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俺を勇者にしたいなら、お前が魔王になってくれ!  作者: 佐藤せうゆ
第一章 はじめての臨時パーティ
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1-6 回答

 そんなこんなで校舎裏に来た俺は、エヴェリンからとんでもない提案をされた。


「お願い! 私を助けるために、勇者になって! そのために一緒に暮らそう!」

 碧い瞳を俺に向けて懇願してくる。エヴェリンが動くたび、漆黒の髪が揺れる。その見た目の全てが俺を惑わす。


 いくら対応策を考えたところで、切り抜ける方法は浮かばない。俺は頭を抱えた。

 大体こんなところで将来を勝手に決められたくはない。はずだ。あまり明確に自信を持って言い切れないが。


「……勇者になればいいってだけなら、なんで俺なんだ?」

「別にまがい物の勇者がほしいわけじゃないよ。確かに血筋ってだけならいっぱいいたし、候補は他にもいた。でもね、勇者としての教育を受けてたのはあなただけだったの。それに性格的にも信用できる人ってなると、もう他じゃ相手にならなかった」

「性格って……お前が俺のことどれだけ知ってるっていうんだ」

「ずっと監視してたって言ったよね?」

 俺は溜息をついた。いったいどこからどこまで監視されてたんだ。長い事監視してたのならそりゃ知ってる人扱いにもなるし、俺のことを大抵はわかっているんだろう。


 パートナー契約は諸刃の剣だ。いろいろ特典を得られるとはいえ、契約解除すれば悪評が撒かれ、学校にとても居られなくなる。契約の破棄をした者には厳しいし、見る目がなかったということが周知に晒される。

 それをこいつは簡単で当然のことのように言ってくる。ここで将来を決めてしまえと。

 実際その提案は魅力的だった。相手がエヴェリンであることはでかい。だからこそ見合ってない。それに。


 たぶんエヴェリンは何かを隠している。助けるためって何だ?

「俺は、お前のことを何も知らない」

「それは、これから知っていけばいいじゃない?」

「それはそうなんだが……。とにかく、知らないままではハイともイイエとも返せないよ。いくつか質問には答えてくれないか?」

「……どうぞ」


 エヴェリンは仕方なさそうに上目遣いでこちらを見た。そういう端々の行動だけで、俺は耐性なくドキドキしてしまう。ああもう目を閉じて喋ればいいのか?


「監視していたと言ったし、俺と同種の魔法も使う。俺のことばっかり知られてて不公平だ。お前は何者だ」

「大方あなたが予想している通りじゃないかな。でも私もあまりおおっぴらにしたくないから、一緒に暮らして仲良くなったら教えるってことで、どうかな?」

 答えないか。ごもっともだ。俺も自分が勇者の血筋だとか言いたくはない。もう既にバレてるようだが。


 彼女の口振りからすれば、勇者の血筋について詳しくて、監視を行えるほど権力のある存在。そんなもの一つしか思いつかないが……。まさかなあ。


「じゃあいい。次。勇者になれって、具体的にはどういうことだ? 勇者ランク一位になれってことか?」

「まあそれもあるんだけど、名実ともに勇者になってほしいかな。今の形骸化された勇者ってだけじゃなくて、力も両方備えてほしい。あなたのご先祖と同じようなものって言えばいいかな?」

「それは……大変な話だな」


 先祖のことは家で散々教えられてきた。その力、功績。そしてその後、排除されたということまで。

 学校で勇者の話題になる度、俺は歯がゆい想いをしてきた。勇者の偉業も何故いなくなったかも何も教えてくれないし、それが間違っているということを訴えたところで、証拠が出せないし、誰も信じない。


 いまの時代の勇者に、特殊な力なんてものはない。ただの称号でしかないし、この学校で与えられるのもただの栄誉だけだ。そうして矮小化することで、過去の勇者も大した事のない存在だと思わせてるんじゃないかとすら思ってしまう。

