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再戦

 午前五時四十分、薄暗い中を加賀は自転車でゆっくりと移動していた。犬や猫とすれ違って、だんだんと遠くが明るくなっていく。地面にもじゃもじゃと雑草が生え、壁を伝う緑が増えていき、窓ガラスもツタに覆われた廃病院にたどり着いた。携帯をパと見ると、「05:54」とある。

 早かったか、と加賀は開きっぱなしでさび付いた門の脇に自転車を止め、鍵をかけた。あくびを噛みころして顔をゆがめた時、病院の入り口でチカチカッと光が点滅した。試しに濁ったガラスのドアを押してみると、ギギギと重い音がして動く。そのまま押しのけて、加賀は中に進んだ。

 茂った緑に覆われた窓の隙間から、かすかに光が差し込み始めた。それでも足元は携帯で照らしながら階段を上り、曲がり角の先が明るくなっているのを見つけた。

 扉が開け放たれて照明が漏れている。物音も聞こえる。加賀は扉に体を隠しながら、そっと目を覗かせた。

「来てくれてありがとう。まずは感謝する」

 バチリと目を合わせて来た男はくるりと椅子から立ち上がり、座面の破けた丸椅子を勧めた。加賀は一歩だけ部屋に立ち入る。

「……こんにちは」

 コロコロと椅子を引っ張ってくる男に、加賀は選んだ言葉をかけた。浮かんだ質問に順序がつかなかった。

「こんにちは。まずは私から話そうか、私の話はこれのことだ」

 男はデスクに並んだパソコンやモニターの陰から、鮮やかなイエローのハンドガンを持ち出した。見覚えがある。

「これは、単純に言えば戦闘用装備だ。貴方が昨日倒した彼のような、ああいう存在に対抗するための物さ。身体への負荷と力のバランスを考慮した結果、使用できる人間が限られてしまった。私の話の結論は、これを……使って、貴方に私のやるべきことを手伝ってほしい」

 男は目線をハンドガンに向けたまま、加賀にそう告げた。

「その用途を聞いて、積極的に手伝う気は起きませんね。まず、昨日のアレは何なんですか」

「彼は、トメノウ。そう呼んでいる存在の一人だ。人が、人を超えた体を持った」

「人……」

 話の途中で加賀の声が漏れた。昨日、しゃがみこみ震えていた彼の姿が思い出される。

「気にするなと言うのは無理があるな。だけれど、あくまで人だった者。トメノウという別の存在であるし、何より彼は正気を失って暴れた。少なくとも貴方の対応はあの場を治めるうえで」

「いいです大丈夫です」加賀が男の話を遮った。「そう聞いても実感が湧かないので」

「そうか……その、私自身がやるべきことなのだ。だが、私の技術が追いつく前に事態は動き始めてしまった」

 感情のこもった男の声に、加賀は一歩身を引いた。関わりたくない。

「今日ここに来たのは、昨日の子供があなたの体を心配していたので様子が知りたかっただけです。昨日も衝動的な、成り行きみたいなものなので……頼むならもっとちゃんとした所の人にしてください」

 加賀はそのまま「失礼します」と会釈して、男を背にした。タタッと早足で駆ける音に、男は口をつぐんだ。

 夕暮れ。加賀は喫茶クロエのドアから出て、自転車に乗り込んだ。ペダルを踏みこみ、川沿いを抜けて、夕陽で影になったオレンジ色の団地に着く。携帯のメモに「364黒木大樹」と書いてあるのを確認して、加賀は階段を登った。

