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【ごーしちご ごーしちごーごー このブタ野郎!】第1話 最近調子に乗ってるリーベルトさんをブスと呼び続けてマジでへこませて戒める会

「最近リーベルトがマジで調子に乗ってる」


 神妙な顔つきでハイジさんが言った。場所は部室、良崎を除く全員+小林氏+鬼畜お姉さんが揃っており、それぞれの目の前には湯気を立ち上げるお茶が。ハイジさんが淹れたものだ。普段は部室でほぼ動くことなくゲームしてるかマンガ読んでるか寝てるかでお茶入れなどのほとんどの雑用を水原さんに押し付けるこの昭和のヒモと尽くす女カップルだが、ハイジさんがじきじきに我々にお茶を出したということで、ハイジさんが我々を呼んだ理由とその重大さがわかる。


「最近リーベルトがマジで調子に乗ってる」


 二回言った。


「ブチのめしてどっちが上か思い知らせてやろうかと思ってがやっぱり女子にそこまでは出来ん。だがお前からルックスを取ったら性格の差でミドリムシの方がモテるだろうということをマジで思い知らせてやんなきゃならねぇ。ちょっとマジで調子に乗ってる」


 調子に乗ってる×3。


「そんなにですか」


 水原さんが消極的な声。水原さん的には良崎は調子に乗ってない、なのだろう。


「マジぶっこいてる。男子だったら殺してるよマジで」


 ハイジさんも深刻。


「アイツ男子だったとっくにぶっ飛ばしてるよ! 少々熱くなってしまったな。すまん。だがマジで調子に乗ってる」


 調子に乗ってる×4。男子だったら、を言い訳にしてるあたりハイジさんってやっぱクズなんだな。そんなクズの後輩なんだから良崎がクズになるのもしょうがないとも言える。


「フゥム」


 マスカラスマンも水原さんと同じく何か言いたげ。だがマスカラスマンは水原さんと違い、良崎が調子に乗ってる派のようだ。そもそもマスカラスマンは良崎が嫌いである。どれくらい嫌いかと言うと、マスカラスマンが中の人を務める『演劇サークル』公式マスコットエッちゃんの公式ガイドブック『エッちゃんはみんなのおともだち』のプロフィール紹介に


 ☆エッちゃんの秘密!

①エッちゃんはエンターテイナー星からやってきたお友達。身長は170センチ後半。体積が結構ある!

②好きな物は蒸し鶏のしゃぶしゃぶ、甘くてフワフワの綿あめ、プロレス、正義

③嫌いなものはミミズとゴミと悪とリーベルト


 と書くほどである。ツンデレなのか? そんなことはない。確かに二人とも、現在はマイナースポーツになりつつあるプロレス好きとして意気投合することもある。だが良崎の方も、基本的にはほとんどを先輩にさん付で呼んでいるのに、マスカラスマンだけは「お前」呼ばわりである。例外は童帝か。しかし童帝の場合、「童帝さん」と呼ぶとなおさらバカにしてる感が出てしまうので童帝は童帝でいいのだろう。しかしマスカラスマン、これは年長者として許せないだろう。日本は先輩が絶対の縦社会だ。しかもマスカラスマンもプロレスをやっているスポーツ系、上下関係には厳しい。しかも互いに自分より下の生物と思いあっている者同士で、後輩からお前呼ばわりは、マジで調子に乗ってるからいっぺんブチのめさないと気がすまねぇ対象であろう。しかしマスカラスマンと良崎の場合、あまりにもファーストコンタクトが悪すぎた。あれは後輩心にも尊敬できないナメられる先輩であった。詳しくはウェブで。だが真の姿を現してからのマスカラスマンは真面目で成績優秀、運動もそこそこに得意で、顔も円谷栄治やハイジさんには及ばないが実はイケメンである。人生の先輩として頼れる兄貴分でもある。え……じゃあ『演劇サークル』のイケメン偏差値落としてるの俺か……これはイケメンが悪いな。よし、死ねイケメン。世の中の女にとって罪作りなのはブサメンではなくイケメンだ。


