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俺を勇者にしたいなら、お前が魔王になってくれ!  作者: 佐藤せうゆ
第一章 はじめての臨時パーティ
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1-1 迷宮での出会い

「つっ!」

 魔物が火の玉を投げてきたのが見えたので身を捩って避けようとしたが、距離が稼げず腰に当たった。衝撃で歩調が乱れるが、走る勢いは死んでない。着ている鎧の隙間で熱さを感じながら、俺はその火の玉を発射した奴へと駆け続ける。


 まだバリアが残っていものの、危険を告知するためのピーピー音が、腰に提げた学生証から鳴り響く。だがそんなものを気にしている場合ではない。


 毛布の化け物のようにすら見える物体を俺の間合いに収めると、それが動くより先に素早く剣を振るう。魔力での加速に対応できるような反射速度を持つ魔物はいない。カシャアと乾いた音を響かせて、そのローブの下にあった骨が辺りに散らばり、ローブもはらりと舞い落ちる。

 俺はその人骨の魔物……スケルトンが再度立ち上がらないように、腓骨と思しき細長い骨を踏み砕く。それから脊柱を蹴飛ばして他所にやる。迷宮の石壁にぶつかった乾いた音が辺りに響く。

 すぐに残りの相手をしなくては。そう思ったときに斜め左後ろに魔力の光が薙ぎ払われるのが見えた。そっち側の敵は彼女達が処理したって思っていいだろう。右手側にいる錆びた剣を持った骨に向かう。


 俺の得物は小太刀で、敵の武器よりリーチが短い。こういう場合は先手を打つことが難しいから、躱してから反撃するのが定石だ。相手の構えからどの方向へ避ければいいかを想定したら、相手の間合いの中にわざと入り、想定した通りに避けて攻撃を空振らせる。その隙に距離を詰め、小太刀で脊柱を叩き壊す。上半身が崩れ落ちてくる中で剣の持ち手を蹴飛ばし武器を振るわせないように気を配る。


 残り二匹。曲がり角に隠れるように弓を構えてる奴、それからその前に立ち塞がるように盾を構えるやつ。連携されると厄介だ。


「どいて!」


 後ろから叫ばれて、右へステップしてから姿勢を低くし、上半身を動かさずに脚だけで走る。狙いは手前の盾持ち。奥の奴から弓で狙われないように立ち位置を気にして近寄る。

 その間に俺の左側を光の帯が横に薙いだ。弓持ちが崩れ落ちていくのが見える。なら残りは一匹だ。出し惜しみして怪我をしても勿体ない。魔力を使って一気に倒すことにする。


 相手に十分近づけた俺は、得物に魔力を込めて盾にぶつけて真横に斬る。特に何かにぶつかる感触もなく、まるで豆腐を斬るかのように盾が真っ二つに割れた。いや、切れたのは盾だけではなかった。奥の骨も砕けて、上半身がその場に落ちてゆく。脚が立ったままその場に残ったので、足払いをしてから踏みつけた。

 迷宮で生まれた者の運命通り、足元の骨が塵に還っていくのを確認してから、振り向く。

 後ろで立ってるのは三人。残りの敵は……。いない。


「わるい! 邪魔しちゃったか?」


 俺は三人に向かって声をかけ、得物を鞘に納めて近寄る。

 姿がよく見えてきたら、ああ失敗したなと思い始めた。三人とも女子、しかもクラスメイトだ。

 まずいな。向こうが俺のこと知らなければいいが。


「ううん、数が多いなと思ってたところだったから。ありがとう」

 三人の中で一番しっかりしてそうな少女が答える。声から、多分光の魔法を使ってたのは彼女だろう。


 黒く長い髪は、魔法の灯りしかない薄暗い迷宮の中では漆黒に見える。まっすぐこちらを見つめる碧い瞳。顔立ちも整ってはいるがまだ少し幼さが残っている。その顔を見て、俺はますます失敗したと思った。彼女は俺も知っているくらいの有名人だ。確か名前はエヴェリン・グランヴィル。種族的な特徴は伺えないから、ヒューマン種だろう。

 夏物の女子制服姿で、手には長い杖を持っていた。その杖は古臭く、上端には魔力が込められているのであろう珠がついている。どう見ても支給品ではない。ここよりもっと深い階層で見つけるような品物だろう。買ったにしろ拾ったにしろ、彼女の優秀さが伺える。それもそのはずで、彼女は確か今月の勇者ランクで十位を取っている。一年生でランクに入るなど異例の事態らしい。


「さっき魔法食らってたでしょう? 治癒魔法かけるからもう少し近寄って貰っていい? ユウト・シェイドムーアくん」

「あ、ああ……。ありがとう。まさかランカー様に俺のこと知って貰えてるとは。光栄だね」


 俺は怪しまれないように、ご相伴にあずかることにする。つい嫌味っぽくなってしまうが。

 俺が近寄ると、残り二人のうち背の小さい方がぱたぱたと俺の後ろに回ってきて、背中の傷の状態を確認してくる。


 彼女は茶色の長い髪を左右で一部少しずつ編んでいる。その髪の隙間から、コロボックルらしい少し先の尖った耳が見えた。さっき小さい方とは言ったが、その身体はかなり小さく、ヒューマン種の幼児くらいの身長だ。もっとも身長だけじゃドワーフとそこまで区別がつかないんだが。

