表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

「おい、田島! その商品はこっちにおいてくれ!」

「は、はい!」

 12月24日、クリスマスイブ。恋人や家族と過ごす日と日本では言われているが、そんな日にだって多くの人が働いている。僕もそんな1人だ。

 僕が働いている場所はショッピングセンターの一角にあるホームセンター。郊外型のショッピングセンターにはここホームセンターのほか、大型スーパー、家電量販店、100円ショップなどに加え、ケーキ屋、おもちゃ屋、お菓子屋、洋服屋と言ったお店が並ぶ。駐車場の外れには大きな木が立っていて、その下にはベンチと机があってちょっとだけ憩いの場となっているのが特徴と言えば特徴。もっともこの冬の時期にはそこで休憩している人はほとんどいないのだが。

 クリスマスシーズンにはケーキ屋には行列が並び、おもちゃ屋は子供のクリスマスプレゼントを買うために大盛況になる。他のお店もそれに連なってすごい混雑になる。このホームセンターも御多分に漏れず、夫婦や恋人が、色々なものを買っていく。

 クリスマスシーズンと言うこともあり、室内を飾るイルミネーションや、小さなミニツリーを購入していく人が大勢いる。中には来年の正月に向け、お年玉袋やお餅と言ったものを買っていく人も結構いる。

 5分くらい前に対応したのはきゃっきゃと笑いながら若いカップル。サンタクロースキャンドルと、クラッカーを買っていった。くそぅ、こっちはサンタの帽子とサンタの服・おまけにしろひげまで着けて汗水たらして働いているって言うのに。リア充爆発しろ。その前は『今日入籍したばっかりで、それで今度引っ越しするんですよー。それでせっかくだから家具も新しくしようと思って』とか新婚ほやほやの夫婦に聞いてもいない事を僕に喋りながら家具選びに付き合った。こんちくしょう、こっちは19年間彼女なしだってのに。末永く爆発してこい。つい先ほど来たおじいちゃんとおばあちゃんは『孫にクリスマスプレゼントに学習机買ってあげるんさ』とニコニコしながら買って帰っていった。くそう、その幸せそうな顔を僕に少しわけてくれ。100歳過ぎても爆発してろ。そして孫、このおじいちゃんたちをがっかりさせんなよ。他にも家族連れで

「田島、レジにヘルプに行ってくれ! 行列ができてる!」

「は、はい!」

 色々な人ののろけ話、思い出話、自慢話を聞きながらお勧めな品を紹介していたら、いつの間にかレジが混んできていたようだ。アルバイトを始めてから9か月、今日が振替休日で休みと言うこともあって、お客の量は今までに体験したことのないくらいの人数だ。その上、今日をシフトから外して休みにしてしまっている人が何人もいて、完全な人手不足。夕方頃からは別の人がやってくるはずだから、それまでの辛抱だ。

 もともとシフトに入ってない予定だったのに暇だからとシフトに入ったはいいけど、こんなに忙しいなら家でゴロゴロしていてもよかったかもと後悔している。

 レジに向かう途中、ふとクリスマスの飾りつけの特設コーナーを見たら、恋人や子供連れ夫婦の中に、10歳くらいの女の子が1人でぽつねんとツリーを眺めていた。ホームセンターに子供が1人でいるのはちょっと珍しかったので気になった。

 もしかして迷子かな。そう考え、ちょっと声をかけてみようかなと思ったのだが、

「田島! なにしてんだ。早くレジに行ってくれ!」

「は、はい!」

 そう店長に怒鳴られ、慌ててレジの方にすっ飛んで行った。しばらくの間は多忙が続いて、手を動かしているうちに先ほどの女の子の事はすっかり忘れていた。




「はぁ……やっと一息つけた」

 あと少しで勤務時間が終了、そんな頃になってようやくすいてきた。何なんだ今日は。休憩時間も満足に取れずにこの時間まで働き続けるとか。経営者としては喜ばしい事なんだろうけど、明日もバイトが入っている身としては、明日はもう少し暇であったらいいなあと、しょうもない事を思っている。

