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俺を勇者にしたいなら、お前が魔王になってくれ!  作者: 佐藤せうゆ
第一章 はじめての臨時パーティ
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1-5 一時の別れ

 階層ボスの部屋の扉を開ければ、そこには階段がある。

 階段を降りている間、エヴェリンが何か遅れてメモを取ってるのが見えた。危ないぞと注意したがそれでも止めようとはしてくれず、諦めて先行するルナとハルディスに歩調を合わせる。


 階段は魔物が沸かない安全なスペースだ。学園側で何かしているらしいと聞くが、本当のところは定かではない。大体魔道具で何かしてあるなら見えるところに置くだろうに、ここには真っ直ぐ続く階段しかない。まあ階層によっては螺旋だったり違いはあるんだが。


 そういえば俺の疲労感はいつしかなくなっていた。なんだろう、エヴェリンに何か魔法をかけられたが、あれが影響してるんだろうか。

 やがて折り返しのない長い階段が終わり、俺らは九階へたどり着いた。


 階段の一番下の段付に座ってる休憩している二人組の生徒に出会い、軽く会釈する。男女のカップルか。羨ましい。いや、爆発しろ。

 新しい階層についた場合はまずやるべきことがある。階段前に設置されている魔道具を使って、学生証に到達階を記録することだ。俺はもうこの階には来たことがあるから不要だが、ルナとハルディスはそうではないと言っていた。だからそそくさと部屋中央にある松明に向かっていく。その青い光を放つ松明が階段前広場での魔物避けの中心であり、階層記録を付けてくれる魔道具でもある。階層の記録があれば、迷宮入口の転送装置からここまで転送してもらえるようになる。


「ねえねえ、さっきの人たち、パートナー契約者かな?」

「パートナー? そんなのやる奴、本当にいるのかね」

 階層記録待ちが余程暇なのか、世間話を始めたルナにハルディスが答える。


 パートナー契約。この学校のおかしなシステムの一つだ。

 学内で迷宮探索のためにパーティーを組むことが推奨されている。パーティーは最大四人までと決められていて、それを逸脱したり、複数パーティーでの同時行動をするとペナルティがある、らしい。経験点が手に入らないとか、魔物の方が寄ってくるとか、いろいろ説はあるものの真偽を確かめてはいない。調べようにも友達がいないからな。

 ただ四人固定でパーティーを組むことはあまり推奨してはいない。最も勧められているのは、二人組をつくることだ。パーティーに空きを作って様々な人と交流しろ、と言われている。

 その二人組みを宣誓することがパートナー契約だ。生徒はそれぞれ生まれた国が異なるから、異文化との交流も目的とされているからだとかなんとか。


 特筆すべきは、何故か異性としか契約することができないことだろうか。

 パートナー契約をすれば、いろいろな特典が得られる。例えば、経験点の分配ができたり、二人で関わって得た経験点は割増しがされる。ペーパーテストでの点数評価を分け与えることができたりもする。

 極めつけは専用の寮に部屋が与えられること。つまりは男女で同棲しろってことだ。つくづく羨ましい。

 まあ女子どころか男子とすら交流のない俺には全く縁のないシステムだ。せいぜい恋愛にかまけて色ボケして、成績を落としていくがいいさ。リア充は爆発四散してしまえ。


「各学年に数カップルずつはいるみたいだよ。羨ましいよねー」

「大体男を漁りにこの学校に来てるわけじゃないだろ。そんなんしてないで経験点でも稼いでればいいのに」

 そうだそうだ。ハルディスの意見に俺も賛成だぞ。


「そ、そうかな。意外といろいろ稼ぎやすくなったりも、するんじゃないかな」

 急にエヴェリンが会話に割って入る。この優等生様がそういう話に興味あるとは、意外だな。

「たとえばー?」

 ハルディスに問われて、エヴェリンは一瞬たじろぐ。ルナも面白そうにそれを見つめる。


「ほら、一緒に勉強して不得意な分野を補い合ったりとか、一緒に暮らしていたらいろいろ見えなかったものが見えたり、頑張れなかったことも頑張れるようになったりするんじゃないかな? そう思うよね? ユウトくん?」

