妄想エッセイ「道の駅」に自分の小説を置く
道の駅が大好きだ。
天気のいい週末、気軽に車を走らせてドライブをする。
住宅地を抜けるとやがて稲刈りの終わった乾いた田園風景が広がる郊外へ。季節の移ろいを感じる色づいた木々となだらかに連なる里山を眺めながら県道を走ること20分。
コーヒーが飲みたい、トイレがしたい。
そんなとき立ち寄ってしまうユートピアが『道の駅』だ。
駐車場が広い、トイレがきれい、なんかわくわくする。
地元ならではの様々な野菜や果物、季節の花なんかも売っている。く立ち寄るとなんとなく楽しい。
何かありそうな予感がする。
ファンタジーで新しい町についたときに感じが似ている。
オシャレに言うなら「マシェリに来たような」小粋なイベント感。
店内は広い、牛舎みたいな、市場みたいな。
三段重ねの棚がズラリと並び、商品はバラエティに富んでいる。
そして置き方がランダム。
キャベツ、キャベツ、りんご、米、ホウレンソウ、花、ダイコン、キャベツ、キノコ……ダイコン。
全部を見て回らないと同じ野菜同士で比較できない仕組みなのか。
ちなみに同じ野菜でも生産者さんによって微妙に見た目も形も違うのが面白い。
そして嬉しいことにお値段が安い!
農協に卸すのは特上品かAランク、都会の主婦の皆様の審美眼に適う形と色の優れたものらしい。
が「道の駅」に並んでいるのはたいていがB級品なのだとか。もちろんA級品も並んでいるのだけど、道の駅の場合は多少形が不ぞろいでも構わない。
新鮮でとにかく安くて朝どれ感があって美味しそう。
ついつい沢山買ってしまう。
珍しいモノもある。季節のきのこや山菜、よくわからない粉。雑穀の粉、自家製トウガラシの粉、ハーブの粉は無論合法。
それに以前、小説でネタにしたことがあるが「しだみだんこ」というドングリの実を灰汁抜きしてもち米と一緒に搗いて混ぜ込んだ茶色いモチもある。これは冬眠前の熊に食べさせたい。
そして、商品にはかならず生産者の名前が書いてある。
値段のシールと商品名、生産者の名前、時には顔写真なんてのも貼ってあったりする。
ほうれん草、120円、生産者: 渋野ウメ
お孫さんにお小遣いをあげるためかな?
パッケージを手に取り眺めると勝手にストーリーが思い浮かぶ。
ルバーブ、150円、生産者: 羽鳥りん
都会から移住してきておしゃれ野菜に挑戦している方だろうか、とか。
中には明らかに趣味の品を並べているブースもある。
流木アートだったり、手芸品だったり。山で拾ってきたであろう鹿の角を並べていたり。
なるほど。
こういうのもアリなのか。
ならば自作の「小説本」なんてどうだろうか?
むむ、いい考えだ。
自分の「小説家になろう」からいくらでも収穫できるじゃないか。
どうせ世に出ることのない、一次選考で落選するばかりの作品たち。そんな自分の作品を本にする。
妄想と夢と愛、想いがいっぱい詰まっている。
B級品どころか規格外品だけどってほっとけ。
何にせよ小説を書くことはきっと野菜を育てる時に注ぐ愛情や情熱と変わらない。いや、たぶん。
自費出版は流石に無理でも、自宅でコピー本をつくって、表紙は生成AIで作って。そんで『小説家になろうで大人気(?)俺氏絶賛ッ!』とそれっぽい帯を巻いて。
むむ……いいな。
いけそう。
値段は1冊千円! と言いたいところだけど200円ぐらいが限界か。
隣の野菜たちと勝負しなくてはならない。
ダイコンとキャベツと買う流れでつい買って欲しい。
紙代と手間代だけでももらえれば……。
まて、道の駅に商品を並べるためにお金がかかるんじゃね?
スマホで調べると「組合員になる必要があります。入会金や運営費の支払いも発生する」とある。
げげっ、マジか。
高いのかな。
1万円ぐらいか。それぐらいは仕方ない。
でも審査とかあったらイヤだな。
あぁギルドに参加する新米冒険者の気分ってこんな感じかもね。
さらに「売り上げの1割、2割は出店手数料となるケースが多い」とある。
まさにクエスト報酬みたいなものだ。
まぁそこはクリアして『道の駅ギルド』に登録し、いざ出品。
商品はビニールでくるんで、ラベルを貼って。
おっと立ち読み用サンプルとして三ページぐらい開けるようにして置くのもいいな。
POPで可愛い美少女イラストも貼って……野菜と果物の間に、自作の小説本を置く。
小説『異世界で猫耳美少女に転生したワイ、公爵令嬢に溺愛されて猫吸いされる』
200円、生産者: たまり
うーん。
ヤバイな。
考えただけでドキドキする。
しかし若干、客層が違う気がする。
いや猛烈にミスマッチな気がしてきた。
コミケに出すのとはワケが違うのだ。
近所のじじばばとドライブしていた暇人、通りかかった営業の人。
うむ、これでは売れない。ならば、
小説『のんびり農家の嫁に、異世界から男の娘エルフがやってきました★ え、後継者? それは愛と魔法でなんとか解決』
250円、生産者: たまり
うーむ、いろいろギリギリだがこれならいけそう。
そしてワンチャン、旅行中の大手出版の編集者のかたが手に取って、
「ぬぅ!? これはッ!」
ってなるかもしれないじゃん?
あるいは地元高校の可愛い女子文芸部員たちが手に取って、
「産直で自作本とかマジうけるんですけど」
「表紙かわいい、ってか文学ナメてんのか」
なんて。
きゃいきゃいと話題になるかもしれない。SNSでバズったりして……ぐふふ。
妄想がふくらむ。
やっぱり「道の駅」は楽しい。
みなさんもたまには寄り道してみるといいかもです。
<おしまい>