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異世界転生~女に生まれ変わって幸せを掴んで見せる!~  作者: 炎獄
第一章【冒険者の道は辛い】
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07:「アルスの焦り」

少し短いです。すいません。

 闇が支配する夜の遅い時間に、俺は今、馬を走らせていた。

 俺に追随する様に馬を操るのはガンツ、ガンツの背中に抱きついて必死に振り落とされないようにしているのがイルと言われる女だ。

 俺達はある少女を助ける為に馬を走らせている。


 少女の名は『ユウキ』と言って、気弱な筈なのに、芯が強かったりする。見た目は小動物みたいなのに、おかしいものだ。


 俺が彼女に最初会った時は、この子が街の中で暴れている人物だとは思わなかった。だが、女という生き物は見た目だけに囚われたら駄目な事は昔の苦い経験で知っていた。

 だから冷静に彼女に問う事が出来たんだが、返ってきた答えは抵抗しないので捕まえて下さいだったな。

 一瞬怪しんだが、彼女の顔を見て信じようと思った。苦い経験した筈なんだが、なんでだろうか、彼女が嘘をつくとは思えなかった。


 目が不安そうに揺れ、身体が密かにだが震えていた。守らなければならないと、俺はその時思った。

 だが、それが演技だとしたら、俺はもう女を信じる事は出来なくなるがな。


 俺と彼女の出会いはそんなものだった。

 それから短い間だが、昼休憩の時や夜の交代の時間で酒場やギルドに足を運んでいた。彼女は決まってそこにいたから。

 何故こんなに彼女の事が気になるのか。俺にもわからなかった。

 ただ、俺の脳裏に、彼女の笑顔が今でも鮮明に映る。

 あどけない笑み、それでいて儚い。

 けど、彼女はあんな小さな体で懸命に生きている。

 俺の様な無骨な男とは違う。

 女が嫌いになった日からずっと目を背けていた俺とは、違う。


 そう言えば……俺は女が嫌いだった筈、なんで彼女は平気なのだろうか。

 ククッ……おかしな話だ。

 彼女は俺をどこまで変えるのか。

 またあの笑顔を見たい。

 だから。



 ――頼むから、生きていてくれ。


 俺は速度を上げる為に馬の腹を蹴る。

「ヒヒーンッ!!」

 馬は蹴られると一度鳴くと速度が増す。すると後ろから声が聞こえる。


「アルス! もうすぐでシルト森林に着く。オークが徘徊している可能性は高い、急ぎたい気持ちはわかるが油断はするんじゃねぇぞ!」

「誰に言っている。俺は油断などせん。どんな雑魚であろうと全力で叩きのめす」

「か~言ってくれるな。その意気で頼むぜ」


 俺の口が弧を描く。

 何が来ようと全てを叩き潰し、ユウキを助け出して見せる。

 それが今俺に出来る事だ。

 それからは馬が走る足音だけが響くだけだった。




 馬で駆けておよそ二時間が経った頃、漸くシルト森林に着く事が出来た。

 馬を適当な木に繋ぎ留めると、手頃な木の棒に火の魔法を使って松明を全員分作った俺は、ガンツと道の案内係の女イルを連れて森の中へと入って行った。


 先頭をイル、中央が俺、後方がガンツといった感じで森の中を歩いている。

 松明で明かりは確保しているが、やはり遠くまでは見る事が出来ない。暗闇は人にとって天敵とも言える。

 逆に魔物は闇の中では活発だ。奴らは昼だろうが夜だろうが気にしないからな。

 こちら側は不利って事だ。厄介な事にな。


 夜の静けさに、偶に魔物の鳴き声が森の中に響き渡る森、俺やガンツは平気でも、前を歩くイルには厳しいものだ。

 彼女は暗闇の中、辺りを忙しなくキョロキョロと見ている。

 それが無駄な事だと思っていてもしてしまうのだろう。可哀想だが、これは自業自得でもある。頑張ってくれとしか言えんが、これでユウキのとこまで行けるのか?

