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俺を勇者にしたいなら、お前が魔王になってくれ!  作者: 佐藤せうゆ
第一章 はじめての臨時パーティ
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1-4 エリアボスとの戦い 2

「ぐぁっ!」


 かっこ悪くうめき声を漏らしてしまう。何が起きたか、自分がどこにいるのかわからない! 早く起きて確認しないと、全滅するかも知れない!


 俺がなんとか起きようとすると、隣に誰か駆け寄ってくる。

「大丈夫!? へーき!?」

 声からすると、ルナか。体に痛みは特に無い。バリアが守ってくれたんだろう。

「多分大丈夫だ」


 俺はそう答えながら、体を起こして周囲を確認する。壁が近い。ゴーレムの姿勢からすると、どうやら俺は蹴られたようだ。そのままルナのところまで飛ばされてきたらしい。ゴーレムが向いているのはこちらだから、ターゲットにされてるのは俺のままだろう。


「わたしじゃもう役に立ちそうにないから、しっかりしてよね!」

 ルナがいくつか魔法をかけてくれる。彼女の使える回復や支援系の魔法一通りだろう。一応体の痛いところがないか確認するが、とくにない。学生証に触れてバリア数値を確認する。まあ大丈夫だろう。


 持っていた小太刀がなくなっていることに気づく。辺りは骨だらけだし、探してる余裕はない。まあ既に折れていたし、見つけたところで役に立つとも限らない。仕方なく腰に下げた短刀を引き抜く。

「だめだったらごめんな!」


「やられたら呪ってやるんだから! ほら、補助魔法かけ終わったよ!」

 ルナに背中を押され、俺はゴーレムへ向かって走り出す。

 先ほどどうして蹴られたのかを考え直す。

 おそらくゴーレムは思っているより素早く動く。いや、動けるようになったんだ。

 ゴーレムは魔力で動いている。体重を支えるために使われていた力が、体重が軽くなって動くために使われるようになった状態なんだろう。同じ力で軽いものを動かしたから、それだけ速く動けたわけだ。

 弱そうになったくせに強化されるとか、冒険小説か何かかよ。


 もう経験点がどうとか考えないことにするしかない。ルナにかけて貰った補助に、自分でさらに、勇者の魔法、反応速度向上の魔法を使う。

 反応速度向上は魔法のかかっている間ずっと集中しているかのような状態になり、時の流れをゆっくりに感じられる。魔法が解ければとんでもない疲労感と睡魔に襲われるんだが、ソロじゃない今なら後先のことは考えなくてもいい。


 ゴーレムにある程度近づいたとき、奴の右腕が持ち上げられるのが見えた。このままのコースでは横に払われてまた飛ばされるだろう。だが少しやりあってみたい気持ちに駆られ、そのまま駆け寄る。

 鞭のようにしなる腕が見える。俺はギリギリで立ち止まり、短剣を振るってゴーレムの腕の先に当てて、防ぐ素振りを見せる。ぶつけるというわけではなくて、若干その進行方向に動かして、受け流してから揺り戻してやる。刃先が触れただけでも衝撃で弾かれそうにもなるが、魔力をぶつけてなんとか相殺する。

 魔力をそのまま力としてぶつける魔法。別なものに変換したりせず、ただの物理現象として発生させるため、魔力のロスが少なく、多少の魔力で最大限の力を発生させる。

 ゴーレムの腕に魔力による衝撃が伝わり、その長さの半分ほどが砕け散る。肘までといったところか。


 俺は反応速度向上に合わせて、体を動かすことにすら魔力を使っていく。一歩を踏み出すたびに魔力をただの力として足に伝え、歩幅と脚を動かす速度を増し、さらにゴーレムの足元を蹴飛ばす。

 ゴーレムはそれでもよろめかず、すぐこちら側の腕、左腕が上がるのがみえる。

 まずい、威力調整をミスったか!

 蹴った姿勢からでは避けるのが間に合わない!

 そう思ったとき、別の何かがゴーレムの左腕を吹き飛ばした。

 広大な範囲をただの力が通り過ぎたのを感じた。まさかとは思うが、振り返ってる余裕はない。すぐにもう一度魔力を足に込めて、ゴーレムの脚を吹き飛ばす!

 ゴーレムが倒れてくるのを確認してから振り向く。やはり思った通り、エヴェリンが杖を構えているのが見えた。その後ろにハルディスも座り込んではいる。無事だったんだろう。

 エヴェリンが使った魔法はおそらく俺の魔力攻撃と同じだ。彼女は俺と同じ種類の魔法を使えるとみていいんだろうか。だとしたら、彼女は勇者の何なんだ……?