 グッと伸びをして、こった背中をほぐしていた時、午前中に見かけた女の子がクリスマス特設コーナーでまだ立っていた。……どうしたんだろあの子。もしかしてずっとあそこで商品を眺めていたんだろうか。

 手も空いてきたことだし、ちょっと声をかけてみようかな。

 そう思って僕はその子に近づいてそっと肩をたたいた。

「ひゃ、ひゃい!?」

 肩をビクッとして振り返った女の子。やばっ、驚かせちゃったかな。

「ご、ごめんなさいおじさん。も、もしかしてもう閉店? すぐ帰るからあ!」

 やばっ、ものすごい誤解されてしまってる感じだ。早めに誤解とかないと。

「い、いえ違います。閉店は21時ですので、もうしばらくは開いていますよ。ただ、朝にも見かけた気がしましたので、どうかなされたのかと思いまして」

 慌てて弁解する自分。慌ててたせいか、10歳かそこらの子にすごい堅苦しいいつも通りの敬語を使ってしまった。へ、変に思われてないよな。

 ってか、まだ僕は19だ。女の子の目線から見たら19っておじさんなのかもしれないけど、まだまだおじさんって言われるとへこむ。 そう思いつつ、よく考えれば今はサンタの格好をしてるんだから、もしかすると見かけは結構年に見えるのかも、と自分に言い聞かせて気持ちを立て直す。

「ううん、どうもしてない。暇だったから見てただけ」

 目をそらしながら僕の質問に答える女の子。どう見てもどうかしている顔をしているんだけど、どうもしてないって言われると、こちらとしてもどうしようもないし。うーん、迷子でもなく困ってるわけでもない子に対して、これ以上詮索するわけにもいかないしなあ。

「わかりました、それではまた何かありましたら遠慮なく声をかけてくださいね」

 そう言って僕はまた持ち場に戻った。

 持ち場では子連れ夫婦が鏡餅の大きさをどうするか話をしていた。子供は子供で、「お年玉―! クリスマスプレゼント―! サンタさんはラジコン持ってきてくれるかなー!」と大はしゃぎでお父さんお母さんの周りを走り回ってた。子供をあやしながら母が父を言いくるめて、すんごい大きな鏡餅を買ってった。勝ってく時に子供お父さんお母さん揃って嬉しそうな顔をしてるんじゃない。じっちゃんばっちゃんになっても仲良くしてろや爆発しろ。

 やっかみながら先ほどの子連れ夫婦を見送っていたら、店長が近くに寄ってきた。

「おい、田島。ちょっと頼みがあるんだが」

「お断りします」

「おい! まだ何も言ってないやろが! まあまあ、田島にもいい話だからさあ。話だけでも聞いてくれよ」

 や、店長がこういう猫なで声で話しかけてくるときは100%ろくでもない事と決まってる。経験上、それで何度痛い目にあわされたか。

「田島って後30分で勤務終了だろ? よかったら後4時間延長してくれねえかなあ」

「嫌です」

「そんな事言わずにさあ、ほれ、バイト代弾むから。具体的には1.25倍くらい」

「それ普段の休日出勤と同額じゃないですか!」

 そんなんで働かせようとは、いい根性をしている。今日はあまりの忙しさに疲れたんだよ。帰らせて休ませてくれ。

「まあまあ、今日は人手不足なんだよ。少しくらい俺を助けると思って」

「他にもアルバイトはたくさんいるじゃないですか! 黒田さんはどうしたんですか!」

「合コンらしい」

「田中さんは!」

「婚活らしい」

「中西さんは!?」

「お見合いなんだって」

「西本さんは!」

「デートだとさ」

 くそう、なんだこのリア充ども、全員爆発しちまえ。

「と言う訳で人手不足なんだ。閉店の21時まででいいから。これからまた山が来るんだよ。人は一人でもいてほしいんさ」

 忙しい時間帯が来るってわかってて、働くの何て勘弁なのだが。

「どうせバイト終わった後も暇だろ? バイト代、1.25倍じゃなくてもう少し色付けるからさあ」

 暇だけど、暇だけどさあ。そのいい草はないだろ。もしかしたら来年は暇じゃないかもしれないだろ……あかん、毎年毎年ずっと言い続けてきたから、なんだか空しくなってきた。