「陣内くん、ぶちのめす、調子に乗ってる、だけじゃわからないわ。具体的にどういう風に?」


 年長者らしく鬼畜お姉さんが、冷静を装っているが怒りでこの会議の進行役を務められないハイジさんに助け舟を出す。


「まずはだな、学祭でアイツが勝ってしまった」


 実はそうなのである。学祭のミスコンで良崎はまさかの二連覇。最後は鬼畜お姉さんに勝ちを譲られるという屈辱的な勝利ではあったが、入学から2年連続学園アイドルというのは鬼畜お姉さんに続き大学史上二人目の快挙である。


「あとは、アレだな。4月の『リーベルトさんはいつドッキリだと気づくかクイズ』で情が移ってウッカリ舞台に立たせてしまった。さぁぁぁぁ……ここにあのクソガキを調子に乗らせてしまったアンケート結果があるぞ」


 ハイジさんがクリアファイルから書類の束を取り出した。4月に小林氏が長を務める『演劇部』の公演『北斗の拳 乱世覇道編』にて、良崎はシン(回想)で出演することになった。そもそもこの『北斗の拳 乱世覇道編』をやること自体がドッキリで、ゲストとして招かれた良崎がいつドッキリと気づくか、という趣旨であったが、かねてより演劇の舞台に立つことが夢だった良崎の想像以上の練習熱心さに我々が折れてしまい、良崎のあまりの健気さとネタバラシされた後の良崎の姿を創造した水原さんが泣くという事態が起き、無理やり『北斗の拳 乱世覇道編』は敢行された。


「ふぅ……」


 あまりの怒りにハイジさんからなんか体に悪そうな瘴気が漏れている。


「何故『北斗の拳 乱世覇道編』というテーマをチョイスしたのか、そして何故シン役が女性なのかは理解に苦しみましたがぁ、シンを演じた方がとても美人だったので一応及第点です。文学部1年男子。回想シーンで登場するシン役の女性がすごい美人で憧れてしまいました。社会学部1年女子。配役、クオリティ共に偉大な原作をバカにしているとしか思えないものでしたが、シン役の女性だけは超美人! あんな美人が学内にいるのならぜひ狙いたいものです。理学部2年男子。人気作品に乗っかろうと言う短絡的な劇であの原作からよくこれが作れたものだと逆に感心する他ない。ただしシン役を務めた女性は非常に美人であり、唯一の見どころ。工学部3年男子。シン役の女優さんカワイイ! 教育学部2年女子。リーベルトさんのルックスはさすが。大学の顔はもはや破天荒侍や陣内さんではなくリーベルトさん。文学部4年女子。こばやっちゃん。お前の劇がつまらねぇせいでリーベルトのルックス以外のプラス要素がなくなってんじゃあねぇかぁあ!」


 書類をバァーン!


「そうですね……実際、アンケートや感想を聞いてもシン役の良崎さんが可愛かったしか出てこない。陣内さん。認めましょう。リーベルトさんは、調子に乗ってもいい。調子に乗るだけの資格があります。あのルックスは神に愛されたとしか言いようがない」


 小林氏、リーベルト擁護派。


「ダメだ」


 マスカラスマンが強い口調で言い切った。


「神に愛されたとしか言いようがないルックスがあったとしても、だからと言って人間的にダメでいてもいい理由にはならない。リーベルトの人間性は、先輩として見ていて本当にマズいと思うところが多すぎる。見た目の問題じゃない。人間としてどうかって問題なんだ」


「いや、しかしね。あのルックスは本当に天恵だよ。持て囃されるべき、持ち上げられるべきだ。そしてリーベルトさんには、そういうルックスとして生まれたものとして、我々とは違う使命や人間性を持つべきだと思うんだ。ノブレスオブリージュの精神だよ」


