見守る目から目をそらす
「ふう、恥ずかしさのあまり森のほうへ走り出したら森の中で迷子になってしまった」
人はそれを遭難と言う。
「うう……マドカさん……」
そういえばこの世界に来たときも始めは森の中だった。俺は自分の家の布団で寝ていたはずなのに、起きたらRPGみたいな格好して森に寝ていた。
「いや、その前にエロい格好をした転生の女神にあったかも……いや記憶に無いな」
それで迷って迷って迷い続けた挙げ句熊に襲われたんだっけ、良く生きてたな俺。
「はっ!?」
思わず周りを見る、熊はいないようだ。生の熊なんて前の世界じゃ一度も見たことない、え?動物園くらい行ったことあるだろうって?動物園なんて行ったことも無いし連れて行ってもらったこともない。俺の親はそういう人間だった。
「また独りぼっちになってしまった」
無性に悲しくなる、最初に遭難したときは無心で歩いたのに、今はどうしてこうも寂しいのだろう、こわい、寂しい、またマドカさんに会いたい一心で歩き続けるが無情にもあっという間に日は落ちた。
「ウワーーー!!初めて見る岩だーー!!もうためだーーー!!」
ん?岩にしてはなんだか違和感を覚える、岩にしては形が整っている気がする、違う!?これは
「お、お地蔵様!お地蔵様だ!?なんで!?」
異世界にお地蔵様があるわけがない、そうなると簡単だ
俺は元の世界に帰ってきてしまったのだ
俺は叫んだ、頭を掻きむしり、草を毟り取り、あらん限り泣き叫んだ。そんな、いやだ、もうマドカさんと会えないなんて。
「ユーゴ!!どうしたのよ!?」
「……マドガざん?」
「もうっ!ちょっと森で迷子になったくらいで大げさね、ほらっ!帰るわよ!!」
マドカさんが俺の手を強く握る、幻じゃない、あっという間の再開、俺の物語は展開の速さが売りなのだ。
「本当にマドカさんですか?」
「アンタこそ本当にユーゴ?ってその泣き顔はユーゴ本人ね」
また泣き顔を晒してしまった、情けない。
「っと、もう暗いから今日は念のためここで野宿ね、ホラッ!焚き火するわよ!」
「ぅう……ハイ……」
「も~~また泣いて……本当ユーゴはバカで泣き虫で……可愛いんだから」
「えっ今何て!!」
「わ~~!!ホラホラ!ユーゴもたきぎ拾いなさいよ!!」
マドカさんの顔は赤かったかもしれない。
俺たちは焚き火を挟んで横になる、恥ずかしいのでお互い背を向けて。
「……」
「……」
「……ねえ、ユーゴ」
「へぁいっ!?」
「私、好きとかそういのまだ分からなくて……でもユーゴのこと嫌いじゃないわ」
「あ、ありがとうございます」
「ユーゴのことは……昔飼ってた犬にそっくりで……か、可愛いと思うし一緒にいて楽しいわよ!」
マドカさんの声は少し震えていた。なるほど、飼い犬に似てたから俺に優しいのか。
「……可愛いと言われるのはすこし複雑です……」
「なら少しは格好よくなりなさいよ」
「が、頑張ります」
せめて人間に見えるくらいには。
「でね、ユーゴには私以外の人のこともたくさん知ってほしいの、たくさんの人とで会って、出来れば自分のことも思い出して、それでも私のことを好きになってほしいの、それまで私はユーゴに答えられないけど……私のわがままかな」
「マドカさん……それはわがままじゃないですよ、あと、実は俺記憶喪失じゃないんです」
「えっじゃあ何で」
俺は語る、お地蔵様と目お合わせないようにマドカさんに騙る。今までの人生の世界を。
「ふうん、つまり魔法のない文化も技術力も違う外国から来たのね、ユーゴの非常識なところと変にとんがった知識とか妙に納得いったわ」
「うーん、そういうことになるのかな」
この日は夜遅くまで俺がいた世界について語った。マドカさんは恐ろしく素直に信じて好奇心のままに俺の世界の知識を吸収した。
………
「………ハッ!?朝!?」
「半分寝ながら喋ってたわね………」
空が白んできた。
「じゃぁ~~帰るわよ、着いてきなさい」
「方向分かるんですか?」
「空を見れば分かるわよ、太陽と、今なら少し星も分かるし」
か
「空で方向が分かるなんて…凄いですね……」
GPSが無い代わりにここの人々は空と星を見るのだ。
「これくらいここでは常識よ……あー……ねぇ、ユーゴ」
「何ですか?」
「私、ユーゴのことはユーゴが思ってるより気に入ってるんだからね!」
「マドカさん………」
この人は一体何が目的で俺のことを気に入ってるふりをするのだろう。
「ありがとう、うれしいです」
まあいいや、どうせ俺はろくなことにはならないのだから、今は少しでも嘘の幸せを全力で楽しむんだ!
「つ、疲れた……」
「ちょっと山道歩いたくらいで情けないわね~」
マドカ邸につくまでたった十数分だったが、山道は辛いのだ。
「あぁ~!いたいたぁ!おおぉい!マドカぁ~!」
「あ!ノーラ!帰ってたの!?」
目の前にいたのは豊満な胸の短い金髪お姉さんだった、オーバーオールを着ているのはいかにも農耕関係者っぽい。
「うん!ところで彼は誰?」
近くで見ると背が高いので思わず胸に目をやってしまったが、それはあまりにも失礼だと思ったのでまっすぐ顔を上げて彼女の緑色の目を見ようとしたが、地球には重力があるので、疲れていた俺はそれに負けて再度胸に目を向けてしまった。そしたらマドカからひじ鉄砲が飛んできた。
「ユーゴ!!」
「グワーーー!!大変ごめんなさい!!」
「ウフフ、ユーゴくん、って言うのねぇ、よろしくぅ」
どうやら彼女の名前はノーラ、マドカ邸の農作物のお世話を手伝っているらしい。最近まで用事で遠くにいたとか。
「今日からまたお手伝いに来るからよろしくねぇ、マドカのお手伝いさん」
「ユーゴ、コイツ見た目の通り痴女だら気をつけなさい」
「ちょっとぉ、誰の見た目が痴女なのよぉ~プンプン!」
やったーー!!長身ぶりっ子巨乳痴女が定期的に家にくるようになった、俺は嬉しくなったがマドカの手前、凜とした顔で虚空を見つめるのであった。
「ちょっとユーゴ~~?なにニヤニヤしてんのよ」
「し、シテナイヨ俺はマドカ一筋なので!!」
「ちょ!!ひ、人前で何言ってるのよ!!」
「へぇ~~ふぅ~~んマドカの男なんだぁ~~ニヤニヤ」
「ま、まだ違うわよ!!」
「へぇ~~ふぅ~~ん、まだ、ねぇ~~」
俺は凜とした顔で虚空を見つめる。
お前が本当に見ないようにしているのは現実だけどな。