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引っ越したら、土地神様と暮らすことになりました ~求職中に怪異退治を頼まれる家族の話~  作者: 武者小路参丸


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第6話 間違いとすれ違い

「ただいまあ〜っ!トッチー居る?」


「んぁ?おるぞ?」


慌てて帰宅した夫婦とトイ・プードルの様子も見ずに、話題の中心だった小人のおっさんが、今の四角いローテーブルの上であぐらをかいて、割れたせんべいの欠片を、カリカリと食べながらテレビを見ている。


「トッチー!そんなリラックスしてる場合じゃねぇんだって!また会っちゃったの!朝の女性に!」


「はぁ?そりゃ、あんな近くの遊戯場ゆうぎばでうろついておるのだから、近くに居を構えておっても不思議ではなかろ?」


男性の焦りにも動じずに答える小人のおっさん……改め、トッチーと呼ばれる存在。


「いやいや、危機感持ってくれよ?ママ、悪いけど、何かあったかい飲み物もらっていいかな?」


居間に行った男性が、妻に声をかけながら座布団の上にどっかりと座って話を続ける。


「トッチーさ?もう少し話し方、現代寄りに変えられないもんかなぁ?格好はスーツなのに、違和感有りまくりだっていってんじゃん!」


「……パパさんもくどいのぅ。我はこの方が話しやすいのよ。そこまで気にする事もなかろうが?」


「なら、格好の方を変えようよ!その中間管理職的なスタイル、よっぽど違和感あるぜ?」


「そのような指摘は無用じゃ!これはこれで、世の中に溶け込む努力というものをじゃな?」


「はいはい。朝からやいのやいのいわないの!パパは甘酒。アルコール無いやつね。トッチーさんも同じでいいなら、おちょこに入れて持ってくるけど……。」


「ママさん!お手間だとは思うが、我もそれで!お神酒のお供えは大事じゃからのぅ。」


「いや、今ノンアルだってママ言ったじゃん!」


「ワフッ!」


「そんな!パパさんはともかく、ジョロ殿まで我を責めるとは……。」


朝からこの家の居間は騒がしい。


「……で、何がそんなに問題なんじゃ?」


両手で抱えたおちょこから、甘酒を口になんとか運び終えて、パパと呼ばれる男性にトッチーと呼ばれる不思議な存在が話し掛ける。


「結界の中でのパパさんとジョロ殿は、見た目からして変化へんげしとるし、そう気付かれる事もないじゃろぅ?」


「まぁそうなんだけどさ。精神的に気まずいというかさ。ご近所さんらしくて、しかも面識持ったって言うのがね。バレるリスクが高いってのが引っかかる訳さ。」


「別に、名を名乗ってもおらんじゃろ?」


「そりゃ、自分からミサオですなんていうバカいないよね?ジョロだって自分から……あ!」


「パパさん、どうしたのじゃ?」


「……俺、今気付いた。……多分、あのオネェさんの居る所で、ジョロって声掛けた……。」


「パパ。……何やらかしてくれてるの?一つ間違えば、白い目で見られる可能性だってあるのに。」


「いや!だって結果として人助けじゃん?悪い事してないじゃんか?ましてやジョロが頑張ってる姿見たら、親として声ぐらい掛けるよね?俺間違ってる?トッチーどう思う?」


この家族の大黒柱である男性……ミサオが、トッチーと呼ぶ存在に話を振る。


「うむ。……我は何とも言い難いのじゃがな。」



「ワキが甘いの!パパは肝心な時に!ジョロに何かあったらどうするの?」


「……さ〜せん。ごめんな、ジョロ。本当に悪気は無かったんだよ。これから気を付けるつもりだから許してくれる?」


「ワフッ!」


「ジョロ、パパ甘やかしちゃダメよ?すぐ調子に乗るんだから!」


「流石はこの家の女王、クミコ殿。パパさんの手綱たずなも、しっかり握ってるようで安心じゃ!」


「あ!トッチーきったねぇでやんの!普段ママさんとか言っといて、こういう時だけクミコ殿とか、神様はそういう事してちゃいけないと俺は思うぞ!」


「わ、我は別に、本当の事を申しておるだけじゃからの!パパさんの事だって、ミサオ殿でも構わんのじゃが?」


「……そういう面倒臭い感じは、勘弁して。何か今更距離感出てくるから。」


居間での会話は、まだ続いてゆく。


「改めてのおさらいなんだけどさ?結局、俺やジョロのやってる事って、怪異……を退治というか、この土地の生き物に取り憑いた思念体を本来行くべき世界に送り返すって事だよね?それっていつまで続けるの?」


