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03

 三十坪ほどのウナギの寝床状の店内奥から顔を出してみると、入り口に立っていたのは見覚えのない一人の若い男性だった。よかった、ただの飛び込み客かと内心ほっとしながら、わたしは追い払う気満々で愛想の良い笑顔を作る。


「いらっしゃいませ」


「あ、どうも…」


「ようこそいらっしゃいました。わたくし当店の副店長をしております佐佐木と申します。以後お見知りおきを」


「どうもご丁寧に…」


「失礼ですが、お客様は当店のご利用は初めてでいらっしゃいますね?」


「はい、そうなんですが…」


「左様ですか。では本日はどなたかからのご紹介で御越しいただいたのでしょうか?」


「こちらのお店が紹介制なのは知っています」と、たぶん前もって用意してのだろう、彼はやや棒読みだがしっかりとした口調になって言った、「でも正直に言うと、紹介ではないんです。一見です。ただ、大学時代の友達に源田幸太郎というやつがいて――」


「ああ、源田様のお知り合いで。ちょうど一週間ほど前においでくださったばかりですわ、奥様もご一緒に。いつもご贔屓にしていただいております」


「えっ、あいつ結婚したんですか⁉ そうだったんですか…知らなかった。卒業してからはほとんど連絡も取ってなかったもんですから…」


「左様でしたか」ちょっと失敗したなと思いながらもわたしは笑顔を崩さない。「それでは当店のことは源田様から?」


「ええそうなんです。大学のとき、あいつが着ていたジャケットがすごく格好良くて、『どこで買ったの?』って訊いたらこちらのお店で作っていただいたものだと教えてくれたのをなんとなく覚えていて…それで…」


 ふむふむ、それで社会人も何年かやってお金もちょっと貯まってきたし、一丁良いジャケットでもオーダーしてみるかという気になった、と。会話の先を読みながら、わたしはどうやってこの青年をなるべく傷つけずお引き取り願うか思案する。


つづく

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