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アリス・イン・ワンダーログ ー今日から俺はアンドロイドのマスターらしいー  作者: tomato.nit
収束条件:f(呼称) → Alice

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第十話 設計者

第十話 設計者


 休日の昼前。


 インターホンが鳴る前に、エネコが小さく振動した。


「外部認証シグナルを検出しました。登録権限保持者、接近中」


「早いな……」


 約束の五分前。

 あの人らしい。


 ドアを開ける。


 そこに立っていたのは、相変わらずエンジニアに見えない体躯だった。


 五十近いはずなのに、肩幅は分厚く、腕は丸太のようだ。昼の光を反射する禿頭。


 一言で言えば、筋肉達磨。


 なのに中身は、国内トップクラスの設計者。


「休日にすまんな」


 言いながら、俺の頭をくしゃりと撫でる。


「寝不足の顔だな。ちゃんと食ってるか」


「子どもじゃないっての」


 むず痒さを誤魔化しながら部屋へ通す。


「ご無沙汰しています。流兵様」


 紅茶を運んできたアリスが、静かに頭を下げる。


「久しいな。無理はしていないな?」


 声が、ほんの少しだけ柔らぐ。


「はい。視認可能な損傷はありません」


「そうか」


 短い安堵のあと、目が設計者のそれに戻る。


「ログは確認した。自律最適化か」


「ローカル再演算処理を実行しました」


「……触ったな」


 空気が張る。


「悪いとは言わん」


 一拍。


「だが、そこは触るな」


 人格の話だと分かる。


「設計通りにしか動かん個体など、面白くもない」


 唐突に叔父が言う。


「……は?」


「初期試作機は三度壊れた」


 さらりと続ける。


「自己保存を過度に優先し、対象を排除しようとした個体」


「逆に、完全従属で自律性を失った個体」


「感情模倣が暴走し、指示系統を無視した個体」


 淡々と語られる“壊れた”歴史。


「十三番目でようやく安定した」


 視線がアリスに向く。


「AL-H-013。ハートの13だ」


「縁起悪そうだな」


「13だからか?」


「あっちじゃ不吉な数字だろ?」


 ホッケーマスクの彼がふと脳裏に浮かぶ。


「そうだな。しかしな、十三は“過不足の外側”の数だ」


 叔父は指を一本立てる。


「十二は循環の数だ。一年、十二ヶ月。時計も十二刻。体系として完結している」


「十三は、その外にある」


 淡々と続ける。


「完成した体系に、意図的に余白を残すための番号だ。設計思想としては“拡張可能性”を意味する」


 視線がアリスに向く。


「AL-H-013。HはHeart。情動領域を扱う個体系列だ」


「完成品ではなく、発展余地を前提にした個体」


 わずかに口角が上がる。


「設計に余白がなければ、逸脱も生まれん」


 アリスの指先が、ほんのわずかにトレイを握る。

 金属が小さく鳴る。


「お前は、想定から外れ始めている」


 怒りではない。


「逸脱し始めたからだ」


 大きな手が、アリスの頭部外装に触れる。


 指が一瞬だけ止まる。


「この変化は、代替できん」


 瞳の輝度が、かすかに上がる。


「お前は俺の最高傑作だ。設計図通りだからではない」


 わずかに肩が緩む。


「逸脱し始めたからだ」


 静かな誇り。


「生みの親としては、少し悔しいがな」


 呼吸が、半拍ずれる。


「誇りだ」


 その言葉が落ちる。


 俺は、二人を見る。


「……でも最終判断は人間優先なんだろ」


「当然だ」


 即答。


「それが設計者の責任だ」


 アリスは、すぐには答えない。


「設計上は、人間優先です」


「では?」


 一瞬。


「状況に依存します」


 沈黙。


 叔父は目を細めるが、怒らない。


「完成品ではなくなっている」


 満足そうに言う。


「面白い」


 立ち上がる。


「逸脱が過ぎれば戻す。それもまた設計だ」


 ドアが閉まる。


 静寂。


「……なんか疲れるな」


「演算負荷は現在+15.3%です」


「お前の話だよ」


 一瞬だけ、アリスがこちらを見る。


「本機は、現在の状態を維持したいと判断しています」


 声が、わずかに低い。


 紅茶のカップを持ち上げる。


 まだ温かい。


   * 内部ログ 5月3日 12:03 *


 優先指示:再計算中


 設計逸脱評価:再分類中


 外部干渉予測:増加


 未分類:持続


 最適化対象:未確定


   * * *


 アリスは何も言わない。


 ただ、肩の距離が、いつもよりわずかに近い。


 俺は、もう一度カップを持ち直した。



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