表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
suicide magic  作者: リープ
9/55

第9話「他人(ひと)のため 自分のため」

 武内の住所はクラス名簿で調べた。こんなことなら鳥の糞で汚れた日、武内の家に行っておけばよかった。くそっ、後悔の連続だ。偉そうに武内のことを考えてた割には本当になにも知らないじゃないか。だけど、調べた武内の家は僕の家から近かったのが幸運だった。といっても三,四キロ離れているが……


 この寒空に汗だくで走る自分が情けなかった。考えてみれば自転車もない、タクシー使うお金もない。さらに魔法を使えばすぐに到着できるだろうが、その後の不幸が嫌で走っているのだ。これじゃあ、走ったって、走らなくたって不幸じゃないか?


 名簿の住所通り、行き着いた先には豪邸が建っていた。


「こんな所に住んでいたのか……」


 辺りは深夜ということもあって人通りもなく静かだった。家の中も電気はついていない。ふと冷静になった頭で考える。うぅ、明らかに怪しいな、不法侵入になるよなぁ、やっぱり。家の人もいるかもしれないし(そりゃいるだろ)。


 第一、武内になにかあったという保証はない。かといって、なにかあってからじゃあ遅い。僕は自分に訴えかけた。安否が確認できたらすぐ帰る。家の人に見つかったら魔法で逃げよう。


「……行くか」


 僕は意を決し、でかい門をよじ登り、玄関へと近づき、魔法で鍵を開けようとした。(こればっかりは、魔法を使わなければ開けることが出来ない)ドアノブに触れ軽くまわしてみる。しかし、玄関のドアは鍵がかかっていなかった。恐る恐るドアを開ける。家の中は静かだ。というより、誰もいないかのようだった。玄関には靴が一組しかない。しかもこれは武内が普段履いているものだ。


 ますます、自殺しやすい条件が揃っている。僕はためらいをなんとか押しのけ急いで武内を探す。そして電気をつけずに手探りで家の中を進む。本当に気分は犯罪者。いざとなれば魔法で逃亡だ。あぁ、父さんごめんなさい。正義の味方じゃないかもしれないけど、でも決して悪い事はしていません……多分。


 なんせ初めて入ったところなので勝手が分からず何度も迷う。だが不思議なことに、何度も間違って部屋に入ったにもかかわらず、武内の家には誰もいなかった。やっぱり誰もいないのか。俺を家に誘った時も家族はいないって言ってたな。いつもいないのか?


 そして、一番奥のキッチンにたどり着いた。とりあえず一階はここが最後のようだ。ゆっくり室内を覗き込む。


 すると薄暗いキッチンの奥でイスに座っている人影を見つけた。慌てて僕は顔を引っ込める。誰だ? 泥棒か? なんにしても怪しすぎる。少し怖かったが、「今の自分より怪しい人物はいない」と再確認した事で思い切ってキッチンを覗き込んだ。


 僕から見えた人影は小柄でまるで武内のよう……って武内じゃないか! こんな暗闇でなにやってるんだよ! ただならぬ雰囲気に彼女へ近づく。


「おい、武内」


 すると武内は机にうつぶせになっていた。僕は顔を覗き込もうとして机に手をつく。そしてなにか液体のようなものが手についた感覚がする。

 ゆっくりと手を上げ、よく見ると――僕の手が真っ赤に染まっていた。


 一瞬のうちに背筋が凍りつき、僕は腰が抜け尻餅をついてしまった。すると、その衝撃で武内の腕が机から落ちた。


 だらりと垂れ下がった指の先からはなにかが雫のようなものが床へと落下する。間違いなく血液だ! 僕は尻餅をついたまま血液が流れる元を探した。そして武内の手首にたどり着くと無数の傷跡から多くの血が流れているのを見てしまった。


「うわああああっ!」


 僕は変な大声をあげてしまった。これぐらいでビビってしまうとはなさけない……

 しかし、そのことが幸いしたのか、さっきまで動かなかった武内からわずかに声が聞こえた。


「ううん……」


 なんと武内の意識はしっかりしていて僕を見つめていたのだ。


「あれ……どうして……?」


 僕は武内の声を聞いてなんとか気持ちを振り絞る事ができ、声を上げた。


「おい! お前、なにやってるんだよ!」

「……痛っ」


 僕の問いかけになにも答えない。しばらく空ろな表情の武内とにらみ合ったが、そんな事をしている場合ではないと判断して、今は救急車を呼ぶ事にした。



 電話での応急処置指示を元に簡単な手当てをすると、傷口を押さえているタオルがすぐに赤く染まった。僕は次第に居心地の悪さを覚えて、救急車を待つ間、ついでに家の人を探す事にした。しかし、これだけの騒ぎを起こしているのになんの反応もない事からわかるように、家の人は誰も居なかった。娘がこんなになっているのに親はなに考えているんだ?


 病院へ付き添う必要があるな。これが学校中に知れたらどうなることやら……と、なんとか帰りたい気持ちを抑えて救急車の到着を待つ。少しして、救急車へ到着し、僕が付き添いで乗った。車内で詳しい話を聞かれるが、なにも答えられない。僕は本当に武内のことをなにも知らないんだな。正直情けない。


 病院へ搬送される間、武内は黙ったまま天井を見つめぼんやりして、されるがままに運ばれた。僕もそれをただ見つめる事しかできなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