 装備としては短い杖を持っている。腰に短い剣も帯びているから、魔法で身体強化して戦うタイプなんだろう。

 彼女の名前はたしか、ルナだったろうか。名字まではちょっと覚えてない。制服のポンチョに付けられてる小さな板、学生証をチラ見して名前を確認する。合ってる。生徒は皆、迷宮に潜る際には学生証を見えるところに掲げることが義務付けられているのだ。

 ルナはじろじろ俺の怪我を見ると表情を曇らせた。少し掠っただけだし、バリア値がまだ残ってたから大丈夫だとは思うんだがな。


 学生証の魔道具機能の一つで、生徒には本人のレベルに応じた強さのバリアがかけられている。バリアは怪我するほどの攻撃を肩代わりしてくれる。続けて何度も攻撃を喰らえば薄くなってしまうが、時間が経てば強さは元に戻っていく。

 バリアがなくなるほどのダメージを受ければ、強制的に地上へ緊急転送される。そうなると手厚い看護を受けるはめになる。治療の費用とばかりに経験点が差し引かれる。そんな目に遭うことはそうそうないんだが、生徒の死亡事故を防ぐためにも必要な機能だ。


「ちょ、ちょっとこれ、わたしじゃ無理かも。エヴェちゃんなら治せる?」

「どれどれ? ……うわひっど! バリア貫通したの!?」

 言われてエヴェリンが見つめ、顔をしかめた。言われて俺も確認するが、まあせいぜい表面が焦げた程度だろう。

「あー、なんかバリアの警告音は聞こえたな」

「よくその状態で戦えたな」

 背の高い方も珍しそうに、その切れ長な目でじろじろと怪我を見てくる。蔑むかのようにも見えるが、まつ毛が長くてそういった印象を少し緩和してくれている。少しだが。


 金色の短い髪に、褐色と言うよりは最早黒い肌。身長は俺より少し高いくらいで細身。制服の上に軽い鎧、細い剣を腰に帯びている。特徴的なのはその長い耳とツンと尖った鼻。エルフ、それもダークエルフだ。彼女の名前は確か、ハルディス。念の為こっちも鎧にぶら下げている学生証で念の為確認しておく。よし、間違ってないな。


「ソロなのに、バリアなくなっててなんで撤退しないの? 無謀だわ」


 ルナが文句を言ってくる中で、エヴェリンが傷口に手を掲げ、何やら詠唱を始めた。エヴェリンの手元から淡い光が溢れてくる。


「いや、なんか襲われてる人たちが危険そうだったからさ。フォローしてくれるだろうし、多少無理しても倒せるものを先に倒さないとと思ったんだよ」

「倒せるものって、私達より冒険者レベルは低いのに、何故そう言える。まあ実際倒してみせてはくれたが」

 ハルディスが見下げながら問うてくる。そこを聞かれたくなかったのに、やはりダメだったか……。


「まああいつら何度も倒してるし、レベル、あがんないからな」

「あがらないって……。倒してるのにか?」


 俺は無言で頷く。嘘ではないから。尋問でもするかのようにハルディスが睨んでくる。


「はい、治療終わったよ。さすがに制服の穴まではなんともできないけど」

「ああ、ありがとう。助かったよ」


 エヴェリンが回復魔法を使い終わったらしい。俺は傷跡を確認する。ちらっと見ると服が焦げて穴が開いて素肌が見えているが、肌には火傷痕一つというか傷跡一つ見当たらなかった。


「こちらこそ助かったわ。ちょっとこの階層はまだ無謀だったかな」

「そうだな。独りだともう少し早く逃げるとかの選択もできただろうに。ここのは援軍多いから、時間がかかると厄介だ。大方いつもその魔法で一瞬で倒せてるから知らないんだろう?」

「ご忠告ありがとう。でもそうね。それでも、前衛がいてくれたらなんとかなるかも」


 エヴェリンはそう言うとじっと俺の方を見つめてくる。何を言わんとしているかはなんとなくわかるが、俺はあまり人と一緒にいて迷惑かけたくもない。それが人気者とっていうなら尚更だし、逆に俺がいるせいで周りから彼女達がイジメの対象にされる可能性すらある。


「俺はご覧の通り低レベルだろ? 役に立たないんじゃないかな。大人しく上の階層に戻った方がいいんじゃないか?」

「そんなことないよ。魔物の注目集めてくれれば私がなんとかできるし、戦えなくても十分役立つって。前衛として一緒にきてくれない? ね、ルナもハルも、構わないでしょ?」


 言ってエヴェリンは二人を見つめる。ハルディスはすぐに頷く。


「少し興味が湧いた。一緒に行動すれば何か面白いものが見れそうだからね」

 それを聞いて、ルナも遅れて頷く。

「そういうことなら、仕方ないなあ。お願い、前衛やって、私達を守ってね♡」


 ルナの言葉に、俺は頭を掻く。もう既に怪しい人物だとバレてるし、ここで断ってさらに心象を悪くするのも愚策だろう。それでも答えあぐねてると、エヴェリンがさらに追い打ちをかけてくる。


「大丈夫だよ。この階層に詳しいなら、同学年はそうそうこないの知ってるでしょ? 別に私達だってあなたのこと口外して、変な噂立てられたくないし。いいでしょ?」


 諦めてため息を付いた。別に俺の素性が少数の人にわかったところで、何も問題ないだろう。むしろ糞みたいな現状を変えることになるかもしれないし、変化は受け入れてみるか。


「わかった。あまり共闘したことはないし、役に立てるかわからないが、やれることはやってみよう」


 俺の答えに、エヴェリンはにっこりと微笑んだ。


「よかった。じゃあ、よろしくね。パーティー登録、しましょ」

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