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suicide magic  作者: リープ
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第3話「笑顔で復讐」

 やっと授業も終わり皆が下校する時間。部活動をしていない僕はとっとと帰ることにした。魔法のこともあり、武内に気付かれないように教室を出る。

 しかし、いつのまにか先回りされ、武内が校門の前で待っていた。僕はそれを無視して通り過ぎる。


「ちょっと待ってよ」


 そんな風に言われたぐらいで立ち止まるわけはない。あっさり彼女の前を通り過ぎると武内は僕の後をついてきた。

 しばらく無言のまま、二人の歩く距離も縮まることなく歩き続けた。


「ついてくるな」

「嫌」

「くっ……」


 まだついてくる。僕は振り切るために少し早足で歩いた。すると、僕の歩調に合わせるかのように武内も足を速めた。


「来るなって、ハァハァ、言って、ハァハァ、るだろ」

「い、ハァハァ、や、ハァハァ」


 だんだん息が切れて、なに言ってるのか分からなくなってきた。



 しばらく歩くと運悪く目の前の信号が赤になった。このまま無理に横断してしまえばコイツを振り切れるのかもしれない。でも、こんなときに限って車が途切れることはなく、僕は無理やり横断するのを諦めて立ち止まった。心の中で舌打ちすると、後ろから武内の弾む息が近づいてくるのが分かった。


 僕は少し身構えて待っていたが、武内がこちらへ来ることはなかった。後ろをうかがうと武内は律儀にも僕との距離を縮めることなく信号待ちをしていたのだ。なんだかんだ言って『つかず離れず』ってことか。そういうところが自分と似ているような気がして思わず苦笑した。


 それから僕達は無言のまま信号待ちをする。やがて反対側の歩行者用信号が点滅を始めた。そして僕はこの信号が青になったら走ろうと決めた。

 大きく息を吸い込んで、ダッシュに備えた瞬間、後ろから小さな声が聞えた。


「みんなに言ったら、驚くかもね……魔法」

「はぁ?」


 僕は武内の言葉に反応し、思わす振り返ってしまった。

 すると彼女はジッと僕を見つめていた。やや俯き加減でこっちをうかがうような目つき。そんなへりくだった態度になんだかいたたまれなくなる。こうなったらハッキリ言うしかない。僕は少し強い口調で彼女に話しかけた。


「ちょっと待て。助けたのは誰だと思ってんだよ!」

「私、助けてなんて言ってないし」


 くそっ、なんか腹が立つ。これでもあの魔法の代償として階段から落ちて、何時間か経過した今でも足を軽く引きずって歩いているんだぞ。


「あーそうかい、だったら今すぐ屋上へ行って飛び降りて来いよ!」


 ちょっと酷な言い方かもしれないが、これぐらい言わないと僕の気が済まない。すると、武内は少しうつむいた。もしかして泣かせたのか?

 しかし、その考えは間違えだったことにすぐことに気付く。武内は顔を上げた反動で一歩僕に近づいた。


「いやっ!」

「はぁ?」


 彼女は僕を睨んでいた。どこか必死な様子は、さっきまでのへりくだったような態度ではなかった。


「せっかくのチャンスだもん! 逃すわけにはいかない!」


 言いながら僕へと歩み寄って来る。同時にその分後ずさりした。


「あなたの魔法で復讐がしたいの」


 『復讐』だって? しかも、俺の魔法で?

 そんなの――


「でっ、できるわけないだろ! オレの魔法をあてにしても無駄だからなっ! 僕は他人のためには魔法は使わない!」

「使ったじゃん、今日」

「うっ……だとしてもだ、実は魔法を使えばオレが不幸になる仕組みとなっているんだぞ」

「そんなの、そっちの勝手だもん!」


 すると、彼女は僕のすぐ目の前まで近づいて顔を近づけた。なんだ? 今朝の上っ面だけの会話にはないような、追い詰められるこの感じは。っていうかコイツちゃんと会話できるじゃん。

 と、僕が少なからず武内を見直した瞬間、彼女の口からとんでもない言葉が続く。


「このこと言っちゃってもいいの? バレたらどこかの科学者がやってきてアンタなんか解剖されちゃうんだからっ!」

「は?」

「それで、それで……どっかのサーカスに売られて、一生寂しく暮らすんだからっ!」

「なに言ってんのお前」


 眉間にシワなんか作って必死の形相で僕を脅しているつもりらしい。アホかコイツ。いや、アホ決定だ。そんなマンガみたいなことがあるわけないだろ。お前の乏しいんだか、面白いんだかよくわからない発想に付き合ってる暇はない。


 自分の言ったことが思ったより有効でなかったことが理解できたのか、いつの間にか武内は俺の目の前で手を合わせ、あがめる様に「お願いします~、お願いします~」とか言っていた。本当になんだコイツは……

 そんな姿に呆れて僕は苦笑しそうなのを堪える。


 まぁ、考えてみれば科学者までとはいかないまでも僕の周辺の人間に知られるとよくないよな。利用される可能性は大いにある。目の前にいるコイツがいい例だ。


 僕は自分の結界には誰も入れたくはない。付かず離れずでやっていきたいし、魔法のことも武内以上に広まることを阻止しなければいけない。幸いコイツはアホだ。会話で分かる。上手く誤魔化すことも出来るだろう。


 それに『魔法で復讐がしたい』っていうのも気になる。大げさに言っただけかもしれないけど、『復讐』なんて使うぐらいだから、きっとワケがあるに違いない。『復讐』……なんだか妙に好奇心をくすぐる言葉だ。


 僕は頭に手を当て、変に芝居がかった仕草で武内に答えた。


「はぁ……わかった。協力してやるよ」

「え、ホント?」

「だから誰にも言うなよ」

「うん! ありがとう!」


 すると彼女の顔が一変して、満面の笑みになる。さらに勢い余って武内は僕に抱きついた。少し甘い香りが僕の鼻を刺激する。しかも、体をこんなにくっつけて……何度もお礼を言われ、色々と嬉しいというか迷惑というか。


 だけど本当に安請け合いして良かったのだろうか? 後悔することにならなきゃいいけど……

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