「なんで俺に同意を求めるんだよ……。まあ、勉強教え合ったりとかは羨ましいかもなあ」

「だ、だよね! よかった」

 なんだか慌てているエヴェリンを見て俺が不思議に思っていると、なにやら冷めた視線をハルディスから向けられた。何故俺を見る。


「ふーん。俗物的だねえ」

「応援するよ! エヴェちゃん!」

「な、何を!?」

 なんだか目を輝かせているルナに、エヴェリンは狼狽えていた。何を応援するんだかな。


「さて、俺はさっきの戦闘で疲れたから、そろそろおいとまさせて貰いたいかな。さっきも言ったけど、すぐにでも休みたい。今日はもう限界だ」

 俺はそういうと、タイミングよく欠伸が出た。そろそろ戦闘時の興奮が冷めてきて眠さに変わってきたんだろう。

 その様子を見て、三人は目を合わせた。

「うん。きりが良いから、私もここまでかなって思ってたところ。ルナもハルもいいかな?」

「もう十分進んだからいいと思うよ。それに私らは連れてきてもらってる身だから、無理は言えないよ」

 ハルディスが答える。皆の視線がルナに向かう。

「わたしも休みたい。なんか変なのと戦ったしさ。アレほんとにエリアボスじゃないんだよね?」

「たぶんな。俺が前戦ったやつは鎧着た骨の奴だった。手下を召喚してくるような。めんどくさい相手だったけどもっと弱かったよ」

「私のときもそうだったかな……? すぐ倒してたからあまり覚えてない」

「ランカー様は違うねぇ……」

 俺の嫌味に、エヴェリンは少しムッとした顔をする。

「別に。記憶力がよくないだけだもの」

「成績いいやつに言われると俺が惨めになる。やめてくれ」


 気の抜けた会話をしていると、ルナの視線が気になった。俺の方を見ているが、別な何かを見ているようだ。

 俺がその視線に気づいたことがわかると、ルナは口を開く。

「それ、持ってて本当に大丈夫? ちゃんと鑑定に出してよね?」

 ああ、ゴーレムのコアだった刀か。納得した。

 俺は少しそれを持ち上げて眺める。別に模様が光ったりはしていないし、魔力も切れたままなのか、宝石が輝いたりはしない。

「ああ……。するよ。でもまあ、浅層階だし詳しく調べられたりはしないだろうなあ」


 迷宮で拾ったものは一度取得を報告する必要がある。提出すれば、その物品の希少さや使い勝手やらを鑑定され、それを考慮した経験点が貰える。

 その一連の工程を、勇者科では鑑定に出すとか呼んでいる。ちなみに所有権は鑑定に出した人に帰属するが、鑑定から戻ってくるまでしばらく手離さなくてはいけなくなる。鑑定に時間がかかるような場合、その道具に頼れなくて迷宮に潜れない、なんてことも起きる。特に武器なんかではよくある話だ。

 鑑定に出すと学園の記録に残されるため、他人の拾ったものの詳細も問い合わせることが可能だ。まあその人の持ち物全部教えろとかは無理だけど。そのせいか、鑑定に出さない奴もいるらしい。それは秘匿魔道具とか呼ばれて問題視されている。秘匿する利点は手元に置いたまま使い続けられることと、他の人に知られずに済むこと、だろうか。一応売るのに鑑定書を付ける必要があるから、換金はできなくなるはずだ。裏マーケットでもあるのかもしれないが、俺は知らない。


