煮沸消毒ポーション
マドカ邸ポーション製造室、瓶やよく分からない器具がたくさんある。
「ここにある小瓶、全部でいくつあるかわかる?」
9本の小瓶が入っている箱が6個あります、さて小瓶は合計何個でしょう?
「54本ですね」
「す、凄い……天才だわ」
「そうなんですか!?」
「さすがに冗談よ」
この世界には義務教育という物が存在しないらしいが、さすがに小学生の知識で無双は無理か。
「まあでも、さっきから計算は速くて正確だし、計算機使えない以外はすぐにでも商人見習いになれるくらいよ、正直、さっきの算術だけならどっかの博士助手にすぐなれるわ……その他常識があればの話だけど」
俺は小中高で習った数学の知識を少しマドカさんに披露してた、円の面積計算が一番驚かれたな、ふふ、円周率3桁まで覚えていて良かったぜ、ただ計算機とやらは何が何だかよくわからなかった、電卓かそろばんならわかるのに……
「……うん、アンタやっぱり私のポーション作りの助手になりなさい!こっちの方が向いてるわ!」
「ポーション!やりたいです!楽しそう!」
「やっぱり嬉しそうね!」(子犬みたいにはしゃいじゃって……)
数時間後
「疲れたわよぉ……」
「マドカさん、体力がないですね」あはは
「アンタとちがってこっちはポーション作りのために魔力も消費してるのよ!しかもあんたのわがままでちょっと余計に作ったんだから!」
~以下ポーション作り~
「……で、最後に私が魔力を込めて出来上がり!今の時期なら三日は保つかしら」
「………」
「なによ、難しかった?」
「いえ、いろんな物を加熱したり蒸留して混ぜるのはわかったんですが……これ三日で腐っちゃうんですか?」
ポーションはいろんな物を加熱したり蒸留して混ぜるので最後は熱々になる、そして冷ましてから小瓶に詰める
「うん、基本的に飲むものだからね、」
「考えたんですけど……」
~ここからユーゴ流ポーション作り~
俺が考えたのは徹底的な殺菌滅菌によるポーション作り、道具や小瓶は丸ごと茹でる、いわゆる煮沸消毒をし、作成中は口に布を当てできるだけしゃべらずに作業し、材料は箸を作って直接手で触らないように扱った。
「二本の棒を器用に使うのね……」
「お箸って言うんですよ」
そして熱々のポーションをそのまま小瓶に詰めてコルク栓を軽く乗せるように入れる。
「もっとぎゅっと入れないととれちゃうわよ」
「大丈夫です、気圧の変化で勝手に入り込みます
」
俺は小瓶を振って見せた、中のポーションが冷めていくことで中の気圧が下がりコルク栓が押し込まれていく、多分中は真空に近いだろう、いや、さすがにそんなことはないか。
「そして最後に!」
ろうそくを溶かして赤い染料を入れた物を蓋の部分につけて完全に外気を遮断する、ついでにピースマークのハンコをおしてあげよう。
「やったー!ピースマークきれいに押せましたよ!」
「あんたピースマーク掘るのに一番時間かけてたわね」
~ポーション作りおわり~
「普通のポーションよりユーゴ流ピースマークポーションのほうが長持ちすると思うんですけどね」
「普通長持ちさせたいなら砂糖増やすとかハーブを入れるものよ、あんなやり方聞いたこと無いわ」
「あのポーション充分甘くないですか?」
「とにかく、作りすぎたポーションは明日アンタが売りに行きなさいよ」
「分かりました、ポーションって買い取ってくれるんですか?」
「私はそういうコネ無いからアンタが露店販売するの!」
「えっっ!?」
フリーマーケットだってやったことないのに……そう思っていてもマドカさんはかまわず俺を町に連れ出すのであった。
「私、今日はギルドに顔出しに行ってくるから、今日はそれ売ったらあとは夕飯まで自由!頑張ってね!解散!」
物売りあふれる町の広場でポーションを抱えた俺は参っていた、実はこの世界でマドカさん意外とほぼ話したことがないのだ。
「あっ……う……」
最初は転移ハイなのかなにも考えず行動していたけれど、さすがに三日もたつと現実味が出てくる、そこにいるのはただのコミュ障ユーゴであった。
「強がらずに無理って言えば良かった……」
周りの物売りは大小関わらず大きな声で呼び込みをしている。
「んん、こ、こんにちはー……ポーション売ってます……」
クリスマスのバイトでサンタの格好をして呼び込みをしたときはもっと大きな声を出していた気がするのに。
「お兄ちゃん、こんにちは」
「アッ!こ、こんにちわ!!」
いきなり少女に声をかけられたのでびっくりした、目の前には冒険者風少女と冒険者風少年と魔法使い風少女の三人組がいた、かわいいな、子供相手なら少し緊張が緩む、仮装だろうか。
「2本ください」
「あ、はいはい、2本ね、今日はお使いかな?」
「ガキ扱いすんじゃねぇ!これでも冒険者だ!」
このクソガキめ……え?冒険者?