「じゃあ小林さんはブサイクは人一倍心がきれいで人間性を研鑽しなければならないと言うのか。イケメンや美人は見た目のアドバンテージの分、ある程度の横暴が許されると言うのか? 違う。ルックスに恵まれたものが我々フツメンと違った使命や人間性を求められると言うのなら、それは小林さんの意見とは逆で、最も模範的な人間であるべきだ。さっきのアンケートの感想でもあったが、リーベルトのルックスはそれだけで人目を引く。だからこそ、人間的に見習うべきでなければならないと俺は考える。リーベルトもなんだかんだで2年生だ。4月になったら3年になる。後輩の方が多くなるんだ。学園アイドル2連覇もあってリーベルトのルックスに憧れる後輩も多いだろう。そういう後輩たちのためにも、リーベルトには自分の人間性を顧みて改善する機会を与えるべきだと俺は考えます」


 マスカラスマンも頑として譲らない。


「よしマスカラスマン。お前の意見はわかった。水原、お前はどうだ」


 ハイジさんが水原さんに意見を求める。


「確かにアンナちゃんは変わったと思います。初めて『演劇サークル』に来たころは、暗くて友達を作るのも苦手そうだったし、そういう性格なのにすごくキレイだったから妬まれたりもしたけど、どんどん明るくなって最近は友達も増えて、あっちこっちでアンナちゃんに憧れたり、一緒に遊んでみたいって声を聴きます。それって、アンナちゃんがやっとスタートラインに立ったってことじゃないでしょうか。アンナちゃんが、自分の大きな武器のルックスをやっと活かせるようになった。そして暗くて人見知りだったアンナちゃんを明るくて活発にしたのは、他でもない、一葉さんやわたしたちですよ? 一葉さんがアンナちゃんのことを面白がったりして動画にとってアップしたり、ドッキリとは言え舞台に立たせたりしたんです。だからアンナちゃんも人気が出て、なんだ、わたしってこんなに楽しく過ごせるんだって気づくことが出来たんです。確かにアンナちゃんは変わりました。でも、それはいい方向にです。優しく見守ってあげましょう」


「いや、それじゃダメだ。アイツの本質はイジられ役のローカルタレントだ。チヤホヤされる全国区アイドルじゃダメなんだよ。他の放送系のサークルで食レポとかやっていい人材じゃねぇんだよ。アイツはさぁ、もっと過酷なことをすべきだ。離島でリヤカー牽いて辛くて泣いてりゃいいんだよ」


 うぅーん、と鬼畜お姉さんが唸った。


「それは陣内くんの過保護じゃないかしら?」


「俺の過保護?」


「俺のリーベルトはこうでなきゃいけないっていう拘りと、俺のリーベルトがどんどんみんなのものになっていくのが許せない。そういう気持ちがどこかにあるんじゃないかしら? 過保護よ。むしろストーカー一歩手前。好意を持ってると思われても仕方ないわよ。確かにあの子は学園アイドル。そしてアイドルの語源は偶像よ。陣内くん、あなたはリーベルトさんの偶像に囚われているのよ」


 鬼畜お姉さんブッ込んだァー!! しかも今後水原さんと良崎の関係が危うくなるほどの危険な発言も含んでいる。ハイジさん、味方につけるために鬼畜お姉さんを呼んだのだろう。確かに現在破竹の勢いで調子に乗ってる良崎さえも恐れる鬼畜お姉さん。学園アイドル決勝戦での屈辱もあり苦手意識は多少なりあるだろう。そもそも学内最強のオーラと発言力を持っている。良崎を戒めるにはもってこいだが、ハイジさんの目論見ははずれ、まさかの良崎擁護派。


「でもマスカラスマンくんの言うことも一理あるわね。人より目立ち、憧れの対象になりつつあるからこそ、模範となって人間性は改善しなきゃいけない。ちょっと指導が必要かもね」


