02:「異世界に来たら絡まれました」
目を開けた時、そこはあの光の空間ではなく、街の中だった。
人が疎らだが歩き、近くには様々な建物が並んでいて、どれも石で作られでいる。
木で作られた家に今まで住んでいた為に新鮮な気持ちになる。石で作られた建物なんてイタリアとかイギリスぐらいしか見た事ないからね。
周りを珍しそうに見ていると、頭の中に声が響く。
『無事転生を果たせたようですね。結城さん』
え? 女神様なんですか?
『はい、今私は結城さんの心に声を掛けていますので、心の中で喋りたい事を思えば通じますので、声には出さなくていいですよ』
それは助かります。流石に誰もいない空間で喋るのには抵抗があったので。
『ふふ、そうですね……私がなぜ結城さんに話し掛けたのには理由がありますので、少しの間、聞いて下さい』
はい。わかりました。
『ありがとうございます。では説明をしますね。まず結城さんには二つ程、特典をお渡ししました。一つは精霊の祝福です。これは精霊に好かれやすくなる効果があります。結城さんは誰かを思いやれる方だと思ってお渡ししました。そして二つ目、身体能力強化の成長スピードの強化です。今の結城さんの身体はそこまで強くはありません。盗賊や魔物と渡り合うには身体能力は必要不可欠ですので、これを特典としました。特典の話しはこれでお終いです。次にこの世界の通貨を説明しますね』
そうですね。すっかり忘れていました。
『いえ、私も説明するのを忘れてしまいすいませんでした。では通貨の単位をまず説明します。まず現在流通している通貨は下から銅貨、銅貨板、銀貨、銀貨板、金貨、金貨板となっています。大凡の値段は、銅貨が百円、銅貨板が五百円、銀貨が千円、銀貨板が一万円、金貨が十万円、金貨板が百万円です。金貨と金貨板は滅多な事では使いませんね。何か大きい取引か、大きな家を建てるといった事ではない限り見かけないかと思います。基本は銀貨板から下を使います。通貨の説明はこんな感じです。因みに結城さんのアイテムボックスに銅貨から銀貨まで十枚ずつ入れておいたのでお使いください』
あ、ありがとうございます。女神様、お金なしからのスタートだと思ったので助かりました。
『ふふっ私はそこまで鬼ではないですよ。説明も終わりましたので。私の役目も終わりですね』
あの、女神様、本当にありがとうございます。女神様にチャンスを貰えた事、すごい感謝しています。絶対幸せになってみせます!
『はい。その意気です結城さん。私も結城さんが幸せになる事を祈っています。なので絶対に幸せになって下さいね? 私はいつもあなたを見守っていますから』
女神様はそう言うと、僕の心の中から消えた様な気がする。
一応心の中で女神様を呼んだけど、返事がないからもう帰られたんだと思う。あの光の空間に……。
しばらくボ~としていると、今更ながらに自分の姿がどうなっているかが気になった。
下を向いたら、そこには二つの山があった。
うわ~僕の胸って意外に大きい? 小さいかと思っていたけど、これは一般的な大きさよりはあるよね? なんだが恥ずかしい気持ちになりながらも、僕は服をチェックする。
上は黒いマフラーに白いチェニック、下は青色のホットパンツで、靴はブーツかな? なんか、やっぱり恥ずかしいような気がする……。
露出が案外目立つ服装に、ちょっと困ったが、動きを阻害しないから意外にいいのかな? う~ん、ローブで身体を隠せばいっか。
そう結論出した僕は、人がいない場所に一度行き、アイテムボックスが使えるか試してみた。
確か念じれば出るって女神様が教えてくれたんだよね。
う~ん、じゃあ銀貨一枚出ろ。
そう念じて何もない空間に手を突っ込む動作をすると、空間が歪み、その中に手を突っ込む
そして何かを掴み引き上げてみせると、そこには銀色に輝くコインがあった。
これが銀貨、と言うか、凄いねアイテムボックス、まるでド〇えもんの四次元ポケットだよ。
驚愕しながらもなんか楽しくなった僕は同じことを何度かやって満足したら、街の探索を始めた。
街の景色はやはり見慣れない。
歩きながら僕は思う。近くで歩く通行人は人もいるけど、どう見ても人じゃない種族も混じっている。
猫耳と尻尾以外は人間の、恐らく獣人の人、小さいけど親父顔でガタイの良い人、これはドワーフかな? 他にも顔が蜥蜴だったりと様々な種族が歩いていた。
背中に剣や弓、人よりも大きい斧だったりとまさにファンタジーの世界が僕の目に映っている。
心が躍るよ!