 小さな表札に黒木と書いてあるドアのインターホンを押す。「ピンポーン」と音が鳴り、中からパタパタと音が近づいてきた。

「やあ! お兄さん!」

 扉の隙間から大樹の顔が覗いた。

「インターホン、見てから開けた方が良いんじゃないの? 俺じゃないかもしれないよ」

「小言だね。返事はしてないけど見てから開けたよ。それに、チェーンはかけてるもん」

 大樹は眉を寄せながら、扉にかかったチェーンを外して外に出て来た。扉に鍵をかけ、「家の人がいないときは友達でも中、ダメでさ。晴れてるし公園行こ!」と加賀を誘った。

 二人は連れ立って、たくさんの声がする公園の入り口にやってきた。人が集まる遊具から離れたすみっこのベンチに腰掛ける。

「あのおじさん、普通に立ててたぞ。痛みが消えてるかまでは知らないけど、生活は問題なさそうだった」

 加賀の報告に「よかった」と大樹が返した。

「そしたら昨日のこと、もう考えなくていいね! せっかくだし遊びに行こうよ」

 パンッと手を叩いた大樹に「あぁ、いいね」と答えて加賀は頷いた。

「ほら、ブランコでも滑り台でも砂場でもいいよ。どこも混んでるけど、まぁ遊びようはある」

「いいってココは。いつも遊んでる。冒険に付き合ってよ」

「どこまで?」

「そこの研究所の裏! 研究所の近くを通らないといけないから、学校の友達とじゃあ大人にいい顔されなくってさ」

「なんかあるの?」

「分からないから行くんじゃないか~。遠くから見た感じだと、ガレキのくずが落ちてるだけっぽいんだけど……」

「いい顔されないところに俺が着いてくのもなぁ」

「近所の人とか普通に通ってる道だって、ちょっとそこから降りて近づいてみようってだけで。僕も近くは父さんと通ったことあるし! 絶対ダメなわけじゃないもん」

 ぷりぷりと頬を膨らませて腕を組む大樹に、加賀は折れた。「分かりました、明るいうちに帰って来よう」と、大樹と公園を出た。

 団地の脇を通り抜け、二階の窓が所々残る建物の残骸を見下ろして行く。転がったままの溢れるガレキを見ると、四階ぐらいは建てられていたように思える。

「随分大きな施設だったんだな」

「うん。いつも車とか人とかたくさん出入りしてた。火事になってすぐは毎日ニュースで流れてたけど、見てないの?」

「受験だの引っ越しだので忙しくて、ちゃんとは見てなかった」

「へー! どこから来たの?」

 会話をしながらわき道へ逸れ、下り坂を歩いてガレキの山を背にする。くるりと体を半回転させると、崩れた残骸が目の前に広がった。所々、ガレキが支え合って出来た隙間があって、その先は暗く見通せない。それがどことなく、好奇心をくすぐった。

「念のため言うけど、これ以上は近寄るなよ」

「はいはい」

 加賀の忠告を生返事でかわした大樹は、背負っていたリュックから双眼鏡を取り出した。建物の原型が残る窓や、ガレキを双眼鏡で覗いてみる。時々、大きな機械の残骸が転がっていて大樹はそれをジッと見つめた。

 隣の加賀がしゃがみこんだのに構わず、大樹の視線は次の珍しいものを探し始めた。動かした視界にスッと光の線が走ったので、大樹の双眼鏡がそこを向く。ガレキの隙間から何かの光が明るく、近づいてきて、チカッ。

「離れようッ! ねッ速く!」

 大樹は双眼鏡を目から離して、加賀の腕をグイッと引っ張った。無理やりに三歩ほど下がったところで、加賀が中腰から立ち上がる。

「どうした?」

「ごめん、なんか、つい……」

 大樹が予感のありかにチラッと視線を向けると、ガレキが盛り上がっていた。続いて、ボコ、ボコと音がする。

「大樹走るぞ!」

 加賀は大樹の背中をポンと押し、建物に背を向けて走りださせた。建物と大樹の間に入りながら走る加賀は、後ろの様子を伺う。音は段々と大きくなり、原因が姿を現した。

「昨日の……ッ」

 肥大化した腕に脚、頭部にはそそり立つ動物の耳のようなもの。細かい形は違えど、まとった雰囲気と力に加賀は近しいものを感じた。

 足を動かしながらも、これで逃げられるのかという不安が加賀の胸を締め付けた時、足元が揺らぐ。体が浮かび上がり、大樹もろとも宙に放りあげられた。化物の手がこちらに向けられている。加賀は大樹の体を掴み、抱える様に受け身を取ると地面に落っこちた。

