04:「冒険者登録と強面の人」
マスターに遅れた理由を説明し、無事ブレハさんは怒られずに済んだ後、店の中が静かになった時に、ブレハさんとアルスさんに冒険者登録するという話をしたら、たいそう心配された。
ブレハさんもすごい心配してくれたけど、それよりもアルスさんの方が僕を過保護と思えるぐらい心配していた。
冒険者ギルドは野獣の群れだとか、冒険者になっても良い事はないとか、そりゃもう全否定してたよ。
さすがに言い過ぎだと思った僕が一言、アルスさん、冒険者を悪く言うのは良くないと言うと、す、すまない……とかなり落ち込んでしまった。
なんか僕が悪い事したんじゃないかと思えるぐらいアルスさんが沈むから、助けを求めてブレハさんを見ると、困った様に頬を掻くとこう言った。
「まぁ隊長さんはユウキが危険に晒されるのが嫌なんだよ。本人も言い過ぎた事は十分わかっているし、許してやりな?」
別に怒ってはいないから僕はアルスさんの謝罪に一言、怒っていないと言って終わった。
その後は空気を変えるように、マスターが面白い話をしてその場の悪い空気はなくなった。
確かに、ブレハさんの言いたい事も、アルスさんの言いたい事もわかる。
冒険者はそれほど危険な職業であるということなんだから。
でも僕はなりたいと思った。どんなに危険でも、それに、これは情けない自分から生まれ変わりたいと思ったからなんだ。
弱いままで誰かに守られ続けるのは嫌なんだ。
強くなりたい。
僕には目標がある。いつか一生を共にする人と幸せになるために、僕は強くなりたい。どんな逆境でも超えられる精神を。
だから手っ取り速いのが、冒険者なんだ。
色々な経験が出来る。
死ぬ確率は高いかも知れない。けど、僕はそれに挑戦したい。
その思いを三人に伝えると、それぞれ違った反応が返ってきた。
マスターは笑顔で頑張れよ! と言ってくれたけど、ブレハさんは無茶だけはしないでおくれよと言われた。
まぁ無茶はしないようにしようと思っているからそれには頷く事で答えた。
最後に、アルスさんは意外な反応だった。
僕にあそこまでやめておけと言っていたのに、アルスさんは僕を応援してくれた。ユウキがそこまでの覚悟をしているのに、俺が横から言うのは無粋だと言って、困った顔をしながらも僕に頑張れと言ってくれた。
その時僕の頭を撫でてくれたのが印象的だったな。恥ずかしかったけど、嬉しかったし……って何考えてるんだが。
その後直ぐにアルスさんは守備隊の任務に向かったのだが、その直前に僕に何か困った事があれば、騎士団支部まで来てくれと言われた。
いや~ホント良い人だよね。アルスさんって。
アルスさんが居なくなったときに僕がそう零すと、マスターとブレハさんが同時に溜息を吐いた。何故!?
ま、それはさておき、僕はブレハさん達にお別れを言って、ある場所に来ている。
そう! 冒険者ギルドだよ!!
道はブレハさんに教えてもらったから直ぐに辿り着けた。
上から下に目を動かし、ギルドの建物を観察する。
石で積み上げられた壁はまだ白く、汚れが目立たない。それが他の建物よりも遥かに高く、そして綺麗だった。
上の階にはバルコニーがあり、人が酒を飲んでいる姿が見られる。
どうやらギルド内では飲酒があるようだ。
入口は洞窟の様にドアも何もないため、出入りは楽だね。
人が行きかうからこその配慮かな?
未知の世界にウキウキしながら、僕はギルドの中に入った。
そこは僕が憧れてやまない景色が広がっていた。
大きな剣を背中に背負う者、男同士で腕相撲をしていたり、酒を豪快に飲んでいる者、受付嬢が綺麗で対応が完璧なところ。
僕が小説で見ていた世界が今、僕の目に映っている!
