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百人百彩 〜短編集〜  作者: 三屋城 衣智子


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11/11

11▷ みっちーとけこたんおうちを作る (7292文字)[姉妹×冒険×庭]第42回アンデルセンのメルヘン大賞応募作品

 みっちーとけこたんは年子の女の子です。

 誕生日は十日違いで、みっちーが遅く、けこたんの方が早くお姉さんになるので、十日間だけ同い年になります。


 お姉さんはみっちーです。

 優しくて、怖がりで。

 そんなお姉さんのことをけこたんは「みっちー」と呼んではちょこまかと、後をついて回るような、そんな姉妹です。

 けこたんはおしゃまで元気。

 背中に隠れるお姉ちゃんを、その勇気で守るような子でした。

 そんなけこたんは、この春に一年生になりました。

 みっちーは二年生に進級し、二人で一緒に登校しています。

 今日も、木曜日ですから一緒に行って、一緒にうちへと帰ってきたのでした。


 ガチャガチャガチャ。

 最初に異変に気付いたのは、鼻歌を歌いながらドアノブに手をかけたけこたんです。


「変だよみっちー」

「どうしたの? けこたん」


 まだドアノブを握ったままのけこたんは、みっちーの声に眉をしかめてこたえました。


「カギがかかってるの」

「え?」


 二人は顔を見合わせます。

 いつもなら、帰る時間に合わせて、お母さんが玄関のカギを開けてくれています。

 二人はドアを開けるだけで家の中へと入れるのです。

 けこたんは、今日の給食にゼリーが付いていて、じゃんけんに勝って二つも食べられたことに浮かれていた自分に、気づきました。

 そうして背中の方へ振り返ってみると、なるほど、いつもなら駐車場にとまっている、家の車がありません。

 みっちーも、けこたんに合わせて後ろを振り向きました。


「車がない……」


 それだけで効果てきめん。

 みっちーの眉尻はさがり、今にも泣きだしそうです。

 けこたんの、お姉ちゃんレーダーがそれをすぐさまキャッチしました。

 みっちーを泣かせるわけにはいきません。


「みっちー、おうちを作ろう」

「おうち?」


 深くけこたんがうなずきます。

 けこたんの考えはこうです。

 さいあくを考えて、いち日、ふつ日くらいなら、雨をしのげるような場所を作って、お母さんを待つ。


 少なくとも、夜になればお父さんが帰ってきます。

 それまでの、自分達を守る場所があれば、楽しく待っていられる気がしたのです。


「それなら、傘を使って屋根を作ろう!」


 みっちーは賛成しました。

 お母さんがいないのは、まだちょっぴり怖いけれど。

 おうちを作るというのは、何だか楽しそうです。

 決めるとうきうきした気持ちがやってきたので、家の横にこじんまりとある庭に行き、さっそく作業にとりかかります。


 二人はちょうど、手に傘を持っていました。

 お父さんが朝、降るかも、と言って持たせてくれたものです。

 それを庭の物干し竿に、開いて逆さまにひっかけました。

 簡単な、屋根の完成です。

 リビング兼寝室は、物干し竿の下にある、ベンチでもある茶色いアルミ製の物入れです。


「トイレもいるね」


 けこたんが言いました。


「トイレはいるね」


 みっちーも言いました。


「大きなうんちをしたら、畑の肥やしにしよう」


 お母さんが長いこと帰ってこなくても、けこたんにお腹いっぱい食べさせたい、という、お姉さんとしてのプライドでした。

