幕間1 水無瀬玲奈
深夜、都内のマンションの一室。
暗いリビングのソファに腰を沈め、私はスマホを握りしめたまま、画面に釘付けになっていた。
――野辺山V-Tuberチャンネル。
ヤツミ、レタにゃん。
3Dアバター、フルクオリティ。
そして、あの声、あの進行。
「直樹さん……」
震える声が漏れる。
喉の奥が焼けるように熱い。
ありえない。
ありえない。
ありえない……!
数か月前、彼は突然、株主総会で退任を表明し、そのまま音信不通になった。
私がどれほどメッセージを送り、電話をかけ、家に押しかけても、何の反応も返ってこなかった。
そのたびに胸の奥に空洞が広がり、恐怖で夜も眠れなかった。
――それでも、信じていた。
彼がいなくなって、配信もできなくなった。
看板キャストなのに、もうしばらく、しゃべる事が満足にできないと言って、無理を通して休養させてもらった。「水無瀬玲奈、長期休養」とメディアで騒がれてしまった。
なのに――
「どうして……」
スマホの画面の中で、二人の少女が笑っている。
あどけない声で掛け合い、ぎこちないながらも楽しげにコンクリートを均している。
その背後で、あの人が優しく見守っている。
――私が欲しかったのは、それだったのに。
――私があの人に求め続けていた、温かさだったのに。
胸の奥に黒いものが膨らんでいく。
涙と嗚咽が混ざり合い、思考はただひとつに収束していった。
「ゆるせない……」
声が漏れた瞬間、スマホを握る手に力がこもった。
「ゆるせない、ゆるせない、ゆるせない!」
私がどれほどあの人を愛していたか。
どれほど自分を削ってもついていこうとしたか。
それをすべて無視して、あの人は新しい“居場所”を作り、知らない女の子たちと笑っている。
爪が食い込むほど強く握りしめながら、私は涙でにじむ画面を睨みつけた。
「……絶対に、取り戻す。直樹さんは、私のものだから」
冷たい夜風が窓の隙間から忍び込み、部屋の中の熱を逆に際立たせた。
私の心の奥で、何かが決定的に壊れる音がした。




