03話:姫川と一緒にバイト先の事務所に行こうとすると
日曜日の午前。
「ふぁあ……ふぅ」
俺は大きく欠伸をしながら外を歩いていた。今日はこれからファミレスのバイトがある。
だから今はファミレスに向かって歩いて行ってる途中なんだけど、でも昨日も夜遅くまでレポート課題をしてたから寝るのがかなり遅くなってしまった。そのせいで今日も朝からずっと欠伸が全然止まらなかった。
(理工学部は実験とか研究とかが沢山あるから、レポート課題も沢山あってしんどいな……)
という事でここ数日間は毎日のようにレポート課題に追われていたため寝不足状態になっていた。まぁでも眠くてもバイトはしっかりと頑張らなきゃだよなぁ……。
「あ、せんぱーい。おはようございますー!」
「ふぁああ……ん? あぁ、姫川か。おはよっす」
そんな大きい欠伸をしながらトボトボと歩いていると突然後ろから声をかけられていった。なので俺は後ろを振り返ってみるとそこには姫川が立っていた。
「先輩は今からバイトですかー?」
「あぁ、そうだよ。姫川も今日はバイトなのか?」
「いえ、私は違いますよー。買い物に行くついでに来月のシフト表がもう出来たかなと思って、ちょっとそれを確認しに行く感じです。という事で私も一緒にバイト先に行っていいですか?」
「あぁ、なるほどな。もちろん良いぞ。ふぁあ……」
ファミレスのバイトのシフトは毎月下旬頃になると店長が来月のシフト表が事務所に貼り出すので、そのシフト表を各自で確認するというやり方だった。
という事で姫川はそのシフト表を確認するために今からバイト先に向かうようなので、せっかくだから姫川と一緒にバイト先のファミレスに向かう事になった。
「それにしても先輩はさっきからずっと大きな欠伸してますねー。もしかして昨日は夜更かししちゃったんですか?」
「ん? あぁ、まぁそうだな」
「へぇ、そうなんですか。でも夜遅くまで起きて一体何をしてたんですか? あ、もしかして……ふふ、深夜にえっちぃ番組でも見てたんですかね?」
「ふぁあ……って、は、はぁ?」
「あはは、良いんですよ先輩。そんな無理に誤魔化さなくても。先輩だって男の子なんですからそういうえっちぃ事に興味あるくらいわかってますよー。でもバイトがある前日くらいはそういうえっちぃ番組を見るのは――」
「全然違うわ」
「あいたっ!」
―― ピシンッ
矢継ぎ早にそんな事を言ってくる姫川に対して、俺は全然違うと言っていつも通り軽くデコピンをしていった。
「も、もう、先輩! そうやって女の子に対してデコピンをするなんて良くないですよ! 体罰反対です!」
「思いっきり暴走してくる後輩を窘めるための教育的指導だよ。だから全然問題無いね。って、やべっ……こんなしょうもない話してたらもうファミレスについちまったじゃねぇか……」
「あはは、可愛い後輩と楽しく歩いてたからあっという間に着いちゃったって気持ちですかね? ふふ、まぁでもしょうがないですよ! だって私は最強に可愛いですしね!」
「ちげぇよ。バイト前にコンビニに行ってペットボトルのコーヒーを買ってくつもりだったんだよ。お前と話してたら買うのすっかり忘れたわ……はぁ、まぁいいや。それじゃあさっさと事務所行くぞ。そんで来月のシフト表確認したらさっさと帰れ」
「ちぇー、先輩は相変わらず塩対応だなー。こんな可愛い彩ちゃんと話せる男子なんて私の大学にはいないですよー? だからもっと私と話せる事を嬉しいって思って欲しいなー」
「はいはい、わかったわかった。ほら、さっさと事務所行くぞ」
そんな軽口を叩いてくる姫川の事を軽く受け流しながら、俺は先に事務所の方に向かって行った。
「はいはい、わかりましたよー。あ、それじゃあシフト表確認し終えたら私、コンビニに行ってペットボトルのコーヒーを買ってきてあげましょうか? 先輩はその間に着替えておけば良いんじゃないかな?」
「え? マジで? それは普通にめっちゃ有難いけど……でもどうしたよ? お前がそんな優しい事を急に言うなんて?」
「いやいや、いっつも私優しいでしょ! もうそんな酷い事を言うんだったら……ふふん、それじゃあ先輩にコーヒーを買ってきてあげる代わりに、私にもジュースを奢って貰いますからね! というか可愛い後輩にジュース奢るのは基本中の基本ですよねー??」
