お前がやった
~ここからマドカの独白~
私がユーゴに抱いた最初の印象は《子犬みたい》だった。小さくて、童顔で、珍しい黒い髪、黒い瞳、昔飼ってた大きな犬にそっくり!いつもヘラヘラ笑っていて、地に足着けてないような現実味のないフワフワした態度、かと思ったら真っ直ぐ向けられる好意。まるで何も知らずに尻尾を振ってすがりついてくる子犬みたい。ほっとけなくてついつい優しくしてしまう。でも、なんだか何も知らない子供を騙しているみたいで気が引けるの。だからユーゴ、この世界で、たくさんの人と出会ってたくさんの経験をしてね!
~ここまでマドカの独白~
「何で俺までギルドに行かなきゃ行けないんですか?面倒くさいなー……」
「そもそもあのレシピはアンタが発案者でしょ!ユーゴにしか分かんない質問とかされたらどーすんのよ!」
二人はギルドのある町へ向かっていた、商人へ殺菌製法ポーションのレシピを売りに行く交渉をするためである。
「付け焼き刃で学んだ知識でどうにかなるかなぁ」
「大丈夫よ!今日はアキアラも同席してくれるみたいだし」
ゲッ、アキアラ、うさん臭い顔からうさん臭い声が出るあの男、第一印象が最悪なので今も良い印象は持たない。
「あ、またその顔、まだアキアラのこと信用してないの?それとも……嫉妬してるの?」
マドカは意地悪そうに笑う。
「そんなこと無いっすよ」
慌てて返す、町の入り口にさしかかったその時、大慌てでこちらへ走るギルドの受付嬢が見えた。
「ま、マドカさーーん!!」
「あれ?いつものギルドの受付嬢ちゃん」
「マドカさん、あの子の名前知らないんですか?」
「そういば知らないわね、名前なんだっけ?」
「ソランなのです!!いや、そんなことより、大変なのです!!」
受付嬢ソランは赤髪をかきあげ、大きな胸に手を当て、一呼吸置いてから言った。
「アキアラさんが逮捕されちゃったのですーー!!」
「「エーーーーーー!!!??」」
そういう退場の仕方もあるのか。
ギルド内にて。
「逮捕された訳じゃないですよ、そとそも彼がありもしない罪を僕になすりつけようとしてるだけです」
ザワついたギルド内酒場に、たくさんの憲兵に囲まれたまま、ニヤけ面で優雅にお茶を飲むアキアラ。その正面にいかにも貴族な格好をした青い髪青い目の青年がいた。
「貴様……よくもぬけぬけと……」
「マドカさんこれはもう駄目です、アキアラ自首しrぐわっ!!」
マドカさんにひじ鉄砲をくらった。
「ハァ・・・ユーゴがごめんね、アキアラ、何があったか説明してくれる?」
「聞いてくださいマドカくん、僕は……」
「待て!わたしが説明する」
ようは、アキアラがあの貴族青年のお兄さんを刺した疑いをかけられていた。
~以下事件の説明~
「まず兄がトイレ行った、その後すぐアキアラもトイレに行き、しばらくしてアキアラだけ戻ってきた、私はいやな予感がしたので兄の様子を見に行った、そしたら腹をナイフで刺された兄がトイレの正面にいた」
アキアラしか犯人がいねえじゃねぇか。
「あきれて物も言えませんねぇ…そもそもギルドのトイレは野外に置いてあり、外からの入るのも可能です、それだけで僕が犯人となるのはいささか早計すぎやしませんか?」
「確かにあの場所へ行くには外からの道もある、だがその道はギルド事務所の明かり取り用の窓の前を通らなければならぬ、ここにいる事務職員よ!!あの時、窓の前を通り過ぎた人間はいるかね!?」
すかさず事務職員であろう男が答える。
「いいや、誰も通らなかったね」
「おや、あなたの仕事は窓を眺めることなのですか?仕事中ずっと窓を眺めていたと?そもそも犯行があった時間よりずっと前から潜伏していたという可能性もあるのでは?」
「うぐ……」
事務員は黙る。
「待て、まだほかに根拠はある。凶器に使われたナイフだ、あれは治癒師が使う伝統的な本物の純銀製のナイフだ、鉄で出来た偽物じゃない、丁寧に磨かれた本物の、あんなもの持っているのは貴族出身の治癒師、貴様くらいのものだろう」
……ひそひそ
(マドカさん、治癒師がナイフなんて何に使うんですか?)
(大きな切り傷にはナイフに軟膏を塗る方法の術式があるのよ)
「そんな時代遅れの術式、僕が使うわけないでしょう」
「貴様、今ナイフは持っているのか?治癒師とはいえ冒険者ならナイフくらい持ち歩いているだろう、もしかして《使用中》で今は持っていないのか?」
確かにマドカさんも小型のナイフを持ち歩いている。俺?実は持っている、本当は剣を持ち歩きたいがあれは重いのでマドカ邸の物置で眠っている。
「……今日は商談をするだけでしたので持ってきておりません」
ギルド内がザワつく。
(……まずいわね)
(……と、言うと?)
(普通冒険者がギルドに来るときはいつ緊急クエストが来ても良いようにナイフを持ち歩くのは常識なのよ、攻撃に使えなくても簡単な剥ぎ取りに使ったり細々としたことに使うの)
「冒険者がナイフを持っていないなどあるわけないだろう!!」
ダンッ!!貴族青年が机を叩く。
(アキアラ……あいつ物を持つの嫌いでナイフもちょくちょく置いていくのよ……)
(へぇ……しかし凶器は純銀製……か……しかも磨かれた)
(……?どうしたのよユーゴ)
(受付嬢の……えっと…ソランさん、ちょっと用意してほしいものが)
(ふぇっ!?私ですか?)
「……僕はあまりナイフを持ち歩かない主義でして、《使用中》な訳ではありません、しかしそもそも僕は彼を殺す理由がないのです」
「いいや、貴様たしかアルバン家の物だろう、我がアーサ家と茶畑の所有権で揉めていたはずだ。今我が兄を殺せば混乱に乗じて茶畑の所有権を奪い取れると踏んだろう」
まあ一応この世界でも嗜好品のお茶は良い取引になるようだ。緑茶はないのかな。
「それを言うなら貴方にも動悸があるのでは?確かタバコの生産について兄弟で揉めていると聞きました、そもそも何故冒険者でもないお貴族様がこんなところにいらっしゃるのか」
「貴様……ッ!!」
~ここまで事件の説明~
話は平行線のまま前に進めないようだ、やれやれもうすぐ現代知識無双の出番か。