伏兵のカッパ
「……まさか横田のブラジャーで助かるとはな。あいつが巨乳で良かったぜ」
「サイズの問題じゃないだろう? 直前でブラをはずしてさっきの新聞紙みたいに魔法で大きくしただけだ」
「むきになるなよ」
輝は3四朗の胸を見ながら言う。
その輝の足を3四朗は踏む。
横田は癒しの魔法ホーリーペーパーの陣を地面に敷き、全員を回復させる。
刀を鞘に入れ、竜史は、
「終わった……けど、犠牲は多すぎた。これで本当に勝ったと言えるのか……? 何かこう、すっきりしない。この4ヶ月近くの戦いは、心の空洞を広げるだけの戦いだったように思う。こういう戦いはあまりとしたくない」
「そうね……またいつこんな敵が現れるかどうかは解らない。鬼瓦元史朗の挑戦をしなくちゃね……!?」
何か異変を感じた横田は、頭上を見上げた。
「――何、アレ?」
3四朗達の頭上に、純白の巨大な城が浮かんでいた。
その城全体からは禍々しい力が立ち込め、地上に居る3四朗達を押し潰すようなプレッシャーを放っている。そして、城の前にホログラムの夜天光が現れ、
「やぁ、諸君。ゆっくりしているようだが、夜天城は破壊されていないぞ? 城の中で回復させた盤上騎士団の力で修復させた。もつべきものは仲間だな。この状態にまでなった以上、君達の死は確実だ。これより私は成層圏からこの地球全土を浄化しようと思う。新世界に君達は存在しない。そろそろいいぞ、盤上騎士団」
夜天城内で回復していた盤上騎士団のオーラで夜天城は修復した。
夜天城は天に向かい上昇する。
「どうやら内部の盤上騎士団と夜天光を倒さねばあの城は修復するようだな。フッ、やってくれるな……! よし、これが本当の最終決戦だ! 我々の――」
その時、浮上する夜天城の一部が光った。
その光はナーコの心臓を貫いた。
「ナーコ!」
「太陽っ! 上だ!」
声も上げられず倒れるナーコに駆け寄る竜史の頭上に、夜天城からの死の羽根が舞い降りる。それは星史朗に直撃し、その周囲を爆破した。
『星史朗!』
3四朗と横田は悲鳴を上げる。星史朗の近くにいたはずの幻覚の姿も見当たらない。
「星史朗さん……ナーコ。夜天光、お前は一体自分の家族を傷付けて何がしたいんだ!」
両手を砂に突っ込みながら竜史は叫ぶ。
瞬間、夜天城がまた発光し、一筋の光が3四朗を狙った。
「――危ねぇ、3四朗っ!」
「輝!? ぐああああっ!」
夜天光から放たれた白い光は、輝と3四朗を撃ち抜いた。
「3四朗! 輝! 横田さん、手当てを!」
「わかってるわ!」
竜史は横田に治療を頼み、横田は撃たれた二人に癒しの魔法ホーリーペーパーをかける。
「くっ……傷口が全然再生しない……まさか!」
「その、まさかだ……」
輝は起き上がり、意識を失ったままの3四郎を抱き寄せる。
「どうやら、魔女の力を寄せ付けないアークフィールドの力を使った一撃みたいだ。盤上騎士団の力を合わせて使ってるようだな。残念だが俺達は脱落だ……その前に竜史、お前に一言言っておく――」
輝きは立ち上がり、竜史の胸元をつかんだ。
「お前、ナーコが死んだ時、たいして取り乱しもしなかったよな? 惚れた女が死んで何故取り乱しもしねぇ? 変に賢くなるな、感情を吐き出せ。お前は太陽竜史だ、月下輝じゃねえ。俺達は表裏一体だが、お前はお前だ。自分らしく生きろ……ん?」
その時、意識を失っていた3四朗も立ち上がり、
「後は任せたぞ竜史。……この4ヶ月近くはだいぶお前に無理をさせた。無理ついでに、夜天光の奴も叩きのめしてやってくれ。残念だが、そろそろ時間のようだ……」
「眠るにはまだ早いぜ」
「――んっ」
瞳を閉じようとする3四朗に、輝はキスをした。そして、そのまま二人は倒れ、竜史は二人を支え地面に寝かせた。
「竜史……」
横田が見つめる中、竜史はナーコの遺体も3四朗と輝の側に運んだ。
少しの間、竜史は動かなかった。
瞳からは涙が流れているのかどうかは、横田の位置からはわからない。
刹那――。
「うおおおおおおおっ!」
という叫び声と共に、竜史の周りにオレンジ色のサンライトの波動が溢れた。