 勇者が何かなんてのは、俺にとっても頭の痛い話題だったことを思い返された。仕方なく次の質問をすることにする。


「じゃあ助けるためにってのは、なんなんだ? 俺が勇者になればどうしてお前を助けられる」

「私が何者かってのを言わないとダメだから答えられない」

 なるほど。まあ彼女の家系とかに関する話ってことだろう。勇者が必要な家系ねえ。彼女の種族がなんであれ、政治的な話題になりそうな気配を感じるな。


「なら次だ。パートナー契約するってことは、同棲することはわかってるよな? 俺に何かされる可能性とかは考えてないのか?」

「だって、できないでしょ? 今こうして警告までする人が」


 そう言われたらぐうの音も出ない。確かに俺はどう足掻いても手を出すことはできないだろう。同意がない限りではあるんだが、そんな未来がくるとも思えないしなあ。


「それはわかんないぞ。二人きりになったら突然襲いかかった上に、勇者になったりせずに逃げ回るかもしれないじゃないか」

「大丈夫、絶対逃さないから。逆にそれだけの努力をする覚悟が足りてないから私の心配してくれてるのかなー?」


 エヴェリンはそう言うと、俺を上目遣いで見つめてニヤリと笑う。


 彼女が俺に求めているのは、そんなただの恋愛相手なんていう下世話なものじゃない。勇者になることだ。

 そうだ。この差し伸べられた手を取れば、その願いを叶える責務が発生する。勉学にも学生生活にも、一切の妥協が許されなくなるってことだ。でもそれは望むところではある。


「俺だって勇者になりたくないわけじゃない。なんだかんだで機会が得られるってなら、やれることはやっておきたいかな」

「そっか。それはよかった。逃げ腰じゃないんだね」

「それはともかく、まるで襲われても構わないみたいに聞こえたな」

「そういう関係になるかもってことは覚悟してるよ。私の人生のために、あなたの人生を賭けさせようとしているんだから、私の人生の残りの部分くらい、要求されれば渡しても仕方ないかなって」

 エヴェリンはそう言うと俺に微笑みかけてくる。その笑顔が眩しくて俺は目をそらす。


 エヴェリンは見た目もいいし、才能に溢れてるし、家柄もまあ……故郷では悪くないんだろう。なんの文句もないが、同棲相手を決めるってそういう、社会性だけの問題じゃないよな?


 結婚は人生の墓場だとか言うつもりはないが、ハズレくじを引いてはこの先の人生が死んだも同然となる。

 彼女と仲良くしていけるのか? 彼女に人生を賭けれるのか? 少なくとも俺はまだ判断できない。


 俺の覚悟に関わらず、彼女の方は俺に人生を賭けると言っている。子供っぽいなと思ってしまい、俺はため息を付いた。


「将来のことをそんな簡単に決めちゃだめだぞ。人生は長いんだし、いつか後悔する日が来るかもしれないんだ。後悔してからじゃ戻ってこないんだぞ」

「そうかなあ? 私は何もしないで後悔する方がよっぽど怖いよ。大丈夫、簡単に襲われたりはしないから。今は私の方が強いしね?」


 言ってエヴェリンは一瞬だけ詠唱し、手の上に光の玉を出し、消す。


 見覚えのある光の玉。おそらくさっき迷宮で散々使っていた、光線を放つやつ。


 それを見て俺も納得せざるを得ない。あれを対人で使われればどうにもならない。治療魔法も使えるエヴェリンがどの程度手加減してくれるかは想像つかない。


「それもそうか。俺じゃ敵うわけがないな」

 俺の導き出した答えに、なんだかエヴェリンは満足そうだった。


「それで、もうそろそろいいでしょ? あまり時間がないから結論を教えて」

「時間がないって……。そんなにか?」

「だって学務課が閉まっちゃうじゃない」

「今日手続きするのかよ!」

「そうだよ。いろいろと時間がないんだもの。仕方ないでしょ? きっと誰かが落ちこぼれちゃったせいじゃないかなぁ?」

「それはその、すまん」


 言われてみれば、俺が腐っていたせいでエヴェリンがこんな手段に出ざるを得なくなったんだ。急いでる部分に関しては俺が悪いって面もなくはない。

 この自ら落ちた沼から救い出してくれるっていうだけでも、差し伸べられた手に縋り付くべきじゃないか。ましてやそれがエヴェリンみたいな可愛い子だ、なんてことはそう何度も訪れないだろう。


 お互い好意がなかろうと、騙しているかのようになろうと、必要だと言ってくれる相手がいるだけでいいじゃないか。それに俺の学業の状態はハッキリ言ってよろしくはない。これをなんとかするチャンスだ。この機を逃したら、二度目はないぞ!

 俺はなんとか考えをまとめあげる。


 いいんだな。覚悟を決めろ。

 俺は深呼吸して、心を落ち着けてから、口を開く。


「わかった。お前の計画に乗ってやる。勇者にでもなんでもなってやるよ」

「ほんと!? 信じていい? 何にでもなってくれるの?」

「いや、それは言葉の綾っていうか。まあできるだけ努力はしてみるよ」


 エヴェリンは俺の言葉に、ニヤニヤしながら見つめてくる。


「じゃ、いこっか?」


「行くって……学務課に?」

「そうだよ。パートナー契約届けを出さないとね。初めての共同作業ってやつ」


 そう言ってエヴェリンは足早に歩き始めた。俺は慌ててついていく。校舎裏から出て、学内の大通りへ向かっていく。


「でもさ、そんなに猶予がないっていうなら、今日俺に迷宮で会えなかったらどうするつもりだったんだ?」


「だから、監視していたって言ったでしょ?」


 そう言ってエヴェリンはニヤリと笑った。


 前言撤回しよう。ストーカーだけはだめだろう。

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