キラキラとした視線で周りを見ていると、厳ついおじさんがこちらを睨み付けていた。
「おいそこのちっこいの、ここはガキが来るところじゃねぇんだよ。帰んな」
「あ、う、そのすいません。けど、僕は帰りません。僕は冒険者になるために此処に来たんですから!」
怖くて、ビビり過ぎて声が上ずっていたが、なんとか言いきれた。
自分でもわかるほど、目に涙が溜まっている。
けどここで引く訳にはいかない。僕は諦めないぞ。
キッとした鋭い視線? を厳ついおじさんに向けると、いきなりおじさんが笑い出す。
「ガハハハハッ!! こりゃおもしれぇ奴だ。ガタガタ震えながら何を言うのかと思えば……おめぇ中々肝が据わってるぜ。気に入った!」
「え?」
「あぁ悪かったな。俺のお節介だ。嬢ちゃんが半端な覚悟でここに来ていたらビビらせて二度と此処には来させない様にしようと思っていたんだが、無駄な行為だったな」
目の前の厳ついおじさんの言葉に、この人が僕に脅しをして危険から遠ざけようとしていた事に僕は漸く理解し、その場に座りそうになったけど意地でそうはならないようにしている。
因みにシルフは今はない。
酒場の時に暇だから寝てるっていって消えちゃった。まぁ呼べば来ると言っていたから大丈夫だろう。
「嬢ちゃんは冒険者登録しにきたんだろ?」
「えっと、はいそうです」
「ならこっちに来い。冒険者登録はこの列だ」
すごい親切な人だ。見た目はすごい怖いのに、見た目はすごい怖いのに、大事な事だから二回言った。
「おっと、そう言えば自己紹介していなかったな。俺はガンツってんだ。よろしくな嬢ちゃん」
「僕はユウキって言います。こちらこそよろしくお願いします」
腰を折って挨拶すると、ガンツさんは頬を掻いて照れくさそうにしていた。強面なおじさんだけど、不覚にも可愛いと思ってしまった。
ガンツさんは照れている所を知らせたくないのか、じゃあまたな、と言ってそそくさとちょっと遠くの椅子に座って行ってしまった。
僕はそれにフフッと小さく笑いを漏らす。
冒険者のイメージとしてはもうちょっと怖くて乱暴な人とかが多いかな? って思ったけど、皆がみんなそうじゃない事が分かってよかった。
しばらくして列が進んでいき、僕の番となった。
「ようこそ冒険者ギルドに、本日はどのような要件ですか?」
「冒険者登録をしに来ました」
「冒険者登録ですね。かしこまりました。ではこの水晶に手を置いて下さい」
オレンジ髪のツインテールの受付嬢さんは、薄い青色の水晶をテーブルに置きそう言った。
僕は言われた通り水晶に手を置くと、一瞬だけ光り、光が収まると直ぐに受付嬢さんは水晶を後ろに持って行っていき、一分もかからずにこっちに戻って来る。
「ギルドカードが作成できました。これがそうです」
手渡されたのは銅色のカードだった。
「ギルドカードの説明ですが、まず、このカードが無ければ依頼を受ける事も、完了させる事も出来ません。そして、万が一紛失した場合、金貨一枚と交換となるのでご注意ください」
「き、金貨ですか」
「はい。ギルドカードはそれだけ重要なのです。所有者のスキル、年齢、名前、性別、種族、その他にも狩った魔物の数、採取した物の数や、依頼者に依頼を完了した事をこのカードで示せるんです。例えばの話しですが、ゴブリンの討伐を村の村長が頼んだとします。そうしたらその村の村長に依頼を達成した証を見せ、無事依頼を達成したと村長が思えば、その場で依頼が完了したとギルドカードが認識し、依頼達成とギルドカードに書かれます」
中々便利そうだけど、穴がありそうだな。僕はその穴になりそうな所を聞いてい見た。
「質問ですが、ゴブリンを他の所で討伐していた場合、それを証拠にされて村長とかは騙されないんですか?」
「大丈夫です。依頼を受けたら討伐数はリセットになりますし、依頼を受けた状態で別の所で狩りをしていたとしても平気です。依頼内容に場所、採取、討伐対象、数、と細かく記載され、その依頼内容以外で狩りをしても数にカウントされないんです。つまり、ズルは出来ないという事です」
