第四話 世界の言葉。
そこからの日々は常に魔物との戦いの毎日だった。自分より遥かに強い魔物と命を掛けたやりとり。以前は恐怖でしかなかったそのやりとりも今は楽しみになっていた。
戦えば戦うほど成長することに対する嬉しさと、強者と戦う時に生じるスリルが今の祐介にとっては堪らなく心地よいものだった。
そこから更に10年という月日が経った。
この10年間で世界は大きく変わった。10年前なら綺麗に建てられていたビルや建物は廃墟となり崩壊していた。
そして、人で溢れかえって騒がしかった東京は人一人としていなくなり聞こえる物といえばピューと風が吹く音ぐらいでそれ以外‥‥なにも聞こえない。
そう”なにも”だ。この意味が分かるか?5年前であれば至る所で"ガァ!!”と聞こえていたはずの魔物の声が無くなっている。
魔物出現で人、動物、その他の生き物は絶滅した。そして地球に住む生き物は魔物のだけとなったが、この日、この時を持ってそれも終わった。
10年間という時間をかけて…たった今、全ての魔物を…絶滅させることが出来た。
「やっと…全部終わったな。長い長い本当に長い時間だった。最初の頃はゴブリンを倒すだけでも命掛けだったと言うのに、まさか魔の王である魔王まで倒せるなんてなぁ…あの時の俺じゃあ思いもしなかったな。」
人、すべての生き物は全滅してしまったが自分の故郷である地球を守ることが出来た。本来であれば"よっしゃ!!"と全力で喜ぶべきところなのにちっとも嬉しくない。いやむしろ悲しい気分だ。
「なんで…なんで…全て終わったはずなのに…やりきったはずなのに…こんな気分になるだろう。人を守ることが出来なかったからか?いやそれはないな。人に対していい思いなど微塵もないし。そもそも守りたいと思う人が俺にはいない。友人、恋人、家族のような大切な人それら全ての人から裏切られたんだからな。
そもそも俺は何で戦うことを決めたんだっけ?守りたい"もの"の為?失いたくない"もの"の為?いや、ないな。俺にはなにもない。そんな大切な"もの"はない。じゃあなんで俺は"戦う"という選択肢を取ったんだ?死にたくなかったからか?いや、そもそも「泉の回帰」がある時点で死ぬことはないのだから恐れる必要がない。だったら痛みから逃げる為か?いや違う。逃げるだけな強くなる戦う必要はない。」
――分からない。なぜそんな選択を取ったのかが‥‥分からない。
そんなことを考えていると曇っていたはずの空が晴れて黄金に輝きだした。
‥‥なんだ、空が変だぞ。様子がおかしくなった空に困惑していた。すると《其方が望む世界を述べよ》と声が聞こえた。
「お前は誰だ!!どういうことだ"望む世界を述べよ"って、俺に聞いているのか!?」
《この世界の創造主の望みは叶いました。故にこの世界は終わり次の新世界を創造するのです。故に其方が望む世界を述べるです――新たな創造主よ。》
「創造主って…俺のことか?」
《――そうです。創造主はこの試練を突破した者に世界を託すと。故にこの試練を突破した渡辺 裕介様が新たな創造主となります。さぁ望む世界を述べるです。新たな"創造主"よ。》
俺が‥‥望む世界‥‥それは‥‥みんなが平和‥‥で――本当にそうか?みんなって誰だ?誰が戦った?誰が死んだ?何の為に‥‥俺が望む世界ってなんだ?今までのようなあの"くだらない世界”を望むのか?あの生活に戻るのか?
――あり得ない。――許せない。
世界で最も醜い生き物は何か?と聞かれた何と答える?
見たこともない化け物?それともデカい昆虫?それとも人喰いの何かか?いや、全部違う。この世界で最も醜い生き物は"人間"だと言える。
表では“大好き”“ずっと一緒”“親友”“家族”といろいろな言葉を使って互いを信頼する。でも、結局は大事なのは自分自身でそれ以外はどうでもよく過ごした時間も!!交わした言葉も!!助けた恩も!!何もかも忘れて裏切るんだ!!
そんな汚く醜い生き物が蔓延るこの世界が‥‥許せない!!醜い癖に!!弱いくせに!!何も出来ないくせに!!上から偉そうに言いやがって!!お前らみたいな弱い奴らは生きていちゃいけない!!
「そうだ。俺は戦うことが楽しかったんだ。だから魔物が全滅したことがただただ悲しかったんだ。もう俺と戦える者がいなくなったことに。
“本物”の強者だけ"強さ"こそが絶対の世界を!!弱者は生きれない世界を!!この世界のように本物の強者だけが生きる世界を‥‥俺は望む!!」
《――了。世界の改変を行います。マスター「渡辺 裕介」》
この日、世界を崩壊した。そして新たな世界‥‥新世界が生まれた。