終始ニコニコ顔で歩いていると、何故か視線を感じる。
それも不特定多数から……。
え? なんか僕の恰好で変かな。
そう思った僕は周りの服装を確認するも、そこまで僕の恰好は浮いていなかった。僕みたいなホットパンツ履いてる人もいるし、デザイン自体はどこも変ではないはずなんだけど、何故か周りからの視線が僕に集中している。
自意識過剰になったのかと思ったけど、そうでもないんだよね。
なんと言うか、視線が厭らしい……今までこういった視線にあった事ないから正直キツイ。
速くこの視線から逃れたいと思った僕は、服屋を探しながら早足で歩いていると、すれ違った男性に声を掛けられる。
「ねぇ君、俺とちょっと遊ばない?」
「え? いや、あの、僕は先を急いでいるので、申し訳ないんですが」
「え? なになに? 俺の誘いを断んの? マジかよ~」
男は僕の台詞を遮ると、大げさな動作で嘆いて見せる。
とてもめんどくさい人に会ってしまった。
「俺すげ~カッコいいだろ? それに、これでも冒険者登録しててよ~しかももうすぐCランクになる男だぜ? 俺と付き合えば色々楽しませるぜ? な?」
男はちゃんと口を洗っていないのか、口臭が酷い、それにカッコいいと自画自賛しているが、顔はそこまで良いとは思えない。僕の価値観だからハッキリ否定は出来ないけど。
しかも、こんな強引なやり方、普通なら誰もお近づきになりたいなんて思わないだろう。
断りたいが、僕は突然な事に対応できず、意味もなく目を彷徨わせて困っていると、目の前の男が痺れを切らし、僕の肩に手を置く。
「なぁ、いいだろ? その身体で俺を奉仕すれば未来が明るくなるんだ。安いもんだろ?」
男の言葉に、悪寒が走る。
ねっとりとした視線で僕の胸や足、顔を厭らしく見る目の前の男に、僕は生理的にうけつけない事を理解した。
けど、背は僕なんかよりも大きいし、腰に剣が差してあるから無暗に逆らうと危険かも、ど、どうしよう……。
異世界に来ていきなりナンパされてしかも断りづらい状況になるなんて、運が悪すぎだよ。
内心ウンザリしながらも顔には出さず、僕は男に言う。
「すいません。僕、ホントこれから用事があるんです。なので、貴方に付き合う事は出来ないんです。すいません」
肩に置かれている手をやんわりと外し、僕は出来るだけ低姿勢で断ると、男は溜息を吐く。
「はぁ~……あのさ。俺が誘ってんだから断んじゃねぇよ。俺の言葉に黙って頷けばいいだよ」
男は僕の肩を力強く掴んでくる。
痛みに顔を顰めると、男はニタァと、気持ちの悪い笑みを作ると、更に力を加えてくる。
痛みと恐怖で身体が動けなくなる。
前の世界でイジメられていた記憶が蘇る。暴力という支配を受けて来た苦しみが溢れてくる。
知らず、目から涙が流れる。
怖くて。
情けなくて。
苦しくて。
なんで僕に力がないんだ。
こんなんじゃ幸せになる事も、生き残る事だってできないじゃないか。
こんな男に抵抗も出来ないのかと、諦めかけた時、ある存在に気付く。
男の後ろに、手のひらサイズの小さな人間の様な見た目で、トンボみたいな羽を生やした存在を見つける。
その存在は僕の視線に気づくと、可愛らしい笑みを作り、僕の額に近づくと、口づけを落とす。
え……? と、茫然としていると、小さな妖精は口を開く。
『こんにちはユウキ。私は風の精霊シルフ! っと、自己紹介してる場合じゃないね。このウザキモ男を懲らしめてあげる!』
