幕間3 黒瀬悠真(バーチャルステージ代表)
深夜のオフィス。
ガラス窓に映る自分の顔は、憔悴しきった色を帯びていた。
机の上には、株主総会の資料。赤字に沈む試算表。キャストの稼働率低下を示すグラフ。
「……直樹、お前が抜けた穴は、あまりにも大きすぎる」
バーチャルステージは、創業以来一度も揺らがないと思っていた。
世界有数のV-Tuberプロダクション。上場企業。
だが、表向きの華やかさの裏で、直樹という存在は文字通り「屋台骨」だった。
トップキャスト・水無瀬玲奈の精神的支柱。
若手キャストを伸ばす眼力。
株主やメディアと正面から渡り合い、事業を成長させる胆力。
その全てが、直樹の退任とともに瓦解してしまった。
玲奈は壊れ、長期休養。
その他のキャストも覇気を失い、パフォーマンスは明らかに落ち込んだ。
株主からは「次の成長戦略を示せ」と責め立てられ、SNSには「バーチャルステージはもう終わりか」という書き込みが並ぶ。
――そこに。
「野辺山V-Tuberチャンネル」。
ニュース速報のように届いた記事を見た瞬間、血が逆流するような感覚に襲われた。
画面の中で笑う二人の少女。
その背後には、間違いなく直樹の手腕がある。
彼がプロデュースし、彼が責任を持ち、彼が未来を描いている。
「ふざけるな……!」
拳が無意識に机を叩き、書類が跳ね上がった。
――地方発の“地に足のついたV-Tuber”。
――演者自身が編集も学び、表現を主体的に生み出す。
――収益よりも、地域と人の幸せを第一に掲げる。
それはつまり、今のバーチャルステージが積み重ねてきた「巨大産業としてのV-Tuber」を全否定する言葉だ。
直樹が地方で新しく始めたその仕掛けは、皮肉にもバーチャルステージ自体の現状を「批判」する旗印に見える。
「お前は、俺たちを見捨てただけじゃない……“敵”に回ったんだ」
怒りで喉が焼けるようだった。
彼とは、創業以来の仲間だった。
表に立つのは自分――裏で支え、企画を磨き上げていたのは直樹。
そうやって二人で積み上げてきたものを、彼は自ら振り払い、今は真逆の旗を掲げている。
「株主に顔向けできるか……」
小さく呟く。
次の取締役会は、嵐になるだろう。
市場は冷酷だ。情は一切通用しない。
だが――心の奥底に残るのは、経営者としての恐怖よりも、古い友を裏切られた「個人的な怒り」だった。
「直樹……お前だけは許さない」
握りしめた拳が震えていた。
ガラスに映る自分の顔は、怒りと絶望に歪んでいた。




