01:「女神様に会いました」
次に目を覚ました時、周りは光で埋め尽くされた純白の世界だった。
困惑しながらも、僕はその景色に心を奪われていると、後ろから声が掛かる。
「こんにちは。結城さん」
「へ?」
澄んだ声に驚いて振り返ると、そこには白い布で裸体を隠した美しすぎる女性がいた。
そう、美しすぎるのだ。今までテレビとかで綺麗な人や美人は見てきた。けれど、ここまで美を兼ね備えた人に見た事も会ったこともない。
髪は金色で腰まで流れている。サラサラで触れば砂漠の砂の様に手から零れ落ちるだろう。
顔は言葉で表現する事も恐れ多いと思わせてしまう程に整い、紅い唇は世の男を一瞬で魅了させてしまう。
知らず僕は鼓動を速めてその女性を見ていた。
「ふふっ……そんな緊張しないで下さい。私は貴方に危害を加えるような事はしませんよ」
そう微笑む目の前の女性に、僕は内心、安堵した。綺麗で見惚れてたとか言えないし。
気を取り直した僕は口を開く。
「あ、あの、ここはどこで、貴方は誰なのか教えてもらってもいいですか?」
「あ、そうでしたね。ではまずは私の自己紹介から。私は美と愛を司る女神エレナと言います」
「め、女神様?」
「はい。結城さんからしたら馬鹿げた事かも知れませんが、本当のことなのです」
困った様な顔をする女神様に、僕は慌てて答える。
「いえいえ! 信じます。信じますので安心してください」
「信じてくれるのですか?」
「はい その信じる根拠が二つ程あります。まず一つ目は、この空間ですかね? 夢の様な空間ですが、僕の意識は夢を見ているとは思えない程ハッキリと意識があります。そして二つ目、僕は死んだ筈なんです。学校の屋上から頭から落ちて生きているとは思えないので……」
僕の言葉に、女神様は悲しいそうな顔で僕に近づいて来ると突然頭を撫でてくる。それに対して僕は驚きで固まってしまう。
「貴方の事はこの空間で見ていました。貴方の両親が死んでから、誰にも愛してもらえず、誰にも必要とされず、孤独に生きていた姿を、私は見ていました。辛かったでしょう。悲しかったでしょう」
「……確かに悲しかったし辛かったです。けど、僕は両親が好きでしたし、産んでくれた事に感謝しています。まぁ、結局死んでしまったんですが」
「そうですね。結城さん。貴方は確かにあの屋上から落ちて死んでしまった」
「やっぱり……」
「けれど、貴方にはチャンスがあります」
「チャンス?」
「はい。チャンスです」
女神様の言葉に、俯いていた顔を上げる。女神様は微笑みを絶やさず言葉を続ける。
「具体的に言うと、転生です」
「転生?」
「はい。同じ世界、地球に転生は出来ませんが、他の世界なら記憶を持ったまま転生を果たす事が出来ます。どうですか?」
あまりにも突拍子もない話に、僕が困惑していると、女神様は懇切丁寧に教えてくれた。
一つ目、転生する世界は『スキル』で様々な事が出来る。例えば魔法、火を何もない所から出したりと非現実な事が出来るのだ。スキルは生きる上で必要な力のようだ。
二つ目、転生する世界は地球にいた頃よりも危険な事が多い事だ。盗賊、戦争、奴隷、危険なキーワードが出て来た時は驚いたが、比較的安全な街に転生させてくれるらしいからそこは安心してほしいと言われた。後、転生といっても赤子からやり直す訳ではないらしい。要望があれば歳や性別、種族を変える事が可能とのこと、さすが女神様だね。
三つ目、その世界には人間以外にも獣人、エルフ、ドワーフ、竜人、魔人と他にも多数の種族がいて、その種族の国が存在しているしい。一番数が多いのはやはり人間らしいけどね。
四つ目、冒険者ギルドと言われる組織が存在し、そこでは様々な依頼がある。その依頼を成功させればお金が稼げるというシステムらしいが、冒険者は危険と隣り合わせなのだ。
裏切りもあるし、魔物や盗賊に殺される事もある。冒険者は誰にでもなれるけど、誰もが成功を収める事は出来ない。
五つ目、スキルの事だ。スキルは現地で手に入れる事は可能。手に入れ方はそこまで難しくはなく、女神様が言うには単純らしい。例えばだけど、剣を毎日ひたすら振り続けたら剣術と言われるスキルが手に入ったりと、ホントに単純にスキルは手に入れる事が出来るらしい。
ただ全てのスキルが手に入る訳ではないと言っていた。さっき例に出した剣術も、毎日、それも二か月剣を振り続けて覚える事が出来ないならそれはその人に剣の才能がないためにスキルが発現しないんだとか。
つまり、スキルは才能と努力なしでは手に入れられない力なんだと、僕は思う。
女神様に教えられたことはこんな感じだ。
僕が転生する世界は危険が多いけど、その分楽しみでもある。日本にいた頃に夢見ていたファンタジーの世界だ。憧れていた世界が目の前にある。それだけで僕は満足だ。
ニコニコと転生する世界の事を思いながら考えていると女神様がププッ! 噴き出した。
「あ、ごめんなさい。あまりにも可愛いものですから」
「いえ、気にしていませんよ」
「そうですか。では結城さん。次は貴方が転生先で生きるために必要なスキルを与えます」
「先程説明にあったやつですか?」
「はい。結城さんに好きな、と言ってもあまり規格外なスキルは与えられませんが、スキルを選んでもらいます」
