第七十九話 激化
不死身の魔術師と思われる黒衣の女との戦闘になったタズマたち。
しかし、その姿はへルートの妹であり、どうやら人質とされてもいるらしく……。
「どう、なさいますか、ご主人様?」
「気絶させるとか…… 生け捕りは難しいか」
「それは…… 頑張れば、なんとか」
「いや、わかった。無理はさせたくないんだ」
シーヴァの表情から隙が見えないことを感じとり、タズマは剣星を見た。
迷う表情に、制し難さを知る。
ならば、自分がやらなくてはならない、と手段を考え。
が、女は待ってはくれなかった。
「力ずくも、嫌いじゃないぞ!」
「うわ、くうっ……!」
《ゴバッ、バァンッ!》
女の足元で石畳がめくれ、跳ね飛ぶ。
地面からトカゲ型の魔物が数匹、這い出て皆へと飛びかかる!
「ボクに任せてッ! 『鬼力解放斬舞』!!」
《ガッ、ズバババッ!》
タズマの前、シーヴァの横、キィクの背後に現れた魔物を全て三度以上切り伏せ、プチが倒した。
残りの魔物は剣星の周囲で青く燃えていた。
その数、合計11体。
先に確認した数は、これで全てかと思われる。
「なんだよ暴力的だなぁ。青い鎧の。その犬女の主人はお前だろ。ソイツくれよ。今、別れの挨拶しちまえって」
「どっちが暴力的なん…… え?」
残る怪物については剣星の腕前で倒すか抑え込めるだろうが、黒衣の女を無傷で抑え込むのは難しいだろう。
そんな事を考えた矢先、女の姿に違和感を覚え二度見する。
タズマには、その女に見覚えがあった。
あまり良い印象は持っていない相手ではあったが。
「ミズ・トバーク……?」
彼女の姿は、過去タズマの屋敷に訪れた女性、ザーマスさんと呼んで睨んだあの、トバーク女史だった。
「そう、タズマ君。マイラを知っているのね。マイラ・ミオ・ホロバス…… トバーク子爵の娘で、私の妹なの!」
へルートがそう叫び、タズマも剣星と同じく見比べた。
確かに似ている、がその前に出会っていたことに混乱をしていた。
何せ、行方不明とは聞かされていなかったから。
「何でそんなことになってんですか…… て、いや。へルートさんの妹ならばこそ、ここで捕らえなくてはならない。なら…… よし。シーヴァ、少しの間だけ持ちこたえてくれ」
「ご主人様、何を……?」
「剣星さま、大魔法で抑え込んでみせます!」
ここで奴を捕えられれば、今後の異界溢れの周期性は元に戻り、危険度は低くなるハズだ。
だからこそ、自信のある攻撃を、効果的である一撃を。
以前に剣星から学んだ戦略を、今活かそう…… タズマはそう考え、体勢を整え気持ちを切り替えた。
「へルートさん、信じて、待っていてください」
「うぅっ、信じますっ! タズマ君、お願い!」
「へルート…… よし、儂はこっちのデカブツを仕留めるか」
しかし、怪物も待ってはいなかった。
剣星の視線を掻い潜り、地面の下から細く触手を伸ばしてへルートへと迫って。
《ザザンッ!》
触手が剣星の向こう、へルートの足を絡め取ろうとしたが、触れる前に粉微塵となり燃えて消える。
「ふんっ! 儂の嫁には触らせん」
「剣星さま……」
「いい加減、名前で呼んで欲しいのう。夜だけではなく」
どうやらイチャイチャは時を選ばないようなのでタズマはそこを無視することにした。
怪物は任せ、黒衣の女はこちらのチームで対応する。
非常に難しいが、仲間の力を信じて。
「ユルギ、そこから、コイツらが逃げ出さないように見張って!」
「りょーかぁーい」
「プチ、少しでも隙があったらアイツの足を止めて」
「難しそうだけど…… わかった」
「シーヴァ、一番辛いかもだけど、俺を守ってくれるか」
「もちろんです。露払いは、お任せを!」
「うん。そして、マニル」
「は、はいぃ。素直に言いますが怖いですぅ」
「知ってる。けど、キミが頼りだ。俺の魔法にあわせて」
タズマは頬当てに手を添えて呟いた。
「俺の声を重ねて詠唱して欲しい」
「わ、わかりまひたっ」
さすがは一心同体と、タズマは青い鎧に感謝しながら身構える。
彼は既に、マニルを身に纏っていた。
だが大きさはまだ彼には大きすぎ、また、女の身体の形をしていては収まる部分も少ない。
彼の身につけたのは兜、手甲、胴鎧(前後逆に)、腰垂れ、足甲だけで、それ以外の部品は背嚢に背負っていた。
「は、恥ずかしい、けど、マスターの口に重ねて……」
そう言いながら、マニルのカブト部分には薄く透明な『仮面』が生み出され、タズマの顔を覆う。
まだ恥ずかしいのか中には気泡が浮かび、タズマの顔に重なったマニルの顔が赤いという不思議な光景。
「後で熱湯消毒してやる……!」
「お子様で中身ナシの癖に、密着しやがってぇ……!」
「ぴぃいっ、みなさん怖いですぅっ」
「本当に、ごめんな、なんか」
必要なことなのにと口では言いつつ、実は内心ドキドキして、タズマは覚悟を決めた。
「行くぞ、みんな」
ただし、こんなドキドキはすぐ別動悸に変わってしまうのが目に見えていて……。
その敵はずうっと見つめていたから。
薄く笑った女が、タズマを見下して言う。
「別れの挨拶はもういいか?」
「待っていてくれてありがとう。お手間をかけましたが、お陰で覚悟は出来ました。気合いと情熱を上乗せして、お返しするよ」
「何をガキが。三文芝居を高く売ろうというのか? とても―― 現状認識が甘い」
言うとともに、腕、いや背中からもコールタールの如く黒く鈍い照り返しの『粘液』が溢れ―― 宙に浮かんだ彼女から滝のように流れて地面を満たした。
「シーヴァ、下がって!」
「はいっ」
位置を入れ換え、タズマはまた魔法を放つ。
そして、マニルもそれに倣う――。
『【雨滴散烈】!』
先ほどへルートを庇った時とは違う、散水するような大量の水に、黒い粘液は激しく反応して弾け飛ぶ。
逆に水に押されて女の足元まで下がってしまい、目を見張る。
が、その顔はとても……。
「は、ははは、くっくっく。生きている、防具だと…… おい―― その鎧はなんだ、魔物の変異か?」
「魔物では、ないよ」
「いやいやぁ、多少清めていても穢れた気配は消えない。呪いなら呪術の使い手に見抜けないわけがない。よこせ。そこの犬と、その鎧! もう、たまらんっ」
《ズゥン…… ギシィ……》
「うううううっ」
今までも受けていた重圧、それが倍加してチームを襲う。
乱雑に放たれる狂気的な邪気が、感覚鋭い皆にはダメージとして打ち付けた。
一人、キィクは気持ち悪さだけを感じて行動を起こす。
「【精神安定魔法】っ……」
仲間たちにはタズマが付与魔法で『精神異常耐性』を掛けている。
それでも、いくら耐性を高めても足りなければ精神機能は低下する。
だからこその安定化、だ。
「なんだ、ギャラリーじゃなかったのか。邪魔するな魔法使いごときがぁ!」
感応したのか、山のように大きな魔物がキィク目掛けて飛び掛かった……!
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