 擁護派と思われたが一転、戒め派に。


「多数決で結果が出たな。擁護派二人、戒め派三人。よってここに、今日一日リーベルトをブスと呼び続ける一日とする。これでアイツが目を覚ましてくれるといいんだがな」


 ガチャと扉が開く音。


「こんにちは」


 当事者、良崎登場。


「こんにちは」


「お邪魔してるわよ」


「よぉ、ブス!」


 水原さん、鬼畜お姉さんのあいさつに続きハイジさんから辛らつなブス発言! 水原さんが顔を伏せる。これはよくないと思っているのだろう。


「……?」


「お前のことだよ、このブス! おい、聞こえてんのかバカ」


「あ、ブスってわたしのことですか」


 バカで自分のことだと認識。バカの自覚はあるようだ。


「いやぁ、寒いですね。こたつはこの人数では満員でしょうか」


「ああ、ブスが入る余地はねぇ」


「あ、ブスもわたしのことですか」


「そうだゲロブス」


「よっこらしょっと。お茶まだありますかね?」


 え、なにコイツ。ブスって呼ばれてんのに全然効いてない! 良崎が唯一人に自慢できるもの、見た目。それを全否定されているのに全く効いていないぞ!


「ブスに出す茶はねぇ。だがブスを認めたブスには茶ぐらいやろう」


「それはないですよ~」


「あぁん?」


「だってわたしがブスな訳ないじゃないですか」


 ッ!!!? いや、そうなんだけど……自分で言うか普通?


「別に認めてもいいですけど、わたしがブスってなると誰が美人になるんです? わたしは鬼畜お姉さんにも勝ってるんですよ?」


 あ、調子乗ってるわ。これは許されません! 鬼畜お姉さんがキレてもおかしくないぞ!


「リーベルトさん、今のは聞き捨てならないわね」


「いや、聞き捨て出来ると思いますよ。だっておかしなこと言ってるのこの人じゃないですか」


 とハイジさんを指さす。鬼畜お姉さんもハイジさんの方を向く。良崎の言う通りなのである。鬼畜お姉さん、初めての混乱状態。


「えー、そうね。確かにリーベルトさんはブスではないわ」


 鬼畜お姉さん、転覆!


「わたしもそこだけはしっかりと弁えてます。バカだけど、ブスではない。このプライドだけ持って生きてます」


「ブス!」


 ハイジさんヤケクソだァー!


「まぁ、性格はブスかもしれないですね」


 ニヒヒヒヒと妙な笑いをもらす良崎。嘘だろ! 男女関わらず傷つける魔法の言葉、ブス。だがこの良崎は! 自分の顔面に絶対以上の自信を持っている。自分の顔面に少しの疑いもないから、ブスと呼ばれてもそれが無理やりな攻撃にしか聞こえないのだ。もう自信という域を超えている。あまりにも整いすぎた顔面。それは、ブスという最強の汎用性を持つけなし言葉を完全に無効化するほどの精神防御力を持っているのだ。


「しかし幸運にも顔面はよくできてます。親に感謝ですね」


 折れねぇ。ハイジさん、完全敗北!


「アンナちゃん、お茶菓子は何がいい? 落雁と甘栗があるけど」


 水原さんが茶菓子を勧める。事実上の終戦勧告だ。


「今日は放送部の食レポがあったんで、遠慮しておきます。スタイルも維持しないと」


 だが! ハイジさんの言う通り調子に乗ってることはこの発言からも明らかだ!


 芸人魂を忘れた良崎など調子に乗ってるとしか言えない。過保護と言われてもだ。見た目が良かった女芸人が、テレビでチヤホヤされてアイドル気取ってるのを見た視聴者はこう思うはずだ。お前のすべきことはこれではないと。


「リーベルト……」


「やっぱりアレですから。見た目がいいのにダメなことやってる方が滑稽ですから。美人やイケメンの失態ほど無様で笑えるものはありません」


「リーベルト……」


「なのでよりざまぁみろと言われるためにもわたしは見た目だけは完璧でなければいけません。美形なのに無様、が芸風の『演劇サークル』のために。それに一番オイシくわたしをイジれるのは陣内さんですし、陣内さんのイジりとわたしのこの見た目の完璧なシナジー効果! 戦果は実質10倍!」


 ハイジさん完全敗北どころか情けをかけられる!


「すまんかった……」


 『演劇サークル』政権交代の日は着実に近づいてきている。


【自己批判】

もう少し長引かせてリーベルトのブス耐性の強さを描くつもりだったが僕が持ちこたえられず。オチが弱い。

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