そういうと、シルフは呪文を唱え始める。
『風よ! 敵を切り裂く刃となれ《疾風刃》』
呪文と共に、シルフの手から風の刃が発現し、男を吹き飛ばす。
「うおわぁ!?」
男は為す術もなく吹き飛び、身体の所々に切れ傷が作りながら地面に転がる。
その間、僕は口をポカーンと開けながら見ていた。
突如現れた精霊にも、魔法を生まれて初めて見た事にも驚き、動く事が出来ないでいた。
僕の思考が止まっている間に、シルフは僕の目前に止まる。
『ふふ~ん! すごいでしょ? あんな雑魚ちょいちょいのちょいなんだから』
「そ、そうなんだ。その、助けてくれてありがとう」
『ふふん、そんなの当たり前だよ。だって、ユウキは私の契約者だもん』
「え? いつ契約したの?」
『あの額に口づけした時に契約は為されたんだよ~……もしかして嫌だった?』
シルフは悲しい表情で言い、あきらかに落ち込んでいる事がわかるほどに羽が萎む。
僕は慌てて否定した。
「ち、違うよ! シルフと契約できて嬉しいよ? ただあまりに突然でその、驚いていただけだから」
『そうなんだ。よかった~!』
花が咲いた様な笑みを見せるシルフに、僕も自然と笑みを作る。
まぁ、何はともあれ、シルフのお陰でナンパ男から助かった。でも、なんで僕と契約してくれたんだろ?
僕が疑問に思っている間に、吹き飛ばされた男が起き上がり、こちらを睨んでくる。
「てめぇ……なにかしやがったな」
体中から血を流しながら睨み付けてくる男に、僕はビクッ! と
身体を震わせ、後退りする。
こ、恐い。
僕が怖がっている事を理解したシルフは僕を守るように前に来ると、振り返る。
『私がいる限りユウキに危険な目に合わせないよ!』
滅茶苦茶カッコいいよ……シルフ。
男前すぎるシルフに、僕が見惚れていると、男が剣を腰から抜くと、こちらに駆けてくる。
それに気付いたシルフは、呪文を口にする。
『暴力なる風よ、 敵を塵にせよ!《風刃鎌鼬》』
先程よりも強力な風が、竜巻の様に回転し、男の身体を包み込む。
男は声を上げる事すら出来ず、身体から血飛沫を撒き散らしながら建物の壁に身体をぶつけ、ズルズルと地面に落ちる。
え、えと、死んでないよね?
男はピクリとも動かない事に、僕は死んでいるのかと思い、焦るが、数秒してから男が呻き声を上げている事から、死んでいない事がわかり安堵する。
『何だ、生きてるんだ?』
「まさかシルフ、殺す気でやった?」
『あったりまえだよ~だってあっちも殺す気できたんだよ? そりゃあ殺す気でやるよ!』
良い笑顔で怖い事言うシルフにビックリしたが、良く考えたら別に変な事ではない。だって、ここは日本じゃない。命は日本にいた頃よりも軽いんだ。殺す殺されるがあたりまえなんだ。まだ実感していなかったから、その事を忘れていた。いや、忘れようとしていたのかも……。
駄目だ。こんな気持ちじゃだめだ。
僕は頭を振り、ネガティブになる思考を切り替える。
今は前を向いて精一杯生きて行かなくちゃ。
そう思って前を向くと、剣を腰に差した騎士団的な方々が僕を中心にして囲んでいた。
「貴様が街の中で暴れている者か?」
剣を抜き放った騎士様は、凛々しい顔に、短い紅い髪を逆立たせた如何にも荒事はお任せ! な方で、現在進行形で僕に刃を向けています。
…………どうしよ?