「……わかりましたよ、しっかり色付けてくださいよ!」

「わかったわかった。じゃ、頼むぜ」

 肩にポンと手を置いて、お願いする店長。なんだか言いくるめられて悔しい気分もするけど、この後も暇なのは事実。しゃあない、ちょっとくらい頑張ってやる。



 その後も、女性同士でキャッキャいいながらパーティグッズを買っていく人やら、男10人くらいで餅と炭酸飲料、ビールを買っていく集団、そしてそこらじゅうに溢れかえるカップルを見ながら、仕事を続けた。ふん、全員末永く爆発し続けてろ。




「うーあーあーあー、つーかーれーたー」

「お疲れさん、ありがとな」

 そう言うならもっと人を雇ってください、店長さん。今日は10人分の仕事をした気がする。

「給与にはしっかり反映しとくから、おい、閉店時間だからまだ残ってる客に声かけてって閉店時間だから伝えてくれ!」

「へーい」

 店長に生返事をしながら、まだ店内にいるお客に声をかけていく。といっても、店内には数えるほどしか客がいないので、数分あればできる仕事だ。

 1人1人に声をかけていって、最後にクリスマス特設コーナーを覗いたとき、まだ先ほどの女の子がいた。……この子、午前中からずっといるよな。親はどうしたんだろ?

 そんな事を少し思いながらも、女の子に声をかけた。

「あの」

「ひゃ、ひゃい!」

 今回は肩をたたいてもいないのに、さっきとおんなじくらいびっくりしながら返事した。

「もう閉店時間だから、そろそろ」

「あ、もうそんな時間なんだ? ……ねぇ、もうちょっとここにいちゃダメかなあ?」

「えっと、ごめん。時間だからお店閉めないとだめなんだ。それに、こんな遅くまでいたら、きっと親御さんもきっと心配してるよ?」

「…………」

 僕がそう言うと同時に、女の子は下をうつむき黙り込んでしまった……えっと、何かまずいこと言ったかな。

「え、えと」

「……ないもん」

「あえ?」

「家帰ったって、お父さんもお母さんもいないもん」

 慌てて取り繕おうとしたとき、女の子からとんでもない発言を聞いた。おいおい、この女の子の親、何考えてんだ? まだ10歳かそこらの女の子をほっといて遊びほうけてんのか?

「お父さんもお母さんもお仕事でいつも遅いもん。今日も仕事って言ってた。フキョー?ってので仕事頑張らないと大変なんだって。明日も朝から夜までずっと仕事って言ってた」

 ……クリスマスイブな上、休日なのにお疲れ様です。まあ、それは僕も同じか。今日は終日働いた上に、明日も朝だけだけどバイトシフトが入ってる。華の大学生のはずなのに、僕は何でクリスマスイブにバイトしてるんだ。

「明日はクリスマスな上に誕生日なのに。友達はお祝いが年に2回もあるのに、私は1回だけ。もともと1回しかないのに、去年も一昨年も誕生日パーティもクリスマスパーティもなかったんだあ。今年もないってわかってる」

 ……ああ、その気持ちはわかるぞ。僕も誕生日は1月1日だ。誕生日がお正月だったもんだから、ケーキはおせち料理になって誕生日プレゼントがお年玉だった。弟はお年玉もらってて誕生日プレゼントももらってたのに。

「友達はみんな今日、クリスマスパーティで家で過ごすんだって。去年は友達の家にパーティにお呼ばれしたけど、なんか1人浮いててさびしかったんだ。だから今年はここにいたんだあ」

 ……ここ、そんなに楽しいかな?