 余所事を考えながらも、俺は倒れてくるゴーレムのコアに向けて手を伸ばしジャンプする。

 上がった反応速度のおかげでゆっくり動く世界の中、空中でコアに触れると魔力遮断の魔法を唱える。人前であまり使うなと親から言われてるが、人を助けるためなら問題ないだろう。自分の命もかかってたら尚更だ。ごめんなさい父さん母さん。


 魔物……魔法生物は、その名前の通り魔力で生きている存在だ。突然魔力を絶たれれば、動けなくなったり昏倒したり、うまくいけばそのまま消滅させることすらできる。初手から使わなかったのは、戦いながらでは制御が難しく、反応速度をあげてないととても使えないことと、その範囲と強さが反比例することからだ。ゴーレムがでかすぎて、全体の魔力を一度に止めることはできない。魔力の流れを一点だけ遮断したって、迂回して別ルートから魔力が伝達されて無意味になってしまう。それならコアから流れ出すのを直接止める以外ないと思った。


 魔力遮断に反応してゴーレムの体が空中で分解されるのが見える。俺はコアを掴んで引き抜く。骨がついてこないことを確認してから、反応速度上昇を先に解く。

 背後にばらばらと骨が落ちるのを感じながら、俺はコアを抱えたまま着地した。


 手にしたその円柱状のコアを眺める。魔法陣のような模様が怪しく光っていたのがやがて淡くなり、光が消えていく。


 なんだこれ、円柱に一周ぐるりと隙間が見える。まさか、刀か?

 刀だと思ってみれば、確かに円柱というには若干曲がっている。長さ的にも脇差しと呼ばれるタイプのものだろう。柄頭と思しき箇所にはめられた宝石が赤く怪しく輝く。今は別にそれ自体が発光しているわけではなさそうだ。

 つい引き抜いてみる。思った通りそれは刀だった。鞘の中から綺麗な刃が顔を見せる。

 刃紋は一見ついていないかに見えるほど細かい。ノコギリの目よりも細かいのではないだろうか。

 俺はその刀を鞘に収め、立ち上がり、振り向く。骨の山があちこちに点在しているままで、ゴーレムが起き上がる気配はない。やはりこれがコアだったんだろう。


「大丈夫!?」

 エヴェリンが駆け寄ってくるのが見える。俺はコアだった刀を抱えあげ、見せる。

「とりあえず、倒したんじゃないか?」

 俺の言葉にかかわらず、ルナは警戒して杖を向けたたままだし、ハルディスは立ち上がるのに少し時間がかかっていた。エヴェリンは俺の隣までやってくると、先に俺の体の方をじろじろ確認して、そのまま周りをぐるっと回ってくる。

「怪我はない? へいき?」

「まあ特に問題なかったかな。バリアと補助魔法のおかげかな」


 実際尖った骨の破片がバラバラと舞っていたし、体に刺さるかと思っていたが特にそういうこともなく戦えた。案外身体強化も馬鹿にならないもんなんだなと思う。


「どっちかと言うと俺よりハルディスの方がまずいんじゃないか?」

「私は平気だよ!」

 遠くからハルディスの強がりが聞こえるが、まあほっとこう。


 エヴェリンは一通り俺の体を確認し、何やら呪文を呟いて俺の腰の服が破けている辺りに触れる。何の呪文をかけられてるんだ?

 それからしばらくすると、興味がゴーレムのコアの方に移ったらしい。じっと見て手をだしてくる。

「ちょっとそれ見せて?」

 言われて俺はエヴェリンに刀を渡す。たぶんいろいろ触ったからっていきなりゴーレムに戻ったりはしないだろう。エヴェリンはその柄の部分を受け取り、鞘に収まったままの刀をしげしげと眺め回し、やがて柄の宝石を見つめる。

「たぶん魔力切れかな? 再起動するだけの魔力がなさそうね」

「そうか。運が良かったんだな」

 俺の言葉にエヴェリンはにやっと笑う。何故か見透かされた気がする。


「ほんとーに大丈夫なの? いきなり骨集まってきたりしない?」

 杖を構えたままルナが近づいてくる。気付けばハルディスもやってきていた。

「気になるんならさっさとここ抜けよう。骨がなければまあ安心できるだろ?」

「そうね。これ、ユウトくんが持つ?」

 エヴェリンがそう言うと俺に刀を差し出してくる。

「まあそうだな。持ってた小太刀は折れてどっかいっちゃったし、探すのもちょっと面倒だしなあ」

 俺は刀を受け取り、辺りを見渡す。骨がたくさん散らばっていて、小太刀はそれに隠れてしまっているんだろう。見つかりそうにない。

 少し脚を引きずったハルディスが、やっと近くまでくると、口を開く。


「倒したのに、骨はなくならないんだな。魔法生物は死んだら魔力に戻って、迷宮へ吸収されるんだろ? 塵にならなかったスケルトンはいっつもそのまま立ち上がったじゃないか。これらはどういう状態なんだ?」


 ハルディスの言葉に俺は戦慄した。確かに、ここにあるたくさんの骨のようなものは、本物の人骨ではない。魔法で構築された人骨のような物質にすぎない。だからそれを操るものの魔力が切れたら塵になって崩壊する。これは魔物の、魔法で作られた生物のお約束だ。

「ひょっとして、従来のボスもこの骨の中にいたりして! このままのんびりしてたら復活しちゃったり?」

「連戦はごめんだぞ。すぐにでも休みたい」

 ルナも俺もその危険性に気付き慌てる。


「急いだ方がいいかもね。行きましょう」

 エヴェリンの言葉に、ルナもハルディスも頷き、部屋の奥の扉へ向かう。俺も重い体にむち打ってそれについていく。なるべく骨を踏み砕きながらだが。


 カシャカシャと音を鳴らしながら歩き、俺はふと思い出した。自分の学生証を確認して、肩を落とす。

「あー。結局、経験点貰えなかったな」


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