 俺の不安を感じ取ったのか、ガンツが小声で話し掛けてくる。


「あの女にはユウキの大体の所まで案内してもらうだけでいい。後は俺のスキル、索敵で探し出してやる」

「そうか、それは助かる。俺にはそんな便利なスキルはないからな」

「オメェには戦いを頑張ってもらうから平気さ。俺も暴れるがな」


 獰猛な笑みを作る頼もしい男に、俺は同じような笑みを作りつつ、警戒しながら森を進むと、重い足音がこちらに近づいている事に気付く。


「ガンツ! 前に来て突撃してくる魔物は何体だ!?」

「オークが四体だ! もう直ぐそこまで来ている!」


 ガンツの言葉通り、オークは巨体を揺らしてこちらに走って来ていた。

 俺は一瞬で判断を下す。


「イルは後方に下がれ、ガンツは俺と共に迎撃および確固撃破!」

「あいよぉ!」

「はは、はい!」


 陣形を組むと、俺は腰に差している剣を引き抜き、松明をイルに渡し、正眼に構える。


 正面を見れば、暗くて良くは見えないが、近づいて来る足の音で把握できる。

 息を軽く吐き、手に力を入れる。


 次の瞬間、オークが眼前に現れる。月の光に当てられた醜悪な豚顔を晒して。


「アァァアアア!!」


 気合いの声と同時にオークの突進を横に身体をズラして避ける瞬間に腹を撫でる様に斬り裂き、前を見据える。

 後ろを気にする必要はない。頼れる男がいるからな。


「けっ! 打ち漏らしてんじゃねぇよ」


 文句を言いながらもその顔に不満はない男、ガンツは剣を握ると言葉を紡ぐ。


「我が声に答え、真の力を我が前に示せ《巨剣ジャイアントソード》」


 ガンツの言葉に呼応する様に剣が震えると、剣のサイズが大きくなっていき、最後には大剣と言えるほどのデカさになっていた。

 それをまるでそこら辺の木の棒の様に振り、不敵な笑みを作る。


「んじゃあ、いっちょ暴れるか!」


 快活に言うと、腹を斬られて呻いているオークの胴体に向けて大剣を横に振る。

 ズブッ! っと肉が食い込んだかと思うと、アッサリとオークの胴体と下半身はお別れし、臓物と血を撒き散らしてオークは絶命した。


 その間にもオークは迫り来る。


 暗闇から二体のオークが同時に俺に襲いかかる。

 良い判断だ。避けられないように左右同時の攻撃、だが、あまりに隙だらけだ。それでは避けてくれと言っているものだ。


 オーク二体の拳が俺の身体に振り下ろされる時、素早い動きで片方のオークの足に肉薄し、勢いを利用して片足を切り捨てる。

「ブヒィィィイイイ!!」

 オークは方足を失い、地面に崩れる。そこに死神がいるとは知らずに。

 倒れたオークの背中にいる俺はすかさずオークに接近し、首に向かって剣を振り下ろす。

 綺麗に吹き飛んだオークの頭は、イルの元まで転がる。

「ヒッ!?」


 イルは驚きで腰を抜かしている。それでいいのか冒険者。

 そんな事を思っていると横から先程俺に同時攻撃していたオークの生き残りが両腕を広げて突っ込んで来る。逃がさないと身体で表しているみたいだ。

 冷静に相手を見る。身体を入り込ませるところを見極め、俺も駆ける。

 オークがそれに興奮した様に雄叫びを上げると、俺の身体に抱き締めに掛かる。

 それが悪手となるのを知らずに……。


 俺は抱き締められる前に、その分厚い胸に守られた心臓に向かって剣を突きこむ。

 深く、深くと剣身がオークの身体に入り込む。

 両者はその場で時間が止まった様に動かなくなる。

 いや、若干だが、オークの方は動きがあった。

 目をこれでもかと見開き、広げられた腕は小刻みに震え、口から血を零す。


 数秒経つと、オークの身体はゆっくりと前のめりに倒れる。

 俺はオークの身体を支え、剣を抜くと、オークを横に倒す。


「ひゅ~さすがだな。アルス守備隊隊長殿」

「その呼び方はやめろガンツ……そっちも無事に倒したようだな」


 俺がガンツの方に振り返ると、そこには最後の四匹目のオークが無残にも頭から上が無い状態で倒れていた。


「あたりまえだ。オーク如きに俺が後れをとるわきゃねぇだろ」

「そうだな」


 ガンツの自慢げな顔に苦笑で返した俺は、剣に付いた血を布で拭きとっていると、イルがこちらに恐る恐る近づいて来る。


「す、スゴイですね。あのオークをこんな簡単に」

「あ~オメェからすればそう思うのは仕方ないか。ま、俺らの近くにいたら安全だからな。んじゃ、案内頼むぞ」

「は、はい」


 怯えながらも頷いたイルは、俺とガンツに松明を渡し、前へと進んでいく。

 俺達もそれに続くように歩きを再開した。



 しかし、森の奥深くでもないのにオークがいたが。ガンツに聞いた話とは違う。

 森の奥深くにオークの集落があると言っていたが……これは早くユウキを見つけなければ。



 イヤな予感がする。

今回はアルス視点で、アルスの心情を出してみました。

次回は主人公視点に戻ります。

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