 家の庭の奥まったところには、家庭菜園があるのです。

 そこの土に埋めれば、野菜がすくすく育ってくれるのを、みっちーは知っていました。


 いぜん、自慢げにお父さんが言ったことがあるのです。

 飼っている金魚のフンの入った水を、畑にまいているのだ、と。

 それで野菜がぐんぐん大きくなって、去年の夏、トマトがいっぱい採れました。


 トマトはけこたんの大好物です。

 金魚のフンであれだけ採れたなら、自分達のうんちだったら、たくさん出るし、野菜もきっともっと取れるだろう。

 みっちーは頭の中でそう計算しました。


 場所は二人で相談です。

 リビングへ臭いがくるのがいやだ、という意見がいっちしたので、ちょっと離れたところへ、ベンチの周りにまいてある庭石を集めて囲いにし、トイレを作りました。


「これでいいね!」


 みっちーは大満足です。

 けこたんも、自分達が作ったトイレの出来栄えにニッコリ。

 家にあるトイレをまねて、便器こそなかったものの、穴を深く掘りました。

 これでおしっこもうんちも大丈夫。


 そうして二人は、リビングへ戻るついでに、植えてある庭木から落ちた葉っぱや、お母さんが木の形を整えたときに片付けそこねた枝を集めました。

 遊び道具を作るつもりでしたが、穴を掘るのに力を使い、いつの間にか――二人は寝息を立てていたのでした。


 どれくらい経ったでしょうか。

 目が覚めると、二人は大きな岩の前で横になっていました。岩は白く、つるりとしています。


「みっちー、これ、なあに?」


 けこたんが不安そうにききます。


「大丈夫、大丈夫」


 本当は頭の中がパニックで、大丈夫でもなんでもありませんでしたが、みっちーはけこたんの手を握りながら言いました。

 みっちーはふと、後ろを見ました。

 茶色く、鈍く光る壁がどこまでもどこまでも続いています。

 横一線にくぼみがあるその壁に、見覚えがありました。


「けこたん、これ、ベンチだよ」

「え?」


 けこたんは驚いて、思わず繋いでいない方の手を伸ばし、そっとその壁を触ってみます。

 確かに、さっきまで座っていたベンチと同じ手触りです。

 見上げると、はるか彼方に光を反射して金色に輝く物干し竿があります。

 開いた花柄の傘が、いつもの何倍にも見えました。


「ちっちゃく、なっちゃった?!」

「ねぇみっちー! すごいよ〜、葉っぱがこんな!」


 けこたんが興奮しながら葉っぱを両手で頭上にかかげます。


「おっきいね」


 みっちーもだんだん楽しくなってきました。

 あたりを見渡すと、草も大きければ、庭石も二人の背丈ほどあります。

 起きた時に見た岩は、その庭石だったようです。


「けど、おうち使えなくなっちゃった」

「あ……」


 二人は目の前の壁になったベンチを見上げます。

 あの上にあがるのは無理です。

 みっちーの眉尻が下がりました。


「もう一度、作ろ!」葉っぱを離し、みっちーの手を取りながら、けこたんはキョロキョロ。「どこがいいかな」


 その声に、みっちーが指差しました。


「あそこは?」


 その先には、黄色い花とピンクの実をつける、ヒペリカムという低い木が植えてありました。

 といっても、今はもう山のようにテッペンが見えないほど大きなそれは、枝を広げて庭という森の一部となっています。


 みっちーは、お母さんがこの木を見ながら「せっかくだから根元でも花を育てたいけど……よく茂るから雨もお日様も当たらなくて、ちっとも育ちやしない」とぼやいていたのを、ようく覚えていたのです。


