第八十四話 浮かび上がる黒点
自分では『辛勝』だとしか思えないからこそ、今回、攻めてみて明らかになった敵の戦力をまとめようと思う。
まず一つ、不死の魔術師は魔物を自在に使役し、戦力としていること。
足元から奇襲させたり、タイミングを合わせたり。
細かに指揮していたのは間違いない。
ただし、その方法は不明な部分が残っている。
二人が『粘液体を介して操作していました』と言っていたものの、その実物は残っていないため実際の運用やラグ、阻害方法を見つけることができていない。
そして二つ、『感染』と言っていた呪術的な粘液の使役。
クドラクから産み出されていた粘液が魔物に染み込んで変貌を促すそれは、怪物を生み出す魔法……『魔獣化』とでも言うべきか。
人にすら影響を与える力は、クドラクが元から身に付けていたモノらしい。
クドラクがそれに適応する魔物を選び招いていたからこそ、異界溢れで現れていた魔物に偏りがあったのだと理解できた。
そして三つ、現在の魔法体系以外の魔法、古代魔術と仮に呼ぶが、それを行使していること。
剣星さまが気配を読めなかった魔法とスキルの複合攻撃も脅威だけれど、全く未知である能力は大きなちからだ。
こちらの対応外の能力があれば、一方的に攻撃されて終わり。
それこそが恐ろしい。
だから、『古代魔術』を専門にしている知識人に意見を求めるため、キィクには里帰りして貰っている。
(公務で)
ちゃんと答えてくれるといいけど…… 大賢者さまだからなぁ……。
得られた情報の中でも、ここには色々な繋がりが隠れているように思うので、是非ともキィクに頑張って欲しいが……。
「あ~…… ダメだ。寝起きの頭は回らない」
ベッドから降りて、顔を洗うために部屋を出る。
まだ周囲は真っ暗だけど、考え始めると止まらなかった。
歩きながら更に思い返す。
人の遺体を利用した『死鬼従者』があの黒衣の者共の正体だった。
人間の死体を材料にするそれは、考えてみるとこの状況において手下をいくらでも増やせると言って差し支えない。
しかし、行く先として『東』を選んだなら――。
「公国から離れたのか……?」
予想でしかないが、今までの『異界溢れ』を地図に落し込むと、ここから逃げ出したのではないか。
そう、楽観してしまいそうになる。
「ダメダメ、いかんいかん……っ」
朝の冷たい水で顔を洗いながら、その考えも洗い流す。
そう油断したら、今度こそ家族を失う。
だから、その先へ。
相手の考えを読んで、先手を打つ。
「ご主人様、はい、どうぞ」
「あ、おはようシーヴァ。ありがとう」
「どういたしまして♡」
先日の攻勢で、相手の行動についての資料は多い。
特に、相手の首魁である『クドラク』に接触できたから。
そして、憑依されていた人物がこちらには二人。
今、俺の隣で可愛らしくメイド衣装に身を包んだ人狼のシーヴァと。
あのザーマスさんこと、ミズ・トバーク。
ザーマスさんのが呼びやすいけど…… まぁ名前で呼ぼうか。
マイラ・ミオ・ホロバス…… トバーク子爵家の長女で、ヘルートさんの妹。
世間は狭いと言うより、貴族が人数増やすために一夫多妻を認めてるから血縁者が多いんだ…… にしても、おぼろげなシーヴァの言葉と、断定はするが非協力的なザーマスさんの話はうまく繋がらなくて困る。
「今朝は早起きですね」
「うん、やっと家に帰れるんだからね」
帰れると言っても、閃光勲章という『人類史に名を刻む働き』と言うありがたくてトゲトゲしい飾りのオマケの『一定期間の拘束免除』があってこそ。
今の今まで休みがなかった、ってコトにこそ文句を言わなくちゃいけないのかもだけどね。
この混乱した世界の危機に、そんなコトを言えない。
そんな悩みも、剣星さまの一括で下された判断が捩じ伏せた。
『タズマ殿はまだ子供なのに、親元離れて戦わせて、大人がそれでよしとして恥ずかしくはないのか。おかしいと考えられんのか。せめて心の休ませる時間は与えなくてはならない』
一喝で責任も一括。
もしもの事態には、やっと育ってきた魔法兵団と剣星さまが対応するから休めと言われたのだ。
『まぁそちらで何かしらあれば、即応してもらうがな』
そんな言葉だけで、一週間のお休みをもらった。
通信道具はあるが、束縛はされていない。
明日から、公国内なら何処へでも『小型船』を使って動いてよし、というお許しも出た。
それが楽しみで早起きしたのも、まぁあるけどさ。
「ご主人様。姫が一緒に行動させて欲しいという文を送って来られましたが……」
「第一王女を連れ回せるワケないでしょうが。断りの手紙を書かないとなぁ」
「いえ、朝食時にご返答くださいとのことで」
「ちょ、昨日の懇親会で『明日は会食があるから朝は食べない』って言ってたのは、俺たちの方にくるためかよ……」
戦いから戻り、次の日には勲章の話が出ていた。
そして、俺を休ませるべきだという話も。
それを前々から説いていたのはトットール男爵と剣星さまの二人。
そして、俺の受章と同じくしてトットール男爵は子爵へと叙勲され、同じく『拘束免除』を貰っている。
ただし、爵位を持っている人が偉くなるということは、御披露目やら力関係の折衝やらで忙しい。
彼は領地に帰ることはたぶんできない、剣星さまの言葉に心の中で手を合わせた。
南無っ。
「だとすると、トットール子爵主催の会食…… 席が空いているならそっちに飛び込んで躱す行動も、アリだな?」
