤が逆だろうが!」


「④と⑤って何?」


「そりゃ俺はお前のコップが空だからサイダーを入れてやろうと思っていたさ。入れてやることにも別に文句はない。俺は先輩だがお前のコップにサイダーを注いでやるのも別に構わないが、⑤、つまり注ぐ前にありがとうございます、って言われたら、お前にありがとうございます、で牽制された形になってサイダーを注いだことにならねぇ? 俺にその気がなかったならお前のありがとうございます、は空ぶってんだぞ。後輩にサイダーを注いでやることに抵抗を持つ人間にこれをやったら注げってことか? とキレられる可能性すらある」


「まぁ結果的にキレてるんで、陣内さんが本当に些細なことでキレる先輩だということは変わりません」


「この後もそうだぞ!」


 フアフアファ~ンと回想開始。

①陣内さん、ドアを開ける

②良崎、俺、マスカラスマン、こたつを出る。

③良崎、お礼を言う。

④陣内さんは全員出るまでドアを抑えてくれたまま。


「この場合は部屋を出て扉を閉めてからありがとうございます、だろうが! ハナカマキリが!」


「ハナカマキリ?」


「これは感謝じゃない。感謝に擬態した牽制と強制だ。お前がまだ靴すら履いてない段階でありがとうございます、って言われたら俺はもう扉を抑えざるを得ないんだよ。感謝の待ち伏せだ! まだあるぞ!」


 フアフアファ~ンと回想開始。

①良崎、新作のサイダーを発見。

②陣内さん、財布を出す。

③良崎、お礼を言う。

④陣内さん、新作のサイダーを買う。


「何を買ってもらえる気でいるんだ? そりゃ買うさ! だが俺が金を払ってからのありがとうございます、だろう!?」


 マジかこいつ……。こんな些細なことでねちっこくグチグチ言ってくるぐらいなら、最初に先輩にサイダーを注がせたことでキレてた方がまだ体育会系のノリの上下関係でわかりやすくてマシだった。文科系学生を9年もやってるとこんなことになってしまうのか。こんなメダカしか釣れない釣り針に「かかって」しまうほどに!


「まだあるぞ!」


「まだあるんですか!?」


「ああ! まだある! 今、俺は1.5リットルのサイダー6本入りの段ボールを持っているな!?」


「はい」


「そりゃ持つさ! 女子のお前に重い荷物を持たせるのは男子の名が廃る。だがお前は! 箱にも触れず、俺が箱に触った時点でありがとうございます、を言った! 重い荷物があれば男子が持つ、これは摂理だが! 持ちますよ? の姿勢は見せずとも、過剰に牽制を仕掛けてくるようなタイミングでの感謝は早すぎる! ハナカマキリが!」


「なんていうかもう謝るしかないですね。言われてみればわたしの感謝は早すぎたかもしれません。一理あります。しかしここまで叱られる謂れはないです。優しくご指摘があったのならば反省はするところですが、ここまで怒られて謝るのは腑に落ちない、というのが本音です」


 マスカラスマンが陣内さんの正面に立ち、サイダーの箱に下から手を突っ込んで持ち上げる形になる。


「すまなかったな、陣内。リーベルトに至らないところがあるのは許してやってくれ。これでやつも少しは賢くなっただろう。おおっ、重いなこのサイダー。確かに女子にこの重さの荷物を持たせるのは男が廃る。だが、こんな重い荷物を先輩に持たせるなど、後輩としてもプロレスラーとしても名が廃る。ぜひ、俺に持たせてくれ」


「早くね?」


「……あぁ?」


「俺はまだ重いから持ってくれ、とか、後輩が持て、とか言ってねぇだろ? なんでお前は俺の中にある悪意を先取りして善人を気取ってるんだ? ハナカマキリが!」


 陣内さんが手を放し、マスカラスマンに箱を預けた。結果的に陣内さんはマスカラスマンの善意を悪意として先取りし、まんまと荷物を持たせたのだ。そこに至るまでの仕込みだったのか? ありがとうございます、のタイミングが早すぎる、と八つ当たりまでして……。

 このハナカマキリが!

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