「ぐぅッ」

 衝撃で加賀は声が漏れる。大樹は立ち上がると「ねぇ立ってよ、逃げよう!」と加賀の体を引っ張った。

「立つよ」加賀は地面を押しながら体を支える。「代わりに頼みがあって、全力ダッシュで誰か呼んできてくれる? 俺より強そうな人」

 コクリと頷いた大樹が走り出し、徐々に視界から外れていく。動くものを追いかけていた怪物の目も、今は目の前の加賀に向けられていた。

 奴の背がだんだんと丸まり、四足歩行へ移った。大きな爪がギリギリと土を抉る。グッと後ろ脚が沈みこんだ時、目と目が合った。

「がるぅ~」

 裂けた右の袖にじんわりと血がにじむ。目が合ってすぐに加賀は左へ飛び退けたが、怪物はプールほどの距離を一瞬で駆け抜けた。

 ズシャーっと地面にブレーキ痕を残しながら、怪物は飛び掛かった分と同じだけの距離を使って止まった。視線は未だ加賀を捕らえていた。


 走る。大樹は走っている。通学路のさなかにある交番へまっすぐ向かっていた。

大通りを挟んだ向かい側に『POLICE』の看板が見えた。大樹が歩道橋へ駆けていくと、交番から警官が二人出てきた。大樹が歩道橋へ近づくほどに彼らは交番から離れ、パトカーに乗り込んだ。

走り去っていくパトカーを見送り、大樹は肩で息をしながら立ち止まってしまった。あの怪物には警察官だって敵わないかもしれない、そう感じていた気持ちと現実が繋がったように思えて、大樹は歩道橋の手前で止まった。

もっと、もっと確実にあいつを止められる誰か。大樹が頭を巡らせ始めた時、風が通った。

「ッおじさん!」

 大樹の呼びかけに少し先でバイクが停まる。大樹は再び走り、バイクの元へ駆け寄った。

「おじさん、この間会ったおじさんだよね? あの変な銃、持ってるんだよね? 一緒に来て! また怪物が出たんだよ、加賀くんを助けてよ!」

 大樹がすがるように脚を掴むと、彼はヘルメットを差し出した。

「案内してくれるか」


 怪物はときおり尻尾を振って犬の真似ごとをしながら、加賀の半径二十五メートル範囲を陣取っていた。加賀の体には切り傷が、奴が通り抜けた分だけついている。

 痛い。が、動きに支障はない。なのに駆けだそうと構えれば怪物は正面にやって来る。加賀はこの状況に頭を乗っ取られていた。分かりやすく暴れていた広場の怪物とは違い、そういう習性か、はたまた目的だのを持っているのか。

 数秒前に傷ついた脚を立て直して加賀の姿勢が整い始めると、怪物は視線を低く狙いを定めた。

 睨み合い、それから土埃が舞った。

 スパン!

空気が裂けるような音。右に飛びのいた加賀に、痛みが走る。だが、それは傷口が地面に触れたせいで、えぐるような痛みは感じなかった。怪物は二十五メートルの陣の外側で、坂の上を見つめていた。