「ご主人様、策士ですね」
「ふっふっふ、早く帰って家族の顔が見たいし、あの開拓地がどうなっているのかも知りたい。心配と期待が高まってるからね。他の心配事は背負いたくない」
この頭を使う時間から早く解放されて、家に帰って一日…… いや半日だけでもゴロゴロしたいものだ。
☆
「多大な労力と精神と技術により、彼はこの栄光を得るに相応しい肉体を作り上げ、また代々に受け継がれたスキルを有効に……」
トットール男爵、いや子爵は、親戚からの紹介やら同じ子爵からの訓辞やら侯爵の代理からの書状の読み上げやらを黙って聞き、更には昨夜から今まで送られ続けている爵位持ちの家系の子女の紹介を閲覧、返礼し、感想まで添えてお断りをしているらしい…… 一件も漏らさず。
この状況、俺だったらと思うと非常に辛かった。
「さすがだトットールさん。良家の男子の見本だよ」
「何でも、心に決めている方がいらっしゃるそうですよ」
「それは初耳! そのお相手ってわかる?」
「いえ、そこまでは…… トットール様のような孤高の存在も、そういった心の支えがあればこそ、先日の瀕死を乗り越えたのかも知れませんね」
「あれは、確かに危なかった…… 見つけた瞬間、ゾッとしたよ」
あんな光景は二度とゴメンだ。
俺は血を見るのが苦ではないけど、そう思った。
しかし、トットールさんの彼女かぁ……。
「機会があれば、聞き出したいね」
「私も知りたいところです。あ、お話が終わったようですね」
チアキを避けてこちらに潜り込んだからには、ほどほどにお腹に収めるものを収めて帰りたい。
頑張って耐えていた空腹に、今こそ報いる…… と思ったのに。
「では最後に、今回の攻勢でも大きな活躍を見せてくれた小さな大魔法使い『世の癒し手』タズマ様にも一言」
ぐあ。
……キツくね?
目の前が真っ暗になりかけつつ。
しかたないので、本当に一言だけ。
「え~…… トットール様には何度も助けられ、支えていただきました。彼の真摯で真っ直ぐな心は、その矢と同じくらい的を違えない力強さを持っています。皆様のお力添えがあれば、その力は何倍にもなってこの危機を乗り越える原動力になると思います」
……いや、何か、彼については本当に真面目な貴族な気がして、思ってるコトがつらつらと出てしまった……。
「素晴らしい。さすがは『世の癒し手』ですな」
「もちろんあなたのお力添えも大いなる神の御意志にそったもの……」
「むしろ君がこそ原動力では?」
誰からともなく評価されて、誰からともなく認知され、好き勝手に騒ぐ…… そんな連中は放っておいて、俺はシーヴァと一緒に食事に集中する。
一人黙々とモグモグしてまあす。
しばらくは周りが騒がしかったけれど、その努力によって、トットールさんの周りにだけ人集りができていた。
「いやあ、立食形式って辛いな。主役は壁際に逃げられないし」
「いえ、女性に挟まれていらっしゃった時の方が追い詰められていましたよ。今は逆に領地を削られる近隣の爵位家との意見交換をして、交易条件やルートの開拓の打ち合わせへと変化させていらっしゃいます。巧みな話術をお持ちなのですね」
「おおっ、それはカッコいいな……」
普段は脳筋扱いしていて、重ね重ね申し訳ない。
認識を改めよう。
クソマジメ王子様キャラだったのか、と。
そして、食事会を終える前に、トットールさんから中身の無い手紙が届いた。
「空の手紙は、その場の呼び出しの暗喩…… 何だろう?」
「使者として私が参りましょうか」
「いや、いいよ。俺がいく」
さっきの感想が的外れだとか、何か反応があるのかも。
そして、さっきの話…… 彼女の話まで引っ張れたらな、とか。
少し気が弛んでいた。
☆
王城第三談話室。
既にいつもの場所となったが、そこにトットールさんは待ち構えていた。
ばっと、こっちに気付くと駆け寄って、俺の顔を食い入るように見つめる。
「君は、ニセモノではないね?」
「え?」
なんだなんだ、さっきの『一言』がお気に召さなかったのかな。
「いや、ヒドイ言葉使いで感想を述べてしまって申し訳ないですけども…… ニセモノて」
「すまない、どうやら、あの黒衣の者が城内に居たらしいのだが見失ってね…… 配下の者たちはちゃんと本人だと確認できたのだが、城に勤める者の数人が行方不明らしい」
それって…… あの”クドラク”がもうこの城まで手を伸ばしているというコトじゃないか。
「だから、確かめたくて…… すまない」
「いいですよ。それなら、ナイフを貸してくださいますか」
「あ、ああ。あんまり大きく切らなくていいからね」
さすがにわかってる。
「っと、いたいな、やっぱり慣れない」
「それは仕方ない。済まなかった。ちゃんと出血してる…… あ、私の手も傷付けてくれるかい。タズマには信頼をして欲しいから」
「はい。わかりました」
手のひらの傷を回復しながら、拭ったナイフでトットールさんの手のひらも同じように切り付けた。
赤い血が流れていく。
「今日は協力体制をお願いしたいんだけれど、いいかな」
「もちろん。まずその傷を回復してから、索敵掃討の開始ですね」
せっかくの休日のハズが。
アイツラのせいで台無しだ…… 今すぐ動かせる人を動員して、どうにか回復していかなくちゃな。
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