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【エヴァに乗れ 乗らねば帰れ レイを呼べ】第4話 哀悼 陣内一葉さん3 ~遺品のノートパソコンの『世界の絶景』フォルダを開けてみよう!~

 ……衝撃的な知らせだった。陣内さんが今朝、都内の病院で息を引き取ったそうだ。

 思わず電話を落としてしまった俺は家族の「大丈夫?」という控えめな問いかけに虚勢を張って「大丈夫」と答え、自室に戻ってあの陣内さんが死んだのか、もうあの傍若無人な行動に振り回されることはないのかと無性に悲しくなり、自分が死んだわけじゃないのに青春時代が走馬灯のように脳裏をよぎって両の目から涙がこぼれ始めた。確かに俺は幾度となく陣内さん死ねと思ってきた。包み隠さず本人にその気持ちを伝えたことも幾度となくあった。だがあまりにも早すぎる死、少なくとも俺よりはあの人の方が長生きするだろうと思っていたのに……。


 故人の価値はどれだけ多くの人が故人の死を悼んだかで推し量ることが出来ると言う。その論に当てはめれば陣内さんは多くの人から多くの愛をもらっていたのだと、お通夜で知ることが出来た。ディズニーランドに負けず劣らずの長蛇の列、絶えることのない参列者の涙。旧姓水原さん(51歳)は目を真っ赤に腫らしながら誰よりも気を強く持っていた。


「旅に出ようや」「バ~カ~野郎!」「そん中見てみろ、テント入ってるぅ!」「ぶっ殺す」「あっはっはっはリーベルトさぁん!」


 溢れんばかりの満面の笑みの遺影、そして安らかな死に顔を見てまた涙がこみ上げてきた。俺の青春は常にこの人と共にあった。だってこの人、結局俺が大学卒業した後も大学にいたんだもん。あの何よりも楽しかった大学生活を誰よりも長く満喫できたからこそ、この遺影と死に顔の笑顔があるのだろう。

 陣内さん、ありがとう。あの世で権藤教授と二人で待っていてくれ。




 陣内さんの葬儀が済んだ後、俺は良崎の家に招かれた。


「ここに、陣内さんが生前使っていたパソコンがある」


「ほほう、まだ電脳でアクセスできないほど古いものだな。動くのか?」


「そこはもう、任せた」


 マスカラスマンがワイヤレス充電技術をフル活用した新発明、エアボルテックスエネルギーチャージマックスエクシタシーで、およそ30年前の骨董PCを起動する……。

 パスワードがかかっていない。


「……」


「……」


「……ツー」


 かかっていてほしかった。そりゃ見るだろう。見ずにいられるか!?

①謎に満ちていて

②俺たち全員の先輩で

③実家は怪しい書店なのに大金持ち

④クズなのに水原さんを口説き落とす(水原さんの方からべた惚れしていた?)

⑤クズなので俺たちの悪口を絶対に書き残している

見るしかないだろう。ただし何が書かれていてももう俺たちが陣内さんを殴ったり殺したりすることない。何故ならもう死んでいるから。逆に何を見られても陣内さんが俺たちを殴ったり殺したりすることもないのだ。


「やれんのか、おい」


「やりますよ。やらしてくださいよ!」


「行くぞー!」


 マスカラスマンがマウスをつなぐ。デスクトップにはおびただしい量のフォルダ!!


『ザリガニvsサワガニ』

『ハローハロー私の名前は星のプリンセス・カサンドラ!』

『中国産のエレキング』

『鉄球の無限回転エネルギーのやり方』

『ビューティフル陣内』

『万引きGメンはポリコネ配慮すると万引きGパーソンになるのでサザンオールスターズの下ネタ曲っぽい』

『イチロー レーザービーム集』

『ファイトクラブのタイラーの正体は僕』

『世界の絶景集』


「『世界の絶景集』か……」


 なんともベタな隠し場所。


「……見ます? 先に言っておきましょう。わたしは見たいです。そしてわたしたちももういい大人……。もう初老ですよぉ。20代の陣内さんが『世界の絶景集』として残したものが非常にズームされた何かであってももう大丈夫な年齢です」


「見るしかないだろう。ただし危ないと感じたら即やめるからな『水原の――――』とかいうのがあったら水原さんのためにもこのパソコンは即刻破壊して死の忘却の彼方に消し去る」


