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わたくしの王子様はブタ以下なんかじゃありません

作者: 満原こもじ

 俺は王子だよ。

 マルカ王国の第二王子。

 王子って言うと結構な身分に思えるだろ?

 羨ましいと思う者もいるかもしれない。

 ところがそうじゃないんだなあ。


 うちマルカ王国みたいなちっちゃな国には、爵位持ち貴族なんてものがいない。

 王家の他に地域の有力者である豪族や酋長がいるだけ。

 第一王子の兄貴はいいよ?

 王太子だもん、国を継げばいいんだから。


 俺みたいな第二以下の王子はどうすりゃいいかっていうと、婿入り先を自分で見つけにゃならんわけだ。

 つまり個人の人間的魅力がものを言う。

 個人の人間的魅力なんてわかりにくい言い方したけど、イコール外見の良さ、ぶっちゃけ顔だ顔(断言)。


 俺は紛うことなきデブなので、顔は丸い。

 目とかは肉に埋もれている。

 冷静な比較対象として、ブタの方がハンサムまである。

 モテたためしがない。


 人間は顔じゃないだろうって?

 はん、婿入り先ってことは、跡取り娘に気に入られろってことだぞ?

 ブイブイ言わせてる一〇代後半の娘が、ブヒブヒ言ってる男を相手にすると思うか?

 婿入りを狙ってる連中なんて大勢いる。

 俺では足切りラインを通過できないんだわ。


 王家に力がないのかって?

 そういう問題じゃないんだな。

 平和な国ほど自由な恋愛がまかり通るって誰かが言った。

 いいことなんだと思うよ、マルカが平和を謳歌しているのは。

 俺があぶれてるだけ。


 俺に能力がないからあぶれるんだろうって?

 ふざけたこと言うな。

 俺は農作物と香辛料と新料理開発のプロフェッショナルだわ。

 マルカが小さいながらも『食の王国』と呼ばれ、食の聖地になりつつあるのは俺の功績だわ。


 マルカを訪れる観光客はこの五年で五割増えたわ。

 ……でも食のせいで俺の体重も五割増えたけど。

 体重増加前もぽっちゃりだったけど。

 ちょっとは自制しろ?

 飽くなき探究心は俺の長所だわ。

 今後も試食はやめられない。


 国を発展させるほどの重要人物なのにパートナーがいないのかって?

 俺も商売に携わるからわかるんだけどさ。

 相手が魅力を感じていないものを売り込むのは難しいんだわ。

 というか商道徳上、売り手の俺が積極的になれないというか。


 俺だって独り身のままでいいと思ってたわけじゃないんだ。

 可愛い女の子好きだし。

 父陛下に頼んでみたこともあった。


『要するにデイブに嫁を世話しろと、こういうことか』

『ああ』

『確かにそなたはマルカに必要な人材ではある。王家から声をかければ婿入り先を見つけることは可能だろう』

『だったら……』

『よいのか? それで』

『は?』


 いいに決まってるじゃん。

 自分で相手を見つけられないから、頭下げて頼んでるんじゃん。


『つまり王家が下手に出ることになる。権威を下げることになるから、今後何かとやりにくくなるのだが』


 ……俺みたいなブタ(ブタに失礼とか言うな)を押しつけるとなると、相当頭を下げまくらないといけないということか?

 見下されて俺の仕事がやりにくくなるのはかなわんな。


『押しつけた先でデイブが歓迎されるわけではないのだぞ?』


 そうだった。

 婿入りしたって肩身が狭いだけじゃん。


『だったら俺を王家の分家として、嫁を迎えるというのはどうだ?』

『愚策だ。分家を作れば本家の力が削がれる。王家の権威を下げることには変わらんではないか。おまけに何故デイブだけ優遇されるのだと、王家内部に不満を溜め込むことになる』

『……』

『そなたは優秀なのに、この件に関しては全く状況が見えておらんな』

『……』


 ぐうの音も出ないわ。

 あまり考えたことがなかったが、こんなことは過去議論され尽くしてるんだろうな。

 やはり俺が自分で相手を見つけるしかないのか。


 ってなわけで、俺は今日もパーティーに参加する。

 まあ俺は社交が苦手ではないし、むしろパーティーの華やかな雰囲気は好きだ。

 商売ネタが転がってる場合もあるしな。


 お相手の方はどうだってか?