「何だよそのよくわからん理論は? まぁ別にジュースくらいなら幾らでも奢ってやるけどさ……って、ん?」
「ん? どうしました? ……って、あ」
ファミレスの事務所に向かっていたその時、事務所のドア前までやって来た俺は一瞬止まった。何故なら事務所の中から大きな声が聞こえてきたからだ。
事務所のドアは完全に締まってるのに声が聞こえてくるって事は、かなり大きな声で話してるという事だ。そして事務所の中でどんな事が話されてるのかというと……。
『いやー、それにしても姫川ちゃんってマジで可愛すぎだよなー!』
『あはは、マジでそれなー! あんな可愛い子と同じバイト先とかマジでラッキーだな!』
事務所の中からは二人の男性の声が聞こえて来た。それは同じファミレスのバイト仲間である高岸先輩と峰先輩だった。
二人とも大学三年生で見た目はかなりチャラ男系の先輩だ。先輩達曰く毎日のように女の子と遊んでるらしく、いつもバイトの休憩時間には女の子との夜遊びトークとかエロトークを自慢げに語ってきていた。
まぁその説明だけでわかると思うけどかなりメンドクサいタイプのチャラ男系なお兄さん方だった。俺も今までに何度もそんな女の子達と遊んだという自慢トークやエロトークを聞かされてきたしな。
そしてそんなチャラ男先輩の二人組はバイト仲間である姫川の話題で盛り上がっているようだ。という事はつまり……。
『いやマジでラッキーだよな! 姫川ちゃんってめっちゃ可愛いしスタイルも抜群だしマジで言う事ねぇよなー! マジあんな可愛い子とセックスしてぇ!!』
『あはは、めっちゃド直球じゃん! いや俺だってあんな上玉とガチでセックスしてぇけど! さらに欲を言えばめっちゃフェラとかして貰いてぇ!!』
『ぷはは、オメェの方がド直球じゃねぇかよ!! それじゃあ俺は姫川ちゃんにイラマさせてぇな!!』
『ぎゃはは! イラマとかド変態過ぎだろオメェ!!』
という事で案の定、高岸先輩と峰先輩は姫川を題材にして超ド直球な猥談で盛り上がりまくっていた。事務所前の廊下には当の本人がいるというのにな……。
「……」
そして当の本人はというとその話を聞いて物凄く辛そうな表情をしていた。そりゃあそうだ。自分の事をそんな風に言われるなんて嫌に決まってる。
「あのエロ猿先輩共は学習しねぇな。はぁ、全く……とりあえずお前はちょっと後ろで待機しとけ」
「……えっ? せ、先輩……?」
という事で俺は辛そうな表情をしている姫川にそう言っていった。そして俺はそのまますぐに……。
―― ガチャッ!
「おざっすー」
「ん? おう、鮫島じゃん。お疲れ」
「鮫島、お疲れっすー」
「はい、お疲れさまっすー。ってか先輩達の声、外までめっちゃ大きく響いてましたよ。こんな朝っぱらから何最低な猥談してるんすか??」
「え……って、えぇっ!? マ、マジで!? 俺達の声って廊下にも聞こえてたのかよ!?」
「えっ!? マ、マジで!? い、いや、でも流石に全部が聞こえてた訳じゃないよな……?」
「いやもう余裕で全部バッチリと聞こえてきましたよ。峰先輩にイラマ趣味があるとか女子が聞いてたらガチでドン引きしたと思うっすよ。ってかバイト仲間を使ってエロトークしてる時点で相当ヤバイっすよ」
「う、うわっ!? バッチリと全部聞かれてるじゃん!? た、頼む鮫島! 今の話はバイトの女子達には黙っておいてくれ!!」
「そりゃもちろん黙っておきますよ。でもこれからはそういう猥談はせめて自分の家とかそういうクローズな場所でやってくださいよ。それとバイトの女子達の事をそういうエロい目で見たりするのは止めてあげてくださいよ。はぁ、全くもう……」
俺はそんな事を言っていきながらすぐにスマホを取り出して姫川にLIMEを送っていった。
鮫島:シフト表は後で俺が確認して写真撮ってお前に送ってやるよ。だから今日はこのままもう帰っとけ。エロ猿先輩達には俺からしっかりと注意しておくから。ジュース奢るのはまた今度な。
姫川:はい。わかりました。ありがとうございます、先輩。
俺は姫川にそんなメッセージを送っていき、廊下に待機させていた姫川をすぐに帰らせてあげていった。
そしてそれから俺はまた先輩達に向かってちょっと強めのトーンで事務所で猥談をするんじゃないと全力で注意をしていった。これでちゃんと反省してくれればいいんだけどな。
はぁ、全くもう……それにしても朝っぱらから変な事件に遭遇してしまったな。