「いいね! じゃあ、いこ」


 けこたんが、集めていた棒の一つを手に取りました。

 けこたん位の長さの枝は、何だか重そうです。

 みっちーも負けじとけこたんが地面に置いた葉っぱを持ち上げました。


 そうしてえっちらおっちらと、家の材料をひこずりながら、木の下へと移動します。

 道中何匹か、二人の背丈ほどのダンゴムシたちとすれ違いました。


「足がむにゅむにょ動いてる!」

「よくこんがらがらないね」


 むしゃむしゃと枯れ葉を食べてる彼らは、みっちーたちに無関心です。

 けこたんはついつい、そんなダンゴムシをいつものようにつついてみることにしました。


「ちょっとけこたん、危ないよ」みっちーが心配げに言いました。

「大丈夫だよ、多分」そんなみっちーなどお構いなしに、けこたんは続けます。


 つついたダンゴムシは、慌てたように丸まります。

 「もうっ」みっちーは呆れ顔。

 けれど、面白かったのか思わず吹き出してしまいました。

 けこたんは満足したのか、もうつつこうとはしませんでした。

 ダンゴムシは、少し足を動かしながらも、まだ丸まっています。


 その脇を通り過ぎ、花壇と庭との境目のレンガをよじのぼったり、材料を受け渡したりして。

 やっと二人は木の根元へと辿り着くことができました。ヘトヘトの二人は喉が渇いています。


「喉渇いた〜」

「水筒、遠いし大きいね」


 元いたベンチの上の水筒を見ながら、二人は途方に暮れました。

 たとえ取りに戻っても、あの大きな水筒からお茶が飲めるとは思えません。

 けこたんはあたりをよく見渡します。

 すると、近くの雑草の葉先に、先日降った雨の残りでしょうか、水の粒が一つ、のっているのが見えました。


「みっちーあそこにお水の玉があるよ!」


 けこたんが駆け出しました。

 みっちーも、手にした材料を置き、慌てて後をついて行きます。

 そうして着いた先には、小学生の頭ほどもある大きな水滴が草の葉の上にどっしりと。

 二人は顔を見合わせ目をぱちくり。

 それからけこたんがいきなり顔をその中に突っ込みます。

 「けこたん?!」みっちーはびっくりです。


 水の粒はその衝撃でいくつもに離れ、葉に残ったり地面に落ちたり、根っこの方へと滑り落ちて行きました。


「ふはははっ、あはははは! おもしろーい」

「もうけこたん、飲みにくくなったじゃない」みっちーはほっぺたを膨らませて文句を言います。

「ごめんね。ほらこれ」


 文句をちっとも気にせずに、けこたんはその水を手のひらに掬うと、みっちーの口元へと持って行きました。

 みっちーが、んくんくと飲み干します。


「……ぷはー。美味しい!」

「でしょう?」けこたんは髪の毛をほっぺたに張り付かせながら、楽しそうです。


 その顔を見て、みっちーは怒るのが馬鹿らしくなりました。

 水も飲めたし渇きはおさまっています。


「腹ごしらえもできたし、おうちつくろっか」

「うん、つくろっか」


 どちらともなく声を掛け合い、二人はさらに材料を集めはじめました。

 腹ごしらえは、正確にはおながが空いた時に使う言葉でしたが、今、ツッコミを入れてくれるお母さんはいませんでした。


「これくらいかな?」


 しばらく作業をした後、みっちーが、額の汗を拭いながら言いました。

 パンパンと両手をはらいながら、「これできっと大丈夫だよ」とけこたんがこたえます。

 二人の目の前には、木の葉っぱや小枝が、両手で抱えきれないほど集まっていました。

 その端には、秋の小花もひっそりと。


「じゃあ、つくろ!」


 二人は協力して、花壇の境目のレンガに枝を立てかけていきます。

 斜めに、壁を作るつもりのようです。

 そこへ、葉っぱを当てて、持ってきたハツユキカズラの蔓を巻きつけ固定します。

 それを繰り返すと、隙間こそあるものの、立派な葉っぱの壁が出来上がりました。


「これでどうかな?」

「ちょっと待って」


 みっちーが最後の葉っぱを結えつけます。


「「完成!!」」


 二人は両手を握り合って喜びました。