 ……ちょっとくらいは実りを期待したっていいだろ。

 世の中美女と野獣ペアだっているんだから。

 俺は野獣ほど格好良くないだろうって?

 黙ってろ。

 ゲテモノ好きの令嬢がいる可能性だって、コンマどれだけは存在するのだから(だといいな)。


          ◇


 ――――――――――オークボ商会の一人娘セーラ視点。


 今日は王家主催のガーデンパーティーです。

 わたくしも十七歳。

 うちにも招待状が来ましたので、満を持して社交界デビューなのですわ!


「やあ、オークボ商会のお嬢ちゃんですか。何と可愛らしい」

「五年後が楽しみですな」


 五年後……嫁き遅れの年齢です。

 いえ、わかっています。

 わたくしは背もお胸も小さいですものね。

 もっと下の年齢に見られているのでしょう。

 だから少しでも大きくなってからと、デビューを遅らせた経緯がありますから。


 しかし子供扱いされるのはよろしくありません。

 わたくしはオークボ商会の総領娘。

 素敵な旦那様をゲットしなくては。


 可愛らしいのは得じゃないかですって?

 うちは商家ですからね。

 次期当主のわたくしが舐められるのは、まことにもってよろしくないのです。

 家の存続に関わります。

 わたくしの不足を補ってくださる、やり手で立派な殿方がいいのですが……。


「きゃ……」

「失礼、レディ」


 キョロキョロしていたらぶつかってしまいました。

 大きな身体の殿方で、特に気を悪くしてもいらっしゃらないようです。

 心の広い方ですのね。

 そしてわたくしを『お嬢ちゃん』ではなく、『レディ』と仰ってくださいました。

 好感が持てます。


「デイブ殿下。お久しぶりでございます」

「ああ、オークボ商会の」

「こちらはうちの一人娘でセーラ。今日デビューなのです」


 デイブ第二王子殿下!

 名前は存じております。

 まだ二四歳なのに、マルカ王国一の辣腕家とのこと。

 マルカが『食の王国』と呼ばれるようになってきているのは、デイブ殿下の手腕によるそうです。

 何と有能な方なのでしょう!


「初めまして。セーラと申します」

「ハハッ、お美しい。オークボ商会も安泰ですな」


 お美しいですって!

 可愛らしいではなく!

 ああ、デイブ殿下はわかっていらっしゃいますわ!


「では失礼」


 あ、殿下が去ってしまわれました。

 残念ですねえ。


「行こうか。ん? セーラどうした?」

「デイブ殿下は独身でいらっしゃいますよね。決まった相手はおられないのですか?」

「聞いたことがないな。第二王子以下は他家に婿に出るのが王家のならわしなのだが」

「はい、存じております」


 スペアというのは言い方が悪いですが、才能ある第二王子ですと王家でキープしておきたい思惑もあるのでは?


「アラン王太子殿下に二人目の王子が生まれたろう? 血統の保持という意味で、デイブ殿下の王家における重要性は低下している。デイブ殿下も婿入り先を探しているとは聞く」

「でももう二四歳でいらっしゃるのでしょう?」

「よく知っているではないか。殿下もあのなりだろう? 令嬢方に相手にされないらしい」

「まあ、とってもスマートな方ですのに」

「デイブ殿下がスマート? セーラの育て方を間違えたかな……」


 体形の話ではありません。

 物腰が、ですよ。

 お父様ったら、本気で悩まないでくださいな。


「デイブ殿下がオークボ商会の婿、ということはあり得るのでしょうか?」

「えっ?」

「ビビっと来ました。わたくしの伴侶にデイブ殿下がいいと思うのです」

「ええっ?」


 そんなに驚かないでくださいな。

 周りの人が何事かとこっちを見てますよ。


「……王子が商家に婿入りという話はあまり聞かないな。ただデイブ殿下は貿易に関しても大きな影響力を持っているんだ。実現すれば我がオークボ商会にとって、願ってもないことだ。大きな飛躍になり得る」

