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幕間2 佐伯美佳

 夜のオフィス。

 机の上には整理されきれない資料と、冷めたコーヒーが並んでいる。

 私は椅子に深く背を預け、スマホの画面をじっと見つめていた。


 ――野辺山V-Tuberチャンネル、初配信。

 ヤツミとレタにゃん。

 鮮やかな3Dアバター。自然すぎる感情表現。

 そして、背後に透けて見える「プロデュースの手」。


 「……直樹さん」


 低くつぶやくと、胸の奥に苦いものが広がった。


 彼がどれほど追い詰められていたか、私は知っている。

 キャストの涙、株主の要求、社員の不安。

 そのすべてを真正面から抱えて、最後には自分を削ってまで立ち続けた。

 誰もあそこまで誠実にはなれなかった。

 ――だからこそ、私は支えたかった。


にも関わらず直樹さんは株主総会で突如退任を発表して去ってしまった。

 その後、水無瀬玲奈が限界を迎えたときも、会社との調整を私が引き受けた。

 「もう無理をさせられない」と声を上げたのも私だった。

 キャストを励まし、時に叱咤しながら、なんとか回してきた。


 けれど――


 「どうして、何も言ってくれなかったの」


 気づけば唇が震えていた。

 もし本当に別の形を本当に追い求めるというのなら、せめて一言でもいい。

 「一緒に来てくれ」そう言ってほしかった。

 そう言ってくれたら、私はどこへでもついていった。


 なのに。


 画面の中で、無邪気に笑う二人の少女。

 彼女たちの背後には、あの人の影がある。

 優しく、包み込むように見守っている。


 ――あの眼差しを、私は一度も向けられたことがない。


 胸の奥がぎゅっと締め付けられる。

 理性的な理解と、女としての痛みがせめぎ合い、言葉にならない。


 「納得……できない」


 冷静に分析すれば、分かる。

 野辺山で仕掛けたこのプロジェクトは、彼がずっと求めていた「正しい形」だ。

 数字や株主の顔色に追われるのではなく、目の前の人を幸せにする取り組み。

 理屈では分かる。正しいとすら思う。


 だけど――感情が追いつかない。

 ずっと支えてきたのは、私だったのに。

 彼の痛みを理解し、背負おうとしたのは、私だったのに。


 「……裏切られたのは、私だ」


 私の心の奥底でふつふつと煮え立つものは、確かにあった。


 静かにスマホを伏せる。

 窓の外には、都会の夜景が光を放っている。

 だが、私の胸の奥は暗く、重い炎だけが揺らめいていた。


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