ミサオがトッチーに尋ねる。


「それは……我を始めとした、この辺りの土地神たちが、それぞれ自らの神通力で、悲哀者とらわれしものが生まれるのを抑えられるようになれば、そなたたちのお役目も御免相成ると言った所かのぅ。」


「それっていつまでかかりそうなんですか?トッチーさん。」


クミコが横から質問を投げかける。


「元々我は、この土地の土着神だったのじゃが、時代の流れと共に他の信仰やなんやらが流れて来て、人も世代も入れ替わり、我の事など忘れ去られてしもうた事は、以前話したと思うが……。」


「ちゃんと覚えてるよ。俺もママも。な?」


ミサオの言葉に頷くクミコ。


「信仰とまでは言わぬが、その昔には、我のやしろもあって、土地に住まう者たちの祈りや願いを受け、その想いを神通力へと変えてこれたから邪悪なる者たちへも対処出来ておったのじゃ。しかし時は流れ、我に乞う者も絶え、力も弱まり、このまま消えゆくのも摂理なのかと思っておった所に、弱まった結界を突いて、あの者たちが現世へと姿を現しおったのじゃ。本来の神通力を持ってすれば、あのような者たちなど姿形すがたかたちさえ見せぬ土地じゃったのに、口惜しい限りじゃが、そのまま見過ごして消えゆく訳にも参らぬゆえに、どうしたものかと思案していた時に!パパさんが天啓の如く姿を見せたのじゃ!」


「たまたまだって何度も言ってるよね?ジョロと朝の散歩してただけ!あの日は雨降るって天気予報で知ってたから、早めに家出ただけ!」


熱く語る土地神……トッチーの言葉を、即座にミサオが否定する。


「その天啓を信じた我は、残る神通力をパパさんとジョロ殿へと注ぎ込み……。」


「たまたま怪異を何とか倒せたは良いけど、倒れたトッチーを見るに見かねて、家まで連れてきて、ママに驚かれるわ怒られるわあって、なんやかんやで家に住み着いた居候って流れまでは共通認識だよな?」


「な、何か色々はしょっている気がするのじゃが……おおむねそれで間違いは無かろぅ。それでじゃ。まだ、この辺りはパパさんとジョロ殿の活躍によって、少しは気の流れもマシにはなってきておる。しかしじゃ。周りの神域も、我と同じように土地神の力が弱ってきておるみたいでのぅ。そちらの方にも少し手を伸ばさぬと、後にはこちらへと、又あ奴らが押し返して現れる事の繰り返しになる。パパさんよ。もう少しだけ、我に力を貸して貰えぬかの?」


「……結局、今の状態じゃ、トッチーの神通力とやらも戻ってないし、この一角だけ退治しても、周りの結界弱けりゃ元の木阿弥って事なんだよな?んじゃ、やらざるを得ないよな?ジョロもそう思うだろ?」


「オンッ!」


「ちょっと待って!」


話がまとまりそうな所で、クミコが1回ストップを掛ける。


「男連中は外でやる事あるみたいですけどね。本来しなくちゃいけない事忘れてませんよね?人間は、お金が無いと生活が成り立たないの。今のパパは?お仕事、してないわよね?失業保険と貯めておいた貯金。少しばかりの退職金と、私の編み物をオークションで売ったお金で、この家の生活は成り立っているの。トッチーさんの話も理解した上で、そっちの方も忘れないで下さいね?決して余裕があるわけでは無いんだから。家賃も食費も、電気やガスも、水道だってタダじゃ無いんだから。頭の隅に置いとくだけじゃ無くて、働く事も同じくらい真剣に考えて下さい!……私からは以上!」


クミコからの痛烈な一撃に、ミサオとトッチーが少しうつむいてしまう。


「さて、お説教はこれくらいにして。お昼ご飯、何食べたいか、言ってもらえるとありがたいんだけど。」


微笑みながら言うクミコ。


「ママ……。何か、ごめんな。それと、ありがとさん。……やっぱ、うちの奥さんは、俺にはもったいないくらいの嫁……。」


「はいっ!ママさん!我は又はんばうぐなる物が良いと思うのじゃが!卵の焼いたやつを上に乗せてもらえると尚ありがたいのじゃが!」


「トッチー!今俺が、しみじみ感謝伝えてる所!台無しだからっ!」


「ワフッ!ワフッ!」


「もう、みんなで騒がないっ!」


この家族の居間は、まだ騒がしい。




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