「ですよね」

「セーラは本気なのか? デイブ殿下はデブだぞ?」


 ストレートな不敬罪ですこと。


「本気です。デイブ殿下は素敵な方です。わたくしは見かけで他人に侮られることが多いですから、殿下のような優秀で立派な風采の方が夫になってくれると嬉しいです」

「その言や善し。急いでデイブ殿下の事情を調査させよう」

「お願いいたします」


 デイブ殿下が誰かに取られませんように。

 そしてわたくしを気に入ってくださいますように。


          ◇


 ――――――――――半月後、デイブ視点。


 何だ何だ?

 オークボ商会の金髪ロリ、セーラ嬢から縁談が来たぞ?

 ああいう子は俺のようなふくよかさん(美辞麗句)を嫌うルールになっているんじゃなかったかな?


 釣書を見ると……えっ?

 あのロリ十七歳なの?

 レディ扱いしてもらったことが嬉しかった?

 ははあ、子供っぽいことがコンプレックスなんだな?


 俺はどんな幼女でも基本レディ呼びだからな。

 言い方を変えるのが面倒とでも、小さい子でも粉をかけておくとでも言えばいいさ。

 実際に芽が出たじゃないか。


 ふむふむ、ちっちゃ可愛いことでバカにされることが多いと。

 ああ、商売においてマウント取られるのは厳禁だよな。

 確かにあのロリは、駆け引きの面では見かけで損しそうだ。

 だから俺を婿に迎えたい?

 俺みたいな圧迫感のあるやつは、商取引でババを引くことはないが……。


 ……思ったよりちゃんとした理由だわ。

 これ本当にオークボ商会の事情じゃなくて、ロリの希望なんだろうな?

 俺はロリっぽい令嬢も嫌いじゃない。

 むしろ好きだ。

 が、ノコノコ顔合わせに出かけていって、嫌がられたら泣くぞ?


 ま、会ってみなければわからんか。


          ◇


 ――――――――――顔合わせ当日、王宮にて。セーラ視点。


「やあ、セーラ嬢。今日も美しいね」


 はちきれそうなボディのデイブ殿下がいらっしゃいましたわ。

 ああ、爽やかな微笑ですわ。

 とても素敵です。


「お目にかかれて嬉しいですわ、殿下」

「それで今日の用向きなのだが」

「はい、わたくしの夫になってもらいたいのです」


 頭からガツンとかましてみました。

 もちろんそのための顔合わせなのですから、デイブ殿下も当然わかっていらっしゃるとは思います。

 でもあえてわたくしの意思をハッキリ表してみました。

 本気度が伝わるのではないでしょうか?


 デイブ殿下は交渉上手のやり手ですからね。

 つまらない駆け引きは……あら? どうしたのでしょう?

 殿下が困惑気味ではないですか。

 あ……。


「あの、やはり商家の婿というのは、殿下にとって受け入れがたいものでしたでしょうか? もしそうでしたら申し訳ありませんでした」

「いや、商家の婿に文句などあろうはずがない。しかし、セーラ嬢はいいのだろうか?」

「は?」


 全然わたくしの本気が伝わっていない?

 何故でしょう?


「俺はぷっくりだろう?」

「大変な余裕を感じさせますよね。わたくしから見ると羨ましいです」

「ハハッ、褒めてくれるのはセーラ嬢だけだ。令嬢ウケは全くよろしくない」


 お父様も似たようなことを言っていましたね。

 大柄なのはそれだけで頼もしいですのに。


 ……これは婉曲な断りなのでしょうか?