「そうね。今は魔力が入ってない状態だから、きっとただの武器くらいに思われるんじゃないかな?」

「まあただの武器なら、一本なくなった代わりくらいになってちょうどいいよな」

「そんな軽く扱っていいものじゃないと思うんだけどなあ」

 ルナが不平を呟くが、俺の魔法でいくらでも対処できる、なんて伝えてしまうのもどうかと思うし、まあしょうがないだろう。


「さて、それじゃあ帰るか?」

「そうだね。じゃあ、私達が先に帰るね。一緒にいるところあまり見られたくないんでしょう?」

 エヴェリンの言葉にルナが盛大に頷く。まあこいつはこういう奴だろう。俺も控えめに頷く。

「まあ、俺なんかと一緒にいたとか言われていいことなんかないだろうからな」

「そうか? わりと隠し事の多い奴だということはわかったよ。そのへんのつまらん同級生よりは観察しがいがあって面白そうだし」

 ハルディスがそう言って俺を見た後、エヴェリンと交互に見てニヤニヤしてくる。

「誰かさんが注目してたのも理解できる」

「な、なんの話かな?」

 ハルディスの言葉にエヴェリンがうろたえる。それを見てニンマリするハルディスにエヴェリンがなにやら耳打ちして、余計ハルディスがニヤニヤしていた。何してるんだか。


 注目、ねえ。まあ名前を知られてたからには、そういうことなんだろうけど。


「もう、行くよ!」

 エヴェリンに引っ張られ、ハルディスがしぶしぶと階段横の壁際に立てられた、テーブルのようなものに向かっていく。テーブルの上には青い珠が置いてあり、脚には魔法陣の文様が刻まれているのが見える。あれが、帰還用の転送装置だ。


 各階から脱出する際には、皆それを使っている。わざわざ歩いて往復していては、日が暮れるばかりか歩き疲れてまともに探索できない。この転送装置のお陰で効率よく迷宮探索ができるってもんだ。


「今日はありがとね。ばいばーい」

「ああ、こちらこそな!」

 ルナはさっさと転送装置へ駆けていく。俺も見送りにそちらへ向かうことにする。

 エヴェリンに押し付けられ、ハルディスが渋々机の上の珠に触れると、壁に青い光の扉が現れた。やがてしばらくすればその扉が薄れて向こう側の景色が見えるようになる。暗い迷宮に夕方の赤い光が差し込んでくる。そうか、もうこんな時間だったか。向こうには人がまばらにいるのも見えてくる。

 ハルディスが扉を潜り抜け、手を振る。俺も手を振り返す。一度扉が閉じられる。


 帰還転送はひとりずつ行うのがセオリーだ。出口の数が限られているし、なんでも途中で魔法が切れたら危険だからとかなんとか。まあなんとなく想像はつくが、そういう事故があった例は聞いたことはない。それでも迷宮側の装置が壊れている可能性は否定できないから、注意が必要なんだろう。


 続いてルナが扉を開き、向こう側へ消えていく。こいつが振り向くことはないだろうと思っていたのに、わざわざ振り向いて小さく手を振った。びっくりしたから敢えて大きく手を振って返してやる。

 次はエヴェリンの番だ。そのまま転送装置を起動するかと思ったら、エヴェリンは振り向いてくる。

「これ、すぐに読んでね」

 そう言うと紙の切れ端を見せ、俺に押し付けてくる。仕方なく受け取ると、エヴェリンはにこっと笑ってきた。


「今日はありがと」

「ああ。こちらこそありがとう。いい武器も貰えたっぽいし、楽しかったよ」

「そっか。それはよかった」

 エヴェリンは何やら俯いて暫くもぞもぞとしてから、転送装置を起動する。

「じゃ、またね」

 振り返ってそう言い残すと開いた光の扉へ向かって歩いていく。向こうでルナとハルディスが待っているのが見える。


 エヴェリンはその長い黒髪をたなびかせ、振り返ることもなく、やがて見えなくなった。

 手を振っていた俺は虚しくそのまま固まる。まあ他の二人には見えただろうからいいだろう。

 さて、ちょっと暇を潰してから帰るかね。

 俺は階層記録装置に近づくと、エヴェリンに渡された紙を広げ、目を通す。すぐに読めとはいったいなんだろう。

「なんだこれ……」

 俺はその内容に驚愕した。

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