第8話 縁が結ぶ者たち
「……お主、この土地に縁を持つ者じゃろう?で無ければ、ここまで我と会う事も無かろうに。」
「縁?いきなり言われても、思い浮かばないんですけどね!……お父さんもお母さんも生まれは横須賀だし、それ以前のご先祖も横須賀だとは聞いた事ありますけど……。いや、そんな事より!あなたが居るって事は、またおかしな事が起きるって事?」
「然り。最近はこの土地の封印も弱まってきていてのぅ。我も困っておるのじゃよ。」
小さなおっさん……トッチーは淡々と今日子の疑問に答える。
「それじゃあまた、あの化け物みたいなのが?いや、駄目でしよ!私の他にもほらっ!こっちに歩いて来てる人がっ!」
「慌てるでない!……もう結界は張り終わっておるわ。今のお主には、さっきまでと同じ様に見えても、ここはもう異空間の中。他の民には影響は無い。……あくまで、事が無事に済めばの話じゃがな?」
慌てる今日子に対し、不穏な言葉を交ぜながらも説明をするトッチー。
「ほれっ。また、奴らの現れる門が開かれる。お主は少しでも離れておくのじゃ。もうこちらには眷属が向かってきておるからの。」
今日子の目の前には、朝に見た、空間の裂け目の様な物が宙に浮かんで見えている。
「もうやだぁ。……占い絶対最下位だよね?」
「娘子!ため息などついてる場合では無いぞっ!結界の端まで離れよっ!」
トッチーの強い口調に、今日子は両手を前に突き出しながら、少しでも裂け目から離れようと走る。
「くっ!この見えない壁が行き止まりって事なのね!……朝みたいに転ばなくて良かったわ。……じゃなくて!化け物っ!」
振り返って裂け目を確認すると、その場所からは、普通の個体であれば手の平にでも乗りそうな生き物……リスの様な見た目をした生き物がチョロチョロと這い出してきている。
ただその大きさは、小型犬位。
そして、後から後から湧き出して綺麗に整列してゆく。
「ダメダメダメダメ……逃げられないって!」
「案ずるな!もうそこまで来て……。」
「トッチーッ!中入るから、例のやつ頼むわっ!」
パニックをおこす今日子に声をかけてるトッチーに対し、別の人間から鋭い声が届く。
「パパさんっ!ジョロ殿も!ならば、フン!」
宙にふわふわと浮かびながら今日子のそばをただよっていたトッチーが、声の主に対して両手を突き出す。
するとその両手から光が溢れ、声の主たちを包み込んでゆく。
「あれ……ジョロ君!て、あのジョロ君?それと……ジョロ君のパパ?は?」
今日子が心の中でモヤモヤしていた何か。その答えにたどり着いて唖然とする。
光に包まれた1人の男とワンコ。
その姿が、トッチーの展開した結界に飛び込むと共に、今日子が朝に見た風体へと変わってゆく。
「……トッチー。この状況の説明…自分でしてくれよな?俺ヤダよ?めんどくせぇの!」
「ワフッ!」
「そんな事は後じゃ!パパさんもジョロ殿も、申し訳ないが頼むぞっ!」
「へいへい、わかりやしたよっ!ジョロ、行けるか?」
「ワフッ!」
「俺は、あのお姉さんの守りに入りながら迎撃だ。ジョロ、無理はすんなよ?後ろにいくらでも逸らして構わんから。パパも一緒に頑張るからよっ!」
「ワオ〜〜〜ン!」
大きくなったジョロが遠吠えをあげると、バカでかい身体のリスの集団が硬直する。
「さて、こっからが本番だ。……ただ、これのカタついてからの方が、頭痛いんだけどな?ママ、絶対怒るよな?」
ジョロのパパと呼ばれた男は、今日子とトッチーを背中にして、両手の指の骨をポキポキと鳴らす。
「行くぜっ!親子2人の、仕事の始まりだ!」
「バウッ!」
人には見えず、聞こえもしない空間に、1人の男と犬の遠吠えが、響き渡っていた。




