第二話 死を迎え、死を越える。
「うわわわわああああ!!!!」
さっきのことを思い出して叫んでしまう。そう…。また、会社に戻ってきていた。
そうか...。これは....。夢とかじゃあなく死んだことでこの場所に戻ってきているんだ。つまり、あの2回も何かしらで死んだってことか。自分が死んだことにも気付かない程の“何か”があったんだ。
スーハー・スーハーと深呼吸を繰り返して一旦心を落ち着かせる。
この後のことを考えないと行けない。あの化け物が現れることは全国で起きていることなのか、それとも俺の周りだけで起きているのことなのかを確かめないと。そしてもし、全国で起きているなら軍に助けてもらわないと生身であれと戦うなんてイカレテル。
――もう、死ぬなんてごめんだ!!
そこから俺の行動は逃げること徹した。車、電車、飛行機、船‥‥とありとあらゆる交通手段を使って逃げようとしたがどの選択を取っても一度も朝を迎えることは出来なかった。
どうすればいいんだ?どうやったら生き残れるだ。何処に逃げても、誰に頼っても死んでしまう。もう何回死んだのか分からない。そしてあと何回復活出来るのかも分からない。次で‥‥次で‥‥という恐怖でどうにかなってしまいそうだ。
死に対する恐怖が心を弱らせる。裕介は強い人間でもなければ正しい人間でもなく弱い人間であった。人生の選択に全て失敗したことで負け癖と逃げ癖がついてしまったのだ。そんな裕介にとってこの死という衝撃はとてもつもないもので心が折れる寸前の――極限状態だったと言える。
人は追い込まれることで思ってもいない力を発揮することがある。例えば仕事も碌にせず遊んでばかりの奴が家から追い出され食う物も住む家もないという極限状態に追い込まれた。だが、そこから生きることに本気になり人生を挽回したという話がある。
――不可能を可能にする。極限状態の人間には迷いなんてなく失敗に怯えることもなく出来てしまうのだ。
「あぁ、もうやってやる。そうだ!!俺のことを散々弄んで遊んでくれたあのクソゴブリンをぶっ殺してやる!!どうせこのループもいずれ終わるんだ。だったら俺は戦って‥‥戦って‥‥戦って‥‥全部ぶっ殺して何が何でも生きてやる!!」
もう、裕介の目に迷いもなければ恐怖もない。あるのは化け物に対する明確な殺意と生きるという強い願望だけ。――もう、弱く逃げる裕介は何処にもいない。
会社に戻り戦う準備を整える。いくらなんでも手ぶらで戦うわけにはいかないので”武器”を手入れることにした。それは社長室にある社長の趣味のゴルフクラブと避難用に置かれた防災ヘルメットを被り時間になるのは椅子に座ってジッと待つ。
――時刻は3時丁度。そろそろ時間だなと椅子から立ち上がった。
今までの死で一つ分かったことがある。この世界に化け物が現れる時刻は3時だということだ。ゴブリンが何処に現れるのかは知らないが自販機のところに行けば会えるだろう。あそこですべてが始まったんだからな。
そして自販機に向かうとソファで人間を食べるゴブリンと出会った。
「久しぶりだなクソ野郎あの時は散々弄んでくれてトラウマもんだったぞ。でも、今回は違う。今度は俺が弄ぶ遊ぶ番だ‥‥覚悟は出来ているんだろうな!!!!このクソゴブリンがッ!!」
今までの怒りをすべて込めてゴブリンに向かってゴルフクラブをフルスイングをブチかますが、ゴブリンに簡単に避けられてしまうがそんなのは関係ない。当たらないなら当たるまで振るだけだ。
そこからの記憶がなく気が付くといつの間にかゴブリンにのしかかりひたすら顔面を殴っていた。
「グ、グヒ」と口から紫色の血が出ているどうやらもう限界らしい。
だが、それがどうした?弱っているなど関係ないと言わんばかりにゴブリンをひたすらに殴り、近くにあったゴブリンの棍棒を手に取った。
「‥‥確か右膝からだったよな」と呟くとゴブリンの右膝を粉砕し引き千切った。
「グガッ!!!」と大量の血が流れる。
「どうだ?痛いか?俺も痛かったからその痛みは理解できる。でも、お前まだ俺が受けた痛みの半分も受けていない。ちゃんと全部受けないとな?お前が俺にやってきたことなんだから。」
それから左膝を粉砕しあの時と同じように引き千切る。そして何度も‥‥何度も‥‥俺が受けた痛みと同じ痛みを相手にぶつける。そして最後は棍棒を高く振り上げて頭を潰した。
「グチャ」とあちらこちらに血や肉が飛び散るが気にも止めない。それから何度も何度も頭を殴っているとゴブリンは灰になり小さな石を落とした。
どうやら死んだらしい。ゴブリンが死ぬと疲れがドッと体を襲いその場に座りこんだ。当たり前だ何年も運動してない奴が急に体を動かしたんだ座り込むのは当然だろう。
「あぁ‥‥疲れた。たった一匹でこんなに疲れるのか。」と休憩していると突然の目の前にパソコンのウィンドような画面が出てきた。
《称号 初めての魔物討伐を獲得しました。》
《初回討伐ボーナスとして1.5倍の経験値を獲得します。》
《スキル 泉の回帰 により今までの死を経験値として獲得します。》
名前 渡辺 裕介 Lv1→8
HP(体力)4→10
MP(魔力)0→7
AGI(速度)3→9
ATK(攻撃力)2→8
INT(魔法攻撃力)0→7
DEF(防御力)4→10
MEN(精神力)10→15
スキル
『泉の回帰』・『NEW冷徹』・『NEW苦痛耐性』
スキルポイント
0→5
これってもしかしてゲームとかでよく見る"ステータス”って奴か?あのゴブリンといいこのステータスといいまるで地球がゲーム世界になったみたいだな。
それとこの泉の回帰というスキル"今までの死を経験値として獲得する”というもの。つまり、俺はこの世界では死ぬことがなく例え死んだとしても死すら経験値となって自身を強くしてくれるってことか。
「ハ、ハハハハハ‥‥なんだよそのスキルは‥‥最強過ぎるだろ。このスキルがあれば死ぬことはなく例え死んだとしても生き返り経験値となってさらに強くなる。これがあれば‥‥全てをやり直せる。」
今まで俺のことを見下し、奪ってきたあいつを‥‥見返すことが出来る。あいつらにも、あいつらにも、あいつらにも、あいつらにも、俺から奪ってきた奴らを見返すことが出来る。
「やってやる!!俺はこの力を使って無くしたもの奪われた物をすべて取り返してこのクソみたいな人生をやり直してやる!!その為にもまずはレベル上げだ。今の俺でも倒せる化け物を殺して強くなる。」
こうしてただのサラリーマンだった裕介は大きく変わった。それは性格的にも肉体的にも大きな変化であったが、この時の裕介はまだ理解していなかった。"死なない力"は確かに強力な力だが相手もそれと同じぐらいの力を持っているということを。