「大丈夫ー⁉」大樹の叫び声がする。

「大丈夫!」

 返事をしながら振り返ると、ヘルメットを被った大樹がいた。横に男が立っている。目に刺さる黄色の銃を持って、顔をこわばらせていた。

 広場で倒れこんだあの男は、果たして怪物を撃退するまで体がもつのだろうか。それと同じく、鈍い痛みが流れ続ける体であの日の再現が出来るだろうか。

「そこの人! その銃を俺に貸してくれ!」

 加賀は男に叫んだ。

「いやだが、傷を負っていては」

「大丈夫です!」

 食い気味に会話を進める。加賀の記憶では広場で銃声がしてから男が倒れるまで、そう時間は無かったはずだ。刻一刻とは今のこと。

「大丈夫って言ってるから大丈夫だよ! ねっ!」

 大樹の声と同時に、男の手から銃が抜け落ちる。銃に繋がれていたコードを引っ張った大樹の元へ、銃が収まった。

「加賀くんパス!」

 それは大樹の手から加賀の手へ飛び移り、銃口と怪物の目が向かい合う。血のにじんだ掌で、加賀はスイッチを押した。

「認証。装甲展開」

 手にしたハンドガンが熱を持ち、パーツごとにばらける。それぞれが加賀の体のサイズに広がり、まとわりついた。

 バチンと電気が走ったような刺激の後、加賀の体は再び銀の装甲をまとっていた。

「よし!」

 ギリギリッと拳を握っていくと、傷口の痛みより断然こもっていく力の方が強く感じ取れた。

 加賀の目が怪物を捕らえる。拳を構え、呼吸をする。奴の脚に力がこもった。

 衝撃。

高速の突撃に拳が合わさる。衝突の余韻が加賀の体に波打った。

姿勢を崩して怪物は膝をつくが、すぐに残った脚が加賀の顔を抉りに飛んでくる。体を反らしてその脚を躱し、加賀はがら空きの尻尾を引っ掴んだ。

体全体で弾みをつけて投げつけ、前に傾いた重心を前転で整える。一気に距離が開き、加賀は銃を構えた。

怪物はズリズリと体を地面に擦りながら、ゆっくりと体を立てようとしている。

ハッ、と息を吐き、加賀は腰に下がった銃のスイッチを押した。

「ブースト機能を起動します」

 音声と同時に胸部でパーツの組み立てが始まる。前に来るであろう重みに備えて、片膝をついた。

 体勢を整えた怪物と目が合う。怪物は形を見せ始めた大砲の射線上から、研究所のガレキへと走り出した。

「まずッ」

 完成した大砲のグリップを掴み、自分の体ごと大きく舵を切る。猛スピードの怪物と、研究所の間。動く的を予測して、加賀は引き金を引いた。

 ドォンと鈍い音。ガレキの塵が舞う。大砲が分解されて、よろけた体を手で支えた。

 だんだんと塵が落ちていく。怪物の姿は視界から消えていた。

「倒した~⁉ 倒したよね~!」

 大樹が手を振りながら坂を下ってくる。後ろからあの男もやってきた。

「やっつけた⁉」大樹が尋ねた。

「やっつけたかは遠くてよく見えてないんだけど。ひとまず、懲らしめてはやった」

 パァンといい音のハイタッチを交わす。男はそれを見終わると、加賀の腰を指して言った。

「銃の胴体を銃口側に引くといい。装甲が解除される」

 言われた通りにすると、表面のパーツがずれた。同時に体も軽くなり、手を握ると皮膚の擦れる感触がした。

 加賀は銃を手に取り、男に差し出した。

「また、詳しい話をしましょう」

 加賀の提案に、男は銃を受け取った。

「私は同じ場所にいる。心の準備が出来たら、いつでも来てくれ」

 男に「おじさんありがとう!」と大樹が声をかけると、彼は小さく会釈をして去っていった。

 加賀が服に付いた砂をササッとはらっていると、大樹に手を引かれる。

「大丈夫でもケガは手当した方がいいよ。僕んちおいでよ、多分誰か帰ってきてるし。いなかったら公園に道具持ってく」

「え、このくらい大丈夫」

「大丈夫なのは分かってるって! 行こ」

 グイ、グイと腕を引かれるまま、加賀はビリビリとした疲労感の残る体で団地へ向かった。

