逆転開始
そろそろ《あれ》の準備が出来る頃だろう、俺はおもむろに皆の前に立とうとし……
「きさまーー!!わたしの兄上をぶじょくするなーーー!!!」
ダンッ!!机の上に立つその女は青年そっくりな青い髪を後ろで束ね上げ、怒りに燃えた青い目をしていた。年は俺と同じくらいか、身長は俺より高く、アキアラと同じくらいに見える、両拳に分厚く包帯を巻き、チャイナ風の服に腰布を巻き付けた姿はまさに武闘家。
「さっきから聞いていれば大兄上を殺す理由もチャンスも武器のナイフに関係あるのも全部きさまではないかーーー!!!」
武闘家娘は大きな声を出しながらアキアラに指を指す。
「いいかよく聞け!兄上たちがここに来たのは私に会いに来たからだ!妹の心配をするやさしい兄上たちがそんなことするはずないだろ!」
貴族青年がうなずく。
「それに!!よく見ればきさまの目は赤いではないか!!」
「えっ目が赤いのって何か関係あるの?」
思わず声が出た。ギルド中の注目が俺に集まる、少し前に出てたので思ったより目立ってしまったらしい。俺、何かまずいこと言っちゃいました?
「……えっ……だって……赤い……」
思わずたじろぐ武闘家娘を遮るようにマドカさんが言う
「そうね、今回のことと目が赤いことは何の関係も無いと思うわ」
ギルド内が一瞬の静寂に包まれる。何だろう、赤い目というのはこの世界において何か重要な意味があるのだろうか?ろくな物ではないのは確かだが。
「……ソイツの言うとおり、オレも今回のことに目は関係ないと思うぜ」
「あー……アタシもそう思う」
隅の方で声が聞こえた、そこから波紋のようにザワつきが広がっていく。
確かに目は関係ないかも……
でも見ろよあの赤い目……
おっと、俺は無意識に現代道徳観の無双をしてしまったらしい。やれやれだぜ、こっちにはポリコレってもんがあるんだぜ?意味はよく知らないけど。
「髪の色も肌の色も瞳の色だってただそれだけでは人を殺すことは出来ないんだぜ」
ドジャァ~ン!言ってやったぜ。俺はアキアラを見る
「………」
アキアラは黙って余裕そうなニヤけ面でこちらを見ていた。お願いだせめて何か言ってくれこれじゃあただの変な意識こじらせた痛い人だ。
「ユーゴさーん!例の物用意できましたですー!」
「ナイスタイミングだワトソンくん!!」
「ソランです」
そこには俺が指示したようにおしろいと、布で包まれた銀のナイフが現れた。俺はわざとらしく咳払いをする。
「ちゃんと誰も素手で触ってないように持ってきたかね?」
「はいっ」
受付嬢ソランが布をめくると血がべっとりついたナイフが現れた。
「ヒエッ!!血ぃッ!!」
「何するつもりなのよユーゴ」
思わず腰が抜けそうになるのを気合いで踏ん張る、なるほど、異世界転移したとて急に血が平気になるわけではないのか。俺は椅子に座る。
「ふう……アキアラ、お前これに触ったか?」
「いいえ、一度たりとも触っておりません」
「ふむ……では公爵殿は?」
「わたしは男爵だ、もちろん一度たりとも触っていない!」
よしきた
「では……つまりこのナイフには犯人以外触ってないと言うことですな?」
「いや、おそらくだが正確には我が兄が、自らナイフを抜いたのか、右手にナイフを持っていた」
「お可哀想に……おそらくパニックになって自らナイフを抜いてしまったのでしょうねぇ」
「貴様……」
少し焦る、あれ?これ大丈夫かな?まあいいややってしまえ!!
「つまり……このナイフには犯人と被害者の《指紋》しか付いていないと言うことです!」
「「しもん……?」」
首をかしげる二人を前に俺はおしろいを手にし、そしてナイフの持ち手におしろいの粉をかけた。
「ユーゴ……何をしているの?」
フゥー……と息を吹きかける、そこには指紋と呼べるような呼べないような割と汚れも目立つようななんかそういう跡が浮かび上がった。
「…………」
「…………」
………
「……これがっっ!!指紋です!!いいですか?指紋というのは手のひらのこの細かいしわのことをさし、そして指紋というのは個人によって全く形が違うのです!!」
人間はなぁ!!声のでかいやつの言うことを聞くもんなんだ!!
「……なるほど、確かに言われてみれば……そういうことですか」
ここでアキアラが動いた。
「つまり、このナイフに残る指紋とやらと僕の手の指紋が同じであるか確認したいという訳ですか」
「その通りです、協力してもらえますかな?」
「もちろんかまいません」
意外なことにアキアラはすぐに承諾した。一方青年貴族の方は……
「……」
なぜか挙動不審になっていた。あれ?こっちが犯人だったのか。