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第一話:プロローグ - 過労死と微妙なスキル

意識が浮上すると、そこは真っ白な空間だった。


「え、どこだここ……?」


俺、田中健司は、混乱していた。確か、連日の徹夜作業の末、会社のデスクで意識を失ったはずだ。過労で倒れて、病院にでも運ばれたのだろうか。


《こんにちは、田中健司さん》


頭の中に、透き通るような女性の声が響いた。声のした方を見ると、いつの間にか金色の髪を輝かせた、神々しいほど美しい女性が立っていた。


《わたくしは、世界を管理する女神の一柱です。単刀直入に申し上げます。あなたは、死にました》

「……マジか」


あっさりとした死の宣告に、思わず乾いた笑いが出た。34年間の人生、振り返れば仕事ばかりだったな。彼女もいない、趣味もない。俺の人生、なんだったんだろう。


《あなたの魂は、勤勉で真面目であったと評価されました。つきましては、ささやかながら特典を与え、異世界へ転生する権利を差し上げます》

「異世界……」


最近流行りの小説やアニメでよく聞く単語だ。剣と魔法の世界、というやつか。


《はい。どのような人生を送りたいですか? あなたの願いに応じて、スキルを一つ授けましょう》

「願い、ですか……」


俺は即答した。


「のんびり、穏やかに暮らしたいです。もうあくせく働くのは嫌だ。スローライフってやつがいいです」


《なるほど、承知いたしました。では、あなたの新たな人生が、整然とした穏やかなものになりますように。スキル【自動整理】を授けます》


その瞬間、俺の体は光に包まれた。


「え、【自動整理】? ちょっと待って、それって……」


言い終わる前に、俺の意識は再び遠のいていった。

もっとこう、「剣聖」とか「大賢者」とか、分かりやすく強いやつがあったんじゃないのか……?



次に目を覚ました時、俺は見知らぬ森の中にいた。体は軽く、若返っているようだ。目の前にステータスウィンドウのような半透明の板が浮かんでいる。


名前: ケンタ 種族: 人族ヒューマン 年齢: 18歳 職業: なし スキル: 【自動整理】【アイテムボックス】

「ケンタ、か。まあ、心機一転にはいいか」


それにしても、スキルは本当に【自動整理】と、おまけ程度の【アイテムボックス】だけ。

とりあえず、近くの街を目指して歩き始める。道中、そこらへんに生えている薬草や、食べられそうな木の実を採取しては【アイテムボックス】に放り込んでいった。


半日ほど歩くと、城壁に囲まれた大きな街が見えてきた。


「ここが最初の街か……」


街の門で簡単な手続きを済ませ、中に入る。まずは情報収集と当面の生活費を稼ぐため、冒険者ギルドへと向かった。


ギルドで登録を済ませ、Fランクの冒険者になった俺は、一番簡単そうな「薬草採取」の依頼を受ける。


「まあ、最初はこんなもんだよな」


再び森へ向かい、依頼の薬草を採集していく。ついでに、道中で見つけた他の草や石ころも、ぽいぽいとアイテムボックスに入れていった。


依頼のノルマを達成し、ボックスの中身を確認しようとした時、俺は異変に気づいた。


「あれ……?」


ごちゃ混ぜに入れたはずのアイテムが、種類ごとにきれいに整列しているのだ。薬草は薬草、木の実は木の実、石ころは石ころでまとめられている。


「これが【自動整理】の効果か。まあ、便利っちゃ便利だけど……」


その時、薬草の山の中に、一つだけ違う輝きを放つものがあることに気づいた。


《マナポーションの原料となる、希少な『月光草』です》


頭の中に、まるでゲームの解説のようなアナウンスが響く。


「なんだこれ!?」


どうやら【自動整理】スキルは、ただ物を並べるだけじゃない。アイテムを自動で鑑定し、価値のあるものを見つけ出してくれるらしい。


俺はギルドに戻り、依頼の薬草と、ついでに見つけた『月光草』をカウンターに出した。


「おお、これは珍しい月光草じゃないか!坊主、どこでこれを?」

「えっと、たまたま……」


月光草は高値で買い取られ、俺は初日から銀貨10枚という大金を手に入れた。新人冒行者の一ヶ月分の稼ぎに相当するらしい。


「もしかして……このスキル、ヤバいんじゃないか?」


地味だと思っていたスキルに、とんでもない可能性が秘められていることに、俺は気づき始めていた。

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