女神様はそう言うと、一つの本を何もない場所から出すと、僕に渡してくる。
「これは?」
「それは選べるスキルをまとめた本です。その中から三つ選んで下さい」
かなり分厚い本だ。法律の本とかと同じかそれ以上の分厚さ、これは思ったよりも時間が掛かりそうだ。
その事に気付いた僕は時間がどれぐらい残っているか聞く。
「女神様、この空間にはどれぐらいまでいていいんですか?」
「幾らでもいいですよ? この空間は時間が止まっているのでどれだけいても問題はありません」
女神様の言葉に驚きながらも、納得した。だって女神様だし、不可能ではないんだろうな。きっと。
時間が無限だと知った僕は女神様にお礼を言うと早速本を開ける。
スキル『カメレオン』効果:触った物体と同じ模様に擬態が可能。
スキル『暴君』効果:他のスキルが使えなくなる代わりにスキル使用者に絶大な力を与える。
スキル『大食い』効果:どれだけ食っても平気になり、食った分だけ力を蓄えられる。
ふ~ん、面白いのが沢山あるな~これは決めるのが大変になりそうだ。
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ふぅ……決まった。僕が選んだスキルはこれだ。
スキル『精霊魔法』効果:火・水・風・土 光・闇を司る精霊を使役する事が出来る。ただ、精霊に契約しないと使役は不可能。
スキル『アイテムボックス』効果:どんな物でも収納が可能。収納できる範囲は使用者の魔力量に変わる。
スキル『身体能力強化レベル1』効果:身体能力を上げ、レベルによって効果が上がる。
まず『精霊魔法』は扱う事が出来ればかなり万能なのだ。何故それがわかるのか? 実は選んでいる最中暇そうにしてた女神様に色々説明をしてもらっていたんだよね。
精霊と契約をすればいつでもどこでも呼べて、しかも精霊が高位であればあるほど使える力は上がるらしい。
まぁ僕はそこまで力が欲しい訳じゃないんだけどね。僕が求めてるのはどこでも火が使えて、水が飲めて、身を守る事が出来る事。
それが出来るのが精霊達なんだよね。
完全に他力本願だけど、別に全て精霊にやってもらおうとは思っていない。現地で様々なスキルを獲得しようと思っているからね。
それと『アイテムボックス』だね。これは誰でも欲しがるスキルなのは当たり前だよね。
これだけでもチートだよ? 魔力量によって変わるかもしれないけど、それでも色々な物を手に持たないで仕舞えるんだから。その事を女神様に聞いたらこれは僕にサービスだと言っていた。
女神様優しいよ!
そして『身体能力強化』だね。これは単純な理由だ。
精霊魔法を扱えたとしても身体能力が悪ければ不意打ちでやられる可能性もある。それに、森や旅になればそれだけ体力が必要だし、僕個人としては短刀か短剣で接近戦をして、弓で後ろから攻撃して精霊に追撃してもらおうかなって考えている。
僕が理想としている戦闘スタイルだ。
それが出来るかは実際にやらないとわからないけど、今は想像だけ。
まぁ、僕としては戦う事自体やらないでいいならそれで越した事はないけど、女神様から聞いた世界じゃそれは不可能に近いしね。
それに、冒険者になろうと思っているからそれは無理な話になる訳で……覚悟はしておかないとね。
「女神様、スキルを選ばせて下さってありがとうございます」
「ふふ、いいんですよ。それでは、転生の準備をしますね」
「あ、女神様お待ちください」
「はい? どうしたんですか?」
「あの、僕を女の子にして転生してくれませんか?」
「女の子に? えぇできますよ。先程の説明でもありましたが、性別や歳、種族は変える事が可能ですから。ですが、なぜ女になりたいと思ったんですか?」
女神様の言う通り、男である筈の僕が女に生まれ変わりたいなど、普通ならありえないことだろう。
でも、僕はなりたい。
理由はある。
別に男が好きだからとかではない。
なら何故?
母親に憧れたからだ。
僕の本当の親は僕が小学二年生に上がる前まではいた。
それはもう可愛がってくれた。勿論お父さんも大好きだった。忙しい中、僕と遊んだり話し相手になってくれたから。
それでも多忙なお父さんとは会う機会が少なかったのは事実、だからお母さんとの記憶の方が強かった。
お母さんは色々な事を教えてくれた。
沢山愛してくれた。
家事が大変でも笑顔で僕の相手をしてくれた。
病気で寝込んでいた時は甲斐甲斐しく看病してくれた。
特別な事ではないのかも知れない。
けど、僕にとっては凄いことなんだ。
母は僕にとって偉大な存在だった。
だからこそ、生まれ変わるのなら、女になって、僕も同じ母親になって子を愛したいと思った。
「僕は偉大な母親の様になりたいと思ったんです。苦しくても自分で子を産み、自分の手で育てたいと、強く思ったんです」
「そうですか……あなたなら、良い母親になれると私は思いますよ」
柔和に微笑む女神様に、僕は嬉しくて笑顔に自然となる。
こんな僕にそう言ってくれるのは死んだ両親と女神様だけだよ。
「では、これから転生させます。準備はいいですか?」
女神様の言葉に僕は首を縦に振る事で答える。
「では、よい人生を……結城さん」
その言葉共に、僕の意識は暗くなった。