 早速中へと入ると、立つことはできないものの、まぁまぁ中の広い、くつろげる空間が現れます。


「うーん」と、そこへみっちーがうなります。

「どうしたの?」けこたんは何にうなっているのかがわからなくて、困り顔。

「何かが足りない……」


 うんうんうなったみっちーは、しばらく経ってから閃いたとばかりに手を叩き、ピュンと外へ出て行ってしまいました。


「みっちー!」


 おいて行かれたけこたんは心細そうです。

 ちょっとしてから、みっちーが葉っぱを抱えて帰ってきました。


「これを、こうして……」


 その大きな緑の葉を地面にきれいに敷いて、みっちーはけこたんへと振り向きます。


「リビングの絨毯! 敷布団にもなるから、寝れるでしょ?」得意げな声に重なったのは、泣き声でした。

「わああああん! みっちーのばかばかばか!」

「なっ、酷い! どうしてそんな酷いこと言うのっ?」


 ばかと言われて、みっちーの顔も歪みます。けれど、けこたんは泣きじゃくりながら言い返しました。


「だってだって、怖かったんだよ?!」

「……でもっ、思いついちゃったんだもん、お布団が欲しかったのっ!」

「だからっておいてくなばかぁ!」「にゃおーん」


 とそこへ、大きな鳴き声が聞こえてきました。

 猫です。

 普段ならなんてことない動物ですが、今二人は猫よりも小さくなっています。


「ねぇみっちー」

「……うん」

「猫、だよね」

「猫、だね……」


 二人は顔を見合わせます。ごくりと唾を飲み込みながら、けこたんが口を開きました。


「アニメの猫みたいに……私たち、追いかけられてパクってされちゃうんじゃ、ない?」


 猫はお家で飼える動物だけれど、肉食だということを、けこたんはお父さんに教えてもらって知っていました。

 けこたんの言葉に震え上がったみっちーは、一生懸命考えました。

 どうしたら安全だろう。

 辺りを見まわします。

 すると、猫の入ってこれなさそうな、茎の密集した林を見つけました。


「けこたんあそこ行こ!」


 みっちーはお姉さんの本領発揮、けこたんの手を取るや、ヒュンとその林へと駆けました。

 けこたんも合わせて走ります。


 辿り着いた先は、長さのまばらな枯れた茎の林でした。お

 父さんが秋になる前にと切りそろえた、モミジアオイの茎です。

 もう何年もそこで咲いていて、茎も新しめから古いものまで、色々乱立しています。

 その中で息を潜めてしゃがんでいると、トテトテと、しなやかな体と、その尻尾を右に左と揺らしながら、猫がやってきます。

 きらり、その目が鋭く光ると「シャー!」唸り声を上げてみっちーたちの方へと飛びかかってきました。


「きゃー!!」


 叫びながらも、けこたんを抱き込むみっちー。

 けこたんもみっちーを守らんばかりに抱きしめます。

 いよいよ絶体絶命と思われましたが、「ぎゃっ!」という悲鳴のような声をあげて、猫は後ずさると、足早にその場から去って行きました。

 途中、二人の作ったおうちも踏み抜いて。


 どうやら、お父さんの切ったモミジアオイの茎の端が鋭く尖っていて、それで怪我を負って退散したようでした。

 しばらく経ったでしょうか。

 茎の裏からそうっと顔を出して周りを確認すると、猫の姿はもう、どこにもありませんでした。


「ふぅ、食べられちゃわずにすんだね」

「……うん。けど、おうち壊れちゃった」


 みっちーが、がっかりして言いました。


「猫ちゃんおっきかったから、めちゃくちゃだね……」


 けこたんも肩を落とします。

 それでも、もう一度とおうちの方へ向かい材料を集めはじめました。

 それを見たみっちーも、材料を新たに集め直します。


 二人は、さっきの喧嘩の気まずさから、声もかけずにそれぞれが別の場所へと向かいました。

 木の枝枝のある場所、いろいろな形で赤や緑色の葉っぱのある場所。

 そんな中けこたんは、花壇の、普段はあまり目にしないような、花の生い茂ったところと家の塀の間の方へとなんとなしに向かいました。

 と、そこへ、目の端に光るものがうつります。


「何か光った!」


