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引っ越したら、土地神様と暮らすことになりました ~求職中に怪異退治を頼まれる家族の話~  作者: 武者小路参丸


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第5話 散歩の途中で

「……やっぱり、納得がいかないっ!」


(バスッ!)


自宅に戻り、その足でシャワーを浴びた今日子が、頭を拭いていたバスタオルを乱暴に、洗濯機へと放り込む。


(カチッ、グゥォオオオ〜〜〜……。)


Tシャツにスウェットという薄着でドライヤーを使う今日子であったが、まだ頭の中はモヤっとしている。


外はまだ寒さが厳しい中ではあるのだが、今日子の実家はそれなりにお金をかけた家であるらしく、薄着姿でもそこまで寒さを感じさせない。


「……あの化け物みたいな生き物は何?長髪の人は何者?隣にいた着ぐるみみたいなのは?何で公園から出られなかったの?……何よりも、あのっ!あの小人のおっさんは?俗に言う精霊とかって、羽根つけた可愛い女の子でしょ?昔、確かにちっちゃなおっさんなんて話あったけど、まさか疲れたおっさんサラリーマン見るとは思わなかったわっ!そんな不思議体験幾つもさせといて、みんないなくなるって、どんだけ私のこと、放置プレイなのよっ!……後でもう1回、見に行ってみるわよ……。」


鏡に映った今日子の目の奥が、怪しく光った様に見える。


「……ちゃん!今日ちゃんったら!朝ご飯、出来てるわよっ!」


「わっ!あ、お母さん!……うん。今終わるから。お父さんは?」


「何言ってるの?昨日から地方の代理店に、新しい建材の話で出張に行ってるじゃない!あなたも聞いてたでしょ?」


「そうだったっけ?忘れてた。」


「ほら、バニーもご飯、待ちくたびれてるわよ?」


「は〜い。すぐ行くね!」


突然そばに現れた母親の小言をを聞きつつ、今日子がドライヤーのコンセントを引き抜き、片付けを済ませてダイニングへと向かう。


「バニーッ!お待たせっ!あら、今日も今日とて可愛いお顔で!シッポもフリフリ!」


足元に居たこの家の飼い犬、パグのバナナに声をかけ、その頭をしばらく撫でた今日子が、ダイニングテーブルのイスへと座り、それに合わせたかのように母親がよそったご飯と味噌汁を目の前へと並べる。


「いただきま〜す。」


「はい、召し上がれ。……ちょっと今日ちゃん、顔、疲れてない?シャワー浴びたのに。」


母親にいつもと違う雰囲気を、すぐに気付かれてしまう今日子。


毎日顔を突き合わせていれば、それもやむを得ない。


「……うん。まぁ、大した話でも無いから。」


本当はとんでもない話なのだが、そのまま伝えた所で、逆に違う心配をされそうで、今日子はさらっとその場を流す。


(あの……ハクビシンだっけ?そのまま放置したけど、平気だったのかな?本当は違うやり方とかあったかな?ま、散歩の時に確認しますかっ!)


