3▷ 山田太郎の困難〜太郎は試験に合格したい〜 (1595文字)[高校生×試験×カンニング]
山田太郎は困っていた。
今、彼は教室の自分の机に座っている。
クラスメイトも皆、自分の机につき神妙な顔をしてその時を待っていた。
冬、とはいえまだ木枯らしがふくほどでもなく、教室の窓から入ってくる陽光は柔らかく温かみがある。
だのに今、太郎は冷や汗をかいていた。脇の下はじっとりと濡れていて、学ランを着ているからそのみっともない様を見せずに済んでいるに過ぎない。
彼はこれまでの苦難の道を思い返していた。
思えば幼馴染の洋子には、恥を忍んで頭を下げ勉強を教えてもらったし。
友人の成績優秀な達也にはお小遣いの少なくない額を使って、賄賂を用意しヤマを張ってもらった。
それもこれも、親がいきなり「学年順位半分より上の成績を取れ、取らなければお小遣いを半減する」と言い出したからだ。
高校二年の今年、初めての彼女ができて、初めてのクリスマスが待っている。
太郎はお小遣いを半減されるわけにはいかなかった。
できれば、うっふんあっはんまでとはいかなくも、き、ききき……ちゅ、ちゅ、チューくらいは……と、考えていた。
そのためには、一緒に遊園地くらいには行きたい。
なのに。
今、太郎はその勉学のほとんどを綺麗さっぱり忘れていた。
昨日までは覚えていたのだ。
昨日、三徹目は流石にまずいと思いながら深夜二時に寝るまでは。
そんなことを考えているうちに、最後尾の太郎の前に前席からにゅっと手が伸びて、まっさらな試験用紙がやってきた。
その眩しさといったら、北海道の新雪のように眩しい。
太郎は北海道に行ったことはなかったが。
眩暈がした。
ぐわんぐわんと、「お小遣い半減」という両親の声が脳内にこだまする。
このままでは、クリスマスの輝かしい未来が潰えてしまう。
カップルに人気の遊園地で、ジェットコースターに乗ってきゃあきゃあ言う彼女を堪能することすら厳しいかもしれない。
お土産すら、買ってあげる、という男を見せることもままならない。
太郎は苦悩した。
隣は天才と誉れ高い高瀬だ。
見て、しまおうか……。
太郎のシャーペンを持つ手に力が入る。
彼は息をふっと吐き出すと、とりあえず名前欄に記入をした。
後日。
太郎は担任に名指しで呼び出された。
進路指導の部屋へと集められたのは、天才と呼び名の高い高瀬、太郎、ともう二人。
「お前ら、なんで呼び出されたかわかるか?」
言いながら眼前に出されたのは、先日受けた国語の期末テストの用紙だった。
よく見ると、四枚とも全く同じ解答で書かれている。
「え……」
思わず太郎が高瀬の方を見ると、彼は悪びれもせず平然と立っている。
ついで、朧げに覚えている名前の佐藤? だかを見ると、驚いた顔で高瀬を見た後、もう一人をみている。
その視線の先には、いつもふざけた解答で教師をおちょくっている、平田のヘラリとした顔があった。
平田から拝借したのかよ……。
太郎は思わず頽れた。
そのまましこたま担任にお灸を据えられ、解放されたのは二時間こってり絞られた後。
「試験がめんどかったから」とは高瀬の言、全部答え分かってたし、のオマケ付き。
「魔が差して……」とは佐藤。
平田は「俺はとばっちりだろー?」と、言いつつ特に気にした風でもなく。
そんなもんだから、担任から「授業ができてて試験ができないわけがないんだから、ふざけんなよ」とキレられていた。
もちろん全員ゼロ点。
しかもご丁寧に全科目だったものだから、ビリは確定。
結局。
顛末を耳に入れた両親に、太郎は塾へとぶち込まれた。
クリスマス。
塾により強制的にデートの回数が減った分、日頃のお小遣いをなんとかやりくりしてクリスマス資金はギリギリ貯まり。
ジェットコースターに乗ってきゃあきゃあ言う彼女を堪能し、お互いにお土産のあげ合いっこをした太郎は。
イルミネーション煌めく園内の、観覧車のてっぺんで。
みつめあったあと、ろまんてぃっくなキスをして。
彼女と二人、照れながらもちゃっかり手を繋いでゴンドラから降りたのだった。