お~凄い便利なんだね。ギルドカードって、納得だよ。金貨一枚っていうのも。
僕が感心していると、受付嬢さんは次の説明にはいる。
「次にギルドランクについて説明します。まず、初期段階のランクはFから始まります。そしてFから上はE、D、C、B、A、Sとランクは上がります。上がればそれだけ様々な依頼が受けられる様になっています。因みにこのランク制は無謀な冒険者が出てこないようにするための処置です」
これは重要な事だね。強さの基準を簡単に表すことで、冒険者の力量に合わせた依頼が受けられる。
これが思いつきそうで実は抜けてしまったりしてしまうものだから、素直にスゴイと思う。
「なるほど、最後にもう一つだけ質問いいですか?」
「はい構いませんよ」
「訓練出来る施設や、教官などはいますかね?」
「はい。勿論ありますよ。訓練用の施設は自由に使って構いません。教官は私に声をかけて下されば適当な教官をお連れしますし、教官の方本人に確認をとって下さっても大丈夫です」
おぉよかった。訓練出来る施設があるのも、教官がいるのもかなり助かる。僕は戦うどころか、喧嘩だってまともにやったことないんだ。そんな僕が戦えるようになるには訓練が必要、だから聞いてみたんだ。
いやぁホントあってよかった。
知りたい事がわかって、満足した僕は受付嬢さんに御礼を言った。
「色々と説明を本当にありがとうございました」
「いえ、こちらこそ興味を持って下さって嬉しいですから」
「え? あんまりこういうの気にしないって人多いんですか?」
「残念ながら、そうなんです。若い人は大抵説明をちゃんと聞かず、魔物の討伐に燃えているんですよ。困ったものです」
「それは、お疲れ様です」
「ふふ……ありがとうございます」
笑顔が眩しいです。
受付嬢さんの笑顔に心を癒されていると、後ろで並んでいる人に気付き、僕は受付嬢さんにお礼を言ってその場を離れた。
テクテク歩き、空いている椅子に座ってギルドカードを確認して見る。
名前『ユウキ』
性別『女』
年齢『16』
種族『人間』
スキル『精霊魔法』『アイテムボックス』『身体能力強化』
依頼『なし』
討伐数『0』
採取数『0』
お~~こんな風になってるんだ。すごいな。
僕は興奮を抑えきれず、その場でカードを食い入るように見ていると、肩を叩かれ、後ろに振り返るとそこには肉壁がありしました。
「ようユウキ、ギルドカードは無事に出来たか?」
「はい! ガンツさん。お陰様で無事冒険者登録の証、ギルドカードを貰いました!」
「おーそりゃあよかった。じゃあ早速依頼を受けるのか?」
「はい、簡単なモノからやっていこうかと思います」
「討伐はやらねぇのか?」
「討伐はまだですかね。とりあえず街の中の依頼を頑張って、その合間に戦闘の訓練をしようかなと、その、思ってます」
先程受付嬢さんに聞いて訓練場がある事、教官がいる事を知ったから、そこで力をつけようかと思う。別に焦る事はないしね。
「ふんふん、やっぱおめぇ面白いな。その訓練、俺が指導してやろうか? これでも俺はここの教官だからな」
「え? そうなんですか!? それはとても助かります。いいんですか?」
ズイズイ身体をガンツさんに近づけるとちょっと気後れしたガンツさんはどもりながら答える。
「お、おぉ、でもおめぇ依頼はいいのか?」
「依頼をするより力をつけたいですから、それにお金はすぐに欲しいと思う程困っていませんし」
実際そうだ。食べ物だって、一応値段を見たけど、大体が銅貨で払えたり、いっても銅貨板ぐらいだった。
泊まるところはまだ見ていないけど、贅沢しなければそこまでは高くはないだろうし、ホントに困ったらマスターの酒場に泊めてもらうとか考えてるし、早く強くなれるのなら我慢ぐらいするよ。
僕の熱意が伝わったのか、ガンツさんはよし! と、言うと、訓練場に案内してくれた。
ガンツさん見た目怖いから絶対スパルタなんだろうな~……死なない程度に頑張ろう。うん。
数秒前まで強くなってやると燃えていた僕だが、今はチワワの様に恐がりながら歩いていたのだった。