「なんとなく、クリスマスのツリーとか、イルミネーション見てると楽しい気分になってくるでしょ?」

 そうかな? 僕はそんなこと思ったことないけど。

「だから、お願い。家にいてもつまらないんだ。もうちょっとだけここにいちゃ、ダメかなあ?」

 いや、そんなうるうるした目で見つめないでくれ。ものすごく断りづらい。断らなくちゃ駄目なんだけどさ。

 ホームセンター内では、閉店間際の曲、蛍の光が流れている。もうお客さんはこの子を除いて誰もいないみたいだ。どうするか少し考えたけれども、このお店をこの子のために開けておくわけにもいかないし……。

「ごめんね、もう閉店しないといけないんだ。また見に来てくれていいからさ。今日はもう帰って」

「…………うん、わかった」

 そう返事をすると、女の子は下をうつむきながらとぼとぼとホームセンターの出口へ歩き始めた。女の子の小さな背中が、より小さく見える。

 なんだかすごく悪い事をしてしまったような気がするけれども、どうしようもない。お店は閉めなきゃいけないんだから……。

「ね、ねえ君!」

 何で僕は帰っていくその女の子に声をかけたのかわからない。けど、何故だか声をかけてしまった。

 声を掛けられたその女の子は不思議そうに僕の方を振り返ってきた。え、えと、引き留めたはいいけど、何言えばいいか何にも考えてないぞ。

「ね、君名前なんて言うの?」

 ……あああ、馬鹿か僕は。名前なんて聞いてどうするんだ。

「……ひなた。桜井ひなたって言うけど」

 ちょっと不思議そうに僕を見ながらも、名前を教えてくれた。ひなたちゃんか。せっかくひなたって名前なのに、暗くなってちゃもったいない。

「ああ、僕は直樹、田島直樹って言うんだ。ところでひなたちゃん、今日が何の日か知ってる?」

「……クリスマスイブでしょ? それがどうかしたの?」

 頭を傾けてさらに不思議そうな顔をしながら、逆に僕に問い返してくる。

「そ、クリスマスイブ。イブってさ『前日』とか『前夜』って意味なんだよ」

「……それで、それがどうかしたの?」

 ひなたちゃんはますます不思議そうな顔をしてる。

「今日は前日。テレビみたりすると、今日が本番みたいな盛り上がりだけどさ。本当は明日が本番なんだよ。でさ、明日も空いてるんだったら、よかったらお昼頃にまたここに来ない?」

「……どうして?」

「それは、来てからのお楽しみって事で」

 や、ぶっちゃけまだ何も考えてないだけなんだけどさ。けど、さびしそうにしてるひなたちゃんの顔を見てたら、何かしてあげたくなったってだけ。

「……うん、いいよ。来る」

 どうせ何もすることないし……とボソッと言ったひなたちゃんの顔はやっぱりさびしそうな顔をしてた。

「こら、田島! 客の追い出しにいつまで時間かかってんだ! 早くしろ! シャッター閉めらんねえだろうが!」

「は、はい! すみません!」

 商品の影から店長の怒鳴り声が聞こえる。気づいたら閉店時間から30分以上過ぎていた。

「ご、ごめんね。ほんとにそろそろ閉めないと。それじゃ、明日の13時に来てね。待ってるから」

「うん、わかった」

 そう言ってひなたちゃんはホームセンターから出ていく。外に出たら寒そうに縮こまって、小さな背中がますます小さくなったみたいだった。

「田島。さっきの子が最後か?」

「はい、そうです」

「そうか。それじゃ、シャッター閉めるぞ」

 そう言いながら店長と一緒にシャッターを閉める。帰っていったひなたちゃんはもう見えなくなっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