焼いた甘鮭と目玉焼きの朝食を終え、少しの間飼い犬のバナナとたわむれた今日子は、ハーネスとリードをつけて、玄関へと向かう。


「お母さ〜ん、行ってきま〜す!」


「車に気を付けてね〜!」


キッチンからの声を背中に受けながら、バナナと一緒に、今日子は朝の散歩へと出かけてゆく。


「バニーちゃん。お姉ちゃんね。今日の朝、走りに行った時に、ヘンテコな事が一杯起きてね?後で通るけど、いつも寄る公園あるじゃない?そこで……。」


「ワフッ!」


「えっ?」


歩きながらバナナに話しかける今日子に対して、バナナが軽く吠えて足を止める。


歩く先に目をやると、登り坂になっている向こう側から、今日子と同じ様に、茶色い犬を連れた夫婦がこちらに向かって下って来ていた。


「ワフッ!ワフッ!」


「ウ〜ワフッ!ワフッ!」


「あ!おはようございますっ!今日はジョロくん、ママだけじゃなく、パパも一緒なんだね〜!良かったね〜!」


茶色い犬は、散歩の時によく見かけるトイ・プードルのワンコ。奥さんの方は、すれ違えばたまに軽く話す感じの仲だが、旦那さんの方はこの日が初対面となる今日子。


「あらっ!バニーちゃんは今日はお姉さんとお散歩?良かったわね〜!おはようございます!ほら、この子がこの前話したバニーちゃんよ?」


「あ〜!……あ、いつもジョロと奥さんが、お世話になってます。たま〜に私も1人で散歩に出る時あるんで、よろしくお願い致します。」


「いえいえ、こちらも母や父が1人で散歩してる時あるんで、気軽に声かけて上げてください。」


ジョロと呼ばれているワンコを連れた夫婦は、見た目で50代位ではないかと、今日子は思っている。女性の方はセミロングの髪型で、薄い茶色に染めた髪。デニムにスニーカーを合わせて、上にダウンジャケットを羽織り、眼鏡をかけて、赤い毛糸の帽子をかぶっている。今日子としては、綺麗だと感じられる、整った顔立ちだと感じている。


男性の方は俗に言う坊主頭だが、短い頭髪の中にも白い色が大分混じった、ごま塩頭と呼ばれる頭髪に見える。


やはり下はデニムとスニーカー、上は色違いのダウンジャケットを着て、口にはマスクをつけている。


「あら〜っ可愛いお顔で!あ、そう!おじちゃん怖くないの!……あの、撫でたりしても、平気ですか?」


「ええ!構いませんよ!この子、人もワンコも大好きなんで!」


男性の言葉に、今日子が優しく応じる。


「はい、ジョロくん!あら、お姉さんのあんよのそば来てくれるの?ありがとうね!ジョロくんは紳士よね〜!」


そばに寄ってきたトイ・プードルに、思わず今日子がしゃがみ込んで頭を撫でる。


ワンコの頭や身体を無心に撫でながら、今日子の心に何故か、かすかな違和感が生まれる。


「あ!何かすみません、お散歩の邪魔しちゃったみたいで!ほらジョロ?ママも動いてあげないと、いつまで経っても動けなくなっちゃうから。じゃ、私たちはこのまま下って行きますんで、また声かけて下さいね!ほら、えと、バニーちゃんっ!バイバイね〜!」


今日子の心の動きに合わせたかの様に、急に男性がその場を慌てて離れようとする。


「そうねぇ。それじゃ、お気を付けて。」


「いえいえ、ジョロくんも気を付けて!ありがとうございます〜!」


今日子と夫婦はここで別れ、互いに逆方向へと歩いてゆく。


「……ちょっと、どうしたの慌てて。取り敢えずは合わせたけど、何かあったの?」


茶色のトイ・プードルを連れた夫婦の妻の方が、夫に声を掛ける。


「……いや、マズったわ。考えりゃあわかる事なんだけどさ。さっき話したじゃん?今日は巻き込まれた女性居たって。……今の人だよ。」


夫の方が片手でこめかみを抑えながら、歩みを進める。


「えっ?バニーちゃんとこの、今のお姉さん?」


「……いや〜、これ、帰ったらトッチーとも話さないと。」


「そうね。何か対策……と言っても、今から引っ越すなんて選択肢もあり得ないし、困ったわねぇ。」


「だろ?別に悪い事何もしてねぇし、俺も頭痛ぇよな。ま、ジョロも今反応ないし、家でテレビでも観てんだろ?家族会議だな。ジョロ、少しペースあげるけど平気か?」


「ワフッ!」


夫婦とトイ・プードルは、先程よりも少しだけ歩くスピードを上げ、家路へと急ぐのであった。

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