 御自分の体形を理由にして?

 わたくしが気に入られていないのでしょうか?

 ミニマムサイズが呪わしいです。


「……わたくしもお子様体形です。殿下の好みに合わないということならば、ハッキリ仰ってくださいませ」

「失礼」


 ふわっとお姫様抱っこされました。

 わあ、すごい安定感です。

 デイブ殿下力持ち!


「セーラ嬢が俺の好みに合わないなどということがあるものか」

「では、わたくしは受け入れてもらえるのですか?」

「無論だ。俺の方からセーラ嬢を拒絶することなどない」


 断じる様が格好よろしいですねえ。


「むしろセーラ嬢の方こそいいのか。俺はデブだぞ」

「デイブ殿下がよいのです。理想です」

「ハハッ、セーラ嬢は見る目があるな」

「婚約成立でよろしいのですね?」

「もちろんだ」


 やりました!

 素敵な婚約者をゲットです!

 デイブ殿下が喜んでいるお父様に声をかけます。


「少々セーラ嬢をお借りする。王宮庭のアザレアが見頃なんだ」

「どうぞごゆっくり」


 お姫様抱っこのまま王宮庭へ。

 うふふ、幸せですねえ。

 とっても安心感があります。


 ふとデイブ殿下と目が合いました。

 さっと目を逸らす、シャイなところも好き。


          ◇


 ――――――――――一年後、デイブ視点。


 オークボ商会を使えると、俺の手の及ぶ範囲を増やせる。

 都合がいいな。

 荒地を開墾し、大規模農業を開始した。

 いや、これまでもやってたことなんだが、より規模を大きくしたということだ。


 またオークボの伝手で、熱帯の国々から香辛料を直接輸入することができるようになった。

 これまで仲買がぼったくっていやがったから、実にありがたい。

 熱帯諸国とのパイプが太くなるのは、マルカ王国にとってもオークボ商会にもいいことだ。


 セーラ?

 可憐だな。

 本人は可愛い扱いされたくないらしいが、メチャクチャ可愛い。

 可愛いと言うとぷくっと膨れるところも可愛い。

 俺だけには可愛がられろ。

 代わりにセーラを甘く見るやつは、俺が容赦しないから。


 可愛いって悪くないわ。

 交渉で不利なことばかりでもないと理解した。

 セーラを商談に連れていくと、デレっとするやつもいるのだ。

 セーラの飴と俺のムチで結構捗る。


 そう言えばセーラはパンツを穿くようになった。

 俺の肩車を気に入ったからだ。

 視点が高いのがいいらしくて、得意そうにしているのが微笑ましい。


 セーラの望むことは何でもしてやりたい。

 セーラは俺に未来への道筋をくれた女神であり、俺とともに今後を歩む伴侶であるから。


 今年中には結婚だ。

 何が言いたいかというと、俺はセーラを愛しているってことだ。

 以上。

 『セーラはパンツを穿くようになった』で今までノーパンだったの? と思った人は男性読者だというトラップを仕掛けてみました。

 書き手の密かな楽しみ(笑)。


 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 どう思われたか↓の★~★★★★★の段階で評価していただけると、励みにも参考にもなります。

 よろしくお願いいたします。

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デイブいつから太り始めたのだろう…二十歳くらいからかな、その前もそれなりに太ってた? いえね、男女問わず二十歳過ぎてから(特に25過ぎてから)10キロ以上太ると40過ぎてから筋肉、50過ぎてから骨にく…
そんな罠に引っかかる前にデイブがオークボ商会に婿入りで笑わせていただきました。 彼はこの後ライオンな国とか巨人な国とか黄金鷲な国を冒険するのでしょうか? 期待してます。
デブがモテる地域や時代や個人の好みもあるので、デイブ王子がモテない理由にやや首傾げと言うか、ルッキズム強いなこの国って感じでしたね 不潔なデブは豚に劣りますが、ちゃんとしたデブは豚並に親しみある気がし…
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