「君たち、これから魔物退治とか?」
「うん!今日はゴブリン倒しにいくの!」
絶句、よく見たら少年少女の手には細かい傷なんかがたくさんついている
「2個で足りるのか?」
「うるせーな!金がねーんだよ!」
「……」
俺は思わず3つのポーションを渡した、不思議そうにこっちを見つめる少年少女達に苦し紛れに言ってみた。
「じ、実はいまキャンペーン中なんだ!二本買うと一本おまけ!」
「えっいいの!?」
「やったラッキー!」
「あ、ありがとうございます…」
嘘である。
「お兄ちゃんありがとー!」
「熊に気をつけろよー」
「鉱山跡地に熊なんか出ねーよ!」
なるほど、鉱山跡地にゴブリンが出て森の中はクマが出るのか……ファンタジー世界っぽいな。
「おい、兄ちゃん」
「あ、はいっ」
「二本で一本おまけってほんとか?」
「あ、えーっと……ハイ……」
そしてあれよあれよ三本を二本の値段で売ってしまったのであった……
「うう……後でマドカさんに怒られる……」
この残り一本は正規の値段で売るぞ!
「…こんにちは」
「!こ、こんにちは」
目の前にいたのは、こっちでは自分以外で初めて見る黒髪を長く後ろに束ね、眼鏡の奥にある伏せがちの目は深い赤色をしていた長身の若い男、杖を持っているのでおそらく魔法使いだ。
「あなた、さっきポーションを三つ800ゴールドで売っていましたよねぇ」
「え、いやあ、ハイ……あ、でももう一個しか…」
「ポーション取引規定をご存じないのですか?」
「ポーション取引規定?……あつ!!」
そういえばマドカさんがこんなことを言っていた。
「良い?まず、私が借りてるのはこの範囲だから移動しないこと」
「はい」
「次に!ぜ~~~~ったい値引きはしないこと!ポーションは値段がちゃんと決まっていていろいろめんどくさいの!」
「はい!」
それがポーション取引規定か!!
「すみません……」
「3つで800ゴールドなら一つおよそ267ゴールド…その大きさの規定最低価格は現在270です」
「な……たった3ゴールドじゃないですか」
そのとき、男が残り一つのポーションを俺から取り上げた。
「あっ!」
「これは迷惑料として私がもらってあげます、さあさあ、はやく逃げないと、憲兵がこっちに来てますよ」
横を見ると確かに同じ鎧を着た憲兵とおぼしき数人の男が来ていた。
「くそっ!」
俺は慌てて逃げ出した、去り際に男の声が聞こえた
「優しさが仇になってしまいましたねぇ」
あの男、最初から見ていたんだ!最初から見ていて、知っていて、最悪のタイミングでマドカさんと一緒に作ったポーションをかすめ取っていったんだ!
クソ!クソ!俺はなんてダサいんだ……