5▷ 二人の仙人、花(ファ)と根(クゥ) (1106文字)[仙人×力×言葉]
昔々のこと。
名前もわからぬ大陸の、そのまた奥の奥。
冬は雪深く、春花綻ぶ高い高い山がありました。
その頂に近い場所、雲よりも高いその場所に、小さな村がありました。
チーツィという動物を育て、肉と乳をいただき、カッパイという植物を育て、その蕾と葉の一部をいただき、村は貧しくとも和気藹々と村人たちが助け合って暮らしていました。
ある時そこへ、花という仙人と根という仙人が言い合いをしながら降りてきました。
訪れる者のほぼいない場所に、しかも仙人様が来たとあって、村人たちは大層喜び。
いつもより多くチーツィの首を落とし、カッパイの蕾を収穫してもてなしました。
酒宴が終わると花が言いました。
「私の武勇伝と知恵を授けるから、明日も酒宴を開いてほしい」
続けて根が言いました。
「花のことを真に受けてはいけません。私を明日からここで働かせてください」
村人は仙人の仰ることだからと、それぞれを言われるがままもてなしました。
明くる日。
ご馳走でもてなすと花が武勇伝と知恵を滔々と語ります。
村人たちは明日から試してみようと、大喜び。
かたや農場へ連れて行った根はというと、一生懸命チーツィやカッパイのお世話をします。
それを見た村人たちは、変な人だと思いつつ、一緒になって世話をしました。
するとチーツィがよく乳を出し、また、子を沢山産むようになり、カッパイも多く種をつけました。
村人たちはとても驚きました。
勉強熱心な村人たちが教えを請うたのですが、
「手順は言って教えますが、その身につくまで何回でも繰り返しなさい」
と、根はそう言うばかり。
結局村人たちは、言われた手順を元に、自分達でああでもないこうでもないとやり始めます。
それを見つつ、最初こそ口を出したものの、後は困った人にだけ根は助言をするのでした。
一方、花の言うようにチーツィの世話をした村人は、思うような乳の量を取れなくなってしまいました。
手立てを聞こうにも、昼間から酔っ払っていて要領を得ません。
かといって、根に助けを求めようとした途端、花がどこからともなく聞きつけては、カッパイを踏みつけたりチーツィを殴り殺してしまいます。
来村した人の迎え入れは優しく……という村の掟に、諌めることはできても、花は聞く耳を持ってくれず、それ以上どうすることもできません。
弱った村人が村の大事にしている祠へお参りしに行くと、どうしたことでしょう。
祠の中から「これ限りぞ」と声がしたと同時に霞が現れました。
中には見知ったような姿。
その神様と思しき方は霞に紛れ花の側まで行くと、手のひらを口の前で上に向け、ふっと一息。
花はその勢いのまま山を転がり落ち、ついぞ再びその村へと、やって来ることはなかったのでした。