 きらりと光を反射していたのは、まあるくて水色のビー玉でした。

「お宝だ!」けこたんが叫びます。


 他方、みっちーは別の場所で葉っぱをたくさん集めていました。

 と、そこへ、目の端に鮮やかな色がうつりました。


「わぁ、きれい!」


 そこにあったのは、黄色く色づいたイチョウの葉っぱでした。

 家のすぐそばには大きな大きなイチョウの木がある神社がありますから、そこから飛んできたのでしょう。

 三角の形がとてもおしゃれです。

 みっちーはそれを手にすると、大事に大事におうちの場所へと運びました。


 葉っぱを頭上に持ちゆっくりと。

 ビー玉を転がしながらゆっくりと。

 二人はおうちへと向かいます。

 持ち寄った材料を目にして、みっちーもけこたんもお互い目をぱちくり。

 けれどまだ気まずかったので、一言も言葉を交わさず、材料を手にすると作業に取り掛かりました。


 どれくらい経ったでしょうか。

 黙々と手を動かしながら、ふいに「さっきはひどいこと言って、ごめんね」とけこたん。

 「何も言わずにおいてって、ごめんね」とみっちー。

 もじもじして。

 どう返事しようか考えて。

 けれど。


 二人は顔を見合わせてにっこりしました。

 もう言葉はいりませんでした。

 それからまたせっせと枝を立てかけ、葉っぱをあて、蔓でしばって、新しい壁を作り上げました。

 今度は小花もところどころにあしらって、屋根は真っ黄色で三角。

 入り口にはぴかぴかの水色でまあるいビー玉のオブジェと、とても華やかです。

 みっちーもけこたんも、この出来栄えには大満足。


「「完成!!」」


 新しい葉っぱも二人で取りにいき、地面へとひきました。

 これで寝床もバッチリです。

 寛ぐことだってできます。


「葉っぱの絨毯、寝転がっちゃう?」キラキラとした瞳で、けこたんがたずねました。

「葉っぱの絨毯、寝転がっちゃおうか?」みっちーが、にんまりとしながら言いました。


 二人は手に手をとって、おうちの中へと入ります。

 そうして二人して葉っぱへと寝転がると、黄色い天井が見えました。


「きれいだね」

「うん、きれい」


 二組の瞳がとろんとして、なんだかとても眠そうです。

 それもそうです、だって二人は、一日のうちに二回もおうちを作ったのですから。

 いつの間にか、あたりには寝息が聞こえてきました。

 すやすや

 すやすや




「起きて、けこたん、みっちー」


 ゆさゆさと、二人の体が揺れています。

 お母さんの両腕が、二人の肩を掴んで右に左と揺らしていました。


「ん〜、なあに?」

「もう食べられないよぅ」

「寝ぼけてないで、風邪引くわよ」


 みっちーとけこたんの瞼が開くと、目の前にはお母さんの顔。

 きょろきょろと見回せば、そこはベンチの上でした。


「ごめんね、二人が帰ってくるまでには家にいるつもりだったんだけど、渋滞しちゃってて。心細かったでしょう」

「あれ、葉っぱのおうちは?」

「葉っぱの絨毯もないよ」


 二人は庭をようくようく見てみます。

 けれど、あるはずのレンガには、何も立てかけてはありませんでした。

 お日様のような色のイチョウの葉っぱも、透き通った水のような色のビー玉も、どこにも見当たりませんでした。

「何か、夢でも見てたの?」


 お母さんは、不思議そう。

 さっきまで一生懸命頑張ったのに。

 せっかくおうちを作ったのに。

 二人は腑に落ちません。

 けこたんはちょっとムカムカとしてきて、スカートのポケットに手を収めました。


 すると、「あ」指先に何かが当たった感触。

 握りしめて引っ張り出し、手のひらを開けてみると、そこには水色のビー玉がころり。


「夢じゃなかったのかな?」みっちーが首を傾げます。

「夢かもだけど、きっと、頑張りだけはほんとうだったんだよ」


 けこたんが、ビー玉を指でつかんで眼前に持ってくると、瞳をうつしこみながら言うのでした。

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