10:「意外な事実」
お待たせしました。そして、謝らないといけない事があります。
04:「冒険者登録と強面の人」で説明する筈だった冒険者のランク説明をするのを忘れていました。ホントすいません。
そこはもう修正はしていますが、ここで一度その説明をさせてもらいます。と言っても。テンプレですがね。
下からF・E・D・C・B・A・Sと上がっていきます。因みにSランクは世界に数人しかいない程の実力者です。
Aはスキルで何か才能がなければ到達できない領域、Bは努力と時間があればいけるぐらいです。つまり、Bが冒険者にとって目指す目標でもあります。一番現実的なランクですからね。
では、説明はこれまでです。
広い空間には様々な冒険者達が剣や槍を持ち、己の肉体を持って巧みに操り、自らの肉体を限界まで酷使していた。
ここはギルドの訓練場である。
己を鍛える場所。
僕はそこでガンツさんと手合せしていた。
汗と砂が混じった手で、僕は剣を握り、相手の姿を見据える。
僕の視線の先で、ガンツさんがいつもの様に剣を片手に不敵に笑う。
圧倒的なまでに差がある。それは何度も戦って来たからこそわかる。ガンツさんの身体に攻撃を当てた事がないのがその証拠だ。
僕は静かに呼吸を整え、剣を正眼に構えると、小声で言う。
「シルフ、僕の剣に風を纏わせて、その後は牽制で風魔法をガンツさんにぶつけて」
『了解! 任せてー!』
シルフはそう言うと風を操り、僕の剣に風を纏わせると、呪文を唱える。
『風よ! 敵を切り裂く刃となれ《疾風刃》』
シルフの呪文が完成した瞬間に走る。
僕の横から強烈な暴風が通り過ぎ、ガンツさんに当たると思ったが、ガンツさんは剣を片手で軽く縦に振ると、風はなかったのように消し去る。
効くとは思っていない。あれはただの牽制、僕は腰のダガーを一つ放ち、走る速度を速める。
キンッ! っと、甲高いを音が鳴る。ガンツさんは剣でダガーを弾いたのだ。だがそれは囮、僕は既にガンツさんに肉薄していた。
「ヤァアァア!!」
気合いの声と同時に風を纏わした剣で、下から全力で斬り上げる。
風を纏わしたことで剣本来の斬り味は増し、あのオークですら容易く斬り殺せる最高の一撃だ。
だが……。
「強くなったじゃねぇか。まぁこれならオークにも対抗できるな」
余裕淡々とした態度で、僕の一撃を剣を片手に受け止めていた。
はぁ、やっぱり僕の剣はガンツさんに届かないか、今日も。
「んじゃあ今日はこれまでだ。お疲れさん」
軽快に言うガンツさんに、僕は落ち込みながらもお辞儀する。
「お疲れ様ですガンツさん」
「おう、じゃあマスターの酒場にでもいくか?」
「はい。きっとブレハさんが今頃疲れたーってテーブルに突っ伏していますよ」
クスクス笑いながら僕はそう語る。ガンツさんも苦笑しながらも同意する。
「そうに違いねぇ。じゃ、冷やかしにいくぞ」
ニシシっと悪い顔をして笑うガンツさんに、僕は心の中でブレハに同情していると、後ろから声が掛かる。
「お前は、何でそんな悪い顔をしている」
「おっ! いいとこに来たな、アルス」
ガンツさんが暢気に手を振ると、アルスさんは一度溜息を吐き、僕の隣に来ると一言。
「ユウキ、あれを見習ったら駄目だぞ?」
「えっと、はい」
「なんだぁ? なにか言ったか?」
「なにもない。それより、酒場に行くのだろ? 俺も一緒にいく」
アルスさんが澄ました顔で嘘を言うと、ガンツさんはそうか? と首を捻っていたが、直ぐにまぁいいかと呟きアルスさんの肩を組む。
「いよっし、じゃあ酒場にいくか」
「暑苦しい近づくな」
顔を押しのけながら言うアルスさんは心底嫌がっている事がわかる。それでもお構いなしにガンツさんは肩を組んだままこちらに顔を向ける。
「おら行くぞ。ユウキ」
「ユウキ、酒場に行こう」
二人の言葉に、僕は笑顔で答える。
「はい!」
僕達は酒場に行くために訓練場を出て行った。
あの事件から約一か月が経った。
身体の調子はそんなに時間が掛かることなく無事回復する事が出来た。それもこれも、貴重なポーションを惜しげもなく使ってくれたアルスさんのお陰だ。
ポーションの中でも上位に当たるポーションを使ってくれたんだ。僕が瀕死の時にね。
どれだけお金が必要か聞いた時はあまりの金額に卒倒したけどね……。
金貨五枚……一般の人が一か月働いて銀貨板二枚。つまり日本円にして二万円だとして、それを24ヶ月分、まぁ約二年働いてやっと手に入る値段だ。
お高いです。
まぁそんな訳で、僕はその場で土下座をするように顔を下げて謝って、必ずお金を稼いで返すと言ったんだけど、アルスさんは気にするなと言って取り合ってくれない。まぁこっそりお金貯めて返すからいいけどね。
その後は地道に依頼を繰り返してランクを上げつつお金を稼いで、ガンツさんに稽古をお願いして力をつけていたんだ。
あ、それと、オークの集落は壊滅したよ。腕に覚えのある冒険者達が協力して討伐をしたってガンツさんが言っていた。
だけど、何故オークがシルト森林に現れたのかは謎のままだとか、なんか薄気味悪いよね。
と言っても、それから何か事件らしい事は起きていない事から大丈夫だと思うんだけどね。
そして現在に至る。
僕は今アルスさんとガンツさんと共にマスターの酒場の前に来ていた。
三人で酒場の中に入ると、予想とは違って、そこには忙しく働くマスターとブレハさんがいた。
「いらっしゃい! って、アンタ等かい。適当なテーブルで待ってな」
「へ~い」
ブレハさんの素っ気ない言葉に、ガンツさんは気の抜けた声で返すと、近くのテーブル席に座った。
僕達もそれに倣う様に座る。
「おい、何を拗ねてる。ガンツ」
「あぁ? 別に拗ねてなんかねぇよ。別によ」
肘ををテーブルについて顎に手を乗せて、ぼんやりとした目でガンツさんはブレハさんを見つめている。
えっと、これって、まさか、ねぇ?
「あ、アルスさん。ちょっといいですか?」
「む? なんだユウキ」
「いや、あの……ガンツさんってブレハさんに惚れてたりします?」
「そうだな。アイツはブレハの事が好きなのかも知れんな」
おぉー! やっぱりそうなんだ。
僕はテンションが上がってアルスさんに更に密着している事に気付いていない。
アルスさんの頬が若干赤くなっているのに、僕は知らずに話す。
「やっぱりそうなんですね。じゃあ酒場に最近来るようになったのはブレハさん目当てって事ですよね」
「ま、まぁそうだろうな。アイツもいい年だ。そろそろ妻が欲しくなったのだろう」
「なるほど……僕も負けていられないですね」
「む? ユウキは結婚したいのか?」
アルスさんが突然ズイッと顔を寄せてくる。そこで漸く僕がかなり密着している事に気づき、慌てて離れて、僕は言う。
「あ、えぇと、まぁ結婚はしたいと思っていますですハイ」
「そ……そうか。で、では、誰か相手はいる、のか?」
僕が離れた時、シュンとした様な……イヤ気のせいか。
アルスさんの問に、僕はちょっと考える。
今までの中で歳が近い男性はいない。離れていれば、最近知り合った冒険者の人達とか、マスターやガンツさん、それにアルスさんがいる。
けど、マスターはお父さんって感じで異性として見れる訳ない。ガンツさんはブレハさんの事が好きだから除外、アルスさんは……お兄さんって感じなんだよね。
それに、僕は結婚願望はあっても、まだ男と付き合ったり、その、キャッキャウフフな感じが出来るかって言われたら微妙なような。
僕も一応前までは男で、普通に女の子の事好きだったし、男が好きって訳でもなかったからな。
あれ? これはまず、男と付き合える様にならないと結婚なんて出来ないよね? と言うか、付き合う事も出来るか怪しい……。
僕の結婚は遅くなりそうだな。まずは男の人を好きにならないと、だね。
僕は心の中で目標を立て、アルスさんの問に答える。
「今の所はいませんね」
「そうか……」
アルスさんはホッとしたような、何か残念な感じの様な、とても複雑な顔をしていた。
今日のアルスさんは表情が豊かな気がする。
「なに面白そうな話をしてるんだい?」
「うわっ!」
僕の耳元に顔を寄せて声を出したブレハさんに、僕が驚くと、ブレハさんは笑う。
「ぷぷっ! 相変わらず可愛いわ、アンタは。んで、結婚がどうとか言っていたけど、ユウキは誰かと結婚するのかい?」
「いえ、ただ結婚はしたいかな? って言っていただけです」
「ふーん、なるほどね。まぁその話は後でじっくり聞くとして、注文はあるかい?」
僕とアルスさんが適当に注文していると、さっきから静かだったガンツさんが口を開ける。
「なぁブレハ、おめぇには好きな奴とかいるか?」
「はぁ? 何を聞くと思ったらそんな事かい?」
「別にいいゃねぇか。で、どうなんだ?」
「そんなのい「おい! ブレハ、そんなトコで油売ってんじゃねぇ!」っと、叱られちまったねぇ。悪いけどその話はまた後にしておくれ」
ブレハさんの声を遮ってマスターが怒ると、ブレハさんは苦笑してその場を離れてしまう。
ガンツさんは難しい顔して目を瞑ってしまう。
な、なんか気まずい……。
僕が思った事はアルスさんもだったのか、僕とアルスさんの目が合う。
「どうします?」
「今は放っとこう。手伝える事があれば手伝うが、今は本人に任した方が良い」
小声で話す僕とアルスさんに、ガンツさんが訝しげな視線を送ってくる。
「なにコソコソ話してんだ?」
「え? いえいえ、何も~あははは……」
手と顔を横にブンブン言いそうなほど振りながら言うが、どう見ても挙動不審になってしまっている。
そんな僕を助ける為か、アルスさんが話題を振る。
「ところでガンツ、最近女性を対象にした人攫いが多くなっていると聞いたが、知っているか?」
「あぁ、知っている。最近出没したらしいな」
額に手を置いて話すガンツさんの表情は暗い。そうとう深刻なのかもしれない。
僕はさっきまでのウキウキはなく、二人の話しを静かに聞く。
「騎士団でも動いているが、犯人の姿は不明、だが、行方不明者は後を絶たない。ハッキリ言って参っている」
「俺も犯人を追っているが、足跡すら見つからねぇ。厄介な相手だ」
二人とも苦い表情になると、僕に顔を向ける。
「えと、なにか?」
「ユウキ、これからは一人で行動することは控えてくれ」
「だ、大丈夫ですよ。僕なんて攫う価値ないですから」
真剣な表情のアルスさんに、僕はそんなのないないと手を振りながら言うと、二人は頭が痛いと言った風にこめかみを揉み始める。
「あのなぁ。おめぇはもっと自信を持った方がいいぞ?」
「そうだぞ、ユウキ。お前は自分が思っているより容姿が優れている。それこそ、そこらの女など足元にも及ばんほどな」
うんうんと頷きながら話す二人に、僕は固まる。
そこまで良いとは正直思わなかった。
確かに、自分で言うのもなんだけど、顔はそこまで悪くない。けど、それだけだ。ブレハさんみたいな美女じゃないし、天使と思う程可愛いとも思わない。あくまで僕からしたらなのだけど、もしかしたら、僕が思う顔の良さと、この世界の顔の良さって違うのかも。
「わかりました。今日から一人で行動する事は極力控えます」
「うむ、そうしてくれ」
「だな。後はブレハにも言っておかねぇとな」
「ブレハさんは危ないですからね。抵抗出来る術もなければ、あんな美人です。絶対攫われちゃいます」
僕が真剣な顔で言うと、二人はお前もだよ。みたいな顔された。酷くないですか?
「これからはブレハとお前は用が無ければこの酒場に泊まる事になる。これは決定事項だ。マスターにも許可は下りている」
「は、はぁ、わかりました。」
「ユウキとブレハは特に危険だ。夜道は絶対に外に出ないでくれ。俺も守備隊の仕事でいつも守れる訳じゃないからな」
「安心してください。僕もブレハさんも夜は外に出ないようしますから、なので、早いとこ犯人を頑張って捕まえて下さいね?」
二人にしつこいぐらい注意されて、僕はそれだけ信用がないのかーと、若干落ち込みながらも、なんとか返答していると、急に肩を叩かれる。僕は反射的に後ろを振り向くと、そこには美形な男性がとても良い笑顔で見ていた。
「あの、なにか?」
「やぁ可憐な少女、貴女のお名前を聞いてもよろしいかな?」
にこやかに僕の名前を聞いてくるので、僕は普通に名前を名乗ってしまう。
「僕はユウキですが、その、どこかでお会いしたのですか?」
「いや、今日が初めてかな。ただ。ユウキがあまりにも可愛く、そして美しいから、思わず声を掛けてしまった……おっと、失礼、レディに名乗らせておいて、名乗るのが遅くなって申し訳ない。私のは名はルル、以後、お見知りおきを」
綺麗なお辞儀を見せる男、ルルは、笑顔なのに、その目は笑っていなかった……。
評価ありがとうございます。
次の更新も明日の昼過ぎになりそうなので、ゆったりと待ってくれればと思います。




