森の恵みと見えざる足跡
森の中を進む俺の足取りは、先ほどまでとは見違えるほど軽かった。体が、この新たな容姿に順応しているかのように感じる。金髪の髪は、木漏れ日を受けて輝いていた。
「灰燼創造……」
呟くと、掌から微細な灰色の粒子が立ち上る。意識を集中させると、粒子はまるで生きているかのように形を変え、やがて掌の中に小さな石が現れた。試しにそれを握りつぶすと、再び粒子に戻り、今度は木の実へと変化した。
この力は、想像以上に凄まじい。前世では何もできなかった俺が、文字通り無から有を生み出せる。これは、本当に俺が望んだ「何者にも差別されない力強い存在」への第一歩なのかもしれない。
とりあえず、水と食料を確保しなければ。水たまりの水を直接飲むのは抵抗がある。そこで、灰色の粒子を使って、水たまりの水をろ過するフィルターのようなものを作ってみた。粒子を透過した水は、驚くほど澄んでいた。恐る恐る飲んでみると、何の臭みもなく、純粋な水の味がした。
食料も同様だ。森の中には食べられそうな木の実や植物もいくつか見つかったが、毒の判別ができない。そこで、手元にある土や小石を「灰燼創造」で分解し、無毒の果物や穀物に再構築する実験を繰り返した。何度かの失敗の後、甘くて瑞々しいリンゴのようなものができた時は、思わず歓声を上げてしまった。
この森は、俺が知る日本の森とは明らかに違っていた。木々は空高く伸び、見たことのない奇妙な花々が咲き乱れている。鳥の声も、今まで聞いたことのないような美しい鳴き声だ。これは、本当に別の世界なのだろう。
歩き続けていると、地面に小さな足跡がいくつも残されているのを見つけた。獣の足跡とは違う。もう少し、人のそれに近いが、微妙に形が異なる。
「誰かいるのか?」
警戒しながら、足跡を追って森の奥へと進む。しばらく行くと、不意に、草むらの向こうから話し声が聞こえてきた。複数の声だ。しかも、日本語ではない。耳慣れない言語だが、なぜか不思議と意味が理解できる。まるで、最初からその言語を知っていたかのように。
「……そろそろ、今日の成果をギルドに届けに行くか?」
「ああ、そうだな。あまり遅くなると、門が閉まってしまう」
その声の主たちは、どうやらこの世界の住人らしい。もしかしたら、この世界に関する情報を得られるかもしれない。俺は物陰に隠れ、彼らの様子を伺った。
現れたのは、三人の男だった。一人はがっしりとした体格で、大きな斧を背負っている。もう一人は細身で、軽装に短剣を腰に下げていた。そして最後の一人は、ローブをまとった魔法使いのような格好だ。皆、見慣れない民族衣装を身につけていた。
彼らは、森で採取したらしい薬草のようなものを袋に詰めている。どうやら、冒険者か何かだろう。
彼らが談笑しながら立ち去っていくのを見送った後、俺は物陰から姿を現した。彼らが話していた「ギルド」と「門」という言葉が気になった。どうやら、近くに人里があるらしい。
俺は再び、足跡を追って歩き始めた。今度は、彼らの足跡だ。やがて、森の木々がまばらになり、視界が開けた。
目の前に広がっていたのは、石造りの巨大な壁に囲まれた街だった。荘厳な門がそびえ立ち、その手前には、いくつもの荷馬車が行き交っている。
「……街だ」
思わず感嘆の声が漏れた。中世ヨーロッパの城塞都市を思わせるその景観は、ゲームや映画でしか見たことのないものだ。
しかし、門をくぐろうとした時、俺の前に屈強な衛兵が立ちはだかった。
「おい、そこのお前。どこから来た? 入市許可証は持っているのか?」
衛兵は、見るからに不審者である俺に厳しい目を向けてきた。確かに、異世界から来たと言っても、何の証明もない。身なりも森をさまよっていたため、多少汚れている。
「あ、あの……俺は、旅の者でして、その……」
しどろもどろになる俺を見て、衛兵は露骨に顔をしかめた。その表情は、前世で「ガイジン」と呼ばれた時の、あの冷たい視線と重なった。
「許可証も持たずに街に入ろうとはな。怪しい奴め。まさか、最近出没している魔物の手先か?」
衛兵は、剣の柄に手をかけた。魔物? まさか、この世界の人間にとって、俺のような存在が「魔物」と認識されるのか?
焦りが募る。もしここで捕まれば、どんな目に遭うかわからない。前世の二の舞だけは避けたい。
その時、脳裏に声が響いた。
「貴方には、望んだ姿に、そして力に、なる自由がある」
望んだ姿……。
俺は、衛兵の冷たい視線を受け止めながら、静かに、そしてゆっくりと、自分の金髪に触れた。
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