11:「勘違いしてました……」
すいません。昼に間に合いませんでした。
軽薄な印象を受ける。
目の前の美形の男性、名はルルだったか、彼は笑っている筈なのに、その目は、僕と言う存在を探ろうとしている様に、まるで実験動物を観察するような、気味の悪い目だった。
その事を察知してくれたのか、アルスさんが僕の盾になるように、僕の前に立ち、ルルさんを睨む。
「残念、姫様には騎士がいたんだね」
「ユウキ、この男に近づくな……何を考えているかわからん」
ルルさんが心外だと口にすると、笑みを深める。
「私はただ挨拶をしただけ、そこの可愛らしい彼女にね」
「黙れ、どう見てもその目、好意的には見えんぞ」
「そんな事はないよ。私は可愛い子や美女には優しいからね……」
あくまでにこやかな笑みは張り付かせたままで話すルルさんに、アルスさんは目を険しくする。
その姿を後ろで見ていたガンツさんは怖い顔でルルさんを見ていた。
なんか緊迫した空気なんだけど、ど、どうなるの。
ビクビクとしながら状況を見守っていると、先に引いたのはルルさんだった。
「私はお邪魔なようだね。それじゃあ失礼するよ。またね、ユウキ」
ルルさんはそれだけ言うと、颯爽と酒場から去った。
なんか変な人に目をつけられてしまった気がする。
「余計にユウキを一人にしちゃダメになったな」
「あぁ、こりゃあ面倒な奴に目をつけられたな。ルルか、後でギルドで
情報があるか確認してこよう」
どうやらルルさんは危険人物的な扱いになっているみたい。確かに怪しいし不気味だったけど、う~ん、どうなんだろう? まだ会って間もないから良くは分からないから判断のしようがない。
まぁ苦手だなとは思ったけどね。
「どうしたんだい? 三人とも?」
そこに料理を両手に持ったブレハさんが来ると、二人はなんでもないと言って恐くなった表情を和らげ、アルスさんは席に着いた。
「すまない。またユウキが男にナンパされててな。追い払ったところだ」
「またかい!?」
驚きで顔を歪ませるブレハさんは、呆れた視線を僕に向けながらもテーブルに料理を置いていく。
そんな目で見られても、仕方ないじゃないか、相手が勝手に来ているんだからどうしようもないよ。僕って結構男運ないのかも……。
ま、まぁそれは置いといて。アルスさんが真実ではないけど全くの嘘でもない事を言っていたな。たぶん、ブレハさんに心労を増やさない為だろうけど。
これからの生活が窮屈になりそうだな……。
ズ~ン、と、効果音がつきそうなほど暗くなっていると、大きな手が僕の頭を撫でる。
「気にするな。またナンパされても、俺やガンツがいる時は必ず守る。だから、一人で行動するな。いいな?」
「は、はい……」
頭上から聞こえてくる声は、優しく、僕の不安になる心を癒してくれる。
ちょっと恥ずかしいけどさ。
「甘酸っぱい空気を醸し出すねぇ。アンタ等は」
やれやれと言った顔で言うブレハさんはそれだけ言うと離れて行った。
あ、甘酸っぱかったかな?
僕は疑問に思ったが、直ぐに目の前の料理に目がいくと、その事を忘れていた。
横で溜息を吐くアルスさんに気付く事もなく……。
~~~~~~~~~~~~~~
酒場が静かになったことで、ブレハさんに酒場にしばらく泊まるように説明すると、意外にも賛成してくれた。
ブレハさん曰く、僕と一緒のベッドで寝られるのなら全然構わないのだとか、なんか僕、愛玩動物として思われていたりしないかな? 気のせいだと思いたい……。
と、まぁ、こんな事があって、僕とブレハさんは今、酒場で寝泊まりしている。
ギルドに行って依頼を受けたいけど、それは駄目だと言われているし、昼間でもガンツさんかアルスさんがいないと外出は出来ない。ホント徹底しているよ。
それだけならまだ不満も少なかった。
けど、それだけじゃなかった。
あの日、僕に話し掛けてきた怪しい男、ルルさんがこの酒場に頻繁に来るようになったのだ。
それも、ガンツさんやアルスさんがいない時間帯を狙ってね。
それに、僕だけじゃなくてブレハさんにも甘い言葉を吐くから困る。
僕のせいでブレハさんにも迷惑を被る破目になってしまった。その事に申し訳ない気持ちで謝るが、ブレハさんの性格上、気にするなと言われるのがオチなんだけどね。
その事をこの一ヶ月で知っているから、僕もそう何度も謝る事はしない。まぁ申し訳ない気持ちでいっぱいだけどね。
「私と一緒に街を散歩しないかな? ユウキ」
あれから数日が経ち、昼過ぎの、酒場の中が静かになった時間に、彼、ルルさんはやって来ると、関口一番に僕に散歩のお誘いをしてきた。
その意図がわからず、僕は内心の動揺を悟られないように、無表情を装う。
「それはまた、突然なお誘いですね」
「ふふ、そんな警戒しなくてもいいんじゃないかな? 私は貴女と楽しく街を歩きたいだけなんだよ」
「すいません。アルスさんやガンツさんと一緒じゃないと外出できないんですよ」
「それは最近町が物騒だからかな?」
それもあるけど貴方が怪しいからだよ、とは、言えないけど。
「はい。物騒ですし、なにより、良く知らない人について行ってはいけないとしつこいぐらいに言われているので」
「私の事は知っている筈だから、問題はないように思えるが?」
「確かにルルさんの事は全く知らないとまでは言いませんが、それでも信用は出来ません」
「手厳しいね」
苦笑をするルルさんの表情は、今まで見せた不気味さがない。人間らしい表情だ。
その事に疑問を持っていると、いつの間にか僕の隣にブレハさんがいた。
「ユウキ、このお客さんっていつも来ていて、ユウキを見ていた人かい?」
「えぇっと、そうですね」
「そうかい。なら、あんまりあたいの可愛い妹にちょっかい出さないでおくれ」
キッと視線を鋭くして睨むブレハさんに、ルルさんは頭を掻きながら答える。
「私はただ少しでいいから彼女と話がしたいだけなんだ。散歩はただの口実で、静かに話が出来る所ならどこでもいいんだよ。なんなら、ここでもいい。駄目かい?」
「へ?」
僕は思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。でもそれは仕方ないと思うんだ。だって、警戒していたのに、拍子抜けしちゃう答えが返ってきたからさ。
なんか、すご~く申し訳ないんだけど、僕的にはルルさんが最近起きている事件、女性が行方不明になる事件に関わっているんじゃないかな? なんて思っちゃったてたんだよね……。
や、ヤバい、勝手な思い込みをしていた。
ルルさんの顔が見れない。申し訳なさ過ぎて。
「ユウキ? なぜ顔を逸らすのかな?」
「いえ、あ、あのブレハさん。今お客さん少ないので、ルルさんの話に付き合ってもいいですか?」
「あぁいいよ。そこのテーブルを自由に使いな」
僕はムリヤリ話を逸らして、ソソクサとテーブルに着く。
ルルさんは首を傾げるが、気にしないことにしたのか、僕と向き合う様に僕と反対の席に着くと、話し出す。
「まずは、ユウキ、君に謝らなければならない事がある」
「え? それは何故ですか?」
「私は君を『魔人』と思っていた」
「魔人、ですか?」
「そう、魔人。詳しく言うと私が探している魔人の姿だけど、その姿の特徴は、黒い髪に黒い瞳で、女性の姿をしているんだ」
う、うわー……特徴だけなら正に僕の事を言っているみたいじゃないか。それに、これはここ一ヶ月過ごしてわかったことだけど、黒髪や黒目はあまり見た事がないんだ。赤や紫、カラフルな色はあるのにね。
だから、間違えてしまうルルさんの気持ちがわかる。
あぁ、だから僕を見る目があんな観察している様な目だったのか。
なるほど、と、自己完結しながら頷いていると、ルルさんが続きを話し出す。
「けど、君を、ユウキを見ていたら魔人だとは、とてもじゃないけど思えなくてね。色んな人に大事にされているのもそうだし、君自体が、魔人のような非情な存在に見えない。私の勘違いで無駄に恐がらせるような事をして、すまない……」
テーブルに額がつきそうなほど頭を下げられた僕は、なにもそこまでしなくても、と思い、ルルさんの顔を上げさせるために、口を開く。
「そこまで気にしていませんから、顔を上げて下さい」
「ユウキ、貴女は優しい人だね。私はあの魔人と間違えたと言うのに」
「その、お恥ずかしい話、その魔人がどういった存在なのか知らないんですよね」
苦笑しながら言うと、ルルさんは少し驚いた顔をする。
「知らないのかい? 魔人はお伽話とかでは有名だと思うのだけれどね」
「い、いや~遠い所から来たもので、そう言った話は聞いた事ないんですよ」
「ふむ……確かに町から離れた村だと知らなくても仕方ないね。じゃあ私が魔人の説明をしよう」
ルルさんはそれはもうわかりやすい説明をしてくれた。ただ、ちょっと話が長かったから漸くさせてもらった。
まず一つ目、魔人は人が魔物化した存在だという事、どうしたら魔人になれるかは不明だとか。
二つ目、魔人となっても理性は保たれているんだとか、これは過去に魔人と相対し、生き残った者の証言らしい。そして、その証言者はもう一つ情報を持っていた。それは、魔人を裏で操っている存在がいるということだ。だが、残念な事に、その存在がどんな姿をしているかも、名前もわからないらしいけどね。
三つ目、魔人は強大なスキル、そして人間を超越した肉体を持っていて、例え、万を超える軍隊で戦いを挑んでも勝つ事は不可能、まず、魔人に会う事になったら逃げる事を選んだ方がいいと言われている。
四つ目、魔人は普通の人間と同じ姿だから見分けがつかないらしい。その気になれば、人が住む街で暮らしている可能性もあるんだとか。それ聞いたら街で暮らすのが怖くなったよ。
大まかな事はこんな感じだね。
魔人って、恐ろしい存在だけど、そんな存在だと僕は思われていたのは心外だと思うよ。
ん? でも、僕の髪とか目を見ても誰も僕の事を魔人だとは言っていなかったよね。
何でだろ? 僕は気になって質問したら、ルルさんが律儀に答えてくれた。
「それは、所詮はお伽話だからって事もあるし、魔人が全員黒髪黒目じゃないからさ。偶々私が探している魔人が黒髪黒目だってだけだからね」
「なるほど、あぁでも、魔人ってお伽話なんですよね?」
「まぁそうだね。でも、魔人は確かに存在していて、今も何処かにいるよ。私の故郷は、その魔人に滅ぼされたのだからね……」
一瞬、ルルさんの蒼い瞳が憎悪と怒りが見えた。
「っと、すまない。昔の話を思い出すと調子が狂うね」
直ぐに表情を和らげると、ルルさんは苦笑いしていた。
「いえ、魔人の事を教えて下さってありがとうございます」
「ふふ、感謝される事はしていなのだけどね。私のために時間を割いてくれてありがとう。私はまだこの町にいるから、もし困った事があったら言ってほしい。私で良ければ協力するよ」
「え? でもルルさんには目的があるんじゃ」
「大丈夫、私は気長に生きているからね。急いでも私の目的は果たされない。あぁそれと、ユウキの仲間に伝えてほしい事があるんだ」
今思い出したと言わんばかりの顔で、ルルさんは言う。
「色々なレディに話を聞いて知ったんだ。最近起きている女性の行方不明事件の情報をね」
「え!? 本当ですか!」
「まぁ確かな情報かと言われればちょっと心配だけどね。まぁそれは置いといて、どうやら攫う所を見たらしいんだ。場所はここから離れた住宅らしく、目撃者はラファンさんって言う女性で、冒険者らしいよ。それで、彼女は夜遅くにギルドから帰る道で、偶然見たんだとか、黒いマントとフードをした長身の者を。肩にはぐったりとした女性を担いでね」
「目撃した女性はその犯人に見つからなかったんですか?」
「相手は急いでその場を離れていたから気付いていないと言っていたよ。詳しくはわからないけどね。それじゃあ私は行くよ。またどこかで会おう」
ルルさんはそれだけ言うと、酒場から出て行った先で女の人に声を掛けている姿を僕は目撃してしまう。
ちょっとカッコいいと思ったのに、最後の最後に残念な人だと思ったよ。ルルさん……。
冷めた目でルルさんが出て行った方向を見るのだった。
これからも『異世界転生~女に生まれ変わって幸せを掴んで見せる!~』をよろしくお願いします。