「もちろんだ。もちろんです」


「行くぞー!」


 『世界の絶景集』をクリック! 新たな階層が現れる。


 『01‗北半球』

 『02‗南半球』


「クッソ……。意外と神経質というか、そんなに細分化するほど量があるというのか!?」


「いやぁこれは20代だからできる情熱ですよ! 奇妙で懐かしくて切ないです。今、わたしたちが向き合っている陣内さんは、今のわたしたちよりもずっと若かった。『北半球』で行きましょう」


 食い気味に『北半球』。クリックすると新たな階層が現れる。


 『01‗日本』

 『02‗東アジア』

 『03‗東南アジア』

 『04‗中東アジア』

 『05‗ロシア』

 『06‗アメリカ(東海岸)』

 『07‗アメリカ(中部)』

 『08‗アメリカ(西海岸)』

 『09‗アメリカ(北極圏)』

 『10‗アメリカ(プエルトリコ)』

 『11‗アメリカ(ハワイ)』

 『12‗アメリカ(カリフォルニア)』

 『13‗ヨーロッパ(北)』

 『14‗ヨーロッパ(中)』

 『15‗ヨーロッパ(南)』


 アメリカへの異常なこだわり! カリフォルニア州に至ってはカリフォルニアフォルダまであるぞ!


「カリフォルニアの存在感が段違いですが、我々はもう、全部を見る体力はありません。一つに絞りましょう。そして外してほしいのは『14‗ヨーロッパ(中)』です」


 そうだろうな。良崎はドイツ人の血を引いている。陣内さんは良崎を良くも悪くもかわいがってきたが、ここで『14‗ヨーロッパ(中)』の中にあるであろう『ドイツ』フォルダの内容次第では、そのかわいがりの思い出は醜悪なものへと変わってしまう。


「ここは素直に『01‗日本』で行こう」


 『01‗日本』をクリック。すると!


 『01‗北海道』

 『02‗青森』

 『03‗宮城』

 (略)

 『47‗沖縄』

 まで出現。


「どうなってんだこいつ……。いくら20代とはいえここまでするのは完全に頭の狂った俺たちの手に負えない異常な行動だ」


「この道を行けば……。迷わず行けよ! 行けばわかるさ!」


「ダァーッ!」


 『10‗東京』を決断的にクリック!


「もう出ろ、もう出ろ……」


 『01‗新宿区』

 『02‗中野区』

 『03‗千代田区』

 (略)

 『23‗練馬区』


「おいおい……。おいおいおいおい!」


「ズラッガーッ!? ダァーッ!?」


 若き日の陣内さんのあまりの神経質さに良崎さん、50近いとは思えない、解読不能だがとりあえずムカついていることと周囲の人間をムカつかせる謎の奇声。


「もういい! 『23‗練馬区』で!」


 そう。我々の大学は練馬区にあった。決断的にクリック!


 『01‗学内』

 『02‗学外』


「ゴボーッ!?」


 これは決定的だ……。これは決定的な証拠になる! 『01‗学内』フォルダから写真一枚でも出てこようもんなら!! 陣内さんは在学中に水原さんがいながら浮気をしていたか、もしくは盗撮を行っていた可能性が非常に高い。


「まだやるかい?」


「やります。水原さんが見てはいけないものを削除するためにも、我々は鬼にならねばなりません」


 『01‗学内』を決断的にクリック!!


「……?」


 そこにはなんと……良崎が写っていた。写真の良崎は顔が真っ赤で、しかもその写真には陣内さんも写っていた。彼は笑顔だった。

 しかし写っていたのはその二人だけではない。水原さん、小林さんもいる。この写真は……。

 俺と良崎が大学一年生だった頃。まだマスカラスマンがサークルに来る前。6月に貯水池で徹夜して釣りをした時だ。これを機に俺と良崎はサークルになじめたような気がする。暑い夏だったし、学内で飲酒という禁忌も犯したので良崎の顔が赤いのも仕方ない。

 他にもマスカラスマンがサークルに入るきっかけになった『カルトクイズ』、たった数日で転覆した暗黒星野政権の象徴『クイズ! 賭博発見』、全員が陣内さんにガチギレした『うろ覚えヴァンゲリ』などなど、みんなで楽しく過ごした大学時代の思い出が収まっていた。

 そういえば我々は、カリフォルニア州サンフランシスコから車でアメリカを横断した。アメリカはすごい旅だったから写真も多かったのだろう。

 陣内さんにとっての『世界の絶景集』は、まさに絶景。この大学で過ごした日々のすべてが絶景だったのだ。


「う、うぅう……。なんで死んじゃったんですよぉ、陣内さん……」


 むせび泣いた。

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