シュウゥゥ……。
とサンライトの波動が収束すると、キラキラッとルナテイックの月のイエローの輝きが満ちた。
「貴方は竜史……? みんなと一体化したの?」
竜史の髪はオレンジ色に逆立ち、背中にはナーコを宿した白と、3史朗を宿した黒の羽が生えていた。腰には輝の刀を差している。
「そうです。横田さん」
スッと振り返った竜史の目からは、水滴のようなものが飛んだが、その表情は澄んでいた。
「その翼……ナーコの中の闇の力を浄化したのね? だから片翼だけ白い」
「ナーコの力は闇のダークネスだった。夜天光を乗り越えたオレの中ならば、闇の力は浄化できると思ったんです。この戦いが終われば、ナーコはもう自分の闇に苦しまずに済む」
「そうね……私が必ずみんなが復活する方法を探すわ」
「お願いします。……横田さん、星史朗さんの遺体を引き上げて、下がっていてください。どうやら、夜天光の前に倒す奴がいるみたいだ」
「え? ――あの男は!?」
その男は、素肌にはおった革ジャンを脱ぎ捨て、雄叫びを上げた。
「ウオォォォォォッ! サンライトのクソガキィ! 決着をつけにきたぞォ!」
カッパライダーは、右腕を大剣に変え、竜史に突進して来た。
「新しい力を試すには丁度いい機会だ。夜天光の前に、貴様を完全に消滅させてやる」
竜史は白夜の鯉口を切った。
その間、空に浮かぶ夜天光は、ぐんぐん上昇していった。
※
突如現れたカッパライダーが竜史に向かって猛攻をしかけると思いきや、その後ろから幻覚の姿が現れた。
「? くァ~ッ! こりゃ面白そうだぜェ」
カッパライダーは揃った前髪をいじりつつ、二人を見つめた。
竜史は困惑していた。
目の前にいる人物は目を閉じたまま一言も言葉を発しないからである。
大きく息を吐き竜史は、
「単刀直入に聞こう。何故オレの前に立ちふさがるんだ幻覚?」
その男、夜天城の攻撃によって倒れた高杉幻覚はゆっくりと目を開き、言った。
「竜史。俺は幻武幻影流の使い手。相手を惑わす幻覚の使い手ぜよ。幻で太陽と月が混じりあっても問題は無いが、現実でそれはまずいぜよ。おまんのような中途半端な能力者は世に混乱をもたらす。夜天光の前におまんを始末する」
「幻覚……お前まさかオレを試しているのか?」
「奢るなよ竜史……」
ギラッと幻覚は愛刀の幻無を抜いた。
その殺気に、竜史は避けて通れぬ戦いだと直感した。
ピタリと幻無を晴眼に構え、剣気を放つ。
対する竜史も同様の構えを取り、駆けた。
「はっ!」
「つえいっ!」
数度の激突の後、一瞬後退して間合いを取った幻覚は、
「幻武幻影流・乱れ髪!」
「月の扉!」
対する竜史は月のオーラの結晶を楕円に展開しガードする。
結晶が弾け、すぐさま更なる殺意が竜史に襲い掛かる。
「幻武幻影流・一式・櫛いらず」
乱れ髪から幻覚は神速の居合いへ技を切り替えた。
自分の右首筋を狙う刃を無視し、竜史は自分の背中に白夜を出した。次の手を読まれた幻覚は息を飲む。
瞬間――。
幻覚の背後で互いの刀が鳴った。
「乱れ髪から櫛いらずをこうも簡単に回避するとはな……。無駄な動きが有る割りに、剣にキレがある。月下の安定感か?」
「よく喋るな幻覚。楽しんでるのか?」
「強者と戦えるのは剣士としての幸福。しかも初期は自分が剣を教えた弟子だ。興奮を抑える事は出来んぜよ」
震える左手を、無理矢理刀の鞘に押さえつける竜史は、
「ありがたい話だ。新しい力をぶっつけ本番で夜天光に試さないですんだよ。……ただし、この力はまるでオレの中で安定しないじゃじゃ馬だ。殺さない自信はないぜ?」
「戦いは殺し、殺されるものだ。殺さなければ、互いに遺恨が残る。一剣士としておまんを殺す。剣士は剣に生き、剣に死ぬのみ」
「……そうだな。オレもそう思うぜ。空の夜天光の事は一回忘れて、単純に戦いを楽しむ事にする。オレは止まらねぇぜ?」
「そうか――!」
その一撃に反応するが、身体が言うことを聞かずに――。
「ぐはっ……」
勢いのまま竜史は胸を串刺しにされた。
そして、竜史の心臓は活動を停止した。




