国会議事堂
国会議事堂。
そこでは、現状の日本の経済を支配する鬼瓦ファミリーと、その傘下の一つである星徒のある法案を巡る戦いが勃発していた。
その法案は子会社の星徒が親会社の鬼瓦からの独立を求めるものだった。
「……によって、我々鬼瓦ファミリーの傘下の星徒はどんなに利益を伸ばそうとも、鬼瓦に吸収され続ける。我々星徒は近い未来、鬼瓦に対抗しうる電気産業を持っている。故に、星徒は鬼瓦から離れ独自にこの日本に貢献出来る会社にしたい。星徒は鬼瓦のライバル企業になれる。そうなれば、日本の経済は活性化する」
「意義あり」
星徒の総帥・夜天光が話す中、鬼瓦ファミリーの総帥・鬼瓦星史朗が言葉を発した。
「鬼瓦星史朗君」
議長は星史朗の発言を認めた。スッと立ち上がると、
「鬼瓦ファミリーは全ての子会社を管理し、なおかつ上手く会社間の連繋はとれている。我々鬼瓦が初めに出した協定以外に各子会社には新たに追加条件も出してはいない。星徒は子会社の中でも近年の収益は異常といえるくらいの増収だ。君達は一時の利益で自惚れているに過ぎない」
夜天光が手を上げると議長が頷き、星史朗に顔を向け立ち上がった。
「自惚れとは言ってくれる。確かに鬼瓦は我々各子会社に増収の場合も一切の引き上げを言ってはこない。しかし、それは鬼瓦の子会社は鬼瓦ファミリーの奴隷となっているからだ」
「奴隷とは口が過ぎるんじゃないか」
両手を広げ、オーバーアクションで星史朗は言う。
口元を嗤わせた夜天光は、
「奴隷でないなら洗脳か? 鬼瓦は子会社に体よく優しく接し、その頑張りで上げた収益を貰う」
「それが洗脳か? お前の言っている事はごく普通の事だぞ?」
「洗脳さ。鬼瓦の子会社において収益が大きく、社会的信用もある会社は全て元犯罪者が集う会社だからな」
『――!?』
議会全体に動揺が広まった。テレビ中継もされており、議会内にいる記者はスクープといわんばかりに動いた。その混乱の中、星史朗と夜天光は数秒間、互いを見つめた。
一瞬が永遠とも思える瞬間が終わり、一切表情を変えない星史朗は腕を上げ、指をパチン! と鳴らした。テレビカメラが星史朗をアップで映しすと、言葉を発した。
「……今の夜天光の発言通り、鬼瓦ファミリーの子会社には犯罪を犯した者を集めた会社が存在する。これは、百年前に鬼瓦ファミリーが誕生して数年してから存在した会社だ。歴史ある会社。その中は誰一人も再犯者は出ていない」
カメラのフラッシュとテレビカメラと人の目が星史朗に降り注ぐ。
その後の言葉をつむいだのは、悪魔の声だった。
「再犯を犯していない? そんな事当たり前だ」
星史朗の考えを見透かすように夜天光は言う。
「その子会社の連中は鬼瓦の私有地に隔離されて出る事は無いんだからな」
「……」
星史朗の瞳が微かに揺れた。
各議員達は周りの人間と驚いたように話し合う。
その場を静めようと、議長は発言するが、あまり効果は無い。
議会中が更に騒然とするのを見渡し、夜天光は、
「その件については鬼瓦星史朗が黙っている為、私が説明しよう。……? どうした? 私の変わりに説明してくれるか?」
「……」
「鬼瓦の総帥たるものが黙りはよくない。まだまだだな、鬼瓦星史朗」
「夜天光君、続けなさい」
不用意に星史朗に絡む夜天光を、議長は落ち着かせた。
夜天光は自分のシナリオ通りといったような笑みを見せ、話し出した。
星史朗は瞳を閉じ、口元が歪んだ。
「……鬼瓦の子会社は元犯罪者で成り立っている。子会社の人間は鬼瓦が管轄する私有地から出る事は出来ない。だが、真面目に仕事をしていれば出世もするし、結婚も出来る。国内旅行も海外旅行も鬼瓦の関係先ならどこでも行ける。以前殺人を犯していようが、強姦、強盗、詐欺……何の罪を犯そうが、鬼瓦ファミリー内で更正出来た人間は一般の人間と同じ扱いを受けられる……鬼瓦内ならばな」
深い溜めの後、ジロリと舐め回すように夜天光は星史朗を見た。
「……」
星史朗は微動だにしない。
議会内は騒然としている。
指定場所を離れ、行き過ぎた撮影をするマスコミを止める警備員はいない。
すでに議会内は夜天光の言葉に呑まれていた。
皆、夜天光の放つ次の言葉を待った。
百年に及ぶ鬼瓦の歴史が陥落するかも知れない瞬間を、誰もが見たいと思うようになっていた。
スゥーと大きく夜天光は息を吸い、
「聞いての通り、鬼瓦は犯罪者を更正させ、尚且つ社会復帰から一般人以上のレベルまで到達させている。犯罪者達は鬼瓦に世話になったという忠義でがむしゃらに働き、社内にて同じ犯罪者出身の者と結婚し鬼瓦内にて平穏な暮らしを得た。……だが、一つおかしい事がある。鬼瓦は犯罪者を更正、社会復帰までさせ、自社の利益を伸ばすまでの人間にした。ならば何故、その者達は鬼瓦の敷地内から出られない? 社会に復帰し社会的信用を得る会社の人間ならば鬼瓦以外の事があって当然。世界は鬼瓦で回ってるわけではない。結局は鬼瓦ファミリーは我々子会社を信用していないという事だ……自身の箱庭から出さないのが何よりの証拠!」
ドンッ! と夜天光は平手で目の前のテーブルを叩いた。そして――。
「議長、私からは以上です」
「……議会内での混乱が収集しそうにない。本日の議会はこれまで」
議長の言葉により、議会は閉廷した。
マスコミの記者達は我先にと議会内を飛び出した。
少しの喧騒の後、星史朗は瞳を開けた。
夜天光は動かずに星史朗を見ていた。
※
「やけに詳しいな夜天光。どういうルートでその情報調べた?」
「どうにもこうにも、私は鬼瓦の子会社の人間だ。横の繋がりで知り合った連中と接していれば、自ずとわかる。その様子だとこの情報は公開しては不味かったかな? クククッ、何時もの余裕が無いぞ星史朗」
「お前は若いのに年寄りみたいな喋り方をするな。事故で死んだ親父を思い出す」
「そうか。貴様が女以外の事を思う事があるとはな」
「……それもそうだ」
言いつつ、星史朗は夜天光の顔をまじまじと見た。
しかし、特別に思う事は無かった。
人気のなくなった議会で立ち尽くす二人は、もう一度真剣に互いの顔を見ると、言葉無く背を向け扉へと歩き出した。
(……鬼瓦星史朗。貴様等は世論を見方につける事は出来ない。時の勢いは星徒にある。さて、次の一手は貴様の番だ。チェックメイトは近い。どうする?)
立ち止まり、小さくなっていく星史朗の背中を見つめ、夜天光は思った。
この議会でのニュースは一気に日本国内に広がり、鬼瓦ファミリーの内部紛争として大々的に取り上げられた。その情報は、中東で戦っている3四朗達の元へは届いていない。