 公園の脇を抜け、三号棟へ着く。時たますれ違う人の視線がチカチカと、傷に刺さるように向けられた。

「やっぱりその怪我のまんまじゃ、変だもん」

 大樹はそう言いながら加賀とエレベーターに乗り、「6」のボタンを押した。

 部屋の前に着き、大樹が鍵を開ける。「ただいまー」と声をかけると、中から「おかえり」と返事が来た。

「おとーさん? 玄関まで来て~」

 大樹が呼びかけると、すぐにネクタイを外したスーツの男が出てきた。

「え! どうしたんですかその怪我」

 男は加賀を見るなりそう言うと、大樹に「どうしたんだ?」と改めて尋ねた。

「この人、僕を助けてくれたの。二回。説明と手当したいから家に入れてもいい?」

「あぁいいよ」男は加賀に視線を移し「どうぞ入ってください」と部屋の奥を示した。

「ありがとうございます。自分は加賀と言いまして、大樹君とは」

「いいですよ、経緯は手当をしながらにしましょう。血が出たままでいいこと有りませんから」

 加賀はそう言う男にペコリと頭を下げて、先を行く大樹に続いた。

 リビングのソファを指差して「そこ座って!」と言い、大樹は奥の部屋へ向かった。加賀は「お邪魔します」と腰掛け、大樹の父はテーブルから引き出した椅子に座った。

 パタパタと駆け足で戻ってきた大樹は、加賀の横であぐらをかく。持って来た木箱を開き、消毒液やガーゼを取り出した。

「このケガね、さっき変なのにやられたんだ」

大樹が傷口に液をかけながら話し始めた。

「動きがすごく素早くて、大人ぐらいの大きさの、人間じゃないやつ。昨日も人間じゃないやつが暴れてて……すっごく危なかった。そいつらから昨日と今日、僕を守ってくれたのがこの」

大樹は父に顔を向けた。

「加賀和那くんなんだ!」

 紹介を受け、加賀は「加賀です」と頭を下げた。大樹の父も「息子がお世話になりました」と頭を下げた。

「ちなみに加賀さん。昨日の場所というのは、葉中しぜん公園ですか?」

「えっ、はい。そうです」加賀は戸惑って尋ねた。「どうしてそれを?」

「ひどく破壊された跡が見つかって、目撃した人はだいたい『人型の怪物』がやったと言うもので。私、警察官なんです」

 大樹の父がそう言うと、大樹が「ほんとだよ」と加賀に耳打ちした。

「勤務時間外なので、世間話としてお話伺っても? 大樹も一緒に」

 大樹の父の提案により、手当てを受けながら加賀と大樹は二回の遭遇の話をした。話を主導する大樹は、「いい顔されない」と言っていた研究所裏への冒険を隠さず話した。その反面、銃を持った男の話は切り取っていた。

 帰り際、建物の外まで見送りに来た大樹と連絡先を交換した。

「お父さんがいいってさ。僕、なんかあったらすぐ加賀くんに連絡するから。すっ飛んできてね!」

「分かったよ」加賀は頷いてから尋ねた。「ところで、あの人のこと言わなくてよかった?」

 加賀が手で拳銃の形を作って見せると、大樹は「シーッ」と言って加賀の手を開かせた。

「お父さんを巻き込みたくないんだよ。だってあのおじさんも、怪物も、きっとヤバいじゃん。そんな強くないよ……警察だって」

 大樹は視線を巡らせた。

「それに、おじさんが捕まったら困るでしょ!」

 笑って見せる大樹に、加賀は「いつでもかけてきていい」と携帯を見せて団地を離れた。


「トメノウ、私は彼らについて研究をしていた。あの燃えた研究所の一員として」

 翌朝、日が昇りきらない時刻。加賀が廃病院を訪ねると、男は以前訪れたコンピュータの並ぶ部屋から出てきた。男は加賀を屋上へ招き、話を始めた。

「目的は彼らの強靭な肉体の秘密を解き明かすことだった。その研究は一つの成果を生み出したのだが」

「銃ですか?」加賀が尋ねた。

「いや、銃は私個人の開発だ。成果というのは、秘薬だよ」

 そう言うと男は